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リアクション
(・デルタ)
『こちらデルタ1。デルタ小隊、戦闘準備完了。状況を開始する』
デルタ1――【PEACH】の山田 桃太郎(やまだ・ももたろう)が通信を行う。
敵小隊はこちらと同数。必然的に、敵はそれぞれの小隊をこちらに対応させてきた。
『こちらデルタ2。敵機接近を確認。牽制を行います』
デルタ2――【アーラ】の月舘 冴璃(つきだて・さえり)がビームキャノンを構える。敵機との距離があるうちに、ビームキャノンによって威嚇し、その間にイーグリットに接近してもらうという作戦だ。
(冴璃、間もなく敵がビームキャノンの射程に入るよ)
(了解です。慎重に狙って……)
機体の位置状況を東森 颯希(ひがしもり・さつき)から精神感応によって受け取り、敵小隊に照準を合わせる。
『デルタ1、射撃準備オーケーだよ』
コームラント二機が砲撃態勢に入り――発射する。
牽制のために両腕のキャノンから放った光条は、四本の線となって六機編成の敵小隊へと一直線に向かっていく。
当たらないが、敵は二機編成ずつに別れてこちらに向かってくる。
「行くわよ、沙霧くん!」
館下 鈴蘭(たてした・すずらん)と霧羽 沙霧(きりゅう・さぎり)の乗るデルタ3――【ネレイド】が、コームラントの砲撃に合わせて、分断された二機へと進撃する。
それに合わせて、デルタ4――【フォーチュン】と、デルタ5――【ミッシング】も前衛として出る。
『デルタ3、デルタ4、援護するよ!』
水鏡 和葉(みかがみ・かずは)が通信を行い、【ミッシング】はビームライフルを構える。
「和葉、ちょっと機体の向きを変えるよー。よく狙わないと」
ルアーク・ライアー(るあーく・らいあー)が敵をレーダーで確認し、射撃しやすいように態勢を変更する。
「近接型だから近づければいいけど……機関銃の弾幕は結構厄介だね」
祠堂 朱音(しどう・あかね)は【フォーチュン】の中で呟く。距離を詰められれば機動力の差で優位に立てるが、そう上手くはいかない。
シミュレーターとは違い、生身の人間の操縦は、パターン予測するのは難しいのだ。
「朱音、敵に隙が出来るまではライフルでいきましょう。コームラントの支援と合わせて牽制した方が良さそうです」
シルフィーナ・ルクサーヌ(しぃるふぃーな・るくさーぬ)が朱音に指示を出す。
【フォーチュン】は【ネレイド】と【ミッシング】同様に、ビームライフルを構える。
三機で連絡を取り合いながら、シュメッターリング二機と対峙する。
『こちらデルタ2。他の四機はこちらで牽制して近付かせないようにします』
【アーラ】から連絡が入る。
『デルタ1は敵機牽制とイーグリット支援に回るよ。デルタ2、出来る限り僕達の方からもフォローするよ』
【PEACH】は敵機との距離を詰め、中距離支援へ回れるようにする。敵とこちらでは機関銃なら射程は変わらないが、だからこそ「落せるかも」と注意を向けておくことは出来る。
(敵はビーム式機関銃の性能をまだ知らない。なら――)
出力を弱め、【PEACH】が機関銃で攻撃を行う。弾幕支援ならば、これで十分だ。
(山田、左から来てるぞ)
アンナ・ドローニン(あんな・どろーにん)からの精神感応で即座に射線を変更する。そして牽制する。
(あまりぼさっとするなよ。ここは戦場だ。躊躇うな、そうしないとてめえが死ぬぞ。いや、それどころじゃない。デルタ小隊で、実戦経験があるのはあたし達だけなんだ)
悩ましげな表情を浮かべている桃太郎に対し、アンナが言い放つ。
(しっかりしろ、小隊長)
今の桃太郎には、二ヶ月前のようなテンションの高さはない。ただ彼は考えているだけだ。
(……そうだね。僕のせいで隊のみんなを危険な目に遭わせるわけにはいかない)
攻撃に集中するためトリガーに指をかける。
近付いてくるシュメッターリングに、最大出力でビーム式機関銃を放つ。それまでの威力との違いに気付き、敵は被弾しながらも退避する。
「戸惑ってるね。この調子で敵を翻弄出来れば……」
むしろ、自分の武装ならそちらの方があっていそうだ。
『デルタ1よりデルタ2。他四機の牽制は僕がやる。イーグリットの支援を頼むよ』
【アーラ】と【PEACH】の位置が入れ替わる。
『デルタ2からイーグリット各機へ。ビームキャノンで援護します』
