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聖戦のオラトリオ ~覚醒~(第1回/全3回)

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聖戦のオラトリオ ~覚醒~(第1回/全3回)

リアクション


第五曲 〜空駆ける翼〜


 天御柱学院から飛び立ったイコンの各小隊は、プラントの発見された国境地帯に踏み込んでいた。
 地上を見れば、応援要請を受けて向かっているだろう、契約者達。
 彼らが地下への入口に到達するためには、出来る限り敵のイコンを自分達に「引き付ける」必要がある。
 漆黒の機体は東の空から現れ、西の空へと舞い上がる白の機体と対峙した――


(・アルファ)


「間もなく目標地点ね。早苗、今回はいつも以上に頑張るわよ」
 アルファ小隊の葛葉 杏(くずのは・あん)が、橘 早苗(たちばな・さなえ)に声を掛けた。
 自分達の行動が、プラントを押さえる人達の命運を左右する。失敗するわけにはいかないとあって、気合は十分だ。
『今回も負けられません。気を引き締めていきましょう!』
 星渡 智宏(ほしわたり・ともひろ)が小隊を鼓舞する。
 東の空からやってくる機体は、こちらの小隊編成を見るなり、分散した。小隊数は同じ。ならば、一対一ならぬ、一小隊同士の戦いだ。
「下のプラントを守り切れば我らの勝ち、ということですね」
「ええ。そのためにも……戦わなければなりません」
 ミリオン・アインカノック(みりおん・あいんかのっく)オルフェリア・クインレイナー(おるふぇりあ・くいんれいなー)が敵機を見据える。
 何か思うところがあるのか、オルフェリアの表情には些かの迷いがあった。それでも、この状況で覚悟を決めたようだ。
「いよいよね」
「さて、俺達は初戦だ。うまく連携していこう」
 霧雨 エルセレーヌ(きりさめ・えるせれーぬ)レイジ・ルクサリア(れいじ・るくさりあ)も戦闘態勢に入る。
『こちらアルファ1、各員戦闘態勢への移行を確認。これより状況を開始します』
 天司 御空(あまつかさ・みそら)が各機に告げる。
『了解。こちらエコー1。全小隊の戦闘態勢への移行確認完了。これより、小隊指揮は各小隊長に任せる。小隊間での連携が必要なら、適宜通信を』
 全体の指揮を任されている野川教官からの連絡が入る。
 戦闘開始だ。

