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ンカポカ計画 第2話

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ンカポカ計画 第2話

リアクション


序章 地獄行き


「地獄行きだッ!」

 瞳孔の開いたリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)が、死神の大鎌をかついでいる。
 どす黒い雰囲気を背負って、思い切り大鎌を振りまくる。
 ンカポカを海に突き落とそうとしたときに、屁をこかれていたのだろう。突発性奇行症が発症していた。
 ズバズバーッ!
 会場を出て行こうとしていたナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)が、片足をバッサリ斬られた。
 ナガンは床を這いながら、ブツブツと口ずさむ。
「お怪我はございませんか……お怪我はございませんか……」
 と、その前にはヴィナ・アーダベルト(びな・あーだべると)が立っていた。
 ヴィナはトツゼン発症して、縫っていく。
「ほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっ」
 相変わらずヘタクソだが、なんとか足はくっついた。
 またしてもナガンのスプラッタ劇場に、会場中が震撼。そして、阿鼻叫喚。
 その中、1人怒っているのがリュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)だ。
「たつみぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいいい!!!!!!!!!」
 カナヅチのリュースは、沈没の危機に陥れた張本人の仮面ツァンダーソークー1こと風森 巽(かぜもり・たつみ)にキレていた。
 奇行発症中のリカイン以上の迫力で、剣を振り回して追いかける。
「たすけてー!」
 逃げるソークー1に対し、リュースは惜しげもなく持てるスキルをフル稼働。バーストダッシュで壁際に追いつめ、ツインスラッシュをお見舞いする。
「オレが溺れる前に、まずはお前が死ねえい!」
「うわっと。あっぶねえ」
 間一髪、軽身功で壁を駆けて逃げる。
「リュースさん。誤解ですよ、誤解! この船は本当に! 変形合体巨大ロボットなんですってば! これがその操縦マニュアルですよ〜!」
 とホワイトルームから取ってきた冊子をチラつかせながら逃げていく。
「マニュアル……」
「あれがあるなら、きっと本当なんでしょう」
「ぼくも彼を追います」
 このとき、何人かがソークー1の後を追い始めた。
 ソークー1は、パーティー会場のすぐそばにある医務室に駆け込もうと扉を開ける。
 が、そこは満員。忍び込めるような状況ではなかった。
 横になっていた連中が、騒ぎを聞きつけて目を覚ましていた。沈没の可能性や、奇行の原因など、パーティー会場の話は全て聞こえていたのだ。
「そういえば、鼻血を垂らしながら少年に近づいたら屁をこかれたな……」
 どうして鼻血を垂らしながら近づいたのかわからないが、とにかく鬼崎 朔(きざき・さく)は感染していた。
 鼻にティッシュをつめこんだまま、トツゼン、
「くらえ! 天誅!」
 神野 永太(じんの・えいた)の背後にまわると、ジャーマンスープレックス!
「あぎゃあああ!」
 どっがーん!
 永太はいきなり脳天を床に直撃。脳みそがトコロテンになった。
「んぱ。女医さん……かわいい女医さんは、どこへ……んぱーんぱー?」
 女医とは、きっとピルを取りに来たマレーネのことだろう。
 朔は羽高 魅世瑠(はだか・みせる)にもジャーマンスープレックス!
「くらえ! 天誅!」
 が、魅世瑠は布団を床に敷いていた。おかげで、なんとか脳天直撃を回避。
「ちょっとお! 危ないじゃん!」
 永太はかまわず、次の標的吉永 竜司(よしなが・りゅうじ)のバックを取る。
「くらえ! 天誅!」
 が、地球で柔道部に所属していた竜司は強かった。
 ぶおーん!
 永太の腕を取って、強引に一本背負い。
 どんがらがっしゃーん!
 医療器具の山に沈んだ永太に、竜司が問う。
「てめぇ、どこ中だ?」
「……」
 永太は気絶していた。
「ちっ。まあいい。それより、ロドペンサ島へ向かうのか。無人島なら……やはりあれが必要だな」
 竜司はどこかに歩いていってしまった。
 永太以外は、まだ病気は潜伏期間のようだった。
 
