リアクション
(シャンバラ、F.R.A.G.共に展開完了) * * * 「……ここは?」 シルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)はプラヴァーのコックピットの中で目を覚ました。 イコンに乗ることを忌避していた彼女だったが、どうやら気絶させられている間に、無理矢理乗せられてしまったらしい。 そういえば、ヴィゼント・ショートホーン(びぜんと・しょーとほーん)に呼び出され、リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)と出撃して欲しいと頼まれた気がする。それと、さりげなくサイコメトリで彼女を調べておくようにとも。 とはいえ、サイコメトリでは物品から情報を読み取ることは可能でも、生きた人間相手では効果を成さない。海京クーデターのときに一度捕まったということだが、そのとき身に付けていた衣服ではなくパイロットスーツであるため、特に読み取れる情報はない。そのときに何かされていないかは、リカインの様子を見ながら判断するしかない。 「フィス姉さん、こんな形でイコンに乗ってもらう形になってしまったけど、協力してくれる?」 そう言ったリカインの気持ちが分からないでもない。 クーデターの際、良かれと思って御神楽 環菜の身代わりを演じたものの、あっけなく見抜かれたばかりでなく、下手をすれば多くの人に迷惑を掛けることになっていたかもしれなかったのだ。クーデターの制圧がスムーズにいったため、それを逃れただけで。 そのため、第二世代機プラヴァーのテストも兼ねて出撃することにした、ということだろう。 それに、今更抵抗したところでどうにもならない。ここは腹を決め、帰還後にこの機体を耐久力調査と称し解体することを励みに戦うとしよう。 高機動パック搭載の【イブリース】だが、いきなり突撃することは避ける。偵察情報によれば、敵のイコンらしき人型兵器は規則的な動きで対処してくるとのことだ。単機で無闇に突っ込めば、囲い込まれてしまう。 同じアルファ小隊のジェファルコン、【セレナイト】と連携して人型兵器の対処を行う。 「それにしても、これだけの加速性能があるのに、最高速度が出せないのはなぜかしらね」 現在、パイロットサポートシステムがオンになっている。イコンの操縦技術が高くない者でもある程度機体を扱えるようにと搭載されたものであるが、このシステムはパイロットの生命の安全を優先するものとなっている。 (でも、その分敵からの攻撃を予測して回避位置を教えてくれるのはありがたいわ) 警告音が鳴った。 敵の胸部からビームキャノンが放たれる。ブースターを吹かせ、【イブリース】が射線上から離脱した。 「当たったら不味いわね。ただ、近づければあれは使えないはず」 リカインがそう判断した。 機動力はこちらの方が上。囲まれないように距離を保ちながら、一機に目標を定めていく。 フェイントを行いながら、一気に距離を詰めた。ワイヤーを放って敵を拘束し、すれ違いざまに斬撃を繰り出した。 そのままワイヤーを巻き取りつつ上昇。人型兵器から離れる。そこに留まっていたら、すぐに他の機体がやってくるからだ。 まるでイコンの存在を自動的に感知して、それに合わせて機械的に連携しているように見受けられた。 しかも、人が乗っているにしては無理のある動きも平然としてくる。おそらく、無人機だろう。偵察時点でAIかもしれないとは言われていたが、二人は実際に相対することで実感した。 『相手はコンピューター制御の無人機よ。単体ではそれほどでもないけど、複数が相手になったら分が悪くなるわ』 【セレナイト】の中で、端守 秋穂(はなもり・あいお)とユメミ・ブラッドストーン(ゆめみ・ぶらっどすとーん)はリカイン達からの報告を受けた。 「敵の存在を感知したら、自動的に攻撃してくる……ですか。他の強敵に向かう皆さんの邪魔はさせません!」 【セレナイト】の横を、ビームキャノンの光が通過していった。 同じ小隊の【イブリース】には銃剣付きビームアサルトライフルこそあるものの、基本的には近接特化である。 そのため、【セレナイト】が最初に構えるのは、長距離射程スナイパーライフルだ。それの引鉄を引き、まだこちらの存在を感知していない無人機へと撃ち込んだ。 おそらく、射線からこちらの位置を予測し、編隊を組んでやってくるだろう。そこが狙い目だ。 「出来ることを、出来る限り……!」 事前に学内でシミュレーターを通して乗ったのみで、まだ実機には慣れていない。