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地球に帰らせていただきますっ!

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地球に帰らせていただきますっ!
地球に帰らせていただきますっ! 地球に帰らせていただきますっ!

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 決意の里帰り 
 
 
 着慣れない真新しいスーツを身につけたトライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)は、久しぶりにマダムの豪邸を訪れた。
 夏休みだから顔を見せに来いという手紙をもらったこともあるが、トライブ自身、マダムにどうしても会っておかねばならない用件があるのだ。
 相変わらず必要最小限のこと以外を話さない黒服に案内された部屋では、車椅子に座った老婆が待っていた。
 1年前の記憶より痩せただろうか。けれど相変わらず鋭い眼光を向けられると、トライブの背中からは条件反射のように冷や汗が噴き出した。乾いた唇を舐めて、ようやく挨拶の言葉を絞り出す。
「……ご無沙汰しています、マダム」
「久しぶりね坊や。上の方では頑張っていると噂に聞いているわ。好い意味でも悪い意味でも」
 開口一番、にこりともせずに指摘した後、マダムは矢継ぎ早に質問を重ねていった。
 学業はどうなのか、運動はどうなのか、ろくりんピックでの成績はどうだったのか。
 それに対してトライブは、上司に報告をしているかのように答えてゆく。
 学業は普通、運動はそこそこ、ろくりんピックはそれなりに。まあ、答えなくてもきっとマダムは上でのトライブの様子など先刻承知なのだろうけれど、これも決められた手順のようなものだから。
 マダムの名前は知らない。
 スラムの孤児だったトライブを拾ってくれて、パラミタに渡る資金や入学金を用立ててくれた恩人。育ての親、と呼べるほど親しい間柄ではないが、頭の上がらない存在だ。
 正直、マダムに逆らうことなど考えるのも躊躇われるが……すべての報告を終えると、トライブは呼吸を整え、今日来た目的を果たしにかかった。
「これを……」
 今まで貯めていた金をトライブはマダムに渡す。
「足りない分は近いうちに払います」
 眉ひとつ動かさず、マダムはトライブの顔を見ていた。その視線の圧力に負けず、トライブは宣言する。
「俺はギャングには……貴女の部下にはならない」
「居場所を持たない弱いお前が、私の元から離れて生きていけるのかしら?」
「居場所ならある。仲間もいる。俺は、昔よりずっと強くなった」
 そう答えたトライブの目をマダムはじっと見つめてきた。心の奥底まで見通されそうだ。
「坊や。強くなることと暴力を学ぶことは違うわ。……でも、手にいれた場所と仲間は大切になさい」
 その時……マダムが僅かに微笑んだような……気がした。
 それを確認する暇もなく、マダムはトライブにもう行って良いと身振りで示す。
「食事の用意をさせているわ。早く食堂に行きなさい」
「はい。……ありがとうございます」
 トライブは丁寧に一礼すると、部屋を出て行った。
 廊下に戻ると、途端に息が楽に出来るようになった。マダムの前では知らず知らずのうちに息を詰めていたのだろう。
「はぁ〜……殺されるかと思った」
 緊張感をほぐすように大きく息を吐くと、トライブはネクタイを緩めた。
 
 
 トライブが出て行った扉をマダムはしばらく見つめていた。
 噂では随分と危険な目にあっているようだけど、危ないマネをすると言って聞く子ではないし。
 いずれは自分の後継者として、と思っていたけれど、あの坊やにはギャングのボスなんて似合わなそうだ。
 まだまだ子供。考え方も浅はかだけど。
「良いとしましょうか」
 多少は男の目になって戻って来たのも、パラミタで得た居場所や仲間の影響もあるのだろうから……とマダムは軽く息をつき。そして何事もなかったかのように、車椅子を進ませるのだった。