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のぞき部あついぶー!

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のぞき部あついぶー!
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第11章 神


 ぴゅーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。
 男子のぞき部員が空から降ってきた。
 そして、ズバッ。ドサッ。ドテッ。グチャッ……。
 テントの屋根を突き破って、地面に打ち付けられた。
「ぐはあああ!」
 その衝撃は大変なものだが、女子の着替えが目の前となれば、話は別だ。痛みなど吹き飛んでしまう。
「お邪魔しまーす!」
「ちょっとだけ見せてねぇーーー!」
「通りすがりののぞき魔だ!」
 が、顔を上げると……誰もいない。
 すると、みんなの背後から声が聞こえる。
「みんぱ……空ぱから降っぱきて、何やってんぱー?」
 トラ……ではなく、にゃん丸だ。
 そう、ここは女子が着替えている本テントではなく、使われなくなった偽テントの方だ。
 総司は行列のできる鉄槌屋、遙遠のあついパワーを甘く見ていたようだ。
「く、くっそー……あ。あれ? なんだこれ?」
 そして、全員漏れなくトリモチにくっついてしまった。
 みんなが出入口に向かって土下座スタイルをとる、という奇妙な状況になってしまった。
「な、なんてことだ……!」
 みんな、悔しさで脳みそがトコロテンになりかけた。
「んっぱー……」
 そのとき、テントの表に1人の男がやってきた。
「おっ。あったあった。ここか、周の野郎が作ったっつうテントは」
 瀬島 壮太(せじま・そうた)だ。
 手にはあったかいお茶の入ったポットや饅頭を持っていて、のぞきには興味ないものの、友達が多いから応援というより冷やかしに来たのだ。
「おーい。入るぜー。差し入れ持ってきてやったからよお……アアア? おまえら、そんなに差し入れが嬉しいのか?」
「さ……さし……いれぱー。んぱー」
 みんな壮太に土下座しながら、ぶつぶつ言っている。
「って、冗談か。相変わらずのぞき部はノリがいいっつうかなんつーか。えーっと、みんなも座ってるし、シートみたいのが敷いてあっけど、土足禁止か? あっと、靴下まで一緒に脱げちまったぜ……アアアアア? な、なんじゃこりゃあああッ!!!」
 壮太の足は、べっとりとトリモチにくっついてしまった。
「と、とりもち……! そ、そこのトラってもしかして……にゃん丸か?」
「んぱーた、そうたぱー」
 トリモチにあまりいい思い出のない壮太は、不運を嘆いた。そして、助けを求める意味もあったのか、大きな声で叫んだ。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
 バリバリバリッ!
「んぱーんぱー」
 壮太は何者かに後頭部に雷術を当てられ、みんなの前で仁王立ちしたままトコロテンになった。
 やったのは光学迷彩を使っているアリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)だ。
(神社で騒がしいのはメッですよ)
 アリアは落ち着いていて、ちゃんとトリモチのないところを踏んでいた。
 ほとんど穴だらけで屋根のなくなったテントの上では、五月葉終夏が箒に乗って飛んでいた。
 またのぞき部にちょっかいを出そうとして、ふらふら飛んでいたのだ。
「おっと、大集合だな。またやっちゃおうかな……」
 煙幕をふわふわさせて、壮太の顔の前にドクロをかざす。
 そして、おどろおどろしい声で神を演じた。
「のぞき部ども……我の前に……ひれ伏せえい……」
 もうみんなひれ伏していた。
「のぞきに……失敗したようじゃな……のぞき部ども……」
 勘のいいアリアは、終夏のイタズラにすぐ気がついた。
(ははーん。なるほど。そういうことね。周君もいるし……いいオシオキになるかも!)
 トコロテンの壮太の背後にまわって、その両手を大きく動かしてみる。
 そのとき、クライスが叫んだ。
「こ、この声は、のぞきの神様?」
「ふっふっふ……我こそが……のぞきの神じゃあ!」
 のぞき部員は、のぞきの神降臨の事態に一気にトコロテンから醒めた。
「き、きたーーーーっ!!!」
「こ、この方がのぞきの神様でござるか!」
「クライスが言ってたのは、本当だったんだ……!!」
「ありがたやー!!!」
 のぞきの神様は両手を広げて、妙に不自然な動きだ。が、それがかえって人間を超えた神聖な存在感を醸し出していた。
「そこの者……のぞきは……失敗したのじゃな……」
 クライスはオシオキが怖くて言葉に詰まる。
「そ……それは……」
 クライスが答えたのを見て、アリアは慌てて壮太の手をクライスに向け、人差し指をまっすぐのばす。
 が、壮太はトコロテン。
「んぱー」
(わわっ。けっこー忙しいっ!)
