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インベーダー・フロム・XXX(第2回/全3回)

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インベーダー・フロム・XXX(第2回/全3回)
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リアクション


【1】 CHURCH【5】


「ヨウコソ、迷える子羊よ。神の前に罪を告白をしてクダサイ」
「罪か、くくく……、わしの顔を見りゃどんな罪を犯してきたかわかるじゃろ?」
 懺悔室に通された清風 青白磁(せいふう・せいびゃくじ)は不敵に笑った。
 ナチュラルボーン顔面893の青白磁だが、返ってきた答えはそっけないものだった。
「わかりマセン」
「へ?」
「懺悔室ではおたがいの顔が見えないようになっていマス。目の前に壁があるデショウ?」
「な、なにィー!? こいつはマジックミラー的な壁じゃなかったんかぃ!?」
「そんなややこしい仕組みはないデス」
 青白磁は気をとり直して続ける。
「(虎穴に入らずんば虎子を得ず、修羅場を潜り抜けてきたこの勘、この男、只者じゃない。釣り糸を垂らしてみるかのう)……実はわし、サンタクロースをしとるんじゃ」
「それは子どもに夢を与える立派なお仕事デスネ」
「じゃろう? しかしなぁ最近不景気で玩具も高うなってしもうてのぅ。つい出来心で盗みに入ってしまったんじゃ。そう、”大勇玩具店”ちゅう店じゃ」
 青白磁は目を光らせた。
(大勇玩具店は未来人しか知らんはずじゃ。何故ならあの”魔法少女仮契約書”のメーカーじゃけん。しかも名前から察するに、発明したのは未来の世界の”大文字勇作”じゃ)
「大勇玩具店サン……、聞いたことありマスネ」
「くくく……まんまとかかったな!」
「?」
「その名を知っていると言うことは、未来から来たと言う動かぬ証拠じゃ!」
「そうデス。グランツ教は未来から来た教団デス」
「……ん?」
「それが何か?」
「……え、それ公式?」
「公式デス。入口で教団の紹介パンフ配ってるので、読んでみてクダサイ。未来から来たって書いてありマスから」
「あ、そうなの。あーそう。なーんじゃ……」
 何か勘違いしていたようである。青白磁はトボトボと懺悔室を後にした。

「初めまして、カナンのイナンナ神に仕える葉月可憐と申します」
 葉月 可憐(はづき・かれん)もまた、グランツ教の真意を見極めるため、懺悔室に脚を運んだひとりだった。
「こちらにカーディナル様……”エレクトロンボルト”様がいらっしゃるかも、と思ったのですがいらっしゃらなかったようなので、メルキオール様にご挨拶を、と」
「……それはご丁寧にありがとうゴザイマス。ご足労頂いたのに申し訳ありマセンガ、枢機卿は本部におりマスので、こちらに顔を出す事はあまりないのデス」
「そうでしたか。以前、お会いした事がありましたので。失礼しました」
 可憐は居住まいを正した。
「ではあらためまして、罪の告解をさせて頂きます。よろしくお願いいたします」
「ドウゾお話しクダサイ」
「未来でパラミタを治めるれる超国家神様の、その加護の元に各国を直接統治するのが国家神。その一国家……カナンのイナンナ神付きの神官でありながら、今までグランツ教の方々に面を通していなかった罪をお赦しください……」
「祈りナサイ。慈悲深き超国家神の名において、アナタの罪を赦しマショウ」
 可憐は祈りを捧げた。
「……ところで、メルキオール様はイナンナ様にお会いされたことはあるのですか?」
「直接お会いした事はありマセンが、超国家神サマのお力になった方と、ワタシは存じておりマス」
「そうですか、未来でもイナンナ様はご活躍されているのですね」
「活躍と呼んでいいのかわかりマセンガ、そうデスネ、イナンナ様はとても”役に立っている”と思いマス」
「役……」
 可憐の表情が強ばった。
(……いえ、きっと言葉の言い回しを間違えられたのでしょう)
 引っかかるものがあるが、事を荒立てないよう気持ちを飲み込んだ。
「……メルキオール様。この機会に、無学な私へグランツ教の教義をお教え願いますか?」
「勿論デス。グランツ教は、超国家神サマの下、パラミタを再生させることデス。我々は日々、不安に迷える皆サマのため無償で活動をしておりマス」
「それは素晴らしい活動ですね。メルキオール様が海京で布教を進められていると言うことは、バルタザール様、カスパール様もどこかで布教をされていらっしゃるのですか?」
「二人とも教団の司教デスガ、彼らとも面識が?」
「そう言うわけではありませんが……。お三方がいらっしゃると言うことは、”救世主の再来”の時も近いようですね」
「救世主? それはキリスト教の伝承でショウ?」
「ええ。ですが、救世主にあたる方はいらっしゃいますでしょう?」
 それからしばらく話したあと可憐は懺悔室を出た。
「……どうだった?」
 外で待っていたアリス・テスタイン(ありす・てすたいん)は可憐に話しかけた。
「噂には聞いていましたが、かなりキリスト教の流れが強い宗派ですね。三博士も存在しているようですし、実際に”救世主の再来”を引き起こそうとしているのかも」
 救世主の再来。其れにより世界は統一され、其の幕を閉じる。古き”人類”は舞台から降り、”新たなる種”の幕が開ける……キリスト教における終末論だ。
「救世主の再来、彼らが統治する世界か……」
「中々に冗談で済まなくなってきましたね」
「未来世界を教団が良く統治をしているようには思えないんだよねぇ。まぁ、それは”人類”である私達の考え方で、”新人類”から見れば素晴らしいものなのかもしれないし。栄枯盛衰、私達はその流れに素直に沿うべきなのかもしれないけど」
「本当にそう思うのですか?」
 アリスは首を振った。
「可能性を提示しただけだよ。人類も可能な限り抗うのが新人類への手向けだと思ってる」
「同意いたします。イナンナ様にはグランツ教を広めぬよう注意を進言いたしましょう」
「カナンへの回線は用意してあるよ」
「では、移動しましょう。ああ、話を聞き出すためとは言え、へりくだった言い回しで、イナンナ様を貶めてしまった事を謝罪しませんと……」

