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嘆きの邂逅~闇組織編~(第4回/全6回)

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嘆きの邂逅~闇組織編~(第4回/全6回)
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 訪れた百合園生と合流を果たし、保護者として所内に入った男がいた。
 その男は、研究室には入らずに、ドアの前に立っていた白衣の女性に声をかけたのだった。
 所長と話がしたいと、その男――ラズィーヤの伝で見学に加わった朱 黎明(しゅ・れいめい)は、頼んでみたが『約束のない方とはお会いにはならない』と断られてしまう。
「コリスさんの知り合いだと言っても?」
「どなたか存じません」
 その答えに、黎明は声を低めて囁くように女性に言う。
「私は寺院の関係者です」
 軽く眉をひそめた後、女性は「しばらくお待ちください」と、廊下を駆けていったのだった。

 その数分後、戻った女性に案内され、黎明は研究所の所長と面会を果たす。
 所長は補佐のヒグザと同じく、吸血鬼であった。
 黎明をその所長室に通すなり、女性は持ち場に戻っていった。
 黒い椅子に腰掛ける男の前に黎明は歩み寄っていく。……後ろからは警備兵がぴったりとついてきている。人払いは認められなかった。
「この周辺に舎弟を集結させました」
 その言葉を口にした途端、銃口が後ろから向けられた。
 臆せず黎明は、脅しとも言える取引を所長に持ちかけていく。
「いつでもここを襲撃し、研究物を破壊することができます。また、私が一定の時間内に戻らない場合も襲撃するよう命じてあります」
 そう話した後、黎明はこう切り出す。
「捕虜となってはいただけませんか。また、この研究所にハーフフェアリーの子供が捕らえられているという話を耳にしています。その子も解放していただきたい」
「なるほど」
 所長はギラリと目を煌かせた。
「やはり百合園側の狙いは、ハーフフェアリーの奪取か。研究所を荒らされるのは願い下げだが、捕虜になる必要がどこにある」
「大人数の無法者を相手に勝算があると?」
「数百程度じゃ話にならんよ。ここではキメラを生産している……ということはもう気付いているんじゃないか? 契約者なら兎も角、一般のパラミタ人なら10人束になってかかっても、キメラ1体倒せやしないだろう。数千、数万のキメラを相手にどう戦うのか見てみたいものだな、いい実験になるだろう」
 軽く嘲笑を見せた後、男は何かを払いのけるかのように手を振った。
 それを合図に警備員が動き、黎明を拘束する。
「地下に拘束しておけ。見学が済んだ後、解放して構わん」
 黎明は警備員に拘束され、地下へと連れて行かれる。抵抗して脱出することも不可能ではなかったが、見学が始まったばかりの現時点で自ら騒ぎを起こすことは得策ではないと考え、従うことにした。

(これよこれなのよ、ワタシが望んでた学校生活はこんな普通っぽいのなんだよ!)
 ニニ・トゥーン(にに・とぅーん)は、百合園生達が見学をしている様子や、窓ガラスに映る自分の姿に感極まっていた。
 可愛らしい百合園の制服を纏って、縦ロールの鬘もばっちり着用して、誰が見ても百合園生の生徒にしか見えない容姿だ。
「っと危ない危ない自然を装わないと」
 幸せに浸っていたニニだが、開発途中と思われる桃色の薬を指差しながら声を上げてみる。
「あ、質問でーすこのお薬は美味しいんですか!」
「飲みやすさは考えてありますが、薬ですので味はそれ相応です」
 研究員の1人が軽く苦笑しながら答える。
 自然な質問をしたつもりだが、ちょっと的外れだったようだ。
(研究所の調査より先に、百合園生の調査が必要!? そんなことない。モヒカンとかモヒカンじゃなきゃ、ワタシも普通の百合園生と同じだもん……)
 そんなことを思いながら、ニニは百合園生の集団の中に混ざっていく。

「ビーカーとか、試験管、フラスコ……学校にもあるものが沢山あります。実験室でしょうか」
「んー。食べられるものとかは、ないのかな」
 エルシー・フロウ(えるしー・ふろう)ラビ・ラビ(らび・らび)は、研究員の後について回って、質問を浴びせていた。
「こちらは開発室です。研究員達が薬品の開発を行っている部屋でして、こちらが開発段階の薬になります」
 研究員が棚の方に歩き、薬について説明していく。
 地球の日本人としてはどうかと思う麻薬の類もあるのだが、キマクであるここでは日常的に使われている薬品で、隠す必要もないものらしい。
「ラビちゃん、あれ見てみましょう」
「うんうんっ」
 エルシーは虹色に輝く砂らしきものを見つけて、ラビと一緒に歩み寄った。
「綺麗ですね。これは何でしょう?」
「こちらは身体能力を上昇させる薬です。また開発段階ですが」
「走るの早くなったりするの?」
 ガラスケースに張り付いて、ラビが尋ねた。
「はい。その代わり副作用が出ますので、まだ使用できる段階ではないんです」
(その割に、随分と沢山作られていますね……。実験に使うにしては多すぎるような)
 パートナーのエルシー達を見守りながら、ルミ・クッカ(るみ・くっか)は1人思う。
 エルシーとラビは変わらず目を輝かせて、試薬品や機材を見て回っている。
(先日あのようなことがりましたのに、エルシー様の警戒心のなさといったら)
 2人の様子を見て、軽く苦笑するルミだったが、エルシーがそんなエルシーらしく居られるよう守るのが自分の務めと、1人警戒をしながら彼女達を守るのだった。

