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薄闇の温泉合宿(第1回/全3回)

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薄闇の温泉合宿(第1回/全3回)

リアクション

「なんだか、凄い声が聞こえた気がしますが……。どんな状況ですか?」
 志位 大地(しい・だいち)メーテルリンク著 『青い鳥』(めーてるりんくちょ・あおいとり)(人型名:氷月千雨)と共に、温泉の方へやってきた。
 河原で監督をしている若葉分校講師、高木 圭一(たかぎ・けいいち)に状況を尋ねると、圭一は首を左右に振った。
 パラ実生達は完全に混浴温泉のつもりで、温泉を作っていると。
 分校生を乗せて、頑張らせようとしたが、その必要はなかったと。
 ただ、混浴禁止という指示にはまるで従おうとしないとのこと。
 混浴賛成派の筆頭が、女性であるということを圭一は大地に話していく。
「女性ですか。脅されている可能性もありますね。反対できないだけの者も沢山いるはずですから、仲間を募って、きちんと設備を整えていきましょう」
 大地は圭一から作業に当たっている者のリストを受け取って、学校と名前を確認していく。
「って、殆どパラ実生ですか……………………………………」
 名前を1人1人確認するが――ない。
 大地が知る限り、まともな人物の名前が、ないッ。
 なんてこったい!
 絶望的じゃあないか!
「賛成派の筆頭は、ルルールという魔女だ」
「そ、それは……波羅蜜多実業高等学校二代目総長、夢野久のパートナー、ですね」
 彼もゼスタに乗せられたということだろうか。
 大地は大きくため息をついた。
 このままでは、本当に温泉で保健体育の実習が行われかねない。
 神楽崎優子はなんでまたあのような男とパートナー契約を結んだのか。
 いや、結ばざるを得ない理由があったんだろうが……。
 厳しい表情の優子を思い浮かべ、大地は吐息をつく。
「断固阻止しなければなりませんね」
 そして、孤軍奮闘となったとしても戦い抜く決意を固めていく。
「かなり厳しい状況のようですが、私も青少年の健全な育成の為にも温泉には反対させていただきます」
 千雨はすっと温泉に目を向ける。
 筆頭者のルルールは非常に手強そうな相手だった。意気揚々と、すっごい勢いで温泉作りを進めている。
「女性陣の見極めは任せてください」
「頼むよ」
 千雨の言葉に、圭一がそう答えた。
「わ、私も反対です。絶対反対です……っ」
 半泣き状態で近づいてきたのは、関谷 未憂(せきや・みゆう)だ。
 彼女も反対派として、パラ実生の説得を試みてみたのだが、彼女の「恥ずかしい」という小さな言葉は、パラ実生達の熱気で跳ね返され、まるで取り合ってくれない、寧ろ彼らの耳には入らなかった。
 未憂はしょんぼりめそめそしながら、近くで女性専用の浴槽を作っていたところだ。
 パートナー達はゼスタの説得に向かってくれている。
「香苗も絶対反対。断固阻止するもん!」
 どさばさっと、姫野 香苗(ひめの・かなえ)が台車に乗せたスコップや飲食物や荷物を、置いていく。
「お弁当はもったいないから食べちゃってね。他は草の中に埋めておこう」
 香苗は道具や飲食物を隠すことで、温泉作りを遅らせている。
 用意してあった食料や、ルルールが使おうとしたスコップを隠したのも香苗だ。
 しかし、それだけではなく。
 香苗は隙があれば、合宿に必要な道具類を持ち出して、ペタリと『混浴反対』の札を張り、建物の裏や、森の中に隠していっていた。
「混浴作りが中止されたら、もっと快適に過ごせるはずだよね。よろしくね」
 そう言うと、香苗は迷惑行為を続けるべく岩陰に身を潜ませ次なるチャンスを待つ。
「そのやり方もどうかと思うが。彼らの欲望を止めることは難しそうだからな」
 うーんと圭一は考え込む。
「……う゛ーあ゛ー……」
 温泉作成に力を注いでいた、パラ実生と思われるほっかむりをした女性が唸り声を上げる。
「反対、したような、気もするんだけどね……」
 彼女――訳あって顔を隠している元百合園生。現若葉分校生の伏見 明子(ふしみ・めいこ)は、パラミタに来てからのことを思い浮かべる。
「俺も反対だぜ」
 明子と一緒に、細かな作業を中心に行っていたレヴィ・アガリアレプト(れう゛ぃ・あがりあれぷと)も、混浴には反対だった。
「聞き捨てならねぇな、お前はこっちがわだろー!」
 付近にいたパラ実生が陽気にレヴィの腕を引っ張っていく。
「……いやその、アレだ。眼のやり場に困ってマトモに入れねェじゃねェかクソがっ!?」
 そんなことを叫ぶが、パラ実生は笑いながら「男になれ!」などと言いつつ、彼を連れて行ってしまう。
「お姉さまの裸は……」
 岩の後ろに隠れている香苗は男性達を睨みながらぶつぶつ言葉を発している。
(温泉は賛成。でも混浴はダメなんだもん。香苗の大切なお姉さまやお友達の裸は香苗だけのもの! 欲望丸出しの男なんかに絶対見せてやらないんだからっ)
 心の声が聞こえたわけではないが、元百合園生の明子には香苗の考えはもう十分解っている。
 ごほんと咳払いをした後、明子はこういう。
「ぶっちゃけ女湯男湯分けると女性陣のセクハラが止まらないから混浴の方が安全にも思える……」
 一瞬間を空けた後。
「な、なるほど」
「そうか……」
 大地と圭一は現場を見たことがあるわけではないが納得してしまう。
 確かに教室でも、男子だけ、女子だけの授業より、異性がいた方が節度をわきまえるものだから。
「湯船を2つ作るのは大変ですから。木の板で仕切ってはどうでしょう?」
 そう提案をするのは秋葉 つかさ(あきば・つかさ)だ。
「そうだな。ただ、すぐ破壊されるような気もするが」
 雄叫びを上げながら、作業に勤しんでいるパラ実生達を見ながら、圭一は苦笑する。
「ですが、何事もやってみないとわかりませんから」
 そうつかさは微笑みを浮かべる。
 彼女はのぞき部の、女子のぞき部長でもある。
 混浴もいいが、そのセクハラ真っ最中を覗ける方がもっと良いのだ、ふふ……。
「……なんだか、更に最悪な方向に進んでいるような気がする」
 明子は嫌な予感を感じずにはいられなかった。
「オイコラマスター! 俺に働かせて、さぼってんじゃねーぞ!」
 パラ実生に引っ張られ、手伝わされているレヴィが声を上げる。
「誰がさぼってるって……?」
 にこにこ笑顔を浮かべながら、明子は近づいていって、笑顔で盾を振り上げる。
「な、なんだ!? つーかそんだけ力有り余ってンなら駆け出しの俺様の力なんぞいらんだろうがこのゴリラおん…あぎゃーっ!?」
 ガスン、ぼこぼこ……。
 邪魔な岩を砕くついでに、煩い魔鎧も温泉に沈め、明子は作業に戻っていく。
「掘るわよー!」
 ラスターエスクードをスコップ代わりに、ガツンガツン掘っていく。
「ぐふぅ……」
 数秒後に湯から顔を出したレヴィはすっかり大人しくなり、砂利をどけたり、石をどけたり、ちまちま明子の手伝いをしていくのだった。
「では私は、木材の準備に向かいますね」
 つかさは大地と圭一に深く頭を下げて、大工仕事をしているメンバー達の元に向かうことにする。
(木の節で覗けるようにいたしませんと。男湯からだけではつまりません。女湯からものぞき返せるようにいたしましょう)
 準備の為に、彼女も奔走するのだった。

