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インベーダー・フロム・XXX(第2回/全3回)

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インベーダー・フロム・XXX(第2回/全3回)
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【2】 ROUNDABOUT【3】


「超兵器、噂で片付けるにはまだ早い……」
 研究者の間でまことしやかに囁かれる”超兵器”の噂、研究者の一人である風羽 斐(かざはね・あやる)は独自にその噂を追っていた。
 パラミタからの脅威……それが如何なるものを想定しているのか定かではないが、仮に巨大生物の類いであれば、対抗するためには、それなりの大きさを持つ兵器でなければならないだろう。
「超兵器が今まで襲撃された場所になかったのは、超兵器が意外なところにあるからかもしれませんね」
 朱桜 雨泉(すおう・めい)の言葉に、斐は静かに頷いた。
「例えば、天御柱学院、とかな。前に、天御柱学院にスーパーロボット理論を唱えて整備科から普通科に左遷された人物がいると聞いたことがある」
「確か、大文字勇作……と言ったはずだ」
 翠門 静玖(みかな・しずひさ)は言った。
「スポンサーもつかねぇポンコツ研究者だそうだが、学院が普通科に左遷させてまで手元に置いておくのは気になるな。もしそれが左遷じゃなく、有能な研究者を普通科に異動させる計画なんだとしたら……」
「普通科に異動した大文字先生の指揮のもと、研究が進められてる可能性はありますね。もし超兵器の存在を怪しまれても、整備科のほうに疑いが向くでしょうし、普通科はいいカモフラージュだと思います」
「そう、俺もその点が気になってるんだ」
 それを確かめるためには、大文字と実際に会ってみる必要がある。昨日のうちに大文字とのアポイントを取り付け、斐は御柱学院に来ていた。
 カフェテリアで待つように言われ、しばらくすると大文字は現れた。
「お待たせして申し訳ない。あなたが超能力研究をされている風羽さんですかな?」
「ええ、初めまして、大文字先生。お時間を頂きありがとうございます」
 斐は右手を差し出した。
「なに、こちらこそ助かった」
「はい?」
「いや、こっちの話」
 大文字も右手を出し、2人は握手を交わした。
「事務局から詳しい要件を聞かされていないが、どういったお話ですかな?」
「その前に、あまり他人に聞かれたくない内容ですので、助手の静玖のテレパシーを介してお話させてください」
「俺がオッサンの言いたい事を、そのまま先生に伝える。先生の発言はオッサンの……この、ノマド・タブレットを使って返してくれ」
「ほう、タブレットPCか。最新型だな」
「使い方はわかりますか?」
 雨泉は尋ねた。
「馬鹿にしないでくれ。これでも研究者だ。この程度のPCはなんなく使える」
「そ、そうですよね。ごめんなさい」
「……で、AボタンとBボタンはどれかね?」
「……説明しますね」
 隣りに座って、雨泉は大文字に操作を教えた。
『さて、準備が整ったところで、本題に参りましょう』
『うむ』
『先生の提唱されるスーパーロボット理論、浪漫のある研究だと思います。しかしながら、実現の為には相応のエネルギーが必要なはず。スーパーと名の付くロボットがその辺のエネルギーで稼動出来るとは思えません。先生にお伺いしたいのは、このエネルギー問題にどのような取り組みをされているのか、伺いたいのです』
『なるほど。しかしあなたの研究には関係のない分野だと思うが?』
『そんな事はありません』
『今、詰まってる論文に使うんだよな』
 不意に静玖が割って入った。
『こ、こら……!』
『冗談だよ、冗談』
 しばし思案する大文字だったが、タブレットの画面に指先を滑らせた。
『……まぁ隠すような内容でもない。お話しましょう。
 現在、第3世代イコンの開発に向けて、エネルギー研究は活発になっているが、正直なところ、私の提唱するスーパーロボットを動かすには、それでも足りないのではないかと危惧している。勿論、技術革新には期待しているがね』
『では、どのようにエネルギーの確保を?』
”機晶タキオンエネルギー”
『!?』
『現行の科学技術の延長線上に求めるものがないのであれば、その外部に求めるしかない。すなわち、機晶エネルギーのまだ解明されていない未知の部分。私の仮説が正しければ、機晶エネルギーには今の科学力では観測することの出来ない、通常の数百倍のエネルギーを有する秘密が眠っている。それが機晶タキオンエネルギーだ!』
『そんなものがこの世に……?』
『ある……たぶん』
 斐はガクッと椅子からずり落ちそうになった。
『こ、根拠はないのですか?』
『科学者の勘だ』
『……そ、そうですか』
 話を聞けば聞くほど、彼が超兵器開発に関わっているとは思えなくなってきた。
 けれども同時に、この夢物語が実現可能だとしたら……と考える。
(本当なら、とんでもないものが海京で建造されている事になるな……)

