波羅蜜多実業高等学校へ

葦原明倫館

校長室

空京大学へ

【蒼空に架ける橋】第2話 愛された記憶

リアクション公開中!

【蒼空に架ける橋】第2話 愛された記憶

リアクション



■第18章


 案内された機晶石採掘場は起伏の激しい山の合間だった。巨大なすり鉢状というのか、壁のような崖が波打ちながら連なっている。そこに一定間隔ごとに坑道の穴が開けられて、砕石運び出し用の一輪車や木箱が積まれていた。
「ほんと、何もない島だなぁ」
 港、宿舎、そして採掘場と見て来て、変わり映えしない岩と草だらけの光景に、思わずアキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)はつぶやいていた。
「壱ノ島で聞いたとお――」
「こりゃアキラ!」
 ルシェイメア・フローズン(るしぇいめあ・ふろーずん)が目をむいて、すかさず頭をぽかっとやった。
「ってぇ!」
「失礼なことを抜かすでない!」
 頭ごなしにアキラをしかりつけつつ、その目はちらちらとカナヤ・コの方に流れて、アキラに何事か気づかせようとしている。
「――あ、ごめん」
「ははは。気にしてないよ。たしかに何もないからね」
 カナヤ・コは細い目を線にして、軽く笑う。
 その様子は本当に気にしてないように見えたので、アキラはさらに踏み込んで訊いてみることにした。
「俺たち、ここに来る前にこの島のこと、ある程度調べて来たんだよね。それで、ほとんどの人はほかの島へ移住しちゃってるって。
 なんでカナヤ・コさんとかサク・ヤさんは、この島から出て行かないの?」
「アキラ!」
「まあまあ」
 またもやしかりつけたルシェイメアをとりなそうとしたのはカナヤ・コだった。
 そしてアキラに再び向かい直る。
「そうだなぁ。いろいろあるが、金がない、というのが一番かな。あの人には言えないけどね。そんなこと口にしたら、私財を売り払っても金を調達しそうな人だから。実際、島を出たいと相談されて、何度かそうしてるみたいだからね」
 サク・ヤは口に出しては言わなかったが、少しずつ物がなくなっていく屋敷のなかや蔵を見れば、彼女がその金をどこで用立てているかは島のみんなが悟れていた。
「ここを出る金ができたとしても、ほかの島で何をするかも問題だ。家をかまえて、働き口を探して……それで見つからなかったらどうする? それをする資金もあるのか? ――ああ、やっぱり金だな」
「金かぁ……」
「――それに」アキラが納得しかけたところで、カナヤ・コが言葉を継ぐ。「この島が、おれたちの生まれた場所だ。おれたちの親も、祖父たちも、ずーっとこの島で生きてきた。だから今、おれはここにいる。だからこの世界に生まれてこれた。おれのルーツはここだ。
 分かるか? そのおれがここを離れたら、おれから先に続く子孫は根っこはあっても大地を失うことになるんだ」
「……うん。分かる。
 すげーな。そんなこと考えてるんだ」
 先に一番は金と言ったけど、そうじゃなくて、彼の本当の本音はそこだと思った。
「ははっ。島の人はみんなそうさ。それに、な。あの人が言ったんだよ。この島を離れるときは、本当にこの島で何もすることがなくなったときだって。でないと、この島を離れてもおれたちは後悔する。どこへ行っても、そこに根付くことができない。きっと、何かできたんじゃないかっていう思いを生涯引きずることになる、って……」
 そしてもう1つ、カナヤ・コを含め、島に残っている人々が思っていることがあった。自分たちが出て行っても、サク・ヤはこの地に残るのではないか、という懸念だ。太守家の者であるというのもあるだろう。だが第一に、彼女ほどこの島を愛している人間はいない。その過去を思えば、そこに半ば強迫観念が入っていても仕方のないことだが……。
 彼女を残していけば、おれたちは生涯そのことを引きずって生きていくことになる。
「彼女の言うとおりだ。そんなことになれば、おれたちはだれも生きていけない」
「……あの女のことが好きなのか?」
 そのときのサク・ヤを思いながらつぶやくカナヤ・コに、カディルが愛想のない声で訊く。
「うん、好きだよ。ただし、きみが気にしているようなこととは違ってね。
 この島で生きるおれたちは、みんな仲間、同士なんだよ。この過酷な島ではだれも1人では生きられないからね。彼女に対する思いで一番近いのは、尊敬かな」
 この返答に、カディルはよそよそしい表情のまま、信じがたいというふうに鼻を鳴らして離れて行った。
「さあ、それじゃあ着いたばかりで悪いけど、持ち場についてくれるかな?」




