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【帝国を継ぐ者・第二部】二人の皇帝候補 (第1回/全4回)

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【帝国を継ぐ者・第二部】二人の皇帝候補 (第1回/全4回)

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防衛――軋む境界






 遺跡の中で、セルウス達がアンデット達を押しのけながら進んでいた頃。
 彼らの帰還する場所を守るため、弾幕を張られるハーポ・マルクスの船上では、相変わらずハーティオンや朋美達が、小型龍を寄せ付けないように奮闘中だった。そんな彼らと共に、エカテリーナ機のガードに回っていたシリウスは、ふと思い出したように「そういえば気になってたんだが」と、口を開いた。
「例の、ドミトリエの「あの人の血筋」っていうのは、どういう意味なんだ?」
『まんまの意味なのだぜ』
 その問いに、エカテリーナはあっさりと言った。
『ドミトリエお兄ちゃんは、カンテミールとミルザムの遺伝子を持つ、言うなればサラブレッド()なのだせ』
「ミルザムだって……!?」
 シリウスが驚愕の声を上げ、ザビクは目を細めたが、その反応を気に留めた風も無く、エカテリーナは続ける。
『選帝神は血統じゃないから、先カンテミール選帝神の子だからって実際のところ有利ってこともないんだけど、才能的に……』
「ちょっと、待ってくれ」
 つらつらと続けようとしたエカテリーナに、シリウスはごちゃついたものを振り払うように頭を振った。
「俺たちは、シャムシェル……って言って通じるか?そいつががアールキング絡みの奴に連れ去られたって聞いて、連中に関わる事件を追ってるところなんだ」
『アールキング、って言われてもボクは詳しくないんだけど』
 そう前置きしてから、そうか、と気落ちするシリウスに向って『ただ』とエカテリーナは付け加える。
『そのシャムシェルと、ドミトリエお兄ちゃんの「大元は同じ」……らしいのだぜ』
 らしい、というのは、その辺りの詳しい情報を、ドワーフ達が中々語ろうとしないかららしい。
「妙なところで、妙な点が繋がったね」
 ザビクの言葉に、シリウスも難しい顔で眉を寄せた。
「アールキング、シャムシェル……そしてカンテミールとドミトリエ……一体どうなってやがるんだ」
『繋がってるのはそれだけじゃないかもよ』
 モニターにきゅるん、と美少女アバターを躍らせながら、文字だけを表示させてそう言ったのは理王だ。
『彼女の言うところのスイーツ()が、カンテミールの選帝神候補として台頭して来たのも、どうやらアールキングの名前が表舞台に出たのと、同じ頃みたいだからね』
 幾つものサイトを巡り歩き、荒野の王を中心に情報を集めていた中で、その情報も一緒に引っかかってきたらしい。それを聞いて、シリウスの眉根は更に寄る。
「時期が近すぎる、か……」
 呟いて、溜息と共にザビクも肩を竦めた。
「荒野の王やら、グランツ教やら、その上この騒動……エリュシオン周りも、厄介な事だらけだな」
「問題は」
 その後を継いで、シリウスが静かに何処とも知れない場所に目を向けると、ぽつりと零した。

「この内どれがこの先――大陸の未来を救うことに繋がってるか、だな」







 その頃、後方の拠点では、イコナの封印呪縛によって、一体の小型龍の捕獲に成功していた鉄心とツライッツ達の調査が完了していた。
「数の減りが遅いわけですね……」
 ツライッツは思わずといった調子で呟きながら、細かな調査結果をポイントに絞ってデータ化すると、それを渡された鉄心は友軍全体へとそれを流した。
「彼らの中枢は、全身の丁度真ん中にある、心臓のような装置のようです。それが活性化している限り、いくら砕かれても、自らの破片を繋ぎ合わせて復活するようです」
 勿論、完全に復活するにはそれなりの時間がかかるし、多少の破損で止まってしまうもののようだが、数が減り辛い相手に防衛戦を行うのは厄介だ。
「幸い、心臓周りの硬度は、他と比べて硬いと言うことも無いようです」
 火力を極力、体の中心に集中させるか、大火力をもって応対すれば、倒すのはさほど難しいことではない。しかし、データに目を通したティーとイコナは、どこか気が乗らない様子だった。
「……この子達、ただ起こされちゃっただけなのに」
 どうやら小型龍達は、本体である遺跡龍が目覚めた時に、自動的に起動する代物であるようで、暴走した遺跡が「戦闘体制に入れ」という命令を発信し続けているために、プログラムされている優先事項……敵と思われる因子を撃破しろ、という命令に従って動いているだけだ。
「遺跡龍さんを止めれば、この子達も、穏やかになるはずですのに……」
「……」
 鉄心は何も言えずに眉を寄せたが、斟酌している余裕も、無いのだ。
「兎に角……弱点がわかれば、状況は変わってくるわね」
「そうッスね」
 小型飛空艇で飛び回っていたリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)が、そう言ってスピードを上げたのに、アレックス・キャッツアイ(あれっくす・きゃっつあい)も頷きながらそれに並んだ。群れの撹乱と、退路を維持する意味もあって遺跡近くの小型龍を響き渡る咆哮でひきつけ、細い遺跡の隙間を縫うようにして、一体一体をばらけさせているのだ。
 今も、丁度一体を遺跡の隙間に誘い込んだのを確認して、サンドラ・キャッツアイ(さんどら・きゃっつあい)が風術でその進路を誘導しながら「そちら、行きましたよ」と警告の声を上げた。
「了解」
 その先の、僅かに開けたポイントで、待ち受けているのは北都のアシュラムだ。小型龍がこちらに気付く前に休息接近し、そのふところへもぐりこむと同時、レイピアの一撃を中心へと突き立てた。
「……! 見えました、あれですね」
 攻撃と同時に離脱したアシュラムのコクピットクナイが声を上げ、剥き出しになった心臓部をモニターへと映す。実際の心臓に限りなく模された装飾のその装置は、僅かに光を帯びて、生きていることを示していた。
「よし……っ」
 それを目視で確認し、続く第二撃。見事にその中心を突いたレイピアの攻撃によって、心臓を砕かれた小型龍は、中心から崩れるようにして、ただの石塊へと化していくのだった。


