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リアクション
【十二 巨影現る】
丈二とヒルダは、現在も尚、バランガン駐屯基地でノーブルレディの警護に当たっていた。
ふたりは、前線基地で劇的な政変が起きていることを、まだ知らない。知らないのだが、ここバランガン駐屯基地にも恐るべき異変が生じていることを、その目に焼き付ける破目に陥っていた。
僅かな防備兵のみを残しているバランガン駐屯基地。
実に静かで、平和そのものの光景が広がっていたのだが、突然頭上に、陽光を遮る巨大な影が舞った。
何事か、と丈二が振り仰いだその時、信じられないものが目の前に降下してきた。
「うわぁっ!」
「い、一体、何だあれは!」
駐屯基地の防備兵達が半ば恐怖に駆られて、悲鳴に近い叫びをそこかしこで上げている。
一方の丈二とヒルダは、ただ茫然と、声を失うばかりであった。
バランガン駐屯基地に現れたのは、全長50めーとる程、両翼が100メートルを超える、二対の翼を持つ巨大なワイヴァーンであった。
この規格外の体格を誇る巨大ワイヴァーンは、ノーブルレディを収める兵器保管庫前に急降下してきたかと思うと、一体どのような技術を駆使したのか、ほとんど一瞬で肉体の組成を変化させ、四肢をもつ巨人体型へと変形したのである。
ワイヴァーンから巨人へと変身したその化け物は、大地を震わせる振動を伴って、丈二とヒルダの前に悠然と降り立った。
恐慌の声は既に、バランガン全市内にまで広がっている。
各所で沸き起こる悲鳴や怒号を、丈二はぼんやりとした意識の中で聞いていた。
巨人は金属質の鱗に覆われた剛腕を振るい、兵器保管庫の天井を叩き割った。そうしてその手で、保管されている二発のノーブルレディを、鉛筆でも拾い上げるような軽い調子で、兵器保管庫の中から抜き取ってしまったのである。
明らかに、強奪であった。
が、これ程の巨大な存在に対抗出来る程の戦力はバランガン市内には残されておらず、丈二にしてもヒルダにしても、ただ為す術も無く、巨人によるノーブルレディ強奪を見守るしかなかった。
「これで十二発。全て揃ったな」
丈二は、我が耳を疑った。
巨人は古代シャンバラ語を口にしたのである。このような巨大な化け物が、よもや人間と同じレベルの知性を具えていようとは、誰が想像し得たであろう。
やがて、巨人は取り出した二発のノーブルレディを胸の辺りの金属製鱗の間に挟み込み、ゆったりとした動作で立ち上がると、僅かに膝を沈ませた姿勢から一気に跳躍し、大空へと舞い上がった。
巨人は丈二の目の前で、再び巨大ワイヴァーンへと瞬間的な変形を遂げると、そのまま悠然と飛び去っていってしまった。
たった今起きた一連の出来事は、全て白昼夢だったのではないか――。
そんな疑問すら抱きかねない程に、有り得ないような事態だった。
しかし、これらは全て、事実であった。その証拠に、兵器保管庫の天井は無残に叩き割られ、内部に収められていた筈のノーブルレディは二発とも、姿を消しているのである。
信じたくはなかったが、現実からは目を背けようがなかった。
* * *
前線基地では尚も、関羽将軍率いる第八旅団正規兵と、スティーブンス准将のリジッド兵、及び冥泉龍騎士団との睨み合いが続いている。
准将はB.E.D.の使いどころを計っているようだが、脚の速いコントラクターを大勢揃えている関羽将軍側は、一瞬の隙も見逃さない構えを見せている。
一方、ラヴァンセン伯爵に対しては、ダリル、カルキノス、ウォーレン、クローラといった面々が位置を変えて対峙し、間合いで牽制するという膠着状態に陥っている。
こういう場合、先に手を出した方が負けるというのが、古今東西の慣わしであった。
