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パラ実占領計画 第1回/全4回

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パラ実占領計画 第1回/全4回

リアクション



首領・鬼鳳帝占領計画〜お姫様良雄


 ──首領・鬼鳳帝ができる前は、荒野には略奪は存在しても万引きは存在しなかった。荒野の民の魂は、矮小なものとなった。

 春夏秋冬 真菜華(ひととせ・まなか)は、遊牧民の古老の嘆きを思い出す。
 何度も頷いた真菜華は、首領・鬼鳳帝に万引きに行こうと装備を整えているパラ実生達に言った。
「万引きなんてみみっちいこと、パラ実生のやることかー!? 盗るなら店ごと奪い取れ!」
 さらに、普通に買い物に行こうとしているパラ実生にも言った。
「あんた達、何でちゃんと買い物しようとしちゃってんだよー? あるところからは奪い取る、それがパラ実生だろぉー!」
 パラ実生でも普段は普通に買い物するのだが、フヌケになったような今のパラ実生を前に真菜華はひどく憤慨していた。
 そして、最初に真菜華に同意したのは武装万引き団の面々だった。
「そうだ、その通りだ! 店を俺達のモンにしちまえばチマチマ万引きなんてしねぇですむんだ!」
「うおおおー! 今まで何をやっていたんだ俺はー! おい、血煙爪持って来い!」
 武装万引き団は、武装略奪団へと本来の荒野の民の姿を取り戻した。
 小型飛空艇をお立ち台代わりに、真菜華は先頭に立って略奪団を率いて首領・鬼鳳帝へ突撃する。
 彼女達が乗り込んだ時、一階は先の突入組に制圧された後だったが、上のほうから戦闘音が聞こえてくるのに気づくと、いっせいに階段を駆け上がった。
 同じく制圧済みの二階を飛ばし、三階にたどり着いた時に見たのは、正宗の作戦により手も足も出せず困っている和希の後ろ姿だ。
 が、事情を知らない真菜華達は彼女のたすきにある『パラ実の不良たちよ目を覚ませ』という文字のまま、勢いに任せて突進した。
 両脇を駆け抜けていくバッファローのような略奪団に和希はポカンとし、ペンギン店員達は辞表をばら撒いて逃走を始める。
 こうなっては仕方がない、と正宗とかげゆは捕まる前に撤収した。
 店内に入った時に小型飛空艇から降りていた真菜華は、和希の背をポンと叩く。
「武尊はどうしたの? 先に行ったの?」
「いや……煙幕張られた時にはぐれた」
「おい、こっちだ!」
 タイミングの良いことに、ちょうどその武尊から声がかけられる。
 ついていくとスタッフ用の出入り口で、そこを抜けたところに階段があった。
「君はここから行け。オレ達は戻って制圧を果たす」
「マナカも略奪団のとこに戻るよ」
 礼を言おうとした和希の口は、真菜華の台詞に「略奪団?」と不審そうに別の言葉を吐いた。
 真菜華は笑ってかわす。
「いいからいいから! 早く行かないと!」
「そうだな。それじゃ二人とも、あんまり無茶するなよ!」
 二人と一人に彼らは別れた。

卍卍卍


 首領・鬼鳳帝の裏側にある非常用階段では、クリスティ・エンマリッジ(くりすてぃ・えんまりっじ)が客の避難誘導を努めていた。
「皆さん、押し合わずゆっくり下りてください! ここは安全ですから大丈夫ですわ!」
 襲撃は一階からだったため、ペンギン店員は客を上の階へ導いた。その後を継いだクリスティが、非常用階段を開いたのだ。
(店内通路や非常口をメモしておいて良かったですわ……!)
 そうでなければ、今頃は非常口は大混乱となっていただろう。
 ここにはいないが、ヴェルチェとクレオパトラもどこかで誘導をしているはずだ。

