波羅蜜多実業高等学校へ

葦原明倫館

校長室

空京大学へ

海に潜むは亡国の艦 ~大界征くは幻の艦~(第1回/全3回)

リアクション公開中!

海に潜むは亡国の艦 ~大界征くは幻の艦~(第1回/全3回)
海に潜むは亡国の艦 ~大界征くは幻の艦~(第1回/全3回) 海に潜むは亡国の艦 ~大界征くは幻の艦~(第1回/全3回)

リアクション

 
「現在分かっているのは、空母スキッドブラッドを旗艦とし、随伴艦を何隻か伴っていると言うことだ。目撃されたのはスキッドブラッドのみだが、敵は遮蔽装置によるステルス機能を有している。これは、本艦にはない機能だ。ゆえに、大幅な改造が行われている可能性がある。当然、随伴艦もステルス機能は有していると思われるため、敵戦力は不明だ。先ほど提案があったように、偵察機による敵艦隊の発見が重要となるだろう。また、敵艦載機は、飛行ユニットを装備したヴァラヌス・フライヤーが主力と考えられているが、黒いフィーニクスも確認されている」
「フィーニクスが? なんで!?」
 イーリャ・アカーシが、ちょっと驚いた。フィーニクスは、ティル・ナ・ノーグのハイ・ブラゼル第三世界からもたらされたものだ。それが、なんで帝国にあるのだろうか。
「帝国には、フィーニクスの生産工場は存在しない。これは事実だ。単純に考えれば、この事実だけなら裏にシャンバラの組織が存在すると言うことになる」
 デュランドール・ロンバスの言葉に、ちょっと場がざわめいた。
「デュランドール、言葉は選ばないと。それでは、シャンバラ政府が関与しているかのようではないですか。帝国としては、シャンバラからの技術漏洩によって、帝国内の組織が独自開発したものか、地球、あるいは、それこそニルヴァーナにいる鏖殺寺院が開発したものではないかと疑っています」
 エステル・シャンフロウが、デュランドール・ロンバスの言葉を丁寧に言いなおした。
 フィーニクスは設計図の状態でシャンバラにもたらされたものだが、それにイコンのコアを利用することによって現在の形を獲得し、量産に至っている。それによって、本作戦でもすでに三機のフィーニクスが参加しているように、普及率は悪くはない。それはまた、技術の秘匿の難しさをも物語っていた。なまじ詳細な設計図が存在するがゆえに、それを手に入れられたら生産は可能と言うことになるわけだ。
「いずれにしても、空中戦においては、フィーニクスは強敵となり得る。十分に注意してもらいたい」
 デュランドール・ロンバスの言葉に、反応はそれぞれであった。たかがフィーニクスと考える者、それはヴァラヌスの機動力と比べればと変な同情をする者、何が相手でも関係ないと言う者。結果はじきにパイロットたちに事実として突きつけられるだろう。
「このフリングホルニと敵旗艦が同型艦であるというのなら、詳しい艦内図を提示してもらえないか? 敵艦に突入するつもりだが、中で迷子にはなりたくないからな」
 桐ヶ谷煉が、エステル・シャンフロウに言った。
「艦内警備をするためにも、俺も配置は把握しておきたいな」
 酒杜陽一が、桐ヶ谷煉に同意した。
「それは重要だね。守るにも、攻めるにも、大事な情報だ」
 ブルタ・バルチャが、ちょっと身を乗り出して言った。
「一応、艦内にある案内板と同じ物であれば提示できると思いますが……」
 エステル・シャンフロウに指示されて、ニルス・マイトナーが作戦テーブルを操作して、そこに艦内図を表示させた。主に生活ブロックを中心とした、各ブロックへの経路を説明したものだ。
「さすがに、詳細な艦内図はセキュリティの問題もある。だが、スキッドブラッドの図面はあるので、こちらは詳細な物を提示しよう」
 デュランドール・ロンバスの指示で、今度はフレロビー・マイトナーがスキッドブラッドの図面を表示した。すかさず、ブルタ・バルチャを始めとする何人かがデータを携帯端末にコピーする。
「メカニックとして、一つ提案がある。これを見てほしい」
 天城一輝が言い、ユリウス・プッロが銃型ハンドヘルドコンピュータから、月軌道上でのアルカンシェル戦の記録映像を映し出した。そこでは、アルカンシェル内に入り込んだ敵イコンによる破壊活動が記録されていた。要塞内部からのイコンによる破壊活動は、当時甚大な被害をもたらしている。
「我らは運よく助かったが、単に運がよかったからにすぎない。対イコンの防衛は、早急に必要な物だ」
 映像が終わり、ユリウス・プッロがつけ加える。
「そこで、このフリングホルニに最低限の防御艤装を追加したい」
 天城一輝の提案は以下の物であった。敵の超電磁ネット対策としてフェザースピアを甲板上に林立させて避雷針とし、持ってきた資材でトーチカの設営をするというものであった。
「これは、必要な処置だと思われる。ぜひ許可していただきたい」
 天城一輝が、重ねて許可を求めた。
「それは、どのくらいで設置できるのですか?」
「急げば、数日で」
 エステル・シャンフロウの問いに、ローザ・セントレスが答えた。
「論外だな。数時間後には戦闘開始となる。時間的に到底間にあわん」
 デュランドール・ロンバスが提案を却下した。
「それに、根本的な問題もある。まず避雷針だが、敵の電気ショックによる攻撃を受けた場合、それを空中放電しない限りは、アースによって船体その物に電気が流れることになる。あくまでも、アースとは大地に電流を逃すものだからだ。これでは、意味がないどころか、いたずらに被害を拡大させかねん。おそらくは、側雷を引き起こすだろう。また、トーチカも、本艦の装備から考えると、著しく艦載イコンの機動性を削ぐことになるので意味がない」
「何か、他の防御機構を持っているのですか?」
 山葉加夜が、デュランドール・ロンバスに聞いた。
「本艦の防御システム、これはスキッドブラッドにも装備されている物だが、舷側のバリアブルシールドがある。これは、移動する盾だ。側面からの攻撃には、これを利用することになる。また、本艦固有の機能であるフィールドカタパルトのジェネレーターを利用して、甲板上部にはバリアの展開が可能となっている。基本、これで防御は十分すぎるほどなのだが……」
「ですが、対イコンでは……」
 十分ではないと、天城一輝が言いかけた。
「そもそも、現代戦における機動空母艦隊の運用の認識にずれがあるようだ。基本的に、空母が直接戦うことはない。本来は、敵のアウトレンジから位置を察知されずに、艦載機によって敵を叩く戦術をとる。先の映像の戦艦がどういう作戦行動中であったかはわからんが、敵イコンに発見され、その接近を許した時点で失策のそしりは免れないだろう。空母は艦隊の旗艦を務めるものであり、これに攻撃を受けると言うことは防衛ラインが機能していないと言うことだからだ。それを防ぐための、直掩の護衛機と護衛艦が機能しなければ、空母自体の防衛力を高めようと意味はない。諸君らに求めることは二点のみだ。敵を沈めろ。敵を接近させるな。これは徹底しろ。そのために、諸君らはここにいるのだからな」
 幾分強い調子で、デュランドール・ロンバスが言った。
 現代戦で、空母単艦の運用などは戦術的にありえない。旗艦となる空母を中心とし、周囲に六隻ほどの護衛艦がつくのが基本である。それらも、対艦攻撃に適した巡洋艦、対空攻撃に特化したイージス艦、さらに、補給艦、潜水艦などという構成になる。
 唯一、地球での常識が覆ったのが、イコンに乗り込まれて直接攻撃を受けることだが、本来その時点で沈没は必至である。
 空母の攻撃力は、艦船その物の攻撃力ではない、艦載機の総合的な攻撃力である。そして、防御力は、単艦の物よりも、艦隊としての絶対防衛圏を確保できる能力が重要なのであった。制空権を取った者が、勝者でもあるのだ。
「作戦を指示します。本艦は速やかに合流ポイントへ移動。そこで索敵機を発進させます。敵艦隊の位置、及び伏兵の有無を確認の上、敵旗艦にむけてイコン攻撃部隊を先行させ、制空権の確保。それに呼応して、突撃艦による敵護衛艦の撃破。戦況を見て、予備戦力の投入。敵旗艦の攻略をもって戦闘終了とします。もしも、敵に発見され、攻撃を受けた場合、敵航空部隊の殲滅。制空権を維持しつつ、旗艦隊を前進、一気に艦隊決戦に持ち込みます」
「腕がなりますわ」
 やる気満々のエリシア・ボックが、ちょっと顔を上気させる。
「そう、予定通りに行くかどうか」
 イレギュラーはつきものだと、レン・オズワルドが言った。
「予期せぬ状況でこそ、あなた方が頼りです。今の私がすぐにさしあげられる物は信頼だけです。ですから、どうかそれに応えてください」
 そう言って、エステル・シャンフロウがニッコリと微笑んだ。
「以上だ。各自持ち場につけ。これより状況を開始する」
 デュランドール・ロンバスが、全員にむかって言い渡した。
 
