波羅蜜多実業高等学校へ

葦原明倫館

校長室

空京大学へ

イルミンスールの大冒険~ニーズヘッグ襲撃~(第3回/全3回)

リアクション公開中!

イルミンスールの大冒険~ニーズヘッグ襲撃~(第3回/全3回)
イルミンスールの大冒険~ニーズヘッグ襲撃~(第3回/全3回) イルミンスールの大冒険~ニーズヘッグ襲撃~(第3回/全3回) イルミンスールの大冒険~ニーズヘッグ襲撃~(第3回/全3回) イルミンスールの大冒険~ニーズヘッグ襲撃~(第3回/全3回) イルミンスールの大冒険~ニーズヘッグ襲撃~(第3回/全3回)

リアクション

 
●精霊指定都市イナテミス:イナテミス精霊塔
 
 精霊塔の天辺から、『ヴォルカニックシャワー』の荒々しい光ではなく、『ブライトコクーン』の優しい光が放たれ、それはしばらく進んだ所で向きを変え、イナテミス中心部の端へと降る。
 無数の光が放たれた後には、イナテミス中心部を覆う光の繭が完成した。
 
「よし、これでいい。次の手は……」
 町長、カラム・バークレーに『ブライトコクーン』の使用を提言したジークフリート・ベルンハルト(じーくふりーと・べるんはると)が、その『ブライトコクーン』が街を包む様を目の当たりにして満足気な笑みを浮かべ、次なる手を打つべく、自らの意思で同行したイシアに頼み事を告げる。
「俺達は、ニーズヘッグの素性をイナテミス住民に広め、彼らにもニーズヘッグを説得してもらえるように働きかけたい。
 声を届けるための設備は、『イナテミス 秋葉原四十八星華劇場』から借り受けるとして、イシアは俺達の声がより遠くまで届くよう、風の精霊達の協力を取り付けてほしいのだ」
「待つのだ、ジーク。私の記憶では、その劇場は地下に設備があるのだ。運び出すだけでも一苦労なのだ」
 ジークフリートの意見に、ノストラダムス・大預言書(のすとらだむす・だいよげんしょ)が口を挟む。
「えっと、ごめんなさい、私からも言わせて。
 風の精霊は今、あなたたちの味方がやった作戦の後で、とても疲れてると思うの。だから、別の手段を考えてくれると嬉しいかな」
「……そうか。では、別の方法を考えた方がいいようだ。誰でもいい、何かあるか?」
 イシアの言葉も受けて、意見を一旦撤回したジークフリートが、集まった者たちに言葉を発する。
「……精霊塔はどうなのだ? あれは既にスピーカーとしての役割を果たしているように思うのだが」
 クリームヒルト・ブルグント(くりーむひると・ぶるぐんと)の言葉に、そうか、とジークフリートが頷く。彼らも確かに、精霊塔を介して、終夏や未憂、るるの言葉をこの場で耳にしていた。
「じゃあ、セイラン様に私からお願いしてみるわ。行きましょ!」
 
「話は聞かせてもらった。俺も是非、君たちの行動に力を貸したいと思う。
 ……しかし、問題はニーズヘッグの素性を、どのようにしてイナテミスの住民に広めるかだな。君たちはそのHCとやらを持っているからいいが、住民はそうではないからな」
 精霊塔で、イシアから話を聞いたケイオースが、ジークフリートたちに向けて告げる。
 近代化が進みつつある街ではあるが、全家庭にテレビといった『映像を映す装置』があるわけではない。ニーズヘッグの素性についてはデータという形である以上、そのまま伝えるのが最も楽だが、それを同時多発的に公開する術がない。
「……いえ、出来るかもしれませんわ。お兄様、鏡を使うのです」
 セイランの言葉に、ケイオースがその手があったかと呟く。
 鏡なら、材料や品質には差があれど、ほぼ全ての家庭に備えられている。セイランの言葉は、鏡をモニター代わりにすればいいというものであった。
「出来るのか? そんなことが――」
「声を届けられるのであれば、映像も届けられるはずですわ。この塔は、人間と精霊とが力を合わせて建設した塔ですもの」
 精霊にそう言われては、人間もそういうものかと納得せざるを得ないだろう。
「ただ、相応の魔力を消費することになるでしょう。出来れば数人の方に、ご協力願えれば嬉しいのですが」
「よし分かった、協力を取り付けてみるのだ!」
「では、私も行こう」
「精霊への説明は、私に任せておいて!」
 ノスとクリームヒルト、そしてイシアが、生徒や精霊たちに事情を説明しに行く。
(頼んだぞ……)
 パートナーを応援するように心に呟いて、ジークフリートが住民に呼びかける言葉を考える――。
 
