リアクション
決勝戦
「会場の皆様にお知らせがございますわぁ」
マイクを持ってバトルステージの真ん中に進み出たのは、エリザベート校長だ。
「決勝に進むことになった二匹ですけど、どちらも東シャンバラチームの虫さんですの。ですのでぇ、ろくりんピック的には、東側にポイントが加算されることが、もう決定しちゃいましたの〜」
わあぁぁぁぁ!
東側アルプススタンドから、大きな拍手が巻き起こった。
「でも」
珍しく真顔のエリザベートに、歓声がぴたりと止まる。
「ムシバトル王は、二匹は必要ありませんわ。そう思いません?」
おおおおおおっ!
会場が揺れた。
そう、これはムシバトルなのだ。
ムシバトル王を決めなくてはならない。
「というわけで……決勝戦を行いますっ!」
レフェリーが再びステージに立ち、宣言した。
「栄光の決勝のステージ。ここに立てる虫は、たった二匹。選ばれた二匹をご紹介しましょう。まずはパラミタジュウシチネンゼミの、オネェチャン!」
この決勝のステージに、セミが立っていることを想像できた人は、あまりいないのではないだろうか。何より、セコンドたちですらまだびっくりしているのだから。
「ここまで来ちまったからには……やるだけだぜ!」
魅世瑠がオネェチャンに最後の気合いを入れた。
「そしてもう一体。パラミタコーカサスの剛力丸!」
去年も活躍した剛力丸。一年間みっちりとトレーニングをして、このステージに帰ってきた。
「多くは申さぬ。楽しんでくるがよい」
カナタは静かに、剛力丸を送り出した。
決勝戦、試合開始!
カーーーーン!
「うおぉぉぉ! ぶつかれ、飛び散れ、はじけ飛べぇぇ!」
もはや解説になっていない、特設解説席のアリス。
ミリルとリースがため息をついているが、止めようとは思わない。
もうここまでくれば、解説など不要である。
二匹の勇者に、声援を送り続けるだけだ。
二匹とも、これが最後の戦いだということを理解しているようだ。
様子見はなし。
まっすぐ、力の限り、ぶつかっていった!
オネェチャンが速さを生かして素早く剛力丸の正面に到達すると、思い切り体をぶつけていった。
がしっと受け止める剛力丸。すかさずカウンターを放つが、それはオネェチャンに回避された。
その体勢からオネェチャンは得意の連続攻撃を繰り出す!
きれいに数発ヒットし、剛力丸がぐらついた。
「剛力丸、手を出せ!」
今年の剛力丸の特徴は、鍛え直したそのパワー。
完全に押されている今、その一撃をヒットさせることができれば、絶対に逆転することができる。
剛力丸は、全力の一撃を繰り出した!
「オネェチャン!」
オネェチャンはその一撃を……回避した!
そして。
後ろに回り込んだオネェチャンの連続攻撃が、剛力丸にヒットした。
今大会、一度も地面に膝をつかなかった剛力丸が、初めて、倒れた。
「剛力丸!」
セコンドが声をかける。
レフェリーのカウントが進む。
会場にいる全ての人が、そのシーンをまるでスローモーションのように記憶していた。
「……ナイン、テン!」
カンカンカンカン!
「優勝は、オネェチャン! パラミタジュウシチネンゼミのオネェチャンに決定!」
ムシバトル王は決した。
まずは東シャンバラチームを代表してクロセルがステージに上がり、50ポイント付与の証明を受け取った。
クロセルに促され、一日中東シャンバラチームの虫たちの体調管理をし続けた、縁の下の力持ちである唯乃とエラノールも登壇。たくさんの拍手を受けた。
「東シャンバラの諸君! 勝ち取ったぞーーー!」
クロセルのガッツポーズに、東側スタンドは大いに盛り上がった!
続いてパラミタジュウシチネンゼミのオネェチャンと、オネェチャンを育て上げた魅世瑠、フローレンス、ラズ、そしてアルダトの四人が、表彰のためステージに上がった。
「あなたがたを、ムシバトル王2020に認定いたしますわぁ」
エリザベートはじめ各校の校長、スタッフらが見つめる中、ムシバトル王が認定され、大きな拍手が贈られた。
「来年もまた……」
と、そこまで言って、エリザベートははっと、失言に気がついた。
オネェチャンはセミ。
命短い、セミなのだ。
来年は……ない。
一瞬、会場中がさみしい雰囲気に包まれた。
だが。
じじじじじ!
その空気を吹き飛ばしたのは、他ならぬオネェチャンだった。
飛び上がるオネェチャンに応え、他の巨大虫たちも羽を鳴らしたり、喉をふるわせて鳴いたりしている。
まるで人間たちに元気を出せとでも言いたそうに。
「……オネェチャンに慰められてしまいましたわね」
アルダトがふっと笑った。
あと何日、一緒にいられるか分からないけれど、残りの日々をオネェチャンと一緒に楽しもう。セコンドの四人の想いは、ひとつだった。
今年の夏も、そろそろ終わる。
空はあかね色から紫色にかわり、最初の星が輝き始めていた。
一年ぶりのムシバトル、いかがだったでしょうか。
マスターの岩崎です。お付き合い、ありがとうございました!
今年のムシバトルも終わりましたので、次があるかどうかは不明ですが、その時の役に立つように、少しだけ手の内を明かしますね。
バトルの勝敗は、ほとんど数字と運の妙で決定しています。
まずは結果をはじき出し、それを受けて描写しています。
実は、文章を書くより、判定の方に時間がかかっているかもしれません。
虫さんのヒットポイントを全員同じに設定し、各パラメーターによる攻撃成功判定、支援の発生可否判定、今回は必殺系の発生可否判定もありました。
さらに、攻撃の強さにかかわらず毎回の場外判定、クリティカル判定も行われてます。
あとはアクションに書かれていた内容で、それぞれにマスター判断でプラス・マイナスの修正を加えていきます。
ま、そんなカンジです。
虫の種類や体格で修正が行われることはありません。
アクションに、どんなことを書いてくださったかで判断しました!
それと……どの虫さんも必ず一試合はじっくり描写をさせていただけるようにしました。
なので、途中ダイジェストでお届けしている部分がありますが、その部分も同様に全て判定が行われています。
だから描写が行われていないだけで、必殺系が発動していたり、いろいろなことが起こっています。
全て、岩崎が今回判定に使った、数字だらけのノートに記されていますよ。
完全に判定方法をバラすとおもしろくないと思いますので、この変で。
結果をお知らせしますと、今年のムシバトル王は、パラミタジュウシチネンゼミのオネェチャンです!
そして、ろくりんピックの50ポイントは、東シャンバラに加わります。
おめでとうございます!
またいつか、ムシバトルが開催されることがあれば……その時は自慢の虫さんと一緒に、遊びに来て下さいね。
2010年9月10日
一部、虫の名称に謝りがございましたので、修正を加えました。