「んー」
 遠鳴 真希(とおなり・まき)は辺りをきょろきょろと見回す。
 面白い効果のある薬もあるようだけれど、使ってみれるわけでもなくて。
 薬品の匂いがする理科室のような場所にも特に興味を感じず。ちょっと退屈だなーと思っていた。
 鈴子や高等部以上の百合園生には結構興味深い内容らしく、皆真剣に研究員の話を聞いているけれど、真希より年下の子供達は真希と同じように、早くも飽きを感じ始めたようだ。
「みてみて、変なものあるよ」
「うわーっ」
 棚にかけられていたカーテンをぴろりとめくって、下から入り込んでいた少女達が声をあげた。
「なに?」
 真希もカーテンの向うに入り込み、少女達が指しているものを見た。
「うはっ」
 小動物や植物が液体の入った瓶の中に入っていた。標本のようだ。
「お、お酒でも作ってるのかな」
 真希は眉を寄せながら、マムシのような生物に目を向ける。マムシ酒なら良く聞くのだけれど……。
「でも、変なのもあるよ」
 続いて少女達が、指したのは蛇――のようで、足がある生物だった。まさに蛇足。
「こっちも」
 更に真希が見たのは、鋭く長い牙のある仔猫だった。
「自然に生まれたものじゃ、ないよね……。自然のままの方がいいのに。かわいそう」
 悲しそうに、真希はそう言葉を漏らした。
「こっちのドアあるよね。隣の部屋行ってみよっか」
 棚の隣に非常ドアのようなドアがある。
 真希が答えるより早く、その子達はドアを少しだけ開いて、隣の部屋に入っていった。

「真希様?」
 真希のパートナーのユズィリスティラクス・エグザドフォルモラス(ゆずぃりすてぃらくす・えぐざどふぉるもらす)は、後方から真希を含めた百合園生全体を見守っていたが、興味深い開発品の数々に目を奪われてしまい、少しの間真希から目を離してしまっていた。
「真希様、どちらへ」
 もう一度名前を呼んでみるが、返事はない。
「次の部屋に行かれたのでしょうか」
 先頭の百合園生達は別の出入り口から廊下へと出て、次の部屋へと向っている。
 ユズも真希を追うために、足早に続いていくのだった。

「ライナちゃん、つかれてないですか?」
 ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)が、鈴子の服を掴んでいるライナに声をかけた。
「つかれてないよっ。えへへっ」
 ライナはいつもより元気だった。
 彼女は詳しいことはよく分かっていないらしい。子供なのでぽろりともらしてしまう可能性を考えて聞かされていない。
「きょうね、鈴子おねぇちゃんが、とってもやさしいの……!」
 ライナの嬉しそうな顔に、ヴァーナーも嬉しくなって微笑みながら「よかったですね」と、ライナの頭を撫でたのだった。
「ライナちゃん、ライナちゃん♪」
 サリス・ペラレア(さりす・ぺられあ)がヴァーナーの後ろからひょっこり顔を出す
「あたしは楽器もひけるようになったんですよ♪ ライナちゃんは鈴子おねえちゃんから、どんなこと習ってるんですか?」
「鈴子おねぇちゃんはいそがしいから、ミルミおねえちゃんからいろいろおしえてもらってるよ。んーと、ゆりそのななふしぎとか! おんがくしつにもふしぎあるみたいよ」
「ななふしぎですか」
「がっきがかってに鳴り出したりするんです」
 ライナとサリスの会話に、ヴァーナーが人差し指を立てて、そう説明をした。
「なんでなんで〜?」
「きれいなおとでしょうか?」
 2人のハーフフェアリーは目を輝かせながら、ヴァーナーの次の言葉を待つ。
 そんな3人の様子に淡い笑みをべた後、セツカ・グラフトン(せつか・ぐらふとん)は鈴子の方に目を向ける。鈴子も穏やかな目を子供達に向けていた。
 軽く微笑み合った後、セツカはふと気になったことを聞いてみることにした。
「課外活動には白百合会本部の方々はいらしていないようですね」
「ええ、通常は行事は本部の仕事なのですが……」
「本部の方は能力に秀でている方ばかりではありませんものね」
 濁した鈴子の言葉に続けて、セツカはそう言った。
 百合園の生徒会役員も選挙で決定されるが、本部役員は武術能力の有無は問われない。
 執行部の方は、戦闘能力と実績も重要な選考基準となる。
 家柄や品格は特に基準として設けられてはいないが、どちらもない者が、選ばれることはまずない。役員は自分達の顔となる者だから。
「ではそろそろ次の研究室に向いましょう」
 ヒグザがそう言い、入り口の方へと向う。
「次のおへやは、何を作ってるおへやですか?」
「塗料の研究をしている部屋になります」
「ペンキとかですか? 夜に光るとりょうもありますか?」
 ヴァーナーは案内係の研究員に色々と質問を浴びせていく。
 知りたいという気持ちもあってだけれど。
 怪しい研究所だと聞いていたから。
 でも、悪い人達じゃなかったら、疑うのは悲しいことだから。
 沢山話を聞いて、見せてもらって、信じたかった。
「となり、行きましょう!」
 悪い研究していないといいな、と思いながら、ヴァーナーはサリス、ライナと一緒に研究員の後に従って隣の部屋に向っていく。