「へぇ、機晶タキオンエネルギーねぇ。そりゃ大層な名前だなぁー」
 不意に大文字の後ろから声が聞こえた。
 背の低さからか、背伸びをしてタブレットを覗き込む三船 甲斐(みふね・かい)と、隣りで鞄を持たされた猿渡 剛利(さわたり・たけとし)の姿があった。
「覗き見は褒められた趣味ではないな……」
 斐は目を細めた。
「ああ、ごめんごめん。目に入ってきたもんだから……。おっと、挨拶がまだだったね。俺様は教導団技術科及び秘術科所属の三船甲斐。こいつは荷物持ちのサルだ」
「誰がサルだ!」
「天学にスーパーロボット理論を提唱してるおもしろい先生がいるって聞いて、会いに来たんだが、さっそくタキオンときたか、こいつは予想以上におもしろい先生だ」
 甲斐は勧められてもいないのに椅子に腰を下ろした。
「あんたの論文は読ませてもらったよ。精神力をマシンにフィードバックするシステムとは奇遇だねぇ。実は俺様もこの研究してるんだ。難しいテーマだよな」
「なんと。それは奇遇だな。専門はなんだね?」
「ん、ああ……俺様はパワードスーツの開発が専門だ。キック一発で機動要塞を墜とすようなイカしたスーツのさ」
「ほほう!」
 大文字の目が少年の目に変わった。
「巨大な敵を一撃で粉砕する……これぞ浪漫だ。最近は機動要塞ひとつ墜とすのにもちまちました戦術を使って小賢しいことこの上ない。男なら一撃必殺。ただ圧倒的なパワーで敵を殲滅する。これ以上にイカした作戦はあるまいに」
「おおっ、流石話がわかるじゃねぇか。だよなだよなー、何が作戦だってんだよなー。セコい集団戦法で倒したところで全然スカッとしないんだもん、嫌んなっちまうよ。まったく上の連中は何考えてんだか、つまんねー兵器作る予算があるんだったらこっちに回せってんだよな」
「まったくだ。上の連中は実益ばかり重視して大切なものを見失っとる。浪漫なくして勝利無しだ」
「そうそう、良いこと言うねぇ、先生」
「…………(うーん、こりゃスポンサー付かんのも納得だな……)」
 そう思いつつも、水を差さないよう斐は口をつぐんだ。
「スーツを実現させるためにも、フィードバックシステムの構築は重要な課題なんだよ。精神力をパワーに変換出来れば、パワードスーツでもスペック以上の数値が叩き出せるからな。今はAH(オーグメンテッド・ヒューマン)で脳波で動く電筋義手なんてぇのがあるから、BMIとの組み合わせで発展出来ないかと考えてるんだ。もっとも、AHは拡張現実感を応用して人間の能力の拡張を図るっつー、精神力をマシンにフィードバックするのとは逆転の発想になっちまうんだが……。
 あとは、オカルト方面からアプローチするのも手だな。精神云々ならあっちゃのが充実しとるし、結構うまいこと繋がるじゃねぇかと思うんだけどなー」
「君はオカルト方面には詳しいのか?」
「一応秘術科の所属だからな。なんだ先生、オカルトに興味でもあるのか?」
「……そう言えば、先ほど現行科学を超えたところに可能性を見出している、と言っていましたな?」
「ああ、私もまさにBMIと魔法を組み合わせることを考えていたのだ。ひとくちに魔法と言っても、さまざまな種類、さまざまな法則に基づいて確立されている。中には人間の持つ内的エネルギーを現実に反映させるものもある。まさに私の求める精神力をフィードバックさせるシステムだ。
 それに、機晶タキオンエネルギーも今の科学力では観測出来ないが、魔法方面からのアプローチならば認識することが出来るかもしれない」
「なんだ、あんたも既にこっちに辿り着いてたのか。本当に奇遇だな」
 大文字はPCでネットワークにアクセスし、書きかけの論文を皆に見せた。
「……”魔法干渉による機晶エネルギーの発展性”ですか」
「論文になってるのを見ると、まともな研究に見えるな」
「お、お兄様、失礼ですよ」
 斐たちも議論に加わって、大文字の研究に対し、活発に意見を交換し合う。
(……しまった。俺だけ研究者でもなんでもねぇじゃねぇか……)
 専門的な話題になってしまったため、剛利は完全に置いていかれていた。それでも参加してるフリして、画面を眺めていると、論文や企画書のタイトルに気になる名前を見付けた。
「……なんだ、この”閉鎖空間発生装置”って?」
「よく特撮ヒーローもので、敵の怪人がヒーローを倒すため亜空間を創り出す展開があるだろ。あれを人工的に発生させる装置だ。この空間には特定の条件を満たした人間だけが、自由に活動でき、それ以外の人間は著しく弱体化してしまう効果がある」
「……なんかどっかで聞いたな、その設定」
「?」
「ああ、思い出した。シャドウなんちゃらだかクルなんちゃらだかが使ってる技術なんじゃねぇか、それ?」
「な、なに! もう誰かが実用化させているのか!」
「まぁ、実用化と言うか……」
 剛利の脳裏に、ある可能性がよぎった。
(そう言えば、クルなんちゃらは未来から来た奴らなんだよな……。連中の使ってるシャドウなんちゃらは、これが元になってたりして。この先生、どうせしばらく実用化出来ないと思って、自分の企画書平気で他人に見せてるし……)
「まさか、な……」