(メルキオールか……)
 懺悔室に通された桐ヶ谷 煉(きりがや・れん)は狭い壁を見つめた。
(同好会を後押しした1人としては、危険な任務にいくアイリのサポートをしてやらないとな。すこしでもコイツを引き付けておければいいが)
「神の前で告白を。罪を悔い改めれば、神はお赦しになるデショウ」
「……俺の名は桐ヶ谷煉という。今日ここにきたのは俺のこれまでに行ってきたことについてだ」
「聞かせてクダサイ」
「俺は小さい頃から戦場で育ってきた。そこで多くの敵兵を殺し、仲間を殺され、そしてまた敵を殺しと命のやり取りばかりをしてきた」
「………………」
 淡々と煉は語る。
「今でもそれはあまり変わっていない。仲間を守るために敵を殺し、悪さをするやつを止めるために、そいつを殺してな。そんな大勢殺してきている俺に救いはあるのだろうか?」
「神は誰にでも手を差し伸べマス。祈りナサイ。まずはそこからデス」
「いや超国家神も、俺を前にしたら差し出した手を引っ込めるはずだ」
「そんな事はありまセン。神の手は等しく迷える者に差し伸べられるのデス。神に赦しを請うのデス。慈悲深き神の憐れみが罪を……」
「ああ、そうだ。話していてふと思い出した」
「?」
「この前空京で起きた事件でもまた1人殺してしまったんだ。そいつは……」
 声のトーンが変わった。
「クルセイダーのマグスの1人、”バルタザール”と言った」
「………………」
 しばしの沈黙ののち、メルキオールは口を開いた。
「そうデスか、アナタがバルタザールを……」
「その口ぶりじゃ知ってるようだな?」
「ええ、バルタザールはグランツ教の司教。空京の事件はワタシの耳にも届いてイマス。まさか、彼女があのような恐ろしい暗殺集団と繋がっていたとは残念デス……」
「?」
 バルタザールの名を出した瞬間、口調が硬くなったものの、すぐにメルキオールはいつもの調子に戻った。
「自分は関係ないとでも言いたいのか?」
「同じ教団に所属する者の引き起こした事デスから、責任は感じておりマス。ただ、ワタシはもとより、グランツ教はあのような暗殺者と無関係デス。あの事件は彼女が暴走して行ったコト。あれをグランツ教のやり方だとは思わないでクダサイ。ワタシ達は平和を愛する人間デス。
 アナタには感謝しなくてはなりマセン。彼女の暴挙を食い止め、空京の平和を守ってくださいマシタ。グランツ教の司教としてお礼を申し上げマス」
「……仲間を殺されたのに、随分冷たいんだな?」
「彼女を失ったのは悲しいデス。けれど、超国家神サマを悲しませる真似をした罪の代償と考えれば妥当デショウ」
「あんた達が事件にどう折り合いをつけるのかは興味が無い。だが、また彼女みたいなヤツが現れるようなら俺はそいつを殺し続けるだろう。それでもあんた達の超国家神は救いを差し伸べてくれるかい?」
「ええ、勿論」
 迷いなく放たれた言葉に、煉は気味の悪さを感じた。
「……わからないな。仲間を斬った人間にそんな言葉をかける心境が」
 そして、あらためて思った。こいつらは信用出来ない、と。