 現場に到着した榊 朝斗(さかき・あさと)がさっそく向かったのは、邪魔にならないように土壁の方に移動させられた掘削機たちの元だった。
「ねえ、カナヤ・コさん。これ、どうして使わないんですか?」
 12台ほど並んだ重機を見上げている彼に、カナヤ・コは「それは全部動かないんだよ」と説明をした。
「厚い岩盤を打ち抜くために参ノ島から取り寄せたんだがね、すぐにシャフトが曲がったり何なりで動かなくなってしまうんだ」
 高かったんだけどね、とカナヤ・コは苦笑する。
「そのうち鉄クズとして業者に売るつもりだけど、これがどうかしたのかい?」
「……どうにかできるかも」
 カナヤ・コが説明をしている間もちらちらと各部位をうかがっていた朝斗は独り言のようにそうつぶやくと、カナヤ・コに向き直った。
「これ、ちょっと触らせてもらってもいいですか? 動かせるかもしれません」
「そりゃ、動くならこちらも万々歳だけど――」
 そのとき、カナヤ・コを呼ぶ声が坑道の方からして、話は中断した。
「まあ、好きにしてくれていいよ。どうせスクラップなんだから」
「許可もいただけたことだし。じゃあ、ちょっとつついてみるかな」
 呼ばれた方へ駆け戻って行くカナヤ・コを見送ってから、朝斗はあらためて掘削機たちに向き直った。
 運転席へよじのぼって、キーを回す。セル音はするがエンジンがかからない物から、エンジンがかかってもアームが回らない物まで故障個所はさまざまだ。
「ああでも、それなら分解して部品を取ればいいのかも」
 故障個所が同一でないならできるだろう。全部を修理するのは無理だけど、数台ならなんとか動かせるようにできるかもしれない。
「わ。本当?」
 朝斗の話を耳にして、喜んだのは布袋 佳奈子(ほてい・かなこ)だった。
「うん。やってみないとまだ分からないけどね」
「じゃあ動くようになったら貸してほしいんだけど」
「いいよ。終わったら連絡する」
「ありがとう!」
「良かったわね、佳奈子」
 少し先で立ち止まって、佳奈子が駆け戻ってくるのを待っていたエレノア・グランクルス(えれのあ・ぐらんくるす)が言う。
「うん! 機械が使えた方が、手でやるよりずっと効率いいもんね!」
 2人は話しながら現在の発掘場とはまた別の方面へ歩いて行った。
「よし。じゃあ本格的にやってみるか。
 ルシェン、アイビスも手伝って」
「ええ」
「はい」
 朝斗が何をしたいか分かった時点で、工具を借りに行っていたルシェン・グライシス(るしぇん・ぐらいしす)アイビス・エメラルド(あいびす・えめらるど)が、重機メンテナンス用工具の入った箱を手に戻ってくる。工具を手に、朝斗は破砕機の回転刃を上っていった。
 一方で、坑道の入口でカナヤ・コの到着を待って、戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)たちは中に向かって歩き出す。
「先ほどはサンプルをありがとうございました」
「いえ。ああいう物だったらいくらでも転がってるからね」
 カナヤ・コは壁にかかっていたカンテラを取って、なかに火を入れると後ろに続いている赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)柊 真司(ひいらぎ・しんじ)にも手渡した。
 坑道は運び出しのために人が2人並んで歩ける程度の広さはあるし、一定間隔でカンテラが吊るされているが、崩落を防ぐために組まれた半球型の横木や立木が角から飛び出していて、慣れない者は灯りなしに歩くのは危険だ。
「こちらで発破を用いたことはありますか?」
「比較的浅い所でなら。穿孔には使えないけど、坑道を掘るには必要だからね」
