葦原明倫館

リアクション

少し長いエピローグ


　ハスター率いるチーマーを撤退させたことで、夜のキマク商店街はお祭り騒ぎになっていた。
　今回も計画していた、酒杜　美由子（さかもり・みゆこ）が立ち上げた【キマクプロ】のコンサートは、同じくライブを計画していた亜魔領域と共同でこの宴会ムードの中で行われることになった。

　演奏技術も勉強した美由子が製作したオケは、前回よりずっと聞き応えのあるものになっている。
「今回は演歌でいくんか」
「それでこの着物なんですのね」
　ソラ・ウィンディリア（そら・うぃんでぃりあ）は青い色柄の、メアリー・ブラッドソーン（めありー・ぶらっどそーん）は赤い色柄の着物を着ている。とても華やかだ。
「コンサート後には、新曲のＣＤと二人の水着映像のＤＶＤを特典につけて売るつもりよ。がんばってね」
　美由子は前回のコンサートの反応から、だいたいの購入数を予想し徹夜でＣＤ−ＲとＤＶＤ−Ｒにデータを焼いてきた。手焼きだ。
　嬉しい誤算なのは、チーマーに勝ったことで商店街に人があふれ、コンサート会場として借りた商店街外の広場にも多くの人が流れてきていることだった。
「知名度を上げるわよ！」
「よっし！　行くでメアリー！」
「頑張りますわ！」

　【ふたりはブルブラ】を知っている人も知らない人も、演歌が初めての人もそうでない人も、浮かれ気分の中、歌を楽しむ。
　今回も作詞作曲に振り付けは美由子だ。
　しかもこの曲は彼女自らの前語りまで入っている。

　『流れ流れて大荒野
　忘れられぬあの人想い
　女心の弱さと強さ　この歌籠めて届けます
　お聴きください　ふたりはブルブラ【花嫁荒野】』

♪種モミひとつ　この胸抱き
　隣にいない　あんたを想う
　渇いた地平　濡れた雪空
　このぬくもりだけが　伴侶です
　今からまいります灰色砂漠　こころに花を咲かすため
　忘れられない　想い出咲かすため
　まいりましょう　まいりましょう　花嫁荒野

　種モミひとつ　この手に掬い
　あの日の陽炎　この胸揺らす
　いるのにいない　そんな不思議に
　雫が一粒　頬伝う
　今からまいります灰色砂漠　この種植えるため
　ふたりの想い出　ここに育てます
　咲かせましょう　咲かせましょう　花嫁荒野♪

　歓声と拍手と泣き声と。
　デビュー曲のはじけた雰囲気とは一変した、しっとりした曲と歌声そして歌詞に自分を重ね、パラ実生もキマク住人も共感した。
　【ふたりはブルブラ】の次は、四十八星華メンバーの一人、ノア・セイブレム（のあ・せいぶれむ）と亜魔領域宣伝アイドルの薄青　諒（うすあお・まこと）の披露となった。
　諒は今日も女の子と思われて男性ファンにモテていた。
　歌の後、
「何か変な感じしない？　いや、男の人に応援されるのが悪いってわけじゃなくて……予想と違うっていうか」
「諒さんの漢気に惚れたのよ」
　ノアが微笑んで言ったその言葉に、諒はあっさりと疑念を捨てた。
　彼は自分は日々理想のイケメンに近づいていると信じて疑わなかった。
　また、亜魔領域は商店街の店長達にこの舞台への協賛者を募集した。
　その効果のほどをあまりわかっていない店長達だったが、ものは試しだと名乗り出る者もいる。
　そういう彼らの店の名を、ノアは歌の終わりに発表した。
　コンサートが終わると、舞台はパラ実生のものとなり好きに音楽を始める。
　美由子が夜なべして作ったＣＤ・ＤＶＤセットも、諒のグッズや握手会も人が集まり大騒ぎとなった。
　ノアが発表した協賛店の品も一緒に売り出し、ほぼ完売となる。
　しかしこの時、天沼矛では一大事が起きていた。


　空京で蓮田レンのバックについて調べていた朱　黎明（しゅ・れいめい）は、吉永　竜司（よしなが・りゅうじ）からの電話の内容に思わず携帯を落としそうになった。
　太平洋の孤島に行った者達と助け出した四天王達は今、天沼矛をよじ登るガイアにしがみついているとのこと。
『細かけぇことは後だ！　そんでよ、ガイアのきょうだいを助けに行ったって話はどうなったァ！？』
　風にかき消されないよう、竜司の怒鳴り声が携帯から届くが、それでも途切れがちだ。
　嘘みたいな話だが、本当のことなのだろう。
　黎明は高崎　悠司（たかさき・ゆうじ）から聞いた話をそのまま伝えた。
　難しい病気の妹の治療費をレンが払っていること。
　妹はガイアに会いたいと寂しがりつつも、無理をしていないかと心配していること。
　だいぶ具合が良いこと。
　竜司は錯乱状態のガイアに、簡潔に「妹は元気で、会いたがってるそうだから少し落ち着け」と宥めようとしたが、逆効果だったようでますます取り乱してしまった。
　どこへ向かうつもりなのか。
　何か伝えたいことがあるのか。
　ただ吼えることしかしない今のガイアからは、何もわからなかった。