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インベーダー・フロム・XXX(第1回/全3回)

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インベーダー・フロム・XXX(第1回/全3回)

リアクション


【1】SCHOOL【3】


「まず、君の言う謎空間……”シャドウレイヤー”の事を教えてくれないか?」
 裄人の質問に、少し複雑な表情を浮かべた後、アイリは口を開いた。
「実は私も原理はよくわかっていません」
 被契約者には認識出来ない空間、契約者でも一部を除いては行動が著しく制限される空間とされている。どれほどの大きさまで広がるのかもよくわかっていない。暗殺が行われるケースでは建物とその周辺が、施設の破壊が行われるケースでは施設周辺の数ブロックが異空間に飲まれている推測される。
「ただ、戦いの末に、私達が発見したのは”魔法少女だけが能力減退の理から抜け出せる”と言うことです」
「ひとつ気になるんだが、その……クルセイダーと言う敵は”魔法少女”なのか?」
「ああ、魔法少女だけが自由に行動出来るって事は、そうなるじゃんね」
 裄人の疑問にトゥーカァも同意する。
「たぶん、違うと思います。彼らは何か別の方法で能力減退を防いでいるはずです」
 そもそも、彼らの使っている方法こそ、シャドウレイヤーでの活動を担保する正規の手段だ。魔法少女は、たまたまアイリ達、未来でクルセイダーと戦っている人々が発見したシャドウレイヤーの抜け道に過ぎない。
「なるほど。クルセイダーは高度な技術を持っていると……でも、彼らはどう言う組織なんですか?」
 むむむ……と、マルガレーテは唸った。
「それが、”クルセイダー”に関しては、私もほとんどよくわかっていないんです……」
「ええっ?」
「未来では地球とパラミタが戦争状態にありますが、私の所属する地球陣営に対し、テロ行為を繰り返していたのが彼らクルセイダーです。
 正体も目的も不明。神出鬼没でシャドウレイヤーを展開させ、暗殺や破壊を行う……そしてその痕跡を一切残さない、徹底した工作活動のプロフェッショナル達です。パラミタ側の送り込んだ秘密組織、地球側の反政府組織、またはまったく未知の勢力なのか、あらゆる調査を行いましたがまったくわかりませんでした。
 わかっているのは、彼らは全員、黒のライダースーツに、意匠の凝ったフルフェイスのマスクをしていること。あらゆる武器に精通し、特殊な格闘術で素手でも恐ろしく戦闘能力が高いこと。そして、そのクルセイダーと言う名前です」
「その名前はどうしてわかったの?」
 鈴蘭は尋ねた。
「奇跡的に一度だけ通信を傍受した時に、彼らが自分達をそう呼んでいたんです」
「そっか……。ちなみに、クルセイダーの首領はどんな人物なの?」
「クルセイダーに序列があるのかはよくわかりません。全員、同じ格好をしていますし……」
 ところでさ、とトゥーカァは話を遮った。
「……ずっと気になってたんだけど、さっき夏休みは来ないかもって言ってたじゃん。あれ、どういう事?」
「な、なんだかよくわからないけど、不吉な言葉だね……」
「世界の終わり。破滅の時。あなたには聞こえないのかしら。終末時計が秒針を刻むあの音が」
「や、やめなよ、そう言うこと言うの!」
 淡雪の厨二発言に、沙霧はぶるぶると身を震わせた。
「……ここだけの話にしてくださいね」
 アイリは硬い声で言った。
「私のいた未来では2022年の夏に、原因不明の事故で海京が”崩壊”しているんです
「え……?」
「海京大崩壊による死者は四万人以上にのぼります。イコン関連施設やその他研究施設、そして天沼矛、様々なものが崩壊によって太平洋に消えてしまいました。この一件は各方面に波紋呼び、様々な憶測と陰謀説がはびこりました。地球とパラミタの間に軋轢が生まれる一因になった事件なんです」
「戦争の火種か……」
 裄人は表情を曇らせた。
「これは私の憶測ですが、海京大崩壊とクルセイダーは繋がっている気がするんです」
「なに?」
「この時代に来るまで気付かなかったのですが、近頃、海京を騒がせている事件はクルセイダーの手口でした。この時代にクルセイダーが来ている……そう考えると、海京大崩壊の原因が不明だった事がとても腑に落ちるんですよ」
「そうか。痕跡を残さない事に長けた組織だものね……」
 鈴蘭の言葉に、一同は頷いた。
「当時の記録にも、海京大崩壊の二ヶ月ほど前から謎の殺人・破壊事件が相次いでいるとあります」
「と言う事は、海京が沈没するのは……」
 沙霧はゴクリと息を飲む。
「近日中と言うことになりますね」

「……海京大崩壊か。まさか、とは思うけど、これが事実なら大変な事になる……」
「ですが、こんな荒唐無稽な話、プリントにしたところで、どれだけの生徒が信じてくれるか……」
 アイリ達と別れ、裄人とサイファスは生徒会室へ向かっていた。
「この問題はオレで処理するには大き過ぎる。下手に騒いでも混乱を招くのが関の山だ」
「会長の判断を仰いだ方が賢明なんですけど、うーん、会長はアイリさんを信用していないみたいですしねぇ……」
「その辺りは彼女たち”同好会”の活動に期待しよう」
 裄人はレオナルドから預かった同好会申請書に目を落とした。結成に必要な人数は揃っている。
「プリントにはシャドウレイヤーの件だけ、掲載することにする。どれほどの生徒が信じてくれるかわからないが、注意とその対策を知らせておく事は無駄じゃない。それに、この契約書は本物だからな、少しは信憑性も上がるだろう」
「プリントにはこれで魔法少女とマスコットになった姿を載せましょう」
 そう言うなり、サイファスは魔法少女に変身した。ピカピカに光るコスチュームは、中性的な彼によく似合っている。
「……男にこう言うのもどうかと思うけど、似合うな」
「あ、今気が付きましたけど、この姿なら女性だと思って敵も油断するかもしれないですね、ウフフ……♪」
「……じゃあ、オレはマスコットだな」
 イコンの愛機の愛称”ケルベロス”にちなんで、裄人はフカフカの犬の着ぐるみに変身。
「わーい、わんこだわんこー」
 自分を抱き上げるサイファスをジロリと睨む。
「こっちは真面目にやってるんだからさ」
「ふふふ、ごめんなさい。とんでもない話を聞かされた後ですけど、こういうのも悪くないですね」
 サイファスは裄人を抱えたまま、携帯のカメラでパシャパシャと自分撮り。
「と、撮り過ぎじゃないか。プリントに使うのは2、3枚もあれば足りるだろ」
「記念ですよ、記念。ああ、そうだ。この写真を地球のご両親と妹さんに送りましょうよ」
「そ、それだけはやめてくれ」
「別にいいじゃないですか。あなたが怪我したのをとても心配なさっていたんですから、これくらいするべきです」
「う、うーん……」