 志方 綾乃(しかた・あやの)は店内でクリスティのいる非常用階段への誘導を行っていた。
 足元から響いてくる轟音に人々がパニックに陥りそうになるのを、声を枯らして落ち着かせていく。
 そんな彼女に不安に怯えた客の一人が責めるように言った。
「本当に大丈夫なんだろうな!? 床がこんなに揺れて……崩れたりしねぇだろうな、おい!」
「これくらいじゃ崩れませんよ。さ、前の人に続いて階段へどうぞ」
 綾乃が微笑んで言うと、その客は幾分か落ち着きを取り戻して進んで行った。
 その時、防衛にあたっていたハスターが一人駆けて来て、綾乃に襲撃者の排除に加われと言ってきた。
 どうやらミゲルからの命令らしい。
 店長から言われては逆らえない、と綾乃は彼と共に階下に向かう。
 そこでは、武尊やシーリル、真菜華に略奪団がハスター相手に大暴れしていた。
「店を潰されたら、お給料が出ないじゃないですかー!」
 あまりの惨状に綾乃は叫ぶと、さざれ石の短刀を握り締め乱闘の中に突っ込んでいった。

卍卍卍


 襲撃組と店側の激しい攻防を潜り抜け、最初に御人良雄の囚われているという屋上にたどり着いたのは、姫宮和希ではなくミナ・エロマ(みな・えろま)だった。
 捜索にはちょっと自信のある彼女は、ロビーを一巡りして少し思案した後、ふつうに見ていたのではまず目に付かない奥のほうへ進んでいく。
 すると、舞台に繋がっているわけでもなさそうなドアに突き当たった。
「あやしい……」
 と、そっと開けてみれば、広い室内の最奥にカプセルに閉じ込められて力なくうなだれている良雄の姿が見えた。
 しかし、ミナが注目したのはちょっと違うところだった。
(何てこと……ハダカですわ! ということはもうすでに……)
 人知れずドキドキしてくるミナ。
 彼女は壁に沿ってカプセルにもう少し近づくと、持参した丈夫なダンボールを素早く組み立ててその中に身を隠した。
 ダンボールののぞき穴から、じっと『その時』が来るのを待つ。
(鬼畜なレン×ヨシもクールなセル×ヨシも素敵ですわ〜)
 妄想をふくらませながら、決定的瞬間を収めようとデジタルビデオカメラを握る手に汗がにじんだ。
 待つことしばし。
 いっこうに何も起こらない現状に、ミナの妄想もやや鈍くなってきた時、外が騒がしくなった。

 ハスターに追われながらも和希と共に屋上まで来た泉 椿(いずみ・つばき)は、ただのロビーに不審そうに眉を寄せた。
「良雄はどこだ?」
「追い詰めたぞ! ぶちのめせ!」
 後ろからの敵に椿はとっさに和希を守るような位置に立つ。
 と、まるで計ったように劇場の重い扉が開き、わらわらとスタッフが出てきた。あれよという間に『四十八星華と握手会』の場と化した。
 舞台でファンを楽しませた騎沙良詩穂、弁天屋菊、サレン・シルフィーユが現れ、スタッフに率いられてきたファンと笑顔で握手をかわしていく。
 良雄救出組とハスターはファンの列により見事に分断された。
 きょとんとして椿が詩穂達を見てしまっていると、ふと、菊と目が合う。
 菊はファンに手を振りながら、目で何かを知らせようとしていた。
 良雄がいる方向だとすぐに気づいた椿が走り出す。
 しかし、すぐ後ろにファンの壁を押し退けて数人のハスターが迫ってきていた。
「和希、先に行け! ミナ、こっちだ!」
 外の騒ぎに良雄がいる奥から出てきたミナに気づいた椿は、手を振って呼んだ。
「どこ行ってたんだ?」
「良雄ちゃんのところですわ。だ〜れも来なくて、つまらなかったですわ〜。期待してましたのに」
「何を期待してたんだよ……」
「それはもう、決まってるでしょう? あ、和希ちゃん。入口はあちらですわ」
 ミナは一方を指差すと、和希に行くように促す。
 和希は迷いながらも、
「すぐ戻ってくるから!」
 と、言い残して駆けていった。
 ミナはデジタルビデオカメラを、向かってくるハスターへと掲げるように見せた。
「皆さん! ここに注目!」
 思わず見上げたそこに映し出されたのは──。

 薄青諒とノア・セイブレムによる『亜魔領域』の宣伝動画。

♪アーマーゾーーン!

