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聖戦のオラトリオ ~転生~ 第2回

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聖戦のオラトリオ ~転生~ 第2回

リアクション


(・対クルキアータ戦1)


「なんでブルースロートなの? ボーイ・スロートにすればいいのに」
 仮想空間の姿が目に飛び込む中、エカチェリーナ・アレクセーエヴナ(えかちぇりーな・あれくせーえうな)が呟いた。
「なんでも、名前の由来はナイチンゲールにあるそうですわ」
 オリガ・カラーシュニコフ(おりが・からーしゅにこふ)が言う。
 ブルースロートは日本語ではオガワコマドリのことであり、サヨナキドリ(ナイチンゲール)と同じくサヨナキドリ属に含まれる鳥だ。
 ホワイトスノー博士が、これまでの学院のイコンと関連づかせるために、そういう風に名づけたのかもしれない。
 

* * *


 仮想空間は、海京近郊を再現したものになっている。
 そのため、一面は青い海だ。
「あれが噂のクルキアータかぁ……」
 ドール・ゴールド(どーる・ごーるど)を纏った、鳴神 裁(なるかみ・さい)は見慣れない機影を捉えた。
 その姿は、まるで「騎士」のようだった。特に、ランスとシールドを構えた紫色の指揮官機は、シミュレーターの中にも関わらず、強い威圧感を放っていると錯覚するほどだ。
「さぁ、風になろうか、ワイルドウィンド☆」
 忠実に再現されたワイルドウィンドのブースターを起動し、戦闘態勢に入る。

「え〜と、武装は大型ビームキャノンに長距離射程スナイパーライフルとビームシールド、そしてブリトラ砲っと。信長、そっちはどんな感じだ?」
 ブレイブハート・エクセリオンの武装を確認しながら、桜葉 忍(さくらば・しのぶ)織田 信長(おだ・のぶなが)に問いかけた。
「機体の状態は大丈夫じゃ! しかし、このしみゅれーたーとやらは本当によく出来ておるな〜。忍もそう思わんか?」
「確かによく再現されてるよ、ブレイブハートをここまで再現出来るなんて、凄く高性能なシミュレーターだ」
 ほとんど現実の機体と同じ感覚だ。
「さて、準備も整ったし、そろそろ始めようかな」
「そうじゃな、さてクルキアータとやらがどれほどの性能か見せてもらおうとするか」

「機体の機動性能は……うん、大丈夫だね」
 サビクはブルースロートの機動性の確認を行う。ほぼイーグリットと同等だ。余計な武装がない分、機動性が確保されているということだろうか。
「基本的に、有効射程はレーダーの範囲内か。ただ、敵への干渉はある程度接近しないといけなさそうだ」
 演算サポートプログラムを使用した場合のエネルギーシールド連続接続時間は五分。常にサブパイロットが常時演算を行い続けることが可能ならば、「展開対象機体の残り稼働時間」がそのまま接続時間となる。
 ただし、エネルギーシールドを連続で展開していれば、それだけ機体の稼働時間は短くなってしまうが。
「シールド展開しながらでも他の機能は使えるけど、オレに厳しいなこりゃ」
 彼女達のドラッヘン小隊は四機編成だ。
 自機にシールドを張るのは問題ないものの、仲間三機をカバーするということは、「頭の中で同時に三つの方程式を解く」ようなものだ。それを行いながら、ジャミングや敵機干渉のための演算を行うのは並大抵のことではない。
『こちらドラッヘン3。これからエネルギーシールドを展開する。まだ相手がどんなもんか分かんねーから、無闇に突っ込まないようにしてくれ』
 予想外の動きをされると、シールドが解除される恐れもある。最初は慎重に動かざるを得ない。
(こんな中で、F.R.A.G.を間近で見たのはオレ達だけだしなぁ)
『ドラッヘン1、了解です』
 {ICN0001806#龍皇一式}のフェイト・シュタール(ふぇいと・しゅたーる)が通信に応じる。彼女のパートナー、松平 岩造(まつだいら・がんぞう)が装備をハンドガンに切り替えた。
 いきなりクルキアータに向かって突っ込むことは避ける。
『こちらドラッヘン4。これから砲撃を行う。タイミングを合わせてくれ』
 【ブレイブハート・エクセリオン】が大型ビームキャノンの照準をクルキアータに合わせ、忍がトリガーを引いた。
 だが、ドラッヘン小隊はまだ気付いていなかった。
 砲口からビームが放たれていたときにはもう、クルキアータの一機が小隊ごと捕捉していたことに。
 敵機の攻撃は、前衛の【龍皇一式】と【ワイルドウィンド】へ一発ずつ放たれていた。
 それがエネルギーシールドによって阻まれる。
 むしろ、シールドがなかったら被弾――それどころか、確実にコックピットを撃ち抜かれていた。
 一切隙を見せた覚えはない。しかし、この瞬間に小隊のメンバーは悟った。
 ――これまでの戦い方は通用しないと。