 どういう採掘方法をとっているか、カナヤ・コは簡単に説明をする。
 貫通するトンネル坑道をいくつか掘り、そこからさらに上に向かって角度をつけながら扇状に掘って、鉱石が自重で上から崩落してきたのを運び出す。いわゆるブロック・ケービング方式と言われる採掘方法である。坑内掘削で一般的なケービング方式のなかでも人手をあまり必要としない、経済的な掘削法だ。
「昔、参ノ島の技術者から教わったんだよ。参ノ島は昔から機晶石採掘が盛んだったからね。あのころはまだ参ノ島から専門家を呼んで教わるくらいの余裕はあったんだ。
 ただ、この方法だとここでは被膜岩の崩落が想像以上に広大になって……運び出している最中に二次崩落が起きて坑道が埋まってしまう事故が多発してね……」
 笑顔がいつの間にか消え、難しい顔でカナヤ・コは打ち明ける。
「それに、この深さで取れる機晶石の量はたかが知れていて。はっきり言って、赤字にしかならない。数年前に調査したとき、深部にラージで埋まっていることは突き止めたんだけど、そこまで掘り抜くことができないんだ。
 ああ、足元に気をつけて。ここから坂になっているから」
 滑り止めの木が埋められたその道は、ある一定の深さごとに左右にさらに坑道が伸びていた。奥で、崩れてきた岩をスコップで箱に移しているらしい人影が見える。
 やがて彼らは最深部の坑底へと着いた。そこには深さ約2メートル程度で、さらにすり鉢状の穴が広がっている。
「数年かけて、やっとここまで掘ったんだ」
 大きくため息をついて穴を見下ろし、カナヤ・コは壁に設置された梯子へ彼らを連れて行く。
 梯子を伝って穴の底へ下りると、破砕機による掘削の跡やハンマークラッシャーを用いた打砕の跡が見られた。いずれもひび割れや、せいぜいが1メートル弱の穴があいている程度だ。
 ここへ到達するまでの道で、小次郎は籠手型HCを用いてのデータ照合を終えていた。カナヤ・コの説明どおり、機晶石の成分はほとんどなく、浅部は片岩や片麻の中軟石だった。しかしこの最深部から採取された岩はかなりの硬度があると推定される。岩石の種類、成分、正確な硬度の数値を知るにはハイドロリックリッパなどを用いて切り出し、判定調査をする必要があるが、そこまで本格的にする暇も機材も残念ながらなかった。
「この岩盤の厚みは調査済みですか?」
 底に散らばって、それぞれ独自に岩盤の調査を始めた自分たちを後ろで見守っていたカナヤ・コに小次郎が問う。
「超音波調査によると、場所によって少し差はあるけど大体150〜200センチほどらしいね」
「分かりました」
 小次郎は打砕跡ででこぼこした地面にひざをつき、順々に穴を覗き込む。少し広げれば機晶爆弾をセットできそうな穴がいくつか見つかった。そのうちの1つを、工事用ドリルを用いてひびの入ったところから徐々に砕いていく。
 また別の所では、真司が壁に手をついて立ち、ぐるっと周囲を見渡していた。その目は主にドーム型になった天井部、そしてそれを支えるべく、側面に網の目のように組まれた支柱、梁などを伝っていく。
「こういった土木工事には素人だが、その素人目にもこれはかなり厳重に見えるな」
「振動による崩壊が起きるって言ってたわね、それを警戒してるんでしょうね〜」
 リーラ・タイルヒュン(りーら・たいるひゅん)が脇で同じように見渡す。
「生き埋めなんて冗談じゃないけど〜、でも、これって難問よね〜。この岩盤を砕かなくちゃいけないんでしょ?」ぺしぺし、とつま先で地面をたたいて示す。「まー、硬いっていったって、どーせたかが岩でしょ。しかもせいぜい2メートル。私たちだったら簡単に割れそうなもんだけど〜、ほら、イコンの外装だって砕いちゃうしぃ〜」
「そうですね」