 大空に聞け〜店の名は〜
 ア〜マ〜ゾ〜ン通販〜ここにあり〜
 頼めば〜来るよ〜欲しい品〜
 見たか〜価格を〜この安さ〜
 時間〜指定も〜できちゃうよ〜
 深夜〜対応〜24時〜
 正規の商品で〜保障〜アリ〜♪

 曲はどこかの特撮ヒーローのもののようだ。
「ノアちゃん! あんなところに!」
「一緒にいるのは誰だ!? あんなかわいいコいたっけ?」
 ハスターにも四十八星華のファンは多い。
 彼らは攻撃を忘れて小さな画面に釘付けになった。
 ところでここで注目を呼んだ諒だが。
 彼女はイケメン男子を目指している。
 この宣伝活動も、これをやればイケメンに近づけるぞ、と唆されてその気になって参加したのだ。
 かわいいとしか見えない振り付けも、本人はかっこよさをアピールしているつもりだ。
 まさかこんなところで女の子と思われ、男達のハートを鷲掴みにしていたとは思ってないだろう。
 そして次に出てきたのは。
『俺もさっそく利用している亜魔領域!』
「御人良雄!?」
「何であんなとこにいるんだ!」
「もしや、ここにいるのは偽者……!?」
 良雄に扮した志位 大地(しい・だいち)だった。
 ハスターの中で良雄がここにいることを知っている数少ない者達は混乱した。
 画面の中の良雄は、携帯でもパソコンでも受け付けオッケー、と元気にしゃべっている。
 さらに、握手会を終えた四十八星華のファンも集まり、前のほうにいたハスターは押し潰されそうになったり、後ろのほうのはさらに後ろに押し退けられていた。
 男ばかりのおしくらまんじゅう状態だ。
 大地は良雄によく似ている。
 それを利用して亜魔領域の広告塔となり、首領・鬼鳳帝に対抗しようということだった。
「あの良雄様も使ってるのか……」
「そういや知ってるか? キマク商店街ですっげーかわいいアイドルがデビューしたって! さっき見に行ったって奴から写メが来たんだけどさ……」
 キマクに来て首領・鬼鳳帝を打ち立て、キマク商店街を潰し、四十八星華さえも掌中に収めようとしていたたくらみに揺らぎが生じようとしていた。
 ミナと椿はひっそり笑みを交わした。