冴璃がイーグリットに通信を送る。
(位置を変えるよ。少し高度を下げて、下から敵機を狙おう)
イーグリットは高高度から一機に下降して攻撃してもらった方がいい。敵は下方から斜めに上がってくるビームに対し回避しようとするだろう。
どこに動こうと、避けようとした瞬間に急加速したイーグリットが来たら、そう簡単に反応は出来ないはずだ。
颯希が【アーラ】の高度を下げる。ある程度の下げたところで、冴璃が照準を合わせる。
「行きます!」
トリガーを引き、ビームキャノンを発射した。
「今だよ!」
【フォーチュン】が武器をビームサーベルに持ち替え、敵機に急接近する。
ビームを避けながらも、【フォーチュン】に機関銃の照準を合わせようとするシュメッターリング。
「こっちにもいるってこと、忘れてるよ?」
【フォーチュン】に敵機の照準が合わさりそうになると、今度は【ミッシング】がビームライフルの銃口を向ける。
だが、敵は二機だ。もう一機が【ミッシング】を対象とする。
「もう一機、忘れてるわよ?」
【ネレイド】がその一機に向かっていく。ビームサーベルを構えて振りかぶる――フリをして、頭部バルカンで攻撃する。
「……こんな感じ、かな?」
敵機が怯んだ隙に、【ミッシング】が解析資料にあった敵の弱点――関節駆動部を狙ってライフルのトリガーを引いた。
続けざまに二機を撃ち、両機の右肘――機関銃を持っている腕に当たる。そこに被弾すれば、トリガーを引いたところで正常に機体のマニピュレーターに伝わらなくなる。
「あとは頼むね!」
至近距離まで近付いた【フォーチュン】と【ネレイド】は、ビームサーベルを振り上げた。
「ええええい!!」
一閃。
二機がそれぞれ対峙した機体はそれが致命傷となり、爆散した。
「やった。倒したよ」
だが、まだ終わったわけではない。敵は四機残っている。
「これで五体四。これなら行け――」
「山田、前を見ろ!」
【PEACH】の眼前に迫っていたのは敵の指揮官機だ。
「――ッ!!」
咄嗟にトリガーを引くも、敵からの銃撃をまともに被弾する。もしイーグリットだったらこれで撃墜されていただろう。
(味方が無事だからって安心するな。実力じゃ相手の方が上なんだぞ)
しかも、よりによって指揮官機が前衛に出て、後衛にシュメッターリングだ。
(コイツは間違いなく強い。一旦引こう)
(だけど、引かせてはくれないみたいだ)
コームラントと敵イコンでは、コームラントの方が機動力で劣る。
ビーム式機関銃で弾幕を張る。だが、敵のシュバルツ・フリーゲはそれを掻い潜ってくる。
そのとき、【PEACH】の後ろから一本の光条が発せられた。
『大丈夫ですか?』
【アーラ】だ。もう一機のコームラントがビームキャノンを放ったのである。
『桃太郎くん、無事?』
続いてイーグリット三機も追いつく。
(アーニャ、機体損傷率は?)
(20%だ。まだ性能が落ちるほど致命的じゃない)
『ああ、大丈夫さ。指揮官が前衛に出てきた。これを倒せば、こちらが有利になるよ』
とはいえ、その背後にはシュメッターリングが弾幕支援をしようと展開している。
(あれが指揮官……)
(え、ちょっと、沙霧くん!?)
【ネレイド】がシュバルツ・フリーゲに向かっていく。
(指揮官が前に出ているってことは、倒せば他の敵は動揺する……はず)
ビームサーベルを持ったままそのまま全速力で接近する。
(そうね。今は仲間がいる、やってみるわよ)
敵は機関銃を放ってきた。それも、ビームサーベルを避けながらだ。イーグリットの方が速いはずだが、敵の操縦技術が高く、回避されてしまう。
(避けられない……っ!)
そのときだった。
敵指揮官機が被弾した。射線上にある機体は、【PEACH】だ。
「少しは小隊長らしく、いいところ見せないとね」
当たったのはほとんど偶然のようなものだが、結果は結果だ。敵機の左足が消失し、バランスを崩している。
その瞬間、【ネレイド】がビームサーベルで切り掛かった。
それにより、敵機の機関銃が破壊される。シュバルツ・フリーゲは苦し紛れに頭部バルカンを放ち、シュメッターリングの元へ戻る。
「指揮官はほとんど戦えなくなったね」
「だけど、あれほどの強さだったじゃん? 頭部バルカンだけになっても油断は出来ないよ」
【ミッシング】がビームライフルを構えるも、まだ無闇に接近はしない。
編隊を組み直すデルタ小隊。もう一度、敵を迎え撃つために。