* * *

 
『クルキアータが一個小隊に匹敵するっていうなら、勝敗はあたし達の連携次第でしょ?』
 クルキアータとの交戦に入る前に、コームラントカスタムコンクリート モモ(こんくりーと・もも)は、改めて連携の重要性を説く。
 こちらのアルファ小隊も、モモ以外はその目でF.R.A.G.の強さを見たわけではないのだ。
 後方支援を行いながらじっくりと観察していた彼女だからこそ、相手がデータ云々ではなく、尋常ではない強さだと気付いている。
『敵は実体系の攻撃だから、装甲強化が有効だとして……』
 交戦する前にアドバイスを送る。
『一撃で誘爆なんてのも望み薄。そもそも、普通に小隊で取り囲むだけではダメ』
 シミュレーター用のAIならば、それでなんとかなるかもしれない。だが、それで勝てると高をくくってしまったら、後々痛い目を見ることになりそうだ。
『詰め将棋ね。アウトボクサーをコーナーに追い詰めるように……鍵になるのはブルースロート』
『お、オレ達ですか!?』
 ブルースロートに搭乗している蘇芳 秋人(すおう・あきと)が驚きの声を上げた。
『そうよ。ブルースロートの機能なら、道が開けるかもしれないわ』
 フィールドが海京近郊の海上のため、地形を利用するのは難しい。
 敵機のエネルギー切れを待つのも一つの策だが、おそらく切れるとしたらビーム系の兵装を積んでいるこちらの方が先だろう。
「ブルースロートが強力なジャミングしたら、こっちの電子機器もオシャカじゃないノ? レーダーなかったら暗闇で戦ってるようなものネ! ミーの機体は照準性能の『目』だけが取り柄なのに」
『その辺、どうなってるの?』
 ハロー ギルティ(はろー・ぎるてぃ)に聞かれたため、確認を行う。
 モモとしては、それが狙いの一つでもあったが、ジャミングの影響をこちらが受けないならこしたことはない。
『ちゃんと計算すれば、味方は巻き込まれないはずです』
『分かったわ。それなら好都合ね』
 ならばやりようはあるというもの。
「そういうことなら……全技能が高くなくても、メンバーが各々の長所を活かせば勝てるかもしれないってことネ!」
 モモは静かに頷き、ビームキャノンのトリガーに指を掛けた。

(蕾、いける?)
(はい……私の役目は……秋人様の命に従うことだから)
 精神感応で、蘇芳 蕾(すおう・つぼみ)に確認する。
 いつもは火気管制を担当する秋人だが、今回は機体移動を彼が行う。
 マニュアルにはもちろん目を通した。
 扱い方次第ではブルースロート一機で小隊全機を守ることも出来る力を発揮出来る。そのためには相当頭を使わなければならないが。
(先手を取れれば勝機も見える。蕾、頼んだぞ。誰よりも先にクルキアータを見つけてくれ)
(クルキアータ……見つける……それが命令……ブルースロートのセンサーは凄い……私さえ……しっかりやれば……)
 このときの秋人の認識はせいぜい、「油断のならない相手」止まりだった。
(……見つけた……皆様にも連絡……秋人様……ジャミングを……)
 アルファ小隊へ向かって飛来してくる姿を蕾が確認した。
 ジャミングを彼が受け持てば、蕾がエネルギーシールドの展開に集中出来る。分担出来るところは、しっかりとやった方がいい。
『ジャミングをかけますっ、この機に皆さん先制をっ!』

「あれが噂のクルキアータ……」
 ライネックス村主 蛇々(すぐり・じゃじゃ)は、その姿に緊張を覚えた。
「ジャミングが成功すれば前に出れそうだけど、難しそう……」
(闇雲に突っ込むのは危険だ。なるべく小隊の他の機体、特にブルースロートからは離れない方が良さそうだ)
(わ、分かったわ!)
 アール・エンディミオン(あーる・えんでぃみおん)からの声を聞き、各種センサー、レーダーを見て状況を把握する。今のところ、先走っている味方はいない。
(私も、もっともっと頑張らないと……)
 ジャミングをかけたためか、まだ敵機はこちらを捉えていないらしい。
(アルファ2、これより目標を狙撃するぜ)
 ゲイ・ボルグ アサルトから御剣 紫音(みつるぎ・しおん)のテレパシーが送られてくる。
 クルキアータの一般機に狙いを定め、スナイプで撃ち落とそうとする。
 敵機は無防備だ。レーダーの端にかすかに見えるくらいの位置だが、ブルースロートのレーダーからは完全に見えているのだろう。
 一本の光条がクルキアータに直撃するかと思われたが、
「嘘……あの距離で」
 ほんのわずかに機体を倒しただけで、【ゲイ・ボルグ アサルト】の砲撃をかわす。そのまま急旋回したと思ったら、一気に距離を詰めてきた。
 イーグリットの瞬間最大速度と同じくらいは出ていたのではないだろうか。
『来ますっ!』
 ブルースロートがエネルギーシールドを展開。
 それによって、クルキアータの攻撃からアルファ小隊の機体が守られた。
(あの速度で移動しながら……しかも、なんて命中精度なのよ)
 続けざまに撃たれたのは三発。
 シールドがなければ、その一発一発が、【ゲイ・ボルグ アサルト】、【コームラントカスタム】、【ライネックス】の三機全てに直撃しているほどだった。
 アルファ小隊はその事実に戦慄せざるを得なかった。