 その頃、良雄が囚われている奥の部屋に乗り込んだ和希は、素っ裸の良雄にうろたえていた。
「何てザマだ! おい、あっさり拉致されやがって、てめぇはお姫様か何かかァ!?」
「うぉわ! 竜司か、おどかすな!」
 揺らいだ空間から突然現れた吉永 竜司(よしなが・りゅうじ)に、和希は飛び上がった。
 竜司はアイン・ペンブロークや詩穂から店内の情報を得た後、余計な敵に会わないようにと光学迷彩を使ってここまで上ってきたのだ。
 さらに念の入ったことにプロレスマスクまで被っている。
 和希も竜司が同行していることは知っていたが、姿が見えないためつい失念してしまっていたのだ。
「まァ気にするな。それよか良雄だ。あの邪魔なカプセルぶっ壊すぞ」
 血煙爪を手にした竜司に、和希も盛夏の骨気を確かめた。
「おらァ!」
「たァ!」
 二人の武器と拳がカプセルに叩きつけられる。
 頑丈にできているガラスも、たまらず粉々に砕けた。
 その音にようやく良雄も自失状態から脱したのか、目をまん丸にして竜司と和希を見上げていた。
「竜司先輩……和希さん……」
「まったくてめぇはよォ。オレ以外の奴に倒されるんじゃねェって言っただろコラァ!」
「ヒイイィィィ!」
 体育座りだった良雄が竜司の剣幕に怯えて尻もちをついたように後ずさりした瞬間、和希はパッと背を向けた。
 気づいた竜司が良雄に上着を投げつける。
「俺は見てないからな!」
「見て……? ああっ、あぁ……そうっス。俺はもう、汚されちゃったんスよね……」
 焦りから出た和希の台詞に、良雄はとたんに泣き出しそうになる。
 が、次の瞬間には何か重大なことを思い出したかのように顔を上げ、二人に訴えた。
「ここの人達は極悪人っスよ! ハムスターの絶滅の危機っス!」
 汚されたとかハムスターの危機とかとても気にかかるが、残念ながら今はそれをのんびり聞いている時間はない。
「何だかわからねェが、とっとと出るぜ。話はそれからだ」
「俺と椿で血路を開く。しっかりついて来いよ!」
 和希は走り出し、竜司が良雄を引きずるようにして追いかけた。
 ロビーはわずかな間にハスター優勢になっていた。ただのファンに彼らの相手は荷が重かったようだ。
 だが、良雄を助け出せたのだから後はここを突破するだけだった。
 野球のバットを構える詩穂の横で、クトゥルフ崇拝の書・ルルイエテキスト(くとぅるふすうはいのしょ・るるいえてきすと)が震えながらブツブツ言っている。
「ハスター……ハスターだと!? あの『名状しがたき邪悪の皇太子ハスター』ではないのか!? 我が神クトゥルフとハスターとの抗争となれば、全ての物質と魂は一つ残らず消え失せ、精神世界の宇宙だけになるであろう……」
 まったく理解できない独り言に、詩穂は若干距離をあけた。
 すると、ルルイエはカッと目を見開き、
「止めねばならぬ!」
 と、声を大きく言うと雷術をロビーの照明スイッチへ放った。
 小さな爆発音がして、真っ暗になる。
 詩穂は一気に飛び出し、バットで手当たり次第に殴り飛ばしながら突破口を開く。
 和希と椿、竜司も後に続いた。

