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星影さやかな夜に 第一回

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星影さやかな夜に 第一回
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リアクション

 十四章 鈴蘭の花と共に

 ささやかな月の明かりを浴びて輝く鈴蘭の花。
 夜になり、遊歩道から観光客も減ったこの場所の近くで、激しい戦闘が行われていた。

「ふはッ! ふはははははははッ!
 足りねぇ、足りねぇ! そんなもんかよ、雑魚共!!」

 ベリタスは傷ついた身体と数時間に渡る先頭で疲弊した体力を気にする素振りもなく、契約者達との戦いを繰り広げていた。

(クソッ、なんだよあの体力バカは。いつになったら動きが鈍んだよ!)

 内心でそう不平を洩らしているのはウォーレン・シュトロン(うぉーれん・しゅとろん)だ。
 自分と同じく他の契約者達も傷つき、疲れている。限界も近いかもしれない。

(ああ、もうッ! 人食い勇者にその最後の言葉。
 それに昨日俺らとすれ違ったあの金髪の怖い女のこととか。情報を集めたかったのに、これじゃあ集めれやしねぇ!)

「おいおい、なんだァ! 考え事かァ? 余裕だなぁ、オイ!!」

 ベリタスはウォーレンに向かって拳を構え、突撃。
 一瞬、反応の遅れたウォーレンには致命的な隙が生じて――。

「わしを無視しないでもらおうか」

 二人の間にルファン・グルーガ(るふぁん・ぐるーが)が身を割り込む。

「ハッ、お仲間の盾にってかァ!? 殊勝だなァ、オイ!」

 ベリタスは大きく一歩踏み出し、<黒縄地獄>の一撃を繰り出す。
 狙いは心臓。放たれた拳は音を置き去りにして、ルファンの胸へ一直線。

「死ぬ気はないぞ。わしはな」

 ルファンは<金城湯池>の構えで、素早く反応。
 迫り来る拳を両手でいなし、力の進行方向を変える。相手の力を利用した柔の拳だ。
 そして、ベリタスの懐に潜り込み、《三節棍》を振るう。棍はベリタスの顎に命中し、顔を跳ね上げた。

「ッ! おまえ……」

 ベリタスは反対の拳を、ルファンに振り下ろそうとする。が。

「おいおい、俺様も無視してんじゃねぇぞ! ゲヘナフレイム!!」

 阿吽の呼吸で、ギャドル・アベロン(ぎゃどる・あべろん)が走りこんだ勢いを殺さず正拳突きを放つ。
 ベリタスのがら空きの胸に直撃した拳は、メシメシと肋骨にヒビを入れた。強靭な肉体が為せる剛の拳だ。

「ッ、ハッ……おまえら絶対殺してやんよ」

 ベリタスはたまらず後退し、三人を睨んだ。
 ギャドルはその言葉を聞いて、好戦的な笑みを零した。

「殺すってんなら、いいからやれよ。言葉じゃなくて実行に移しやがれ!」
「ハッ、吼えてんじゃねぇぞ雑魚が!!」

 二人は共に踏み出し、激突した。
 ベリタスは<七曜拳>による荒々しい連撃を。
 ギャドルは<等活地獄>による猛々しい連撃を。

「オラオラオラオラオラオラオラァ!!」
「うらぁぁぁぁあああああああああ!!」

 二人の拳が、蹴りが、衝突する度に空気が震える。
 その至近距離での殴りあいを見ながら、ルファンはウォーレンに言った。

「これから少しわしは無茶をする。サポートを頼むぞ」
「……いつものことじゃねぇか。どーんと任せとけ」

 ウォーレンはタフな笑みを称えて、思った。

(後のことはやるだけやっちまってから考えよう。今は――)

 ウォーレンは息を吐き、《獣槍レヴァ・クロディル》を手に吼えた。

「あいつを倒すのが優先だ!」

 ――――――――――

「<ワルプルギスの夜>!」

 エリシアの魔法陣から闇黒の炎が飛び出す。狙いはもちろんベリタスだ。

「あ゛ぁ!? 魔法なんぞ使ってんじゃねぇ!!」

 ベリタスは腰を深く落とし、思い切り拳を振りぬいた。
 音速を超えた拳圧は風を生み出し、迫り来る闇黒の炎をかき消した。

「今なら――!」

 エリス・クロフォード(えりす・くろふぉーど)は好機とみて、駆ける。
 エリスは《薔薇の細剣》を鞘から抜き出す。血濡れたことによって薔薇のような鮮やかな色の刀身は、月の明かりを浴びて妖艶に輝いた。

「はぁぁあああ!!」

 裂帛の気合と共に放たれた一閃は、しかし<不壊不動>によって腕でガードされた。

「へぇ、初めて見た色の剣だな」
「これは私に剣を教えてくれた人から受け継いだ大切なものなの……よ!」

 エリスは呼気を爆発させると、後方に跳躍。
 すかさず、ベリタスは追撃をかけようとするが、それはエヴァ・ヴォルテール(えう゛ぁ・う゛ぉるてーる)の弾幕によって中断させられる。

