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嘆きの邂逅~闇組織編~(第4回/全6回)

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嘆きの邂逅~闇組織編~(第4回/全6回)
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「来ーひんでおくれやすー!」
 廊下に出たエリスはモップをぶんぶん振り回しながら、子守唄で敵を眠らせていく。
「リーアさんはいないようですし、わたくし達も退散した方がよさそうですね」
 壱与がそう言い、ティアが微笑む。
「さあ、エリス色仕掛けですわ」
「無理どすー!」
 ぶんぶんぶんぶんモップを振り回すエリスの腕をぐいっと引っ張って、壱与は百合園生達の方へ走り出し、ティアは少し残念そうに吐息をつきながらも回復魔法で仲間を癒しながら百合園生と合流をしていく。
「キメラを作っとる人があの部屋に〜」
 エリスは白百合団員に部屋を見て回って得た情報を混乱しながら話す。
 そこには百合園生達が見学した部屋にあった開発品よりずっと奇妙で非道な物が並んでいた。
「色々気になるものもあるけど、積み込む時間はなさそうだよね」
「まあ、こんなもんじゃろ」
 レキも探索を切り上げて、百合園生達と合流をする。
「全員捕まえる必要はない。人質に2、3人捕らえろ!」
 壮年の男が指示を出し、警備兵達の銃弾が足元に飛んでくる。
「こっちも足止めじゃ!」
 ミアは氷術を放って、敵の動きを止め、団子状態になっている皆の後に続いていく。
「イケメンいなかったわぁ、貧弱そうなのばかり〜」
 リナリエッタが給湯室から飛び出す。男性所員を誘惑して引っ張り込み、持っていた資料と手帳を奪い取っての合流だ。
「それじゃ、さよならぁ〜」
 リナリエッタはライトニングブラストを放った後、煙幕ファンデーションを放って最後に外に飛び出した。

〇     〇     〇


「……なんだ、仲間か」
「いえ、仲間ではありません。解いていただけますか、美しいお嬢さん」
 地下に下りた毒島大佐はピッキングで開けるドアを開けて回り、捕まっている者を解放していった。
 今開けた先にいたのは、両手を縛られた黎明だった。
「この階に他に捕まっている者は?」
 大佐は忍刀で縄を切る。
「すみませんが、分かりません。牢獄のようですね。適当に調べて私は戻ります。貴女は?」
「同じく適当に調べて戻るさ。それじゃ」
 大佐は別の部屋へと向う。
「ありがとうございます」
 黎明は悠然と部屋を出て周囲を見回した後、階段の方へと向う。彼女が戻るための退路を作っておいた方が良いだろうと。
「うあああっ」
「ガフッ」
 声と共に、男達が階段から落ちてくる。
 続いて、血のついた剣を手にレイディスが駆け下りる。
「この部屋か!」
 レイディスは聞き出していた部屋のドアを開けようとするが、その部屋は厳重にロックされていた。
 だが鍵は開かずとも、壊してしまえばいい。
「中にいるヤツ、離れてろよ!」
 大声を上げた後、剣を何度も振り下ろしていく。
「手を上げろ!」
「そちらこそ。いえ、上げる暇はありませんね」
 階段を駆け下りてきた警備兵達に、黎明が雷術を放つ。
「……っ!」
 最後は体当たりをしてドアを開け、レイディスは中にいたハーフフェアリー、イリィ・パディストン(いりぃ・ぱでぃすとん)に手を伸ばす。
「どうしたのぉ?」
 きょとんとしているイリィに「大丈夫だ、ここから出るぞ」と駆け寄り、抱き上げて部屋から飛び出す。
「さて、逃げるよ」
 大佐は残りの部屋全部を開けて、囚人を自由にすると黎明と共に階段の方へと走る。
「地下を……ッ」
「いや、待て貴様!」
「何を!」
 1階の方が騒がしい、建物が軋む音が響く。
 急いで3人は地上に向う。