 ハスターのほとんどが劇場に集まっていたようで、一度突破してしまえば後は比較的楽に下りることができた。
 時々拘束されたハスターが転がっているのは、制圧に来たシーリル・ハーマンがやったものなのだろう。
 ようやく一階まで下りた時、十人前後のハスターが出入り口を固めていた。
 そこで和希は、ハスターの中に見たことあるような顔があることがわかった。
 全日本の不良達を束ねたのだから、かつての都道府県番長や舎弟達がいて当然なのだ。
 他にも、全日本番長連合のメンバーと会ったことがある者は気づいただろう。
 レンやミゲルが出てこない今、最後の敵とも言える彼らに和希達が攻撃の姿勢をとった時、突然良雄の怒りの声が響く。
「ハムスターをハンバーグにするなんて許せないっス!」
 いきなり何を言い出すんだ、と助けに来た者達は怪訝な目を良雄に向ける。
 しかし良雄にとっては唐突でも何でもなく、ちゃんと繋がっていた。
「この人達はハムスターを養殖してハンバーグの材料にするつもりなんス! とんでもないワルっス! そんな酷いことはさせないっス! 逆にハンバーグにしてやるっスよ!」
 ハスターとハムスターの区別も曖昧な良雄は、レン達はハムスターをいじめる悪の組織だと思い込んでいた。
 良雄の怒りを前にしたハスターはいっせいに顔を青ざめさせると、一人が怯えた叫びをあげる。
「こいつ、てめぇが生き残るためにライバルの邪神をミンチにして食うつもりだ! 恐ろしい奴を本気にしちまった!」
 (味方がいるので強気になった)良雄に気圧され、冷や汗を浮かべて後ずさりするハスター。
 落ち着いて聞けば良雄の発言のおかしさに気づくのだが、彼らはすっかり混乱してしまっていた。
 すると、そこに最も来て欲しくない人物が現れた。
 舎弟達では手に負えそうもないと判断して蓮田レンとミゲル・デ・セルバンテスが出てきたのだ。
「ハスターをナメるなよ! お前らもこんなことでうろたえるな!」
 覇気のある視線で良雄を睨み、舎弟達を叱咤する。
 怯む良雄。
 一階で略奪の限りを尽くしていた略奪団のパラ実生が、今度は冷や汗をにじませる。
「ハムスター……こんな話を聞いたことがあるぞ。今いるゴールデンハムスターは1930年にヘブライ大学の学者が発見した親子に由来するとな。つまり……」
「奴ら、ユダヤの金融資本の力まで借りているのか! 恐ろしい組織を敵に回しちまったな……」
 無駄に偏った知識が仇になったのか。
 勘違いが勘違いを呼び、双方には怯えだけが広まっていく。
 その意味では、良雄とレンはよく似ていた。
 さらにここで怯えを暴走させるようなことが起こった。
 突然、空気中に酸が発生したのだ。それもハスター側にだけ。
 喉を焼かれ、次々膝を着くハスター。
 特に耐性のない者にいたっては「ミンチ……」と呻きながら倒れていく。
 比較的耐性のある者で威勢の良い者には、強烈な鉄の一撃が見舞われた。
「はぁい。私といいコトしない? 熱くトロトロに溶かしてあげるわよ☆」
 酸でね、と心の中で付け足すルルール・ルルルルル(るるーる・るるるるる)
 色気あふれる彼女とは対照的な落ち着きを見せ、抜き身の大太刀を手にしている佐野 豊実(さの・とよみ)は、涼しげな笑みを浮かべている。
 その向こうから、怒りも露わな夢野 久(ゆめの・ひさし)が、幻槍モノケロスを握り締めレンを睨みつけながら歩み寄ってきた。
 久はとにかく怒っていた。
 甲子園での野球の試合をメチャクチャにされた日から、渋谷への怒りは静まったことがない。
「蓮田レンてのはてめぇか」
 ハスターの中心にいる人物に向かって言うと、彼は「そうだ」と答える。
「そうかてめぇか。てめぇ、この前ガイアに何させやがった? 人が野球楽しんでる時にけったくそ悪いチャチャ入れやがって。その目的がコスっからい不意打ちだァ? 挙句、大将が不在ときやがる。ざけんなトンチキが! 正面から宣戦布告もできねぇ筋の通らねぇ卑怯モンのチンピラが!」
「ははは。威勢がいいな! お前、今のパラ実総長だろ? お前を潰したらパラ実は俺達渋谷のものだな! ミゲル!」
 ミゲルが馬鹿でかい槍を持ち、久と対峙するように進み出る。
「槍使い同士、勝負だな。ミゲルが負けたらおとなしく帰ってやろう」
 本気かどうかはレンの表情からはわからない。
 ルルールと豊実は周囲の舎弟達が余計な手出しをしないよう、睨みをきかせる。
「一騎打ちには手を出すな。連れの二人には好きにしていい。見物してもいいがな」
 余裕の笑みを見せるレン。
 豊実は久に囁いた。
「あの槍でガイアを落としたというじゃないか。腹立たしいのはわかるが、怒りにまかせていくと痛い目を見そうだよ」
「あははは、無駄だよ豊実。大層なものに任命されちゃって、ちょっとは落ち着いちゃうのかなーとか思ったけど、なーんも変わんないんだもん。相変わらずの馬鹿っぷり! 根性論でボスに突貫とか、ホント馬鹿!」
「いや、うん、まあ、本当に馬鹿なのは認めるけど」
「お前らどっちの味方だァ!」
 応援したいのかへこませたいのかわからない豊美とルルールのやり取りに、ついに久が怒鳴った。
 ミゲルも複雑な表情をしている。
 それをどう受け取ったのか、
「哀れむような目で見てんじゃねぇよ!」
 と、今度はミゲルに噛み付く久。
 怒りの内容が変わりつつあるが、何とか軌道修正をすると久は一騎打ちに集中した。
 さすがに今度はふざけたことは言わないルルールと豊実。
 ハスターも見守るつもりのようだ。
 息苦しいほどの緊迫した空気に包まれた。