 リーラの言葉は誇張でも何でもない。本当にここにいる全員が全力を出したら、岩盤など素手でたたき割ってしまうだろう、と思いながらヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)もうなずく。
「でも、そうすると絶対天井が崩落してくるわね〜。だからこの手は使えない、と。
 にしても、あーやだやだ。こんなとこで生き埋めにだけは絶対なりたくないわー。まだこの島の酒も飲んでないのよ〜」
 自分を抱くように腕を回して大げさにぶるっと震えて見せるリーラに、ヴェルリアは大真面目に言った。
「リーラ、それ、あまり口にしては駄目です。フラグになっちゃいます」
 そのとき、プッと吹き出す声が横の方でした。
「ああ、すみません」
 手で口元を隠しながら、霜月が謝る。
 ここはちょっとしたドームになっていて、声がよく響く。聞くともなしに聞いていたというか、聞こえてきた2人の少しコントじみた言葉がおかしくて、思わず吹き出してしまったのだ。
「力をセーブしながらやるしかないでしょうね」
 霜月も採掘場の説明を聞きつつ、いろいろ策を練ってみたが、やはり振動による崩落というのがどうにもネックで、結局力をセーブした疾風突きで周囲の音に気を配りながら少しずつ砕く方法しか思いつかなかった。
 彼の妻クコ・赤嶺(くこ・あかみね)は獣人なので、特にそういった知覚は鋭い。
「頼みます、クコ」
「いいわ、任せて」
 請け負うと、クコは抱いていた赤嶺 深優(あかみね・みゆ)を梯子の上の床に上げた。
「ここでおとなしくしてるのよ」
「えー?」
 不満いっぱいの声と表情で深優は眉を寄せ、しかめっ面になる。
「そんな顔してもだーめ。下はこれから危険になるから、あなたを置いておけないの。深優はそこでみんなを応援してて」
「深優もするー」
 あわてて下を覗き込み、戻っていく母に必死に訴えたが、クコはがんとして譲らなかった。
 ぷーっとほおをふくらませて抗議しても無駄。
「……いーもん。深優もするもん」
 獣寄せの口笛を取り出して、ププーと吹く。やがて近くの坑道からチョロチョロとネズミなど小動物が集まってきて、深優の周囲をすばしこく走り始める。それを見て、深優は声をあげて笑った。
「よかった、機嫌なおったみたい」
 下に降りたクコや霜月には深優の背中とはしゃぐ明るい声しか聞こえない。
「では始めましょうか」
「ええ」
 霜月が軽く岩盤をたたき、戻ってくる反響音をクコの超感覚で微妙に聞き分けて、厚みが少しでも薄い箇所を狙って疾風突きを打ち込んでいった。一定間隔で打ち込むそれは楔と同じ役割を果たし、ひび割れて、少しずつ岩盤を削っては穴を広げていく。
 別の所では、真司の指示でリーラが両肩から生やしたドラゴンの首ドラゴニックアームズを用いて岩盤の一点に炎を集中的に浴びせていた。
「ま〜〜〜だ〜〜〜? もうずい分経つんだけどー」
 しかし真司から「もういい」のひと言は返ってこない。
(……むーう)
「超めんどくさーいー、おなかも減るしー、もう飽きちゃったー」
「あとで夕飯おごってやると言っただろ。我慢しろ」
「夕飯だけじゃ足りなーい。お酒〜、肴2品〜、あとデザート〜」
「ああ、うるさい。分かった分かった。だからもっと火力上げろ」
「やったわ〜、今夜は真司のおごり、っと」
 働いたあとのお酒っておいしいのよね〜、とリーラはるんるんしながら言われたとおり火力を上げる。岩盤が真っ赤になったところで真司はようやくストップをかけた。
「そろそろいいだろう。
 次だ、ヴェルリア」
「はい」
 赤くなっている岩盤の中央、リーラの炎が直撃していた場所へ向けて、ヴェルリアはホワイトアウトを放つ。ただしこれは指向性のない氷結魔法のため、巻き込まれることを避けてヴェルリアが溜めをしているうちに真司とリーラは距離をとった。