 パーティー会場では……
 スマイル軍団のガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)が、その中にルイ・フリード(るい・ふりーど)がいないか探していた。
 そのとき、封筒がひらひらと風に乗って舞った。
 床に落ちた封筒には、「ルイ・フリード」と書いてある。
「ルイからの手紙です!」
 ガートルードが拾って便箋を出したそのとき、トツゼン、
「ぼっとんちんちん。ぼっとんちんちん。ぼっとんちんちん。ぼっとんちんちん!」
 その場で行進をはじめ、便箋は無惨にも踏みつけられてしまった。
 そして、症状から覚めた彼女自身が拾って読み上げた。破れたり擦れたりして読めないところを飛ばして。
『……ワタシは心が冬……女性の方々に対してご迷惑をおかけしたことをここに謝罪させて頂きます。ワタシ自身は……またみなさんに迷惑がかかると思いますので、ここで……ます。せめて……遺留品など……今後に……改めて、女性のみなさん申し訳アリマセン……』
 会場のみんなが青ざめた。
 ――これは、遺書だ。ルイは、奇行症によるスカートめくりに責任を感じ、自らの命で償おうとしているのだ。
 そのとき、遠くからルイの声が聞こえた。
「スマイルめくり!」
 きっと、天に召されるときの声なのだろう。
 スマイル軍団のヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)四方天 唯乃(しほうてん・ゆいの)桐生 ひな(きりゅう・ひな)は、ガートルードとともに涙した。
「ルイィィィィ!」
「あんたのスマイル、一生忘れないよ!!」
 船は動かず、ルイも死んでしまい、会場は悲しみに包まれた。
 そして、「絶望」の2文字が覆い尽くそうとしていた。
 そんなとき、エル・ウィンド(える・うぃんど)だけは全く違うことを考えていた。こういう事態に何が大切かわかっていた。
 エルは甲板に出て、少しずつマストを上っていく。
「ボクが……ボクが……みんなの希望の光になるんだ!」
 キンピカに輝くエルが、少しずつ、少しずつ上っていく。
 風が強く、マストに上るのは危険だ。みんながエルを止める。
「やめろー! 危ないぞー! 下りてこーい!!!」
 それでもエルは止まらない。どんどん上っていく。
「ボクのキンピカは、みんなのキンピカなんだ……!」
 エルに触発されたのか、撮影していたメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)もカメラを手にマストを上っていく。
「全部撮るのですぅ」
 気高き戦場カメラマンの精神が宿っていた。
 しかし、メイベルの行動には、みんなが猛反対する。
「やめろメイベル! 自分の奇行をわかってないのか!!!」
 ――メイベルの奇行は、高いところから飛び降りること。
 しかし、戦場カメラマンが命の危険と戦場のシャッターチャンスを天秤にかけたとき、どちらを選ぶかは火を見るよりも明らかだった。
「奇行になったらサヨウナラですぅ」
 メイベルはエルの表情を捉えるため、それだけのために上っていった。
 そしてまた1人、上っていく者がいる。
 晃月 蒼(あきつき・あお)は、エルを応援するために上っていく。その顔は、ワインで酔っ払って紅潮していたものの、真剣そのもの。
 もう、マストに上るのを止めようとする者は誰もいなかった。
 ただ、やっぱりまだ酔っ払っていたので、肝心の応援はろれつがまわってなかった。
「りらっりらっりらっりらっ! れーるれる!」
 そして、ついにエルはてっぺんに辿り着いた。
 両手を広げるエルの姿を、メイベルはばっちりアップで撮影して、蒼は懸命に応援した。
 下からはブルー・エンジェル号に乗り合わせた“嘆きの天使”たちみんなが見ていた。
 エルの希望の光はみんなに届き、会場で話し合いが再開された。
 そしてメイベルは発症して、
「飛びます。飛びます。飛びます……!」
 エルと蒼は呟く。
「サヨウナラ……」
 ひゅーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。ばっしゃーーーーん!
 エルの希望の光が呼んだ奇跡だろうか、メイベルは甲板のプールに落ちて、一命を取りとめた。
「ううう。腹打ちしたですぅー」
 それでも、戦場カメラマンは立ち上がっていた。
「撮るですぅ〜」