    ★    ★    ★
 
 ほとんどの者がイコンデッキで自機の発進準備に追われる中、パイロット以外の者たちもあわただしくフリングホルニの艦内に散っていった。
 エステル・シャンフロウは第一艦橋の艦長席に座り、本来の艦長であるグレン・ドミトリーが副官としてその横についた。エステル・シャンフロウは、指令官の立場であるが、それを強調するためにわざと艦長席に座っている。
 デュランドール・ロンバスは戦闘指揮官として艦橋で待機しつつ、ヤクート・ヴァラヌス・ストライカーの発進準備をイコンデッキに命じていた。攻撃開始となったら、イコン部隊の指揮官として出る予定だ。フレロビー・マイトナーとニルス・マイトナーは、エステル・シャンフロウの護衛、及び、イコンのパイロットとして待機している。
 リカイン・フェルマータは、新たに構築した戦闘リンクシステムを管理するために、オペレーターとして第一艦橋に同席した。
 ブルタ・バルチャは強攻にエステル・シャンフロウの護衛を申し出たが、貴重な戦力であるイコンのパイロットとしてそれは却下され、イコンデッキで待機するように申し渡された。
 酒杜陽一は、艦内警備として、艦内モニターのならんだ警備室に詰めている。同様に、 セフィー・グローリィア、オルフィナ・ランディ、エリザベータ・ブリュメールは、スキッドブラッドでの白兵戦に備えて待機していた。
 天城一輝、ローザ・セントレス、ユリウス・プッロはメカニックとして、イコンデッキに詰めている。
 コレット・パームラズは医療室で待機していた。