しかし同時にまた、このような膠着状態は思いがけない切っ掛けで崩れ去るというのも、これまたよくある話であった。
不意に別方向から、アサルトライフルを乱射して突っ込んでくる一団があった。
レオンと、その仲間達である。
銃口はいずれも、ラヴァンセン伯爵に向けられていた。
「ヘッドマッシャーじゃなくて、龍騎士を相手に廻すなんて、聞いてないんだよ!」
レキが大声でぼやきつつも、突進して蹴り技の嵐を繰り出す美羽と並んで、ラヴァンセン伯爵に肉迫していった。
レオンには護や北斗、或いは祥子といった面々が傍らでサポートしており、そこにシャウラ達も加わる形で、ラヴァンセン伯爵へ突撃を敢行する。
「龍騎士が相手なら、遠慮は無用だね!」
美羽が猛然と、ラヴァンセン伯爵の膝下に向けて連続蹴りを叩き込んでゆく。しかしラヴァンセン伯爵も、伊達に龍騎士を名乗ってはいない。
その巨体からは到底想像も出来ない速さで美羽の突進蹴りをことごとくかわし切り、逆に愛用の槍による一閃で、美羽の小柄な体躯を弾き飛ばしてしまった。
「美羽!」
コハクが飛ばされる美羽を空中で受け止め、ダメージを最小限に抑えた。
その間にレキとミアがラヴァンセン伯爵に連携攻撃を仕掛けるものの、龍騎士を想定した戦術は組んでいなかっただけに、効果的な一撃を叩き込むには至っていない。
だがそれでも、ラヴァンセン伯爵の意識を関羽将軍の隊から引き離すことには成功したのだから、彼らの出現効果は大きかったといって良い。
更に、出現した加勢はレオン達だけではなかった。
「龍騎士か……相手にとって、不足無し!」
B.E.D.の疑似パートナーロストから回復した唯斗が、借りを返さんばかりの勢いで、別方向からラヴァンセン伯爵に挑みかかってくる。
その後方に、同じく回復を遂げたザカコとヘルも続いていた。
これだけの人数で一斉に挑まれては、如何にラヴァンセン伯爵といえども、それなりに苦戦を強いられる。
関羽将軍は後方の憂いを断った形となった。
「この期に及んで、交渉は不要ですな……それなら一丁、仕掛けてみますか」
ルースのひと言が合図となって、ルカルカの反攻部隊は一斉にスティーブンス准将へと殺到した。
先頭を駆けるのは、矢張りルカルカである。
この動きに対し、スティーブンス准将の側はリジッド兵とヘッドマッシャー数体が黒い波のように動き、反攻部隊と正面から激突した。
リジッド兵が壁になって間合いを離されてしまっては、B.E.D.の餌食となってしまう。そこでカルキノスが巨体を活かしてリジッド兵を一手に引き受ける形を取り、その間隙を縫ってルカルカとルースがスティーブンス准将の間近に迫った。
結果として、反攻部隊の戦術勝ちである。
だが物理的な戦闘ともなると、話は別であった。
「くっ……予想外に、速い!」
ルカルカが、思わず唸った。
接近戦に持ち込めばB.E.D.は封じれるものの、ブレードロッドを振るうスティーブンス准将の接近戦能力は、予想外に高かった。
何よりもその回避速度とブレードロッドの精確さは、ルカルカとルースの両名をいきなり圧倒する程の脅威となって襲いかかってきたのである。
「少し、ディクテーターを甘く見過ぎていたのではないか?」
スティーブンス准将は、接近戦の中にあっても余裕を崩さない。
だがその余裕は何も、准将自身の高い戦闘力だけに因るものではなさそうであった。まだ何か、別の秘策を用意している――ルカルカとルースは、嫌な予感を覚えた。
「あれは、一体何だ!?」
乱戦の中で一般シャンバラ兵の誰かが、エルゼル市街の遥か向こう、陽光が西に傾きかけた大空を指差しながら、甲高い叫び声を上げた。
その声に釣られて同方角に振り向いた多くのシャンバラ兵達が、恐怖に凍りついた。
(あれは……そんな、まさか!)
