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聖戦のオラトリオ ~転生~ 最終回 ―Paradise Lost―

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聖戦のオラトリオ ~転生~ 最終回 ―Paradise Lost―
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リアクション


第四曲 〜ノアの系譜〜


「おそらく彼らはこの『E.D.E.N.』までやって来るでしょう」
「へえ、あんたが直接出向くのにかい?」
 包帯で顔を隠している王城 綾瀬(おうじょう・あやせ)と共にE.D.E.N.の防衛についていたF.R.A.G.第二特務補佐、トリッシュ・ロックスター――こと女装したトライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)は、ローゼンクロイツに尋ねた。
「私達の足止めをしている間に突破する者がいる、ということです。これを渡しておきましょう」
 ローゼンクロイツが一枚のカードを手渡してきた。その横顔には、既にそれを知っているかのような落ち着きがあった。
「あんたらもしかして……誰かに止めてもらいたいのか?」
 特に深い意味があるわけではない。ただ、本当にこの世界の滅亡を求めているのなら、もっと上手い方法があったのでは、と思えてならない。
 いや、彼らの言葉を借りれば「再生」か。どちらにせよ、それを成したいと思うと同時に、自分達を止めて欲しいとも考えているのではないだろうか。現に、最深部にいる総帥は、ジール・ホワイトスノーがここまで来た場合、自分のところまで通すように言っていた。
「結果が明らかになったとき、それは分かるでしょう」
 ただそう言い残し、ローゼンクロイツが契約者達を出迎えに行った。