「いきます!」
 ヴェルリアを中心に、フリージングブルーで強化された猛吹雪が吹き荒れる。
「よし。これを繰り返すぞ」
 積もった雪を見下ろして、真司はリーラに火炎を指示する。
 加熱と冷却を頻繁に繰り返し、表面温度と内部温度の差をつくり出そうとしているのだ。温度応力により発生するクラックを狙ってのことだろう。日常でもたまに見かける現象だが、真司はそれをリーラの火炎、ヴェルリアの氷結によって作為的に行い、あれをもっと極端にすることで生じるクラックをさらに大きく、深いものにしようとしていた。
 それを何度か繰り返した結果、やがて岩盤に深い亀裂が入る。
「やったぞ。これを細かく掘り砕いて――」
 そのとき、ズン、と足下が重く揺れた。同時に背中を押す風が吹いて、1歩2歩とよろめく。
 何事かと全員が振り返った先には工事用ドリルを装着した小次郎がいて、彼が見つめる先ではもうもうと粉塵と黒煙が上がっている。機晶爆弾を埋め込んで、そこで爆発させたのだ。
 知っていれば止めただろうが、みんな自分の方法に夢中になっていて、他人の動きまで見ていなかった。
「おい! ここは振動で崩落が起きやすいって説明を受けただろう!」
 真司の言葉にかぶさって、どこからか低い音が聞こえてきた。それは鳴りやまず、だんだんと大きくなり、空気がビリビリ振動を始める。
「みんな、急いでそこから上がって来い!!」
 カナヤ・コが上から手を振ったとき、すでにパラパラと土が降り始めていた。
「落盤が起きる! 早くそこを出るんだ!!」
「深優!」
「自分が行きます、クコは先に退避してください」
「……にゃ?」
 ネズミを追いかけて反対側の坑道へ行こうとしていた深優を霜月がすくい上げるようにして抱き上げ、カナヤ・コのいる退避場へ向かう。
 真司もまた、ヴェルリアを引っ張り寄せると同時にポイントシフトを使い、次の瞬間には彼女とともに退避場の屋根の下にいた。
「すみません。量を加減して用いたんですが、まさかここまでもろいとは思わず……」
「大丈夫だ。この程度ならここで十分もつ」
 青ざめた固い表情で謝る小次郎に、カナヤ・コは笑顔を見せて言った。
 はたして彼の言葉は正しく、落盤は起きて天井の一部が剥落し、支柱や梁の木材がいくつか土砂ごと倒れたが深刻な事態にまでは至らず、ほんの十数秒で地鳴りは収まった。
「あら〜、みごとに埋まったわね〜」
 土煙が収まるまで待ってから退避場から出て、先まで自分たちの作業をしていたすり鉢状の穴のなかを見下ろして言うリーラに
「リーラがフラグ立てようとしたからですよ」
 とヴェルリアが突っ込む。
「とにかく、掘り返そう」
 シャベルと一輪車を使って、全員で岩と土をトロッコの位置まで運び出す作業に入る。
 とんだ落盤事故だったが、そう悪いことばかりでもなかった。小次郎が埋め込んで使った機晶爆弾は岩盤の中・下部を破壊し、内部に大穴を開けていたからだ。
 結果論だが、崩落を気にしながらここまでの穴を開けるとなれば相当な時間と労力がかかっただろう。今、ここで作業しているのがコントラクターだけであったことも幸いした。軽い身のこなしで即座に退避できたからけが人が出ずにすんだ。
 岩盤さえ砕ければ、その下の地層のほとんどは機晶石を内包する岩石だ。そこを掘り進め、地上への直通ルートを作れば、ここの島民でも掘り出すことができるようになる。また落盤騒ぎとなったとしても、今度はあの厚い岩盤が屋根となり、人々を守ってくれるに違いない。
「あとひと息だ。こうなったら、地上への道もつくってしまおう!」
 彼らはさっそく行動に移った。