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海に潜むは亡国の艦 ~大界征くは幻の艦~(第1回/全3回)

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海に潜むは亡国の艦 ~大界征くは幻の艦~(第1回/全3回)
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「やっと追いついたようね」
 アイランド・イーリの甲板の上に立つシャーウッドDの中から、近づいてくる艦隊を見てリネン・エルフト(りねん・えるふと)がつぶやいた。
 シャーウッドDは、ウォーストライダーをベースとした小型機だ。ちょうど、パワードスーツとイコンの中間ほどの大きさである。淡い緑色の機体は、背部に飛行ユニットを装備し、小回りの利く作業用機体となっている。
 そのシャーウッドDが立つアイランド・イーリはシャーウッド空賊団の本拠地としても機能している大型飛空艇だ。空賊団の小型飛空艇の離発着用に広く平らな飛行甲板を持ち、艦橋上部のビームシールド発生装置で広く甲板をカバーできるようになっている。
「こちら、シャーウッド空賊団所属、アイランド・イーリです。貴艦隊への合流を望みます」
 アイランド・イーリ艦長であるユーベル・キャリバーン(ゆーべる・きゃりばーん)が、フリングホルニに連絡を入れた。
 そのまま、フリングホルニのやや前方につける。
「小型機は、こちらで補給整備を引き受けるよ。遠慮なく、こっちに回してよね」
 ヘイリー・ウェイク(へいりー・うぇいく)が、ちょっと馴れ馴れしくフリングホルニに呼びかけた。
 
    ★    ★    ★
 
 ほぼ揃った艦隊上空に、巨大な爆撃機が現れた。夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)ホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)が乗る、応龍タイプのバロウズだ。ベースの応龍は、デルタ型の全翼機タイプから翼を折って人型に変形するが、バロウズ・Fは、手足に当たる部分を前にのばした形で飛行型を取っており、補助翼とともにV字型に近いフォルムをしている。
「こちら、教導団所属機バロウズ。フリングホルニ、応答されたし。貴艦隊への合流を請う」
 夜刀神甚五郎が、フリングホルニに通信を入れた。
『こちら、フリングホルニ。参加を歓迎する。本艦隊は、これより偵察機を発進した後に、敵艦にむけて移動を開始する。それまで、上空で待機されたし』
 フリングホルニから、リカイン・フェルマータの声が返ってくる。
「さすがに、バロウズでは、上空待機か」
「バロウズ、でっかいですものねー」
 仕方ないという顔の夜刀神甚五郎に、ホリイ・パワーズが言った。
 フリングホルニは応龍でも着艦可能なサイズを有してはいるが、さすがに滑走路二つを埋めてしまうことにはなる。それでは他のイコンの運用に支障をきたすので、バロウズ・Fは上空待機ということになった。
 
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「伊勢より入電。伏兵に注意されたし。哨戒機の発進を要請する。以上です」
 リカイン・フェルマータが、伊勢から入った葛城吹雪の進言をエステル・シャンフロウに報告した。
「了解したと返信を」
 エステル・シャンフロウがリカイン・フェルマータに命じる。
「実際、逆賊が、別勢力と接触している可能性は高いですからね。あの黒い鳥のこともありますし。まあ、これだけの戦力が揃ったのなら、鼠はすべていぶり出して根絶するのがよろしいでしょう」
 デュランドール・ロンバスが、戦闘を待ち望むように言った。実際、ソルビトール・シャンフロウの反乱のときは、エステル・シャンフロウを連れて脱出するのが精一杯で、その後の戦いには参加できなかったという悔しさもある。反乱者の一味でないと証明するために、迂闊には動けず、エステル・シャンフロウのそばを離れることができなかったのだ。
「偵察隊発進。ファスキナートルはスキッドブラッドの予測進路へ。フィーニクス・ストライカーは別働隊捜索に、マルコキアスはその掩護につけ。ブラックバードは、ハブとして各機の通信中継を」
 グレン・ドミトリーが第一陣のイコン発進を指示した。
「前方、HMS・テメレーアに伝達。ただいまより、本艦から先行偵察隊が発進する。上昇し仰角を取るが、貴艦は艦載機の妨害にならぬように、進路をあけられたし」
 
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「発進だ、イコンをリフトへ移動させろ。フィーニクス三機、スフィーダ一機、順次発進する」
 フリングホルニのイコンデッキでは、天城一輝があわただしく指示を飛ばしていた。
「そっちは、頼みましたわ」
 すでにフィーニクス・ストライカー/Fの載った右のリフトを上昇させながら、ローザ・セントレスが天城一輝に言った。
「ジヴァ、発進したら、源さんのマルコキアスと足並みを揃えるわよ」
 フィーニクス・ストライカー/Fのコックピットで、イーリャ・アカーシがジヴァ・アカーシに言った。
 リフトが止まり、イコン発着庫のシャッターが開いていく。
『フィールドカタパルト展開。発進機、フローティング開始してください』
 発進庫横の官制室から、オペレーターが発進指示を出した。
 フリングホルニの滑走路に、光のリングがいくつもならんで発生する。機晶エネルギーによる力場を視覚的に分かりやすくした物だ。
 フィーニクス・ストライカー/Fが離床する。
「出力良好」
『進路クリア。発進どうぞ』
「フィーニクス・ストライカー/F、発進!」
 リング状のチューブが、その光を強めた。その光に照らし出されたオレンジ色の機体が加速されていった。急激に押し出される感覚と共に、ジヴァ・アカーシがメインスラスターを全開にした。一瞬にして、白い滑走路が眼下を通りすぎる。
『続いて、二番機、発進』
 オペレーターの指示で、真紅の同型機であるマルコキアスが左の滑走路から飛びたった。
 フリングホルニが仰角を取っているため、そのままの進路で上空へと達する。
「編隊を組みます。先行どうぞー」
 ティー・ティーが、フィーニクス・ストライカー/Fにむけて伝えた。なんだか少し楽しそうに頭を振る度に、そこにつけられたウサミミがひょこひょことゆれる。
「ええい、うっとうしい!」
 目の前でひょこひょこされて、思わずサブパイロット席の源鉄心がウサミミを掴んで引っぱった。
「ひゃん!」
 思わず、ティー・ティーが身をすくめた。マルコキアスの機体が一瞬平衡を失う。
『どうかした?』
 いきなりバランスを崩したマルコキアスを見て、ジヴァ・アカーシが心配して訊ねてきた。
「大丈夫ですー」
 あわてて、ティー・ティーが答えた。
 あらためてフィーニクス・ストライカー/Fが先行し、護衛のマルコキアスが後ろについてエレメントを構成した。
 二機を追うようにして、佐野和輝のブラックバードが高高度に位置した。
「アニス、統合戦術情報伝達システム展開」
『――りょーかい、和輝。バッチリ、全部見えるよー』
 佐野和輝に言われて、アニス・パラスのアバターが、せわしなくコックピット内を飛び回りながら言った。本人は、佐野和輝の後ろのサブパイロット席でブレスノウのシステムを管理している。
「HMS・テメレーアの艦載機を確認次第、ネットワーク構成。分かるな」
『――もっちろーん』
 アニス・パラスが、元気よく答えた。
 彼らとは別の方向に、ファスキナートルがむかう。こちらは、スキッドブラッドの索敵のためにアトラスの傷跡の方向へとむかった。