「聞こえたワネ、ピヨ。中心を狙うノヨ」
 小型龍への対処法が判明したことで、後方でもその戦闘状況は僅かに様変わりしていた。
 アリス・ドロワーズ(ありす・どろわーず)の言葉に頷いたジャイアントピヨが、怪獣映画さながらにその目から口から放たれるビームやレーザーは、弾幕代わりのそれから、一点狙いの集中攻撃へとチェンジしている。
「しかし……きりがないな」
 ローグ・キャスト(ろーぐ・きゃすと)フルーネ・キャスト(ふるーね・きゃすと)もまたアーマードッグで弾幕を張る防御戦から攻撃へと転じているが、思わずと言った調子でその声が漏れる。
「なんだか、段々こっちに来てるみたいだもんね……」
 フルーネも眉を寄せて同意した。
 弱点の判明したことで、先程までより明らかに小型龍撃破の速度は上がっている。だが、元々が多数対少数の戦いだ。精鋭が揃っているとは言え、その物量差はじわじわと戦線への影響を表にし始めていた。
「……っ、一体、流れてます!」
 クナイが警告の声を上げた。
 散会した群れの内の一体が、遺跡群の影を縫って、調査団の居る拠点へと直進しているのだ。スカーレッドは思わず身構えたが、光学迷彩で姿を隠していた武尊がとっさに弾幕を張り、その足を鈍らせたところでアーマードッグが割って入り、シールドで受け止めると、恐竜要塞グリムロックの要塞砲が、心臓部ごと中心を撃ち抜いて停止させた。
 何人かが冷や汗を拭った中、まるで見物客のように、相変わらずゆったりと茶を味わっていた荒野の王は、ふっと笑うように息を漏らして「この数を相手に、良く保つ」と素直に感心したように言いながらも、カップをソーサーごとマリーに預けると、ゆっくりと立ち上がった。
「だが、肝心の本体があの様子ではな。埒もあくまい」
 荒野の王の言う通り、後方は物量戦の為に、消耗も一際激しいのだ。ならば、と荒野の王は静かに笑う。
「埒をあけに行くしかあるまいよ」
「お待ちください」
 そうして歩き出そうとする荒野の王の前に、朱鷺が立ち塞がるようにして前へ出た。
「戦線は維持されています。お出ましになる必要は無いと思うのです」
 だが、そんな朱鷺の声に構わず、荒野の王は歩みを止めようとしない。先に手を出せない朱鷺がそれでも食い下がる中、荒野の王がパチン、と指を鳴らした、その時だ。拠点の近くで、戦場を眺めるように佇んでいたブリアレオスが、ゆっくりと動き始めたのだ。
「え……あれって、イコンじゃなかったのか?」
 屍鬼乃が思わずと言った調子で声を上げた。
 イコンは、契約者が搭乗して初めて起動を可能とするもののはずである。だが、荒野の王自身はまだ大地の上に足をつけたままだ。
「荒野の王にも契約者が? ……いや」
 言いかけて屍鬼乃は首を振った。ブリアレオスには、誰かが乗っている気配は無い。
「誰にも動かせない……って、もしかして、こういうことなのか」
 武尊が呟きを漏らし、殆ど同時に理王がその姿をカメラに納めていく中、荒野の王の傍らまで近付いたブリアレオスの前に、第七式が立ち塞がった。
「止まって頂きたい也。ここは我等が押し留める也」
 だが、ブリアレオスは止まらず、立ち塞がる第七式に構わずに前進を続ける。
「む……」
 ぶつかりに来ているかのような巨体に、第七式も足を踏みしめたが、その体躯がぐらりと傾ぐ。ブリアレオスが、その掌で上体を押したのだ。
「……なんつう力だよ」
 ローグが思わずといった調子で漏らした。第七式の体躯をもってしても、ブリアレオスの片手を押し返せないでいるのだ。ずるずると押し出され、そのまま倒されるかと思ったところで、飛び込むように前へ割り込んだのは、唯斗の魂剛だ。
「俺たちを敵に回すのか?」
 警戒も露に唯斗が問うが、荒野の王は「はやるな」と低く笑う。
「言っただろう、埒をあけに行くだけだ」
 言いながら、ふと思い出したように荒野の王はその目をアキラへと向けた。
「そういえば、シャンバラとエリュシオンの関係について問うていたな」
 その言葉に、理王が咄嗟に録音を始めたのを見やり、ブリアレオスを従えながら、荒野の王はことさら演技がかった語調で続ける。

「協調など生温い。圧倒的な力こそが、この状況を打破する唯一の道だ。そこにシャンバラ、エリュシオンという括りを持ち出すのは無意味なことだ」

 それがどう言う事か、我が力で教えてやろう、と、荒野の王はブリアレオスの拳の先を遺跡へと向させ、にいい、と口の端を引き上げて笑った。