 1階では、搬入口から飛び込んだ鮪がバイクに乗ったままむちゃくちゃに暴れていた。
「ヒャッハァー! 拉致のお返しだァ〜、代わりに女職員は拉致ってお持ち帰りだぜェ〜」
 信長に資料を集めておくように。研究内容によっては、所員そのものも捕らえるようにと助言されたのだが、ちょっと……いやかなり誤解しているらしい。
「人質は助けた!」
 レイディスが声を上げて、そのまま搬入口の方に向い、黎明らと共に外へ飛び出していく。
「うおーーーーー! イリィーーー!」
 ちらりと見たイリィの姿に、鮪は雄たけびを上げた後、ギラリと目を煌かせて飛び掛ってくる警備兵達を見る。
「くそったれが! 肝を冷やしたんだぜびびらせやがって糞ッ糞ッ糞ッ、こんな所消毒してやるぜ

 火炎放射器で炎を放つ。警備兵だけではなく、周囲にも。

「オラァ!」
「責任者出て来いやァ!」
 黎明の舎弟達もまた、外から研究所に銃や弓矢で遠距離攻撃を仕掛けていた。
「さて、どうしましょうね」
 黎明は彼らと合流を果たし、悠司に電話を入れる――が繋がらない。ラズィーヤにも繋がらなかったが、留守電に手短に報告を入れておく。

「イリィー!」
 百合園生と合流して外に逃げたニニは、レイディスに抱えられて出てきたイリィに気付くとダッシュで駆け寄った。
「ニニちゃん、おじちゃん、まだあの中〜?」
 イリィはイルのことを案じているようで、鮪が暴れている研究所をじっと眺めていた。
「とにかく、モヒカンはカツラ着用三日間で許してあげるから、こっちにおいで」
「先に避難してろ」
 レイディスはニニにイリィを預けると、剣を手に正面扉から飛び出してくる研究員へ飛び込んでいく。

〇     〇     〇


 逃げ出した百合園生達は、南に数百メートルほど走ったところで立ち止まって、鈴子が点呼を取り、全員、それからイリィの姿もあることを確認する。
 それぞれ、回復魔法や応急手当で治療をしていくが、こわばった表情をしている者が多い。
「パラ実の人達に協力すべきなのかもしれませんが……」
 迷いながら、電源を切ってあった携帯電話を取り出して百合園に電話をかける。
「あれは……」
 鈴子の護衛をしていた葵が研究所の方を指差す。途端、アレナが震えた。
 屋上に張られていた鉄線の一部が開き、空へ飛び立ったものがある。
 鷲のような翼に、獣の頭。亀のような甲羅を持つ生物。様々な姿の合成された獣。
「あの村にいた……合成獣と、似てる……」
 小さな声を上げたアレナや皆が見守る中、その生物は数十の群れを成して、空に集まり南へと飛んでいった。
「本当ですか」
 鈴子は、そのキメラではなく、電話に集中をしていた。
「わかり、ました……」
 かつてないほどの緊張を見せて、鈴子は電話を切って――アレナに目を向けた。
「緊急事態が、発生しました。アレナさんは私と直ぐに百合園に。ライナは心配ですけれど、残る皆さんにお任せします。彼女を守ることが、皆さんの行動を抑制することにも繋がると思いますし」
 それから、鈴子は皆を見回して、怪我の治療を行っているロザリンドに目を留めた。
「ロザリンドさんも、一緒に戻ってください。説明は戻りながらいたします」
「はい」
 青ざめているともいえる鈴子の表情に、ロザリンドの体にも緊張が走った。
「百合園に戻る方は私と一緒に来て下さい。途中で高速船に乗り換えます。残る方は、神楽崎分校を頼り百合園や私と連絡をとりつつ状況を見て力を貸すかどうかご検討ください。無茶はしないで下さいね」
 鈴子はちらりと川の方に立つリナリエッタに目を向けた後、お願いしますというように軽く頭を振って、馬車の方へ駆けて行った。