 会場の話し合いは、ロドペンサ島に向かうことで決まった。

 引き続き、機関室、操舵室、救命艇の引き戻し、敵機の見張りなど、各自の役割を決める。
 どこかで焦げ臭いニオイがしたという不確定な情報をもとに消火活動に向かうのは、レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)だ。
 さっそく向かうレキを、ラーフィン・エリッド(らーふぃん・えりっど)が止めた。
「ちょっと待って! ニオイだったら、わんこがいたら役立つかもしれないよっ」
「俺もそう思うな。わんこしいなさんと3人で、いや、2人と1匹で行こうぜ」
 如月 佑也(きさらぎ・ゆうや)が立ち上がる。
「たしかに。でも……」
 一度こわがられた経験があるレキは、不安そうに椎名 真(しいな・まこと)改めわんこしいなを見た。
「わんっ」
 わんこしいなは元気いっぱいかわいく鳴いた。平気なようだ。あのときは、まだご主人様にも出会ったばかりで不安だったのだろう。
「よかった。ボク、レキだよ」
 動物好きのレキはわんこしいなの頭をいっぱい撫で撫でして、明智 珠輝(あけち・たまき)からリードを預かった。
「じゃあ、行こうか」
「わんっ」
「ちょっと待ってくれ」
 佑也は自分の短い髪をツインテールにする。かなりムリヤリだ。
「なにしてんの?」
「ビデオを見たところ、俺の症状は人の髪型を勝手にツインテールにしてしまうことみたいだから、自分でやっといたら満足して発症しなくなるんじゃないかと思ってね」
「なるほどー」
 レキは感心して、わんこしいなと佑也と一緒に焦げ臭いニオイを探しに行った。
 変な髪型で去っていく佑也を見て、ラーフィンは思った。早くなんとかしないと!
 そして、操舵室から取ってきたンカポカ一味の隠しカメラの映像を検証しはじめた。
 メイベルが収めた突発性奇行症の映像の方は、ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)がノートを取って分析していた。
「それにしても……すごい……」
 モニターには、全裸で駆け回るラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)が写っている。ソアは思わずつぶやいた。
「何センチあるんだろう……?」
「でかいねぇ。くやしいけど、大きさじゃかなわないか……大きさじゃね」
「え?」
 振り向くと、黒脛巾 にゃん丸(くろはばき・にゃんまる)が腕を組んで真面目な顔をしてモニターをのぞき込んでいた。鎖帷子に白マフラーのにゃん丸は、元々精悍な顔立ちをしていて黙っていればかなりカッコいい男だ。
 が、ズボンを脱いで、縦縞模様のパンツ姿だった。
「きゃああああああ!! にゃん丸さんは機関室の担当だったはずでは??? は、はやく行って下さいっ!」
「そう言うなって。別にこれ以上脱ぐ気はないよ。ソアさんの前ではね」
「えっ。じゃあなんで……」
「これで俺の奇行を止めてるのさ。ふふっ」
 確かに、にゃん丸の奇行はズボンのチャックがないと発症しないようだ。
「そうなんだよねー」
 と言いながら、ソアはお腹を抱えてうずくまる。海の幸が当たったのだろうか……。
 にゃん丸は悠々とパンツのまま歩くと、瀬島 壮太(せじま・そうた)に声をかける。
「悪いけど、光精の指輪を貸してくれないかなぁ」
「指輪? にゃん丸の頼みなら、そりゃあ構わねえけど。でも何につか――」
「ちゃんと洗って返すからっ」
 にゃん丸は奪うように指輪を取って、機関室に向かった。
「光精の指輪なんて、何に使うつもりだ……?」
 壮太はまだ大切な指輪を貸してしまったことが過ちだと気がついてなかった……。

 ガラガラガラガラ……。
 エメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)がどこからか黒板を持ってきた。
 奇行の治療や有効活用のためには、まずは現状をきちんと把握することが大切だ。そこで、ソアのまとめた奇行症ノート『ソアノート』を、腹痛のソアに替わって板書しはじめた。