「ッハ、うぜぇうぜぇ。
 これだから嫌なんだよ、大人数と戦うのは」

 ベリタスはそう吐き捨てると、飛来する弾幕から身を守る。
 防御に徹した、そう考えたエリスは<剣の舞>で四本の剣を生み出し、ベリタスに向けて飛翔。

「ッ、ハ……ッ!」

 ベリタスは四本の剣で身体を切り裂かれる。
 エリスは続けて、<ソードプレイ>の剣技で<ランスバレスト>の強力な突きを繰り出した。

「これで終わりよ!」

 細剣はベリタスの腹部を貫く。しかし。

「つぅかまえたァ」

 ベリタスは自分を貫く刃を掴み、ニヤリと邪悪な笑みを浮かべた。

「あのバカ……!」

 エヴァは《アクセルギア》を全開にして、エリスを突き飛ばす。
 刹那、振り下ろされた拳がエヴァを襲う。

「……ん、くぅ!」

 エヴァは《覚醒型結界》を瞬時に展開し、これをどうにか防御。
 しかし、反対の腕により放たれた一撃で、結界は崩壊。

「ちまちまちまちまめんどくせぇなァ。けど、これで本当にお終いだァ!」

 ベリタスは両手を組み、ハンマーのようにして振り下ろす。
 エヴァは避けられない、と思い目を瞑った。が。

「――悪い、待たせたな」

 聞き覚えのある声が耳元でした。と、同時に金属の鈍い音が響く。
 エヴァは目を開ける。そこに立っていたのはベリタスの攻撃を《シュバルアイゼン》で受け止めた桐ヶ谷 煉(きりがや・れん)だった。

「煉!」
「あとは、任せろ」

 煉は背中越しにそう言って、大剣を振るった。
 研ぎ澄まされた一閃が、ベリタスを襲う。ベリタスはこれを<不壊不動>で力づくで掴んだ。
 至近距離で両者が睨みあう。

「あんたの噂は色々聞いている。
 好き勝手してきたからには相応の覚悟は出来てるな?」
「ハッ、なんだァ? 遅れてやってきたヒーロー様ってかァ? 舐めてんじゃねぇぞ雑魚が!!」

 ベリタスは吼えると、<雷霆の拳>で貫手を放つ。
 《流星のアンクレット》で加速した煉はそれを避け、距離を開けた。
 と、同時。

「なに二人だけの世界に浸ってんだ!
 俺様を忘れてんじゃねぇぞ、ゴルァ!」
「ふむ……ここら辺で終わりにするぞ」

 ギャドルとルファンが正面から突撃を開始。
 走り寄ってくる二人を<七曜拳>で撃退しようとした、が。

「ッ!? 腕が……!?」
「少しぐらい黙っていなさい。そちらのほうが可愛いげがありますわよ?」

 エリシアが《ウゲンの鎖》を使い、ベリタスの両腕を拘束する。
 ベリタスは光の翼を羽ばたかせ、空へと逃げようとした。

(チッ、気にくわねぇが、逃げるしか……!)

「考え事とは余裕だな、おい」
「――! お、まえ……ッ!」

 すかさず、ウォーレンが<タービュランス>を発動。
 生み出した乱気流によりベリタスを墜落させた。
 瞬間。

「はぁぁああ……!」
「うらぁぁああああああああ!!」

 ルファンとギャドルによる柔と剛の拳がベリタスに叩き込まれる。
 ルファンの拳は内部を、ギャドルの拳は外部を、痛めつけた。

「がはぁ……げぇ……!」

 ベリタスがあまりの痛みに動きが緩慢になった。
 その隙を逃がさず、煉が<アンボーン・テクニック>の身体強化により、一瞬で間合いを詰める。

「俺のパートナー達を痛めつけてくれたんだ。……覚悟は出来ているな?」

 <ヒロイックアサルト>による稲妻の如き『雲耀之太刀』。
 その一閃を<サイコキネシス>により更に加速させた奥義、『真・雲耀之太刀』を放つ。
 煉の稲妻を超えた速度の刃は、ベリタスの伸ばした右腕を根元から断ち切った。

「クソッ……こんな、こと、が……!」

 ベリタスは左手で右肩を押さえ、地面に両膝をついた。
 煉が大剣についた血を払い、冷たい声でベリタスに言い放つ。

「お前の負けだ。知っていることを全部話せ」
「……ハッ!」

 ベリタスは大量出血により血の気を失い、青ざめた顔で煉を睨む。

「知ってる、こと、なんざ、なにも、ねぇよ。
 あったとしても、おまえら、なんかに、は教え、ねぇ」
「……殺されたいのか?」
「殺せ、よ」

 ベリタスは震える唇で言葉を紡ぐ。

「ゲスには、ゲスなり、の、プライドが、あるん、でな。
 ……覚えと、けよ、偽善者。理由や、言い訳を、いくら、並べよう、が、これで、俺と、同じ、殺人鬼、だ」

 ベリタスはそう言うと、前のめりに倒れる。
 煉はそれを赤く変色した瞳で見下ろしながら、呟いた。

「……因果応報ってやつだ、お前も苦しみながら死んでいけ」