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海に潜むは亡国の艦 ~大界征くは幻の艦~(第1回/全3回)

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海に潜むは亡国の艦 ~大界征くは幻の艦~(第1回/全3回)
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「まあ、ラミナ・クロス団長の言いつけだ、しっかりと見極めさせてもらおうか」
 恐竜騎士団団長のラミナ・クロスの命を受けて、恐竜要塞グリムロックを運んできたジャジラッド・ボゴルがつぶやいた。
 恐竜要塞グリムロックは、外壁の支柱などに恐竜の骨などを使っている特徴的な外観をしている。
 艦隊合流を宣言すると、恐竜要塞グリムロックは艦隊から少し離れた後方に位置した。
「あの艦の指令官を疑っていますの?」
 サルガタナス・ドルドフェリオン(さるがたなす・どるどふぇりおん)が、ジャジラッド・ボゴルに訊ねた。
「あたりまえだろう。だからこそ、見極めの命令が出ているのだ。逆賊を追う身とは言え、その逆賊の出た一族の者なのだろう? 本国も、信用していないからこそ、わずか一艦で逆賊の首を持ってこいと言ったわけだ。それに、あの艦を渡したのは、第三竜騎士団のアーグラだってえじゃないか。裏があれば……それはそれで楽しめそうだ」
 果たして、そこまでの陰謀劇が張り巡らされているのかは疑問だが、もしそうであればそれはそれで確かに面白いとサルガタナス・ドルドフェリオンは思った。どちらにしろ、本国から見れば恐竜騎士団ははぐれ者だ。シャンバラにのうのうと駐留して時を過ごすよりは、嵐の中に巻き込まれた方がはるかに面白い。
「楽しそうだな、二人共」
 ペガサスのイカロスと一緒に恐竜要塞グリムロックに乗せてもらった如月 和馬(きさらぎ・かずま)が、通信席でデータを受け取りながら言った。艦隊合流の連絡と共に、必要なデータがフリングホルニから送られてきている。スキッドブラッドの艦内図や、予想進路などだ。
「楽しまなくて、なんとするよ」
 言わずもがなだと、ジャジラッド・ボゴルが答えた。
「じゃあ、楽しみをおすそ分けと行くかあ」
 如月和馬が、送られてきたデータを、別行動を取っている猫井 又吉(ねこい・またきち)に送っていった。
 
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「おっと、来たぜ、来たぜ、来たぜ。これで勝つる!」
 パワードスーツ隊輸送車両を運転してアトラスの傷跡を目指していた猫井又吉が、如月和馬から送られてきたデータを各パワードスーツにセットしながら叫んだ。
 