だが、この機体にはこれまでかつてのイーグリットとしての【セレナイト】で戦った経験が引き継がれている。 機体に対する不安や迷いなどはない。今の【セレナイト】も、ユメミも信頼している。自分自身も、彼女達に応える。 だから、絶対に――負けられない。 「前方確認。三機編成で来るよー」 レーダーを確認したユメミの声が耳に入った。 「本当に無人機であるなら、『覚醒』による変化に対処し切れないはず。一気に決めよう!」 構えるのは、新式ビームサーベル。 敵を見据え、「覚醒」を行う。そのまま加速し、敵がビームキャノンを放つ前にその砲口に剣を突きたて、そこから薙ぐようにして右側にいた無人機の腰の辺りを切断した。 あまりの速さに何が起こったのか分からなかったのか、空中に静止したままだった最後の一機にサーベルを振り下ろした。 そのとき、断面から機体の中が見えた。やはり、人は乗っていない。 「敵は無人機……ですか」 それが証明された今、生身の相手を殺すかもしれないという可能性は消え去った。 アーラに乗った月舘 冴璃(つきだて・さえり)は、大型ビームキャノンの砲口を無人機へ向けた。 ジェファルコンの前では大した強さではないかもしれないが、こちらが第一世代機であること、さらに数が多いことを考えると、単独で挑める相手ではない。 そのため臨機応変に動いて支援できるように、戦場を観察する。 「正体は分かったけど、今回の敵は未知数。注意していかないとね」 東森 颯希(ひがしもり・さつき)が声を発した。 「こういった戦いは久々です。腕がなまってなければいいのですが」 「一人で戦ってるわけじゃないから焦らなくていいよ。代わりにミスだけはしないようにね!」 「その言葉、姉さんにも言えることじゃないでしょうか?」 「姉さんは……って今は別にいいか。やれー冴璃ー!」 前方には、ライネックスの姿があった。 ビームサーベルを携え、機動力を生かして無人機を引き付けている。 冴璃はシャープシューターで無人機に狙いを定め、トリガーを引いた。砲口から光条が伸び、一直線に向かっていく。 熱源に反応してか、それを敵は避けた。だが、その瞬間に【ライネックス】のワイヤーが腰部に巻きつき、接近したその機体によって剣と一体になっている腕が切断された。 砲撃後、射程距離を維持したまま無人機からわずかに遠ざかる。【アーラ】に狙いを定められないようにするためだ。 一応、近距離、中距離の装備も所持している。しかし、機動力に欠けるコームラントが複数機に囲まれるという状況は、なるべくなら避けたい。 「負けられないんですよ、この戦い……!」 ノヴァのことは、博士から聞いている。その境遇も。 人はやろうと思えばどんな酷いことも出来る。だが、人間はそれだけではない。悪意に染まってない人もいれば、過ちを悔やみ更正しようとする人、今まさにしている人もいる。 そういったこれからの可能性を秘めた者達も「悪」と一緒に洗い流すなど、到底受け入れられるものではない。 「こんな世界でも、まだまだやりたいことはたくさんあるからね」 冴璃に呼応するかのように、颯希が口を開いた。 戦い抜きたい。そして生きてこの戦いの最後を見てみたい。ノヴァにいかなる結末が待ち受けているかは分からない。自分達の「応え」が伝わるかも。 だが、この果てに待ち受けているものは、絶望を打ち破るものであると、そう信じたい。 「要領はこの前と同じだ」 「わ、分かってるわよ! 無人機だし、コンピューターにとっては予想し難いはずよね」 アール・エンディミオン(あーる・えんでぃみおん)の声に、村主 蛇々(すぐり・じゃじゃ)は応じた。 さっきは普通にワイヤーを投擲して引き付けられたが、そう何度も同じことが出来る状況にはならないだろう。 また、F.R.A.G.戦のときと違い、銃剣付きビームアサルトライフルを所持していない。 【ライネックス】が高度を上げ、追随してきた無人機の方に向き直った。 肩部のスラスターを起動し、加速を始める。 一機がビームキャノンの砲口をこちらに向けているが、あえてその真正面へ飛び込んでいった。 タイミングは分かっている。ビームが発射される直前に、近くにいる別の敵機へとワイヤーを投擲した。 それが敵の刃で落とされそうになるが、軌道をずらすことで何とかそれは阻止した。わずかな時間差で二射目が繰り出される。無論、こちらは一直線に向かっていく。 だが、相手の反応もさすがに速い。すぐにそちらの方へと振りかざし、斬り裂いた。 「今よ、アール!」 