* * *


「それにしても、ジャミングはこれで上手くいってるのかしらね?」
 ブルースロート、【フレイヤ】に搭乗している蒼澄 雪香(あおすみ・せつか)は訝しそうに呟いた。
(多分……大丈夫だと思うよ)
 蒼澄 光(あおすみ・ひかり)が精神感応を行う。
(シールドの展開は僕に任せてね……皆を守るから)
 ダークウィスパーにとって幸運だったのは、レプンカムイを通じての味方機、敵機の位置情報連携が行えるということだ。
 これによって、ブルースロートの兵装を使うのに必要な計算式を立てやすくなっていた。もっとも、あまり自覚的ではなかったが。

「うーん……これ、いざとなったら拳にエネルギーシールドをいっぱい重ねてガツーンと殴ってもいいよね?」
 基本的な機能を確認しながら、サラス・エクス・マシーナ(さらす・えくす ましーな)御厨 縁(みくりや・えにし)に言う。
「うそうそ、やらないよ……ホントだよ?」
「そもそも、それが出来るとはまだ限らんのじゃ。部分展開は出来るようじゃが、多層展開は難しそうじゃ」
 一通りの扱い方は頭の中に叩き込んであるものの、簡単にはいかなそうだ。実機になったら、さらに大変だろう。
「確か、さぎりんの乗ってるトニトルスの援護が目的だよね、りょーかい!」
 彼女達の【アルキュオネー】の役割は、ダークウィスパーのイーグリットであるトニトルスの専守防衛だ。
 唯一の前衛攻撃機であるため、敵機からの標的にもなりやすい。
 そしてもう一方の【フレイヤ】で後衛の防御を行うというわけである。
 後衛の機体は、コームラントとレイヴンTYPE―C。小隊長の天王寺 沙耶(てんのうじ・さや)アルマ・オルソン(あるま・おるそん)が乗るDW―C1、【ドラッケン】が全体の指揮及び攻撃面でのカバー、高峯 秋(たかみね・しゅう)エルノ・リンドホルム(えるの・りんどほるむ)が駆るDW―C2、【ジャック】が【トニトルス】の砲撃援護だ。
『こちら、DW―C1。敵機が有効攻撃範囲に入ったよ』
『DW―E1、了解ッス!』

「いよいよだね。なんとか起動は出来たけど、初めてのタイプだからちょっと緊張するね」
 【ジャック】の中で、エルノが声を漏らした。
 最低ラインである10%止まりであるためか、特に不快感というものもない。パイロットによっては、激しい頭痛を伴うこともあるとは聞いていたが。
「大丈夫、ちゃんと俺達、強くなってるよ、エル!」
 不安そうなエルノを勇気づける。
「最初だから慎重にいくけど、不安はないから。小隊のみんなと一緒なら俺達は頑張れる。みんなを守りたいから、俺達は戦える」
 それでも上手くいかないところがあれば、課題を明らかにして克服する。そうやって高めていけばいい。
 F.R.A.G.もそうやって強くなったのだろう。ウクライナで見た彼らは、個々人の力量もさることながら、連携するときはきっちりと連携するといった感じで状況に合わせた戦い方をしていた。
 今は訓練で、しかも仮想空間の中で戦っているが、現実で戦うことにならなければいい、という思いもある。
(だけど俺達は――強くなる!)
 クルキアータの赤い機体を捕捉し、ビーム式の長距離射程スナイパーライフルを放つ。
 それとタイミングを合わせるようにして、【トニトルス】がブースターを全開にして飛び込んでいく。
 だが、敵はそれに反応した。
 秋の狙撃をすんでのところでかわし、その銃口を前衛の【トニトルス】へと向ける。
 【トニトルス】が弾幕を張りながら不規則に飛び回り、敵からの狙いを定めにくくする。とはいえ、相手もさすがにAIとはいえ、F.R.A.G.のパイロットの実力を想定しているだけはある。
 弾を無駄にすることなく、挙動と挙動と間の隙を狙って銃撃を行ってくる。それを、【アルキュオネー】がビームシールドを展開することで防ぐ。
 トニトルス一機の動きに集中している甲斐もあってか、多少不規則な機動を行われてもなんとかシールドを張れるようだ。
 ここからが、本番だ。