『アルファ1、まずは牽制射撃よ!』
『了解。まずは敵の連携を崩そう』
 コームラントの二機、【ポーラスター】と【ホークアイ】がビームキャノンを構える。
 対し敵機はまだ編隊をを組んだままだ。
「各小隊間の距離は……よし、これなら味方を誤射する心配はないね」
(御空、敵機間もなく射程に入ります)
 白滝 奏音(しらたき・かのん)がレーダを確認しながら、御空に精神感応で伝える。
(捕捉完了、ターゲットロックオン)
 【ホークアイ】が敵機に狙いを定める。
(落ち着いて……杏さん、敵機が射程圏内に入りました)
(よし、いくわよ早苗!)
 先にビームキャノンのトリガーを引くのは、杏だ。
「射ぇー!!」
 両腕から発せられる光条が、敵小隊に向かって飛んでいく。発射を確認後、次弾のためにエネルギーをチャージ、キャノンの射程のギリギリのラインまで後退する。
 敵の機関銃の射程からは離れているため、そこからアルファ小隊の各機の位置を把握する。
(イーグリットは三機とも上手く接近しているわね。よし……)
 通信をイーグリットに繋げる。
『アルファ2よりアルファ3から5へ。三十秒後に次弾発射、敵が回避行動を取ったときがチャンスよ!』
 イーグリットに対し、連携を促す。
(敵機、アルファ2からの攻撃回避を確認。御空)
 シュメッターリングが【ポーラスター】からの攻撃に対し回避行動を取ったのを確認するなり、【ホークアイ】が敵機に対してビームキャノンを放つ。
「俺だってもう新兵じゃないんだ。鷹の眼の見通す戦場に――退路はない!」
 トリガーを引く。
 敵機はこの攻撃をかわすことが出来ず、被弾した。
(武装転換、機関銃に移行。敵射程圏内から離脱します)
 ビームキャノンから実弾式機関銃に装備に持ち替え、牽制射撃を行いながら敵の射程外へと退避する。
 被弾した敵機は航行不能に陥り、荒野へと堕ちていった。
『アルファ1より小隊各位へ。シュメッターリング一機の撃墜を確認。並びに敵機連携に乱れが生じています。一機ずつ、確実に減らしていこう』
 連絡を受け、イーグリット三機が編成を変える。
『アルファ2、チャージ完了!』
 続いて、【ポーラスター】が乱れた敵機に向かって砲撃を行う。
(凛、俺達は上下方向をカバーする)
(はい、智宏さん!)
 アルファ4、【アイビス】の智宏と時禰 凜(ときね・りん)が高度を上げる。自機――学院側がプラントを背にしているためだ。
『アルファ4より、敵小隊の分断を試みます』
 コームラントの砲撃と連携することにより、敵の行動範囲を制限しようとする。
 敵のシュメッターリングは二機ずつに別れ、小隊の指揮官は後退して様子見をしている。分断させられているように見え、その実二機ずつになることによって綿密な連携を図ろうとしているのかもしれない。
「敵もやるわね。でも、弱点は分かっているんだから――当たれ!」
 【ポーラスター】がビームキャノンを放つ。【アイビス】が高高度からの射撃を行っている隙に、分かたれた敵のうちの片方を狙った。
 被弾。だが、敵機の片腕を吹き飛ばした程度だ。
『編成変更。コームラント一機、イーグリット一機でそれぞれ対処。残るイーグリット一機で撹乱する!』
 敵の編成に合わせ、こちらも戦い方を変える。実力では敵に対しまだ劣っているかもしれないが、表面的には二対二に持ち込んだように見せかける。
(御空、配置完了です。アルファ2に連絡を)
『アルファ2、ここからは――』
『了解。味方を巻き込まないよう、距離はある程度保って』
 コームラント二機がビームキャノンのチャージを始める。が、その間に汎用機関銃に切り換える。
 敵機に近付くことによる、中距離支援になるよう、弾幕を張る。
『イーグリット各機へ。ここからの作戦は――』
 先にコームラント間で決めた作戦通りに動こうとする。
(まずは接近して、こちらに注意を向ける必要がありますね)
(出来る限り、コームラントの意図に気付かれないように、敵射程とはギリギリの距離を保ちましょう)
 アルファ5――【カムパネルラ】が弾幕援護の中を進み、二機の敵機に接触する。
 一度ビームサーベルで斬りかかり、そのまま上昇、敵の機関銃の弾を避けながら、機動力をもって翻弄する。
 もう一方の方では、【アイビス】が上空から敵シュメッターリング二機に対しビームライフルを放つ。
 二機のコームラントはビームキャノンに切り換える。砲口を敵に向け、捕捉状態から離脱させようとする。