 一方、その頃。
 発端のゼスタの元にも、混浴反対派の少女達が交渉に訪れていた。
「ゼスタさんが言うには男性陣の要望として温泉を混浴にしたいのよね?」
「別にそういうわけじゃない」
 水心子 緋雨(すいしんし・ひさめ)の言葉に、ゼスタはそう答えた。
 ううっと、緋雨は言葉に詰まる。
 男性陣の要望の混浴は認める。その代わりとして女性陣の要望を聞いてもらおう、寧ろ突きつけようとしてきたのだが!
 実際、現場でパラ実生を率いて1つだけ湯船を作っているのは、パラ実生徒会長の姫宮 和希(ひめみや・かずき)(外見、実性別共に女)であり、意気揚々と先導しているのは、パラ実総長のパートナールルール・ルルルルル(るるーる・るるるるる)(外見、実性別共に女)だったりする。
 そう、女性が取り仕切っているのだ。
「う〜ん……どうしても混浴にしたいっていうのなら『女性限定の入浴時間を作る』で、手を打ちたいんだけど」
「作ればいいんじゃね?」
 あっさりと返事が返ってくる。
「そう……それならそうするわ……」
 なんだか脱力して、緋雨はゼスタの元を後にする。
「……これ、あげるから……みゆうのおねがい……きいて?」
 続いて、未憂のパートナープリム・フラアリー(ぷりむ・ふらありー)が、ゼスタにお菓子の沢山入った箱をぐいぐい押し付ける。
「おっ、サンキュー。可愛い女の子のお願いなら聞いちゃうかもなー」
 言いつつ、ゼスタは早速、ショコラティエのチョコから食べ始める。
 箱の中には、妖精スイーツと高級芋ケンピ、ドーナツ、そしてラズィーヤの義理チョコまで入っている。
 そのまま、プリムはじーっとゼスタの顔を見て、回答を待っている。
「ねーねー、薔薇学せんせー」
 リン・リーファ(りん・りーふぁ)は、ぐいぐいゼスタの腕を引っ張った。
「みゆうみたいな子も居るし、真ん中に仕切り作るとかどうー?」
「作ってもいいぞ」
 あっさりとした返事に、リンとプリムは顔を合わせて首を傾げる。
「あと、水着着用必須っていうのはどうかな?」
「キミらはここに何しに来たんだ?」
 にっこり微笑みながら、ゼスタはプリムとリンの頭を撫でた。
「温泉に入り……じゃない、合宿だ」
 リンがそう答える。
 プリムは未憂とリンと遊びに来た程度の気持ちだったので、何も言わずにただじっと見つめ続ける。
「そう、温泉に入りに来たわけじゃなくて、合宿に来たんだ。温泉は風呂場代わり」
 にこにこゼスタは微笑む。
「水着着てたんじゃ、まともに身体洗えねぇだろ〜ってみゆうチャンに言っておいて」
「むむ……」
 リンは眉をきゅっと寄せる。
「あんまりがつがつしてると女の子は逃げちゃうよー」
 そう抗議をすると、ふふーんとゼスタは笑みを浮かべる。
「結構結構、俺去るものは追わないし。けど、リンチャンとプリムチャンはちょっと好みかな〜」
「あたしはせんせーのこと、好きじゃないよー」
 言って、リンはプリムの手を引いて、ちょっと後ろに下がった。
 近くにいたらいけないような気がした。
「とにかく、仕切りおーけーってこと、みゆうに伝えてくる」
「あ、そうそう」
 走り去ろうとしたリンとプリムに、ゼスタが声をかける。
「ん?」
「湯着全員分用意してあるから、使っていいぜ」
「ゆぎ?」
「湯浴み着。風呂に入るとき着用するものだよ。別に素っ裸で入れなんて、言ってないだろ? 俺だって恥らう女に裸見せる趣味ねえし」
 ゼスタはにやりと笑みを浮かべる。
「そっか、それなら良かった……のかな」
 リンは何だかもやもやしたものを感じながら、プリムと一緒に未憂の元に戻って、報告をした。
 ……報告を受けた未憂は「躍らされたー」と、ベシベシ地面を叩き。プリムが彼女の頭をしきりに撫でて慰めたのだった。