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「こちら、E.L.A.E.N.A.I.です。着艦許可願います。なお、続いて、シグルドリーヴァが合流予定」
 着艦許可を得て、E.L.A.E.N.A.I.がフリングホルニに着艦した。
 その言葉どおりに、シグルドリーヴァが現れる。サツキ・シャルフリヒター(さつき・しゃるふりひたー)が乗るシュヴァルツガイストがまだ現れないため、今合流する艦船としてはシグルドリーヴァが最後になるようだ。
 シグルドリーヴァが速度を落としたので、アルティア・シールアムとイグナ・スプリントが箒に乗ってフリングホルニに移乗してきた。
「こちらイルミンスール魔法学校、ミスティルテイン騎士団所属、哨戒艇シグルドリーヴァ、副長風森望です。現在不審船を追跡任務中。そちらの所属と姓名を確認させていただきたい」
 風森望が、フリングホルニに通信を入れた。
「こちらは、エリュシオン帝国所属フリングホルニ。現在、反逆者の乗る艦を追撃中です」
 リカイン・フェルマータが応答する。状況に関する短いやりとりが何度かあったが、艦隊編成以外に真新しい情報はなかった。むしろ、シグルドリーヴァの掴んだ敵艦の予想進路が最新データと言える。もっともつ、それさえもすでにやりとりされた後の情報ではあるが。
「事情は判りました。ですが、職務上、不審船の関係者である貴女方も監視対象に入れざるを得ません」
 風森望の応答に、グレン・ドミトリーが顔を顰めた。
「本艦は、シャンバラ政府の許可を得て入国し、作戦行動を行っている。不要な監視は失礼であろう」
 グレン・ドミトリーが、きっぱりと風森望に言い返した。もともと国境を越える前にシャンバラ政府の許可はとってあるし、蒼空学園から各学校へは連絡が行っているはずである。正規の所属艦というのであれば、連絡不徹底もはなはだしい。帝国騎士団であれは懲戒ものだ。
「しかし、あなたがあの不審船と共謀している、という可能性もありますわよね? 潔白をうたうのであれば、監視ぐらい構いませんでしょう?」
 ノート・シュヴェルトライテが、グレン・ドミトリーに返答した。
 もともとは、傭兵として帝国の艦船の下に就くことをノート・シュヴェルトライテが面子的によしとはしなかったことが原因だ。心情的には、立場ある領主としてのエステル・シャンフロウの苦労を思い、協力はしたいという思いはある。協力はしたいが下には就きたくない。その矛盾を、ノート・シュヴェルトライテがうまくコントロールできていなかった。その解決方法として、監視するという名目で艦隊に合流しようと思いついたのである。
 だが、さすがにこれはエステル・シャンフロウの側近たちの怒りを買った。協力してくれるのはいいが、この物言いはエステル・シャンフロウの面子を潰すものだ。
「それで、あなた方の身の潔白は、誰が保証するのですか?」
 グレン・ドミトリーが、強い調子で風森望に聞き返した。
「こちらは、ミスティルテイン騎士団所属だと……」
「その言葉の方が、こちらの言葉よりも重いと? その言葉が保証されて、こちらの言葉が保証されないと?」
 重ねて、グレン・ドミトリーが訊ねた。強大なエリュシオン帝国としては、それがどうしたということになる。
「もういい、沈めてしまえ。時間の無駄だ」
 あっさりと、デュランドール・ロンバスが言った。わざと、相手にも聞こえるように言う。
「それはまずいでしょう。国際問題にするつもりですか」
 あわててエステル・シャンフロウがデュランドール・ロンバスを制した。
「あの、あれは確かにイルミンスールの艦なんですが……」
 小声で、リカイン・フェルマータが告げた。
「そんなことは端から承知です。ですが、頭ごなしにこちらを否定するように無礼なまねは、全体の士気にかかわります。事実、成り行きを見ている者もいますからね」
 言外に、恐竜要塞グリムロックを示唆しながらグレン・ドミトリーが小声で答えた。ここで下手に出れば、恐竜騎士団を通じて帝国にどう報告されるか分かったものではない。
「よろしいでしょう。同行は認めますが、監視はこちらの方があなた方へつけさせてもらいます。――ウインダム、ハーポ・マルクス、前方シグルドリーヴァの上方と側面を監視するように。HMS・テメレーア、伊勢、土佐に伝達。各副砲の照準合わせ。命令があった場合、あるいはシグルドリーヴァが敵対行動を取った場合は即座に攻撃せよ!」
 グレン・ドミトリーが、きっぱりと命令を下した。エステル・シャンフロウが、静かにそれにうなずく。
「ええと、攻撃してもよろしいのでございますか」
 HMS・テメレーアの砲手が命令通りに砲塔をシグルドリーヴァにむけるのを見て、常闇夜月がちょっと心配そうにホレーショ・ネルソンの方を見た。
「レディを疑う子にはお仕置きが必要かな。自分が従うと決めた司令官の命令は絶対だ。しかも早きを持って尊きとする」
 本気じゃないさと見抜きつつ、しっかりとシグルドリーヴァを一撃で粉砕できるように照準を合わせるホレーショ・ネルソンであった。
「まずいわね。本気で怒らせてしまったようよ」
 ロックオン警報が鳴り響くシグルドリーヴァのブリッジで、風森望がノート・シュヴェルトライテに言った。
「まあ、大丈夫よ。こちらに敵対する意志はないんだから、このまま意地を通しましょ」
 警報スイッチを切って静かにさせると、涼しい顔で風森望が答えた。