 当然、敵は回避しようとするのだが、その瞬間にイーグリット二機がブースターで急接近し、再び敵機はそちらに向く。
 当然、ビームキャノンの砲口を見ているので、それを避けるようにだ。
(杏さん、狙い通りです)
(見事に引っ掛かったわね)
 【ポーラスター】と【ホークアイ】の砲口が向く先は――
(射線を合わせて下さい。3、2、1、ロック)
(発射!)
 二つの光条は、それぞれが対峙した二機の方ではなく、空中でクロスするようにして対処しようと決めたのとは異なる二機の方へと走る。
 長距離攻撃の利点を生かした攻撃だった。予測とは異なる方角から来る砲撃に、敵機はなすすべもない。
 それをかわそうとするも被弾、だがその直後、
「今です!」
 【カムパネルラ】が急接近し、二機のうちの一機に斬りかかる。敵が一瞬の動揺を見せたためだ。
 ビームサーベルによる斬撃はシュメッターリングを真っ二つに裂いた。
 そして、もう一方でも、
「隙だらけだ」
 【アイビス】がビームライフルで敵機の駆動部を破壊する。それによってコントロールを失った機体は行動不能になった。
 イーグリットは再び離脱し、コームラントを守れる位置まで下がる。これで敵機は残り三機だ。
 その攻勢の中、一機様子見をしていた指揮官機に無向かって、アルファ3の機体が飛び掛っていく。
 実質一対一、ビームサーベルで斬りかかる。
『こんなことをして、あなたたちは何が目的なの?』
 相手に聞こえるように、エルセレーヌは問いかける。
 それをかわされると、すかさず旋回して敵の射程から離れる。急襲にも関わらず、容易く避けたことから、敵の練度は高い。射程に入ったままだと不味いからだ。
『我々の目的はパラミタの解放だ』
 指揮官の声が通信機を通して送られてくる。
『地球の先進諸国はただ自分達の利益のためだけに、パラミタを利用している。まるで自分達が絶対であるかのように。その傲慢さによって、然るべきパラミタの姿が失われていくのを黙って見過ごすわけにはいかない』
 それこそが、敵の大義名分だ。
『なぜパラミタに対し、自分達が主導しなければいけないと考える? 地上の人間はそんなに優れていると言えるのか?』
 だからといって、武力で訴えることに正当性があるとは思えない。
『そう、分かったわ』
 目的は分かったが、この場は戦わなければいけないことに変わりはない。
『アルファ3より各機へ。指揮官が動くわ。連携を強化しましょう』
 敵はシュバルツ・フリーゲとシュメッターリングが二機。ここからは指揮官も交えて密に連携してくるだろう。
 シュメッター二機がフリーゲの前方に出て、機関銃を放ってくる。
『アルファ2、ビームキャノンの準備を』
 【ホークアイ】と【ポーラスター】の行動そのものはほとんど変わらない。
 射程圏内からの二機の時間差砲撃だ。
「く、直撃はしないか。軌道が読まれている……!」
 シュメッターリングは大げさに動いて避けているが、指揮官機はそうではない。あたかも上体を反らすかのように、ビームをギリギリのところで避けながら機関銃を放ってきている。
『指揮官の練度は相当なものです。注意して下さい!』
 智宏が通信を飛ばしてきた。ビームを避けた後、イーグリットの接近に対しても焦ることなく、人間的な動きでかわしている。
 至近距離からのビームライフルに対しても、機関銃で相殺しながら進路を変更するなどと、かなりイコンを乗りこなしている。
 これが、指揮官クラスのパイロットの実力か。
「だけど、私達も負けられない!」
 距離を保ちつつ、アイビスは敵機よりも高い位置を維持する。そうすることで、敵の隙を突くことも、後衛を守りにいくことも出来るからだ。
(敵のエネルギーを減らせば、勝機はあるかもしれません……)
 そこで、オルフェリアは連絡をする。
『敵の装備は機関銃だけです。私達で撹乱して消費させますので、アルファ1、アルファ2は慎重に狙いを定めて下さい!』
 イーグリット三機で敵を撹乱することにする。コームラントの武装は威力は高いが、その分消費が早い。あまりエネルギーを無駄にすることは出来ない。
『了解。他の小隊もおそらく同じような状況だから、この場はなんとか殲滅して、フォローに回ろう』
 善戦はしているが、敵の指揮官が皆このレベルなら、簡単にはいかないだろう。
 他に出来ることがあるとするならば、ここでなんとか食い止めているうちに、プラント内部の人達が押さえてくれるのを祈るのみだ。