その瞬間、先に投擲したワイヤーを引き戻した。 その先にある突起が、無人機に引っかかり、そのまま【ライネックス】を回転させる。 「これでどうだ!?」 遠心力によって無人機を振り回し、別の敵によるビームキャノンの盾にする。直撃したことで完全に機能したその機体を引っ張り、ハンマー投げのような感じで無人機へとぶち当てた。 それでも運悪く、一発では完全に機能停止はしなかった。一気に接近し、ビームサーベルを突き立て、止めを刺す。 「ミサイル、来るわよ!」 蛇々が叫ぶ。【マリーエンケーファー?】によるミサイルを全て落とすほどの備えはない。 そのため、レーダーを頼りにアールへと伝え、【ライネックス】を回避行動に移させた。 そこへ、エネルギーシールドが展開される。ブルースロート、【クラースナヤ】によるものだ。 『守りは引き受けますわ』 オリガ・カラーシュニコフ(おりが・からーしゅにこふ)からの通信が入った。ブルースロートのシールド強度はその機体のエネルギーに依拠することになるが、ビームライフルやミサイル程度なら完全に防ぐことが出来る。第一世代機、特に装甲が薄めのイーグリットにとっては非常にありがたい存在だ。 このまま無人機を少しでも減らせればいいが、まだ数は多い。すぐに態勢を整え直し、黒い機影に向き直った。 (今度こそ、護り抜きますわ) オリガは内なる思いを秘め、ブルースロートを駆る。 あの『暴君』のときのような思いはもうしたくない。それに、まだ約束がある。こんなところで終わるわけにはいかない。 「座標計算完了。移動、お願いしますわ」 オリガは常に戦況を見ながら必要な計算を行う。その座標における距離感は、操縦を担っているエカチェリーナ・アレクセーエヴナ(えかちぇりーな・あれくせーえうな)に任せている。 敵の無人機に対して干渉しようとしたが、それは無理だった。どうやらイコンとは原理が異なる、古代の地球の技術で造られたものであるらしい。 「これだけの戦力……そこまでして否定したいのかしらね」 エカチェリーナが静かにこぼした。たとえこの世界がろくでもないものであるとしても、それは数多の人が紡いできた歴史の結果だ。ここもまた、歴史が続いていくのであれば通過点でしかない。 英霊である彼女としては、それを否定されたことが癇に障ったようだ。 「まったく、恋の一つでもしたらいいんじゃないかしら。愛する人との繋がりがあれば、世界を作り直そうだなんてトンチキなことは考えないわよ」 その言葉を聞き、オリガの顔は紅潮した。 「そうですわ。この戦いが終わったら」 「オリガ、そういうのは言葉に出さず、今は心の内にしまっておくものよ」 そうだ、今は目の前のことに集中せねば。 今回は第一世代機も多い。それに乗っている者達が落とされぬよう、常に後方からシールドを展開させ続けていく。 「地上に対してはあまり反応しないみたいね」 コームラントカスタムのコックピットで、コンクリート モモ(こんくりーと・もも)は漏らした。 基本は地上からの砲撃支援だ。無人機は、地上に向かって砲撃が行えないらしい。おそらく、都市に対して攻撃出来ないように設定されているのだろう。 「空にはシャンバラ大陸、海から古代都市。天学上層部は壊滅状態。まさに終末感満載ネ〜」 ハロー ギルティ(はろー・ぎるてぃ)がそんな声を上げていた。 空を見上げれば浮遊大陸の一部があり、その近くで戦闘が繰り広げられている。改めてみれば、不思議な光景なのかもしれない。 「それでも、こんなところで終わらせるわけにはいかないのよ」 低高度を滑空する無人機に狙いを定め、モモは大型ビームキャノンの引鉄を引いた。 「それに、あたしなんとなくわかってきたのよ。機体の性能よりもパイロットの腕の方が重要だってね……」 第一世代だとか第二世代だとか、そんなことは関係ない。ただ、そこに秘められた可能性を引き出せるだけの実力。それがパイロットにとって、最も大切なことだろう。 砲撃後、すぐにビルのような建物の陰に機体を移動させた。敵は都市の構造物に手を出すことが出来ないことが分かっている。遮蔽物を生かせば、遠距離から撃たれる心配はない。 『さあ、行ってくるのよ、ヴェロニカ、ナイチンゲール!』 上空のイコン部隊を抜け、都市中枢へ向かうヴェロニカ達を援護する。 『みんな必ず戻って来るニャ! ここはミー達に任せるニャ〜』 上空を見上げる。 そこでの戦いは、次第に激しさを増していった。 |
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