ラヴァンセン伯爵による強烈な一撃で腹部に鈍痛が残っている美羽は、コハクの肩を借りたまま、その恐ろしい巨影に渋面を向けた。
全長40メートルを超える巨大なホオジロザメが、透き通るように真っ青な大空の中を、悠然と滑空していたのである。
第八旅団の大半の兵員はその正体を知らず、ただ茫然と恐怖にうろたえるばかりであったが、美羽はその正体を正確に知っている。知っているが故に、事態の緊迫性をよく理解していた。
一方、スティーブンス准将は近づきつつある巨影に、僅かながら不満げな表情を浮かべていた。
「結局は、あんな連中の手を借りねばならんとはな……」
苦虫を噛み潰したような面持ちで、スティーブンス准将は小さく吐き捨てた。
逆にラヴァンセン伯爵は、やっと来たかといわんばかりの安堵した表情を浮かべていた。
「今回は、我が龍を無駄に消耗させる訳にはいかんからな。連中と組んだのは、正解だった」
ラヴァンセン伯爵の独白を、美羽は信じられない思いで聞いていた。
ただでさえ、龍騎士は極めて強力で厄介な相手なのである。そんな彼らが、よもやあの化け物の集団と手を組んでいたとなれば、もうこれは最悪といって良い。
パニッシュ・コープスが、あの化け物達と何らかの理由で敵対していたことはコントラクター達のよく知るところであった。
それが為に准将は、あのような不服そうな顔を見せているのだろう。
しかし実際には、リジッド兵は冥泉龍騎士団と手を組んでいるのであるし、その冥泉龍騎士団があの化け物と達と組んだということは、既にひとつの勢力として垣根を取り払ったと見るべきであった。
ともあれ、今はそれぞれの力関係や思惑などに目を向けている場合ではない。
美羽が、第八旅団員の全員に対し、警告の声を放った。
「メガディエーターが来るよ! 早く皆、回避して!」
高度を落としながら、真っ直ぐ前線基地に向かって突っ込んでくる巨大ホオジロザメは、到達する数秒前辺りから変形を開始した。
一般シャンバラ兵達は、蜘蛛の子を散らすように慌てて四散していく。
コントラクター達も、巨人型戦闘体型に変形を完了したメガディエーターの攻撃をかわそうと、必死に後退していった。
直後、第八旅団前線基地は地震を思わせる程の轟音と震動に見舞われ、設置されているテントは片っ端から薙ぎ倒され、構築されていた防衛設備は、跡形もなく吹き飛ばされていった。
濛々と舞い上がる砂埃の中で、大勢の悲鳴や叫び声が飛び交う。
最早ここは戦場ではなく、大災害に見舞われた辺境の被災地の如き様相を呈していた。
それから、数分後。
第八旅団員はようやく収まりかけた砂埃の中で、自身の安全を確認しながらゆっくりと立ち上がっていた。
スティーブンス准将、ラヴァンセン伯爵、そしてリジッド兵は全員が、姿を消していた。恐らくはメガディエーターが、この前線基地からどこかへ運んでいったものと思われる。
全身砂まみれの関羽将軍が、咳き込みながら立ち上がって、周辺の安全を確認した。
「各員、無事か? 怪我人の有無を早急に確認せよ!」
部下達に指示を出してから、関羽将軍は傍らに控えるルカルカとルースに、渋い表情を向けた。
「スティーブンスを取り逃がしたのは、まぁ良い。追撃をかけるだけの話だ……しかしよもや、龍騎士がイレイザーと組んでおったとはな」
この直後、関羽将軍のもとに、バランガン駐屯基地で保管していたノーブルレディ二発が強奪された旨の連絡が届いた。
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