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砂上楼閣 第一部(第4回/全4回)

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砂上楼閣 第一部(第4回/全4回)
砂上楼閣 第一部(第4回/全4回) 砂上楼閣 第一部(第4回/全4回)

リアクション

 呼雪やスレヴィに先導され大河は、遺跡の出口を目指し必死に走っていた。
 「たくよ〜俺は別に逃げる必要なんてなかったんだぜ」
 アディーンは、女の子ばかりの集団だと思っていた天魔衆に男の娘が混じっていたことに失望を覚えていた。
 しかしそうは言っても、麗しきお姫さんの数では圧倒的にあちらの方が多い。
 それでも大河たちに同行しているのには、理由があった。
 自ら盾となり、大河たちを逃がそうとしたユニコルノの存在である。
 戦いぶりをみれば、彼女が戦闘用に作られた機晶姫であることは明らかである。
 主を守り、その意志の元に戦うためだけに存在するものであっても。
 美少女を見捨てることなど、アディーンの美学に反する。
 恐らく自分が立ち去らない限り、ユニコルノもこの場に残り続けるだろうから。
 アディーンは大河たちに従うことを承諾したのだった。
 「ユニちゃん、後でデートしてくれよ」
 場をわきまえないアディーンの言葉をユニコルノはあっさりと無視した。
 同時に後続の者たちを遮るように、左手をかざした。
 「…前方に人の気配があります」
 一同は素早く足を止めるが、ここで迷っている暇はなかった。
 前から来る者たちが、敵であろうと味方であろうと。
 背後からはメニエスたちが追いかけてきているのだ。
 「俺が囮になる。お前たちは相手の気がそれた瞬間を狙って、一気に走り抜いてくれ」
 呼雪が皆にそう告げたとき、前方から声が聞こえた。
 「お〜い!」
 声の主は高く上げた両手を大きく振っていた。
 薄暗くて相手の顔は見えないが、その声には聞き覚えがあった。
 「行こう、味方だ!」
 通路を降りてきたのは、ルカルカと五条たちだった。
 必死の形相で走り寄ってきた呼雪たちに、ルカルカは顔をしかめた。
 「どうしたの、遺跡の調査は終わったの?」
 「なんだ、こっちにも可愛いお姫さんがいるじゃん」
 すると、見たことのない銀髪の人物…アディーンが親しげに話しかけてくる。
 場を弁えずナンパをはじめるアディーンを呼雪が制する。
 「天魔衆が追いかけてくる。逃げるぞ」
 遺跡を調査したくてこの場を訪れたルカルカや五条にすれば拍子抜けだが。
 呼雪たちの様子からも、かなり逼迫した状況であることは伝わってくる。
 「分かった」
 増援組が短く頷いたそのとき、後方で炎が上がった。
 「おい、お前らさっさと逃げろ!」
 炎をかい潜るようにして走ってくるのは、ブルーノと花嫁を背負った変熊である。
 「待ちなさい! 逃がさないわよっ!」
 彼等を追いかけてくるのはメニエスとその仲間たちである。
 怒りのあまり完全に我を忘れた、メニエスが炎を乱発するたびに緻密に組み合わせられた石造りの壁が軋む。

 「…なんか、この遺跡やばくないか…?」
 スレヴィが発した不安は尤もである。
 メニエスの炎で通路の温度も上がってきている。
 「出口に向かって走るぞ!」
 この場にいる一人として、焼死願望を持つ者などいない。
 今はそれ以外の選択肢はなかった。




 「おい、未沙。飛空挺の修理の方はどうだ?」
 飛空挺の周囲を警戒していた月島 悠(つきしま・ゆう)麻上 翼(まがみ・つばさ)は、朝野 未沙(あさの・みさ)に声をかけた。
 大臣たちが飛び立った後も、未沙は妹である朝野 未羅(あさの・みら)朝野 未那(あさの・みな)と共に天魔衆の襲撃で飛行不能となった飛空挺の修理を続けていた。
 脚立の上にいた未沙は、スパナを手にしたまま地上いる月島に向かって叫んだ。
 「もうちょっと! 今、最終調整をしているところだよ!」
 「急いでくれ。なんか例の遺跡の辺りが騒がしいんだ。天魔衆との交戦があったかもしれない」
 「分かった。急ぐよ!」
 「頼む、こちらの警備もさらに厳重にしておくから。お前もがんばってくれ」
 そう言ったが、飛空挺の周りは月島だけでなく南臣 光一郎(みなみおみ・こういちろう)オットー・ハーマン(おっとー・はーまん)グロリア・クレイン(ぐろりあ・くれいん)レイラ・リンジー(れいら・りんじー)といった教導団員たちが、厳重な警備体制を敷いた後である。
 佐野たちの報告により、レオンハルトたち獅子小隊の面々が天魔衆に荷担していることは、すでに耳に入っている。
 これ以上、彼等の好き勝手にさせるわけにはいかない。
 何としても飛空挺を守りきり、薔薇学生たちをタシガンへと帰還させる。
 松平 岩造(まつだいら・がんぞう)沙 鈴(しゃ・りん)たちとは行動が異なるものの、教導団としての面子を守ろうとする思いは彼等も同じである。
 中には南臣 光一郎(みなみおみ・こういちろう)のように、今までの貸し諸々を一括払いしてもらうか、自由意志で協力するかの二択を迫られて渋々薔薇学に協力している者もいるようだが。
 そうこうするうちに飛空挺の近くの藪で火の手が上がった。
 陽動のため信長と別行動をとることにした鮪たちである。
 「えっ?! 早すぎるって!」
 「心配しないで! 貴方達は修理を続けて頂戴」
 慌てた拍子にスパナを落とした未沙を励ましたのは、すでに迎撃体勢を整えていたグロリア・クレイン(ぐろりあ・くれいん)だ。
 「敵は少数だ。慌てず対処すれば負けることはない!」
 勝つ必要のない戦闘であることは誰しもが分かっていた。
 大切なのは無事に飛空挺を守り通し、皆でこの島を脱出すること。
 ただそれだけである。
 素早く持ち場についた教導団員たちは、ハーリーとともに姿を現した鮪に向かって銃を構えた。