リアクション
「ヴェロニカ!」 * * * 「なるほどね。罰の調律者ローゼンクロイツに、プラントにある量子コンピューターS.E.R.A. PASDのデータベースにあるローゼンクロイツの情報は手に入れたわ。その人がループに深く関わっているのは疑いようがないわね。それにプラントにいるナイチンゲールさんにプロテクトを掛けた人ってことは、ニュクスちゃんの秘密も知ってるかもしれないわ」 館下 鈴蘭(たてした・すずらん)は、海京分所から戻ったミルト・グリューブルムからの話を聞いていた。 「人形の女の子と白雪姫の話だと、ニュクスならループを脱するための鍵になりそうなものを知ってるだろうって。それはきっと、何度もループしたニュクスがこの世界で初めて見るものだと思う」 それは、本人に聞いてみるしかないだろう。 「あら、こんなところでどうしたの? そろそろ出撃準備に入る時間よ」 トゥーレの前にいた彼女達に、ニュクス・ナイチンゲール(にゅくす・ないちんげーる)が声を掛けてきた。 「ニュクスちゃん、事後報告になってしまうけど……この前のこと、彼に話したわ」 鈴蘭はループのことをミルトに話し、彼からホワイトスノー博士や罪の調律者にも伝わったことを告げる。 「そんな気にしなくていいわよ。口止めしたわけでもないんだから」 「ごめんなさい。だけど、私だけじゃきっとループを回避するための力にはなれない。この学院の、共に戦ってきたみんなの力が、未来への意志があれば……」 きっと変えられる。 「……ありがとう」 ニュクスがそう言って、わずかに目を潤ませた。 これまでもきっと話したことはあるはずだ。しかし真に受けた人はいなかった。だから、いつしか彼女はその事実を話すのを止めてしまったのだろう。 それが、今度ばかりは違う。 「ねえ、ニュクスちゃん。これまでの世界になくて、この世界で初めて見たものって何かある?」 前に、『わたしが知る極めて稀なイレギュラーが次々と起こっている』と彼女は告げた。ならば、そのイレギュラーは何かを引き起こすためにあったのではないか。 「初めて見たもの……完成されたジェファルコンよ。これまでの世界でも、同じように第二世代機は開発されていた。だけど、最終決戦への投入が間に合ったことはなかった」 それに、と続ける。 「『トリニティ・システム』。そんなものは、今まで存在しなかったわ。ジェファルコンの開発が進まなかったのは、当初の設計では十分な出力が得られず、内部機構の見直しが必要になったからよ。ポータラカの技術でようやく出力の底上げが出来たってときに、最後の戦いになっていたわ」 「トリニティ・システムが……分かったわ」 ジェファルコンに搭載されたそれが、おそらく鍵だ。ということは、先日の戦いでは見られなかった何かが、まだジェファルコンにはある。 「それじゃ、あまりヴェロニカを一人にさせるわけにはいかないから、わたしは行くわね」 ニュクスを見送り、鈴蘭はトゥーレに乗り込む。 「さ、私達も行きますわよ」 ペルラ・クローネはミルトを見遣った。 「うん――ループを抜けた先の未来へ。ヴェロニカやニュクスと一緒にね。もちろん……」 「『ノヴァや白雪姫もイワンさんもドクトルも、分所の研究員の人もサクラや聡、翔やアリサ、学校の友達、ペルラも、世界のみんなみんな一緒にだよ!』ですわよね? ミルトの言いそうな事は精神感応を使わなくても分かりますわ」 微笑み、小さなパートナーの肩を叩く。 「見つけましょう、私達に出来る最良の一手が打てるその瞬間を。『ノヴァを取り戻す機会を窺う』ですわね」 ノヴァを、倒すべき敵だとは思わない。 ――誰一人欠けることなくみんなで。 そう決めているのだから。 |
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