「う〜ん」
 頭を悩ませながら、緋雨は『朝6時から9時と夕方18時から23時の間は女性のみの入浴時間』という案を、提案することに決めた。
「破ったり、こそこそと覗いたりするのは、酷いことじゃからな」
 天津 麻羅(あまつ・まら)も緋雨と一緒にルールを考えていく。
「そうゆう者がおったら、しばらくはドラム缶風呂に入ってもらうかのう」
「でも、ドラム缶……落ちてないわぁ〜」
 火軻具土 命(ひのかぐつちの・みこと)は、合宿所の中や周辺を探すが、ドラム缶に類するものは無かった。
「他の罰考えへんとぉ〜?」
「ですねぇ」
 一緒に探していた無銘 『武装ノ概念』(むめい・ぶそうのがいねん)ものんびり頷いた。
「というか、なんかちょっと変なのよね。常識が通じないっていうか……」
 緋雨は状況を見て回っているうち、自分の常識がここでは通じないことに気付いていた。
 混浴推進派筆頭は女性だし。
 のぞき部部長にして、のぞく気満々、お仕置き大好きな女性がいたり。
 混浴反対、同性同士でセクハラしたい為に反対活動をしている女の子がいたり。
「とにかく……まともに見えた若葉分校の主任教師の人に、案を提出しよう」
 普通の乙女の味方になるべく、緋雨はパートナー達と、混浴反対派のメンバーに意見を提出に向かったのだった。