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聖戦のオラトリオ ~覚醒~(第3回/全3回)

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聖戦のオラトリオ ~覚醒~(第3回/全3回)
聖戦のオラトリオ ~覚醒~(第3回/全3回) 聖戦のオラトリオ ~覚醒~(第3回/全3回)

リアクション


(・ブラボー)


【ブラボー小隊】 
【ブラボー1】【E搭乗】月谷 要(つきたに・かなめ)霧島 悠美香(きりしま・ゆみか)/TACネーム【デザイア】
【ブラボー2】【E搭乗】藤堂 裄人(とうどう・ゆきと)ゼドリ・ヴィランダル(ぜどり・ゔぃらんだる)
/TACネーム【ケルベロス】
【ブラボー3】【E搭乗】綺雲 菜織(あやくも・なおり)有栖川 美幸(ありすがわ・みゆき)/TACネーム【ファング】
【ブラボー4】【C搭乗】七姫 芹伽(ななき・せりか)夕月 燿夜(ゆづき・かぐや)/TACネーム【フレイア】
【ブラボー5】【E搭乗】オリガ・カラーシュニコフ(おりが・からーしゅにこふ)エカチェリーナ・アレクセーエヴナ(えかちぇりーな・あれくせーえうな)/TACネーム【クラースナヤ】

* * *


「イコンの真の力か……撃たれて死ぬ間際にそういう力が出るとか、ほら、アニメとか、味方が全滅! とか大事な仲間や好きな人が撃たれたショックで発動だったら嫌だよね」
 ブラボー2、【ケルベロス】の中でゼドリがそんなことを口にした。
「……とにかく、今は目の前の戦いに集中だ」
 裄人は聞き流した。悪い方に考えて気を逸らすのは危険だ。
「エースパイロットにはなりたい。だが人を殺したくはない。人を殺さないために、イコンでしか破壊できない敵の武器を破壊したい」
 あくまでも、撃墜ではなく行動不能にする。
 それが裄人にとっての目標だ。
 護るためには戦う必要がある。そう、殺し合いがしたいわけではないのだ。
「なんか奇麗事っぽいね。まあ理想はそうなんだけど、さ」
 癪に障る言い方をされるが、裄人の表情は真剣そのものである。
「ゼドリ、イコン部隊は仲間に任せて突破する」
 目標は、奥に見える巨体だ。
 アルファ小隊の作戦行動開始に合わせ、【ケルベロス】は加速した。援護を受け、包囲網を抜けようとする。
 アサルトライフルを構え、牽制を行う。
 シュメッターリングの動きを見るのは今の彼には難しいことではない。シャープシューターで装甲の継ぎ目を狙い引鉄を引く。
「ゼドリ、下降だ」
 高度を落とし、敵の足下から上空を狙う。
 ある程度前進したところで、ゼドリが機体を急上昇させた。
「まだタイミングが早いぞ!」
「ごめんごめん」
 裄人が指示を出すと、それに従った。
「さっきの話だが」
 敵の大型イコンへ視線を送ったまま、裄人は声を漏らす。
「イコンが覚醒するとき……それは、後戻り出来ない戦いに突入するときではないだろうか。取り返しのつかない場所に踏み込むような気がする」

 ブラボー3、【ファング】もまた、海上の敵機を激破しながら突破しようとしていた。
 敵機の陽動を行い、射線を自機に向けさせる。
(今です!)
 美幸が『音』を聞く。
 銃声と、駆動音から敵の射撃後の行動を予測する。上昇し、急加速を行い間合いを詰める。
 一閃。
 ビームサーベルでシュメッターリングを薙いだ。
(思っていたよりこちらの方面は数が少ない……)
 菜織はその理由をすぐに知った。
「く……ッ!」
 光と衝撃が同時に機体へと伝わってきた。
 巨大イコンの主砲、プラズマキャノンが放たれたのだ。
(この距離で、これほどとは)
 歯をぎりっと噛みしめる。あまりの破壊力の大きさに、苦心せざるを得ない。
 体勢を立て直し、再び正面に見える機体を見据える。

(なんて大きさ……)
 【ファング】よりわずか前方にいたブラボー4、【クラースナヤ】の中でオリガは呟いた。
 プラズマキャノンの馬鹿げた威力だけではなく、近づくに連れはっきりしていくその規格外の大きさに、ただ驚愕するばかりだ。
 しかし、ここで負けてはいられない。深呼吸、息を吸い直して操縦桿を握り締める。
 まだ距離はあるが、おそらくミサイルの射程にも入っているだろう。チャフを散布し、敵のセンサーによる索敵に備える。
『あなたは何のために戦うのですか。未来(あした)に何を見るのですか』
 敵へと通信を送る。
 そこへ、巨体――マリーエンケーファーから言葉が返ってきた。
 粛清。裁き。
 自分達を見下した、一方的な言い分だと彼女は感じる。
『好き放題ばかりやって!』
 オリガの声に対しても、敵は嘲るような口調のままだった。
 二十分後、主砲が海京を破壊する。それまでに倒さなければならない。
 
 前線を行く機体がマリーエンケーファーに肉薄していく中、ブラボー4、【フレイア】を駆る芹伽はもやもやとしたものを感じていた。
 コームラントによる長距離支援砲撃によって、敵機にはシールドが張られていることが分かった。
 あれを何とかしたい。
 そのためには、至近距離までイーグリットが近づけるようにしなければならない。
 だが、別の理由もある。
(……私はまだ、【フレイア】と息があってない)
 なぜか。
 理由は簡単だ。迷いを捨て切れていない。ただそれだけだ。
 イコンを道具ではなく相棒だと思っていようとも、自分達が一体だと考えていようとも――芹伽自身が戦う理由を見つけていないからだ。
「芹、来るぞ!」
 燿夜の声で我に返る。
 巨大イコンから放たれたビームが迫っていた。
 急旋回し、それを避ける。コームラントの武装と同じエネルギー源にも関わらず、敵のそれはこちらの遥か上の威力を誇っている。
 主砲ほどでないにしても、一発食らえば行動不能に、下手をすれば誘爆しかねない。
(戦わなきゃ……だけど、私は……)