 精霊塔の周囲がにわかに騒ぎ出す頃、御子神 鈴音(みこがみ・すずね)ケイオス・スペリオール(けいおす・すぺりおーる)の姿もそこにあった。
(やっと着いた……と思ったら、世界樹が飛んでるし……でっかい竜まで……精霊に会いたかったけど……それどころじゃない……?)
 表情が変わらないながらも、鈴音はイルミンスールとニーズヘッグが空で対峙している状況にしっかり動揺していた。
「ふぅむ、これはまた非常に興味深い状況ではないか。あの世界樹が浮いているとは! 探究心をそそられはしないかね?」
 一方のケイオスはというと、言葉通りなのかはたまた違うのか、とらえどころのない様子であった。
「…………えーっと……取りあえず……精霊を守る……ケイオスも故郷のため……手伝って……」
 事情が分からないながらも、鈴音が精霊塔へと足を向けようとした矢先、眼前に男性の姿が割り込む。
「た、頼む! あいつらに力を貸してやってくれ!」
「……?」
 突然のことで動揺している(でも表情には出ない)鈴音に、男性は驚かせたと思ったようで、改めて自己紹介する。
「俺は『サイフィードの光輝の精霊』ライエルだ。
 ……非常に恥ずかしくて、情けない話なんだが、俺、あいつらが手貸してくれたにも関わらず、無下にしちまってさ。
 今は反省してるし、後悔もしてるけど、ここで俺が出ていくのもって思って、それであんたらに協力を呼びかけたってわけだ。
 ゴメンな、無理言っちまって」
「……ううん……教えてくれて、ありがとう……じゃあ、行く」
「おっ、そっか。助かるぜ! じゃ俺はこれで――」
 ライエルが去ろうとした所で、その腕が鈴音によって引き止められる。
「あなたも……一緒に行く」
「は? い、いや、俺は――」
「君は、世界の真理を識りたいとは思わんかね?」
「な、何を言い出す――っておまえ、闇黒の精霊か!? チッ、苦手なヤツに会っちまったぜ……!
「私は闇黒の精霊というよりは、そう……世界の真理の探求者だ」
「だからワケ分かんねぇって!」
「……一緒に行く……」
「だ、だから俺は――!」
 精霊をスカウトする気もあった鈴音によって、ライエルがずるずる、と引きずられるようにして、結局行動を共にすることになった――。
 
「ケイオース様、わたくしにも何かお手伝いをさせてください。
 お姉様達が頑張っていらっしゃるのに、じっとなんてしていられませんわ!」
「そうか、真言君はニーズヘッグへ向かったか。
 分かった、ティティナ君、このHCを塔の上部にある基地局に持っていってくれ。
 どこにHCを置けば通信がより鮮明になるか試してみたい。高さがある、慌てず慎重に行ってきてくれ」
 ケイオースからHCを渡されたティティナ・アリセ(てぃてぃな・ありせ)が頷き、箒に乗って基地局となっているフロアを目指す。
 その途中で、今はイナテミスで一緒に暮らしている地球人、ホルン・タッカスと精霊、キィ・ウインドリィと話をしている三笠 のぞみ(みかさ・のぞみ)を目にする。
(のぞみ様……)
 沢渡 真言(さわたり・まこと)から、のぞみが人間と精霊の関係について疑問を抱いていること、答えは自分自身で出すべきだろうと聞いていたティティナは、心配そうな表情を浮かべつつ、今はそっと見守るしかないと思い至る。
(のぞみ様はきっと、よい答えを導けますわ。……さあ、わたくしも自分のやることを果たしませんと!)
 
「あたしは自分自身でここに来て、あんたたちから話を聞いて、周りの景色を見て、やっと納得できたんだと思うよ」
「……そうですか。お答えを、聞いても構いませんか?」
 キィの言葉に、のぞみがうん、と頷き、自分が導いた答えを口にする。
……忘れないでいればいい。
 ひとは精霊を利用している、甘えているかもしれないということを。
 そこに罪の意識だとか貸し借りとかは考えないで、だけどそういう面もあるんだよということを理解して、忘れないでいる。
 そうすればこの先もずっと、ひとと精霊は支え合って行けると思う」
「ああ、君の言う通りだと思う。
 俺も、精霊に支えられているんだということを、忘れないようにしたい。
 受けた恩を返して、また支えてもらって、そうして繰り返しながら、共に歩んでいければいいと思う」
 ホルンが、のぞみの言葉に同意の意思を示しつつ答える。
 どちらかが一方的になったら、関係は持続しない。互いに受け与え合う、それが人間と精霊とに限らず、理想的な両者の関係ではないだろうか。
「それで……できたら、あたしとお友達になってもらえると、嬉しいな。
 これからもよろしくを、今、言っておきたいの」
 のぞみがすっ、と手を差し出すと、キィがふふ、と微笑んでその手を取る。
「はい。私からも、よろしくお願いしますね。ホルンさんもどうぞ」
「そうか、じゃあ、失礼する」
 そこにホルンの手も重なり、三つの手が友情の成立を宣言する――。
 
 仕事を果たすために発ったキィとホルンを見送るのぞみの隣に、ミカ・ヴォルテール(みか・う゛ぉるてーる)が立つ。
「……何? なんか言いたそうな顔してる」
「いや、別に?」
 のぞみの視線をかわして、ミカが微笑を浮かべる。心の中では、のぞみが結論を出せてよかった、と思っていた。
(言わなきゃわからないこともあるけど、言わなくてもわかることもあるだろー――)
「ほら、ボーっとしてないで! 精霊塔への魔力供給をするんだから!」
 思考に耽っていたミカを、のぞみが引っ張るように連れて行く。
「ととと、引っ張らなくても一人で歩けるってば」
 こういう所が、見てて飽きないんだよなーとミカは心に呟きつつ、のぞみと共に精霊塔へ向かっていくのだった――。