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砂上楼閣 第一部(第4回/全4回)

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砂上楼閣 第一部(第4回/全4回)
砂上楼閣 第一部(第4回/全4回) 砂上楼閣 第一部(第4回/全4回)

リアクション

 その頃、五条 武(ごじょう・たける)は、遺跡の奥を目指し、薄暗い通路を進んでいる所だった。
 大型バイク型に変形した機晶姫イビー・ニューロ(いびー・にゅーろ)の背にまたがった五条は、先ほどからずっと黙りこくっている。
 「大丈夫?」
 バックシートに同乗したドラゴニュートのトト・ジェイバウォッカ(とと・じぇいばうぉっか)が心配そうに問いかける。
 「飛空挺に戻りましょう」
 イビーもそう提案してきたが、五条は首を左右に振った。
 「…ダメだ」
 遺跡の中に入れば治まると思っていた動悸はさらに酷くなるばかりだ。
 身体は重く、イビーの背にまたがっているのも辛いくらいだったが、「そこに行かなくては…」という想いは高まるばかりだ。
 五条は生まれは地球だが、普通の人間ではなかった。
 かつて五条は、パラ実の改造科によって望まぬ改造を受けた過去を持つ。
 それによって手に入れた力は、改造人間<パラミアント>への変身能力だ。
 しかし、自らに施された改造のすべてを五条は知っているわけではなかった。
 そこに宿る想いは未知の可能性という輝かしいものとは真逆のものだ。
 五条にとっての「未知」は闇に覆われた深淵である。
 自分の中に巣くう闇はやがて、自分自身を飲み込み、大切な仲間たちすらも飲み込むかもしれない…。
 それは何よりも恐ろしく、何としても阻止しなくてはならないことだった。
 この胸を突き破るような痛みは、自分が受けた改造と何らかしかの関係がある。
 それはただの予感にすぎなかったが、だからこそ五条は進むことを辞めるわけにはいかなかった。
 「誰かきます」
 と、ここでイビーが警告するように、エンジンを止めた。
 耳を澄ませば、カツカツという足音とともに話し声が聞こえてくる。
 敵か、味方か。
 五条の体調が優れない今、敵との交戦は避けたいところだ。
 「遺跡には眠ったままの剣の花嫁がいるんだって!」
 「で、お前はどうするつもりなんだ?」
 「求婚するに決まってるでしょ〜! そのために両手一杯のブルーローズも用意したんだから!」
 石造りの通路に響く脳天気な会話に、五条はホッと力を抜いた。
 その声の主は、薔薇学勢と合流するために遺跡内に侵入したルカルカであった。



 「では、一時休戦…ということでよろしいでしょうか?」
 フェリックス・ステファンスカ(ふぇりっくす・すてふぁんすか)が、その場をまとめようとしたときだった。
 「ダメ!」
 つんざくような声が遺跡内に響いた。
 メニエス・レイン(めにえす・れいん)である。
 「休戦するなら、そっちの花嫁とブサイクを渡すのが条件だよ!」
 メニエスから指名を受けたアディーンとブルーノ・ベリュゲングリューン(ぶるーの・べりゅげんぐりゅーん)は、全く異なる反応を示した。
 「俺?!」
 アディーンはともかくブルーノは、自分が指名を受けた理由が分からない。
 少なくともご婦人が好むような見た目をしていないことは確かだ。よほどの下手物趣味なら話は別だが…。
 「行く行く!」
 対してアディーンは尻尾を振る勢いである。
 「わたくしたちはあなたの味方です。同じ剣の一族です。悪いようにはしません」
 アディーンと同じ剣の花嫁であるエレーナ・アシュケナージ(えれーな・あしゅけなーじ)が駄目押しのように微笑みかける。
 「お〜こっちのお姫さんも可愛いぜ」
 満面の笑みでメニエスに着いて行こうとするアディーンの腕を大河は慌てて掴んだ。
 「ちょっと待て!」
 「なんだよ、俺とお姫さんのランデブーを邪魔するんじゃねぇ」
 「アンタは俺のパートナーなんだろ! 勝手な行動するなよ!」
 「そっちこそ勝手に契約するんじゃねぇ! 俺は可愛いお姫さんと契約したかったんだ!」
 「不可抗力だろ!」
 不毛な喧嘩を始めた大河とアディーンの間に入ったのは、ファル・サラーム(ふぁる・さらーむ)だ。
 「待って、あっちの女の子の何人かは、男の子だよ!騙されちゃダメだよ!」
 「本当かっ?!」
 ファルの言葉にアディーンは目を見開いた。
 親しく言葉を交わしたことはなかったが、ファルや早川 呼雪(はやかわ・こゆき)は、これまでに何度かケイやそのパートナーである悠久ノ カナタ(とわの・かなた)と顔を合わせていた。
 元々少女めいた美貌を誇るケイである。
 本人は完璧な変装だと思っていたが、ゴスロリ調の衣装を身にまとった少女がケイであることくらいバレバレである。
 駄目押しとばかりに呼雪はケイに向かってボソリと呟く。
 「…似合ってるな、女装…」
 密かにケイを一番可愛いと思っていたアディーンは言葉も出ない。
 「…やっぱりそっちに行くの止めようかな…」
 ガックリと肩を落とすアディーンにメニエスの苛立ちは高まる。
 否、なかなか思ったように進まない状況の連続にメニエスの苛立ちは最高潮に達した。
 「殺れ! 特にあのブルーノとかゆう奴は生きて帰すな!」
 パートナーであるミストラル・フォーセット(みすとらる・ふぉーせっと)ロザリアス・レミーナ(ろざりあす・れみーな)に向かってそう命じるなり、ファイアストームの魔法を詠唱しはじめる。
 「ちょっ、ちょっと待って、メニエス?!」
 イリーナをはじめとした天魔衆の面々が慌てたのは言うまでもない。
 半ば交渉はまとまっていたのだ。
 メニエスの暴走で休戦を壊すわけにはいかない。
 しかし、メニエスが魔法を発動させる方が早かった。
 「地獄の業火よ、あのブサイクを焼き尽くせ!」
 メニエスの掌から発した炎は、灼熱の嵐となりブルーノへと襲いかかる。
 同時にヒ首を構えたロザリアスはブルーノへ、ミストラルは大河の方へと一気に距離を縮め…ようとしたときだった。
 ガランガランという激しい音が遺跡内に鳴り響く。
 それは呼雪がこっそりと仕掛けておいたトラップだった。
 ただ単に音が出るだけのものだが、襲撃者たちの意識をそらすには十分だ。
 ブルーノは一瞬の隙を見逃さなかった。
 素早く光学迷彩を発動させ姿をくらます。
 大河の方もまたスレヴィが事前に渡しておいた光学迷彩布を頭からひっかぶる。
 「ちっ、逃がさないっ!」
 標的を見失ったメニエスは、さらなる魔法を発動させようとする。
 すかさずアレフティナ・ストルイピン(あれふてぃな・すとるいぴん)が、メニエスの邪魔をするように物陰から弓を放ち、剣を抜いたユニコルノ・ディセッテ(ゆにこるの・でぃせって)が立ちふさがる。
 「ブルーノさん、大河さん、逃げてください!」
 「この場は私たちが引き受けます!」