 アリアは慌てて壮太の口をふさいだ。
「忘れてはおるまい……のぞきに失敗したら、オシオキじゃ……両の目に……のぞき穴をあけるのじゃ……ひーっひっひ……」
「お……お待ちください」
 ハーポクラテスが口を開いた。
 鉄の心を持った彼は、他の部員よりはまだ冷静だった。
「ま、まだ3人、残っています!」
「そうか……ならば……待とう……」
(ぷぷっ。待つんだーっ!)
 のぞきの神様は、やさしい神様だった。
 終夏は笑いをこらえるのに疲れ、煙幕はだんだん晴れていった。
 このしょうもないイタズラ劇を、出入口の横幕から撮影していたのは、阿国だ。
 それと、他にもう1人。こちらは動画ではなく、スチールカメラを持った蒼空寺 路々奈(そうくうじ・ろろな)だ。
「わーお。のぞき部大集合だね! 何やってんだろ?」
 とりあえずカメラを構えたところで、もう1人やってきた。
「なにやってるんですか?」
 パートナーのヒメナ・コルネット(ひめな・こるねっと)だ。巫女の仕事が終わって、着替えにきたのだ。
「しーっ!」
「仕事サボってましたよね?」
「いいんだよ、これが仕事なのっ!」
 路々奈は巫女装束を着ているが、働いてなかった。のぞき部の“のぞきの瞬間”を写真に収めようとあっちこっち彷徨っていたのだ。が、どこへ行ってものぞき部はやられてばかり。のぞきの瞬間は撮れなかった。
 そして、今、奇妙な光景を目の当たりにしたのだ。
「まさかこれ! 噂ののぞき部!?」
 ヒメナはかなり動揺している。
「違う! 違うから静かにっ!!」
 ヒメナがこれ以上騒がないように、嘘をついた。
「これは……怪しい新興宗教だよ。黙ってないと、洗脳されるよ」
「えええっ……!」
 端から見ると、確かにおかしな団体だ。
 みんな真っ黒焦げの巫女装束姿で、体中に縄文式の跡が残って、尻は鉄槌によって大きく腫れている。巫女姿じゃない者もいるが……それは何故かトラ。しかもちんちん丸出し。そして、彼らは煙幕演出されたドクロの人形教祖にお茶と饅頭をお供えして、土下座の姿勢を一切崩そうとしない異常なまでの礼儀正しさを保っている。
(だめ。だめです……! 帰りましょう!)
 ヒメナは、路々奈の服を引っ張って、本テントに入っていった。
 結局、何をやってるのかわからなかったが、写真はなんとか1枚撮っていた。煙幕も晴れて、のぞき部に土下座されている壮太の顔がばっちり写っていた。ちょうど、ドクロを頭に被ってるような格好で、どう見てものぞき部の黒幕である。
 周は壮太の顔が見えて、ぶるぶる震えていた。
「そ、壮太? はあっ! もしかして、壮太は神の化身……」
「これは人間界での……仮の姿じゃ。お前らを……いつでも見ているぞ……」
「ひいいッ! 馴れ馴れしく電話したりして……いや、他にもいろいろ、し、失礼しましたッ!!!」
 にゃん丸も恐怖で震えている。
「ゆ、ゆび……ゆびわ……ああ。全てお見通しだったんですねぇ……ああ! 俺はもう終わった!!」。
 なにがなんだかわからず、いい加減飽きてきた終夏は、最後にこう言い残して終わりにした。
「残り3人と申したな……失敗したら……覚えておけよ……ひーっひっひ……いつでも……この体から見ておるぞ……」
 アリアは、1人ずつ肩をぎゅっと握って回ると、去っていった。
 のぞき部員は残り3名に祈ったが、2人は新入部員で、1人はパシリだ。偽テントには重苦しい空気が漂っていた……。
 表では、終夏が空から下りてきて、アリアが光学迷彩を解いていた。
 あうんの呼吸でイタズラに協力し合った仲間同士、お互いに顔を見合わせて、さわやかに笑った。アリアは小さく会釈して、終夏はサッと手を挙げて返した。
 最高のイタズラに、言葉はいらない。2人は黙って別れ、別々に野添貴神社を後にした。