第一楽章「楽園」


「行くぜ、みんな」
 ミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)は魔銃モービット・エンジェルを両手に構え、ローゼンクロイツへ狙いを定めた。
 これが三度目。以前戦ったときは異質な雰囲気を漂わせている。
 たった一人を護れなかった。
 先ほどの話を聞く限り、ここまで来ている人形の少女がそうらしい。しかし、彼女はローゼンクロイツを止めるでもなく、静観している。この戦いの結末を見届けることで、彼の本当の目的を確かめようとしているかのように。
『フラワシみたいなのはいないのですよ!』
 魔鎧として身に付けているリリウム・ホワイト(りりうむ・ほわいと)が告げた。
 ローゼンクロイツの妙な力は、コンジュラーとしてのものではないようだ。
 アイアス・フィールド。以前は『ギャラハッドの盾』の後に使用していたバリアのようなものだ。
「さて、今度は私も彼女の援護をさせて頂きますよ」
 ローゼンクロイツのカードが杖のようなものを形成していく。
「――アゾーツ・ロッド」
 その先をミューレリアの方に向けた。
「――闇火」
 黒い炎が彼女を包み込む。ヘルファイアに近いものだ。それをフォースフィールドで防ぐが、火は防げても闇――炎に纏わせた影は力場を越えて侵食してきた。
 そのとき、光が生じ影がかき消された。プリム・フラアリー(ぷりむ・ふらありー)が光術を放ったのである。
 さらに幸せの歌を歌っているのが聞こえてきた。これで、影に接触してもある程度なら大丈夫だ。
 それに加えて震える魂により、彼女がいるだけで魔力が高まっていく。
 彼女達に対しても、ローゼンクロイツの杖から放たれた魔法らしき攻撃が到達した。
 影に対しては、関谷 未憂(せきや・みゆう)がバニッシュを、付随属性に対してはリン・リーファ(りん・りーふぁ)が歴戦の防御術で対処している。
「――氷雷」
 電荷を持った氷が足元に広がっていく。
 即座にレビテートで浮遊し、氷からミューレリアに向かって発せられる電流をフォースフィールドを展開したまま防ぎきった。
 今度は彼女達の番だ。
「一発目は……コイツだ!」
 大魔弾『タルタロス』を装填し、ローゼンクロイツに向かって引鉄を引いた。魔弾は不可視の障壁に当たり、その衝撃でそれが破壊された。
「アイアス・フィールドを一発で、ですか」
「あれから私だって強くなったんだ。この程度なんてことないぜ」
 ローゼンクロイツに敗北を喫してから半年以上が経過している。その間も、シャンバラは戦乱の日々が続いていた。そのような中で、何もせずに大人しくしている道理はない。
 障壁が破れる音がミューレリアの耳に入ってきた。
「これで、二重障壁は崩れましたね」
 真口 悠希(まぐち・ゆき)が言い放った。
『来るわよ!』
 悠希の纏っているカレイジャス アフェクシャナト(かれいじゃす・あふぇくしゃなと)が、エンデュアでローゼンクロイツの放った影の術式――今度は闇黒と雷電――を耐え凌いだ。
 直後、闇の中からアスタローシェが抜剣し、悠希に迫る。
 以前の剣士姿ではなく黒スーツであるため、影の中に溶け込みやすく、一度見失うと厄介だ。
 悠希が二本の剣でアスタローシェの剣撃を受け止め、それを弾いた。
 すぐに剣を振りかざし、彼女に向かって振り下ろす。だが、見えない壁に阻まれた。
「アイアス・フィールドが二重だと言った覚えはありませんよ」
 悠希の剣が当たっている場所に、ミューレリアは魔弾の射手による四発の銃撃を浴びせる。
 そこからアスタローシェに照準を合わせるが、一瞬で間合いを詰めてきた。
「相変わらず……速い!」
 銃舞によって至近距離からの斬撃を避けながら、二挺の魔銃を彼女に向けて撃つ。銃舞の動きを維持したまま、その名の通り踊るようにして剣を受け流し、構えが戻る前に引鉄を引いた。
 だが、アスタローシェの反応が異常なまでの速度だった。魔弾が銃口から発射される瞬間にはもう回避行動を取っており、時間差で二発目を与えようとするが、それすらも読んでおり、ミューレリアが銃舞なら、相手はまさに剣舞だ。
「ミューさま!」
 そこに、悠希がチャージブレイクを発動した上で剣を振り下ろしてきた。タイミングを合わせ、ミューレリアも魔弾を放つ。
 しかし、次の瞬間に起こったことは理解し難いものだった。
 悠希の剣の一本を片手で流しながら、刀身部分を跳ねてもう一本の剣に激突させ、もう片方の手が手にしている剣でミューレリアの魔弾の初弾を弾き二弾目に当て相殺する。
 ほんの一瞬の間に、これだけのことが起こったのだ。
「力任せの剣とは酷く御しやすいものです」
 アスタローシェが悠希に視線を向けて呟いた。
「……ほう」
 悠希のマント――カレイジャスがアスタローシェの剣を受け止めた。それがなければ、片方の剣は間違いなく折られていただろう。
「ボク達で……貴女達は止めてみせる!」
 アスタローシェに向かって渾身の一撃を繰り出し、一刀両断しようとした。
 だが、それもまたローゼンクロイツによるシールドで防がれてしまう。そこへさっきと同じように魔弾を撃ち込み、破壊した。
「一体いくつあるんだ……?」
 思わず声を漏らしてしまう。
「アイアス・フィールドは七重防壁です。ですが、もう四つ目まで破るとは……さすがですね」
 二重障壁どころではなかった。
 あと三つ破らなければならないだけでなく、『ギャラハッドの盾』がまだ残されている。その全てを破壊しなければ、おそらく攻撃を当てることは出来ないだろう。
「ゆっきー、アイアスをまとめて吹き飛ばすぜ!」
「はい!」
 大魔弾『コキュートス』を装填。アイアス・フィールドが展開されるであろうアスタローシェに銃口を向け、引鉄を引いた。
 その弾丸を、悠希がチャージブレイクでためた力で一気に押し出す。
「打ち破れぇぇえええええ!!!」
 振り下ろされた剣が床に叩きつけられ、衝撃波が起こった。それだけ重い一撃だったのだ。
 コキュートスの方は三つ目にぶつかったところで炸裂し、最後の障壁を破った。
「お見事です。ですが、もはや限界ではないのでしょうか?」
 その通りだ。
 ミューレリアは魔弾の使用による反動で。悠希はチャージブレイクの発動によって。二人にはあと一回大技を決めるくらいの体力しか残されてはいない。
「確かに、あなた達は以前よりも遥かに強くなられました。ですが、これが差というものです。覚悟の、ですよ」
 ローゼンクロイツが杖を振るうと、影が通路全体に広がっていった。
「終わりにしましょう」
 彼の攻撃――おそらくここで行える最大規模のもの――が、来る前に、悠希がローゼンクロイツに飛び込んでいった。
「何も、終わりません。いえ、終わりになんてさせません!」
 アスタローシェが悠希の斬撃を受け止める。
「……あえて私からも問います。なぜ、この世界のために戦うのですか?」
 微かに口元を緩ませ、ミューレリアは応えた。
「単純なことさ。私がこの世界を、皆を好きだから。これ以上の理由はないだろ?」
 ローゼンクロイツに向かって駆け出し、距離を詰めて魔弾を放つ。
「――ギャラハッドの盾」
 それが展開された瞬間、ミューレリアは非物質化していた切り札――試作型の魔力融合型デバイスの銃タイプを物質化し、握り締めた。以前ジェネシス・ワーズワース絡みの調査で入手したものである。
「ミューさま、今です!」
 悠希がアスタローシェの剣を弾いて飛び退き、奈落の鉄鎖によって足止めを行う。
 ちょうどローゼンクロイツとアスタローシェが重なった。
「地球で、パラミタで……私が今まで経験した全てを! 出会った人々の思いを! この一撃に込める!」
 自分の持てる全てを、デバイスに注ぎ込む。
『ミュー、ボクの魔力も使うのです』
 二人の魂が、今一つになっていく。
「とっておきをくれてやるぜ! パラダイス・ロスト!」
 撃ち出された魔力の奔流は、ギャラハッドの盾を撃ち破り、ローゼンクロイツとアスタローシェの二人を飲み込んだ。
「私の……勝ちだぜ……!」
 彼女の思いが、ローゼンクロイツ達の覚悟に打ち勝ったのだ。
 身体の力が抜けていくのを感じ、ミューレリアは静かに瞼を閉じた。