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リアクション
第二章 VS弓ゴブリンの群れ
とにかく天気が良い。
心地良い風を受けながら、武来 弥(たけらい・わたる)は見晴らしの良い小高い丘の上に居た。
小型飛空艇による先行、索敵、そして、味方への連絡が彼の目的だった。
巡らせた視界の中、教導団の敷地を囲む高い壁の外周を進む生徒の集団が見える。
手でも振ってみようかと思った矢先。
ふと、コース脇に存在する岩場の方へと進む奇妙な一団を発見する。
「あれは……」
良く確認してみれば、それはゴブリンの一団だった。
こそこそと隠れて生徒の先頭集団を避けながら岩場の方へと向かっている。
何体かは弓を携えている。
「こりゃあ、報告だな」
弥は呟いて携帯を取り出した。
◇
「ゴブリンと弓ゴブリンの混成部隊か」
ロブ・ファインズ(ろぶ・ふぁいんず)は弥より連絡を受け、そう返しながら目を細めた。
「おそらく、集団の側面より奇襲を仕掛けてくるつもりだろう。分かった。俺の隊で迎撃しよう――」
と、携帯の向こうで弥の様子が一変する。
「どうした? 何があった?」
ロブの問い掛けに、緊迫感に満ちた弥の声が早口で状況を並べ立てていく。
「襲撃されただと? 振り切れそうか? ――チッ」
ふいに、通信が切れる。
そばで上がる排気音。
見れば、朝霧 垂(あさぎり・しづり)がパートーナーであるライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)のバイクの後ろにまたがっていた。
「俺達がフォローに行く。おまえらの隊はゴブリンどもを頼むぜ」
ライゼのバイクの後ろに立ち乗りした格好の垂が言う。
「大丈夫か?」
ロブの問い掛けに、応えたのはライゼのはしゃいだ声だった。
「大丈夫っ! だって、垂は凄いんだよっ! 料理の味付け以外は――いたっ!?」
垂のゲンコツによって黙らせられる。
「無駄口を叩いてんな。さっさと行くぜ」
「ボクたちも行こう。右京」
バイクを鳴らしながら言った月影 メイウ(つきかげ・めいう)の後ろに橘 右京(たちばな・うきょう)が乗る。
「良いのか? メイウ殿」
「深追いはしないよ。助けたら、すぐに引くつもり」
そうして、二台のバイクが排気音を立て、土煙を上げながら駆けていく。
「よし。我々はゴブリンと弓ゴブリンの混成部隊を討つ。数はそれなりに居るらしいが、問題は無い」
そうして、ロブの指示に従い、デゼル・レイナード(でぜる・れいなーど)、セリア・ヴォルフォディアス(せりあ・ぼるふぉでぃあす)、張 飛虎(じゃん・ふぇいふー)、ロブのパートナーであるアリシア・カーライル(ありしあ・かーらいる)らロブ小隊は、ゴブリン達の出現に備えて、側面へと陣を整え前進する。
「……あぁ……メンドクセェ……」
デゼルが片目を垂れながら零した。
隣でセリアが僅かに目の端を吊り上げる。
「貴様、軍人であろう。訓練中にそのような無駄口を――」
デゼルは肩をすくめて。
「訓練? まるで集団遠足みてぇな、これが?」
「そのような認識で居るとは……」
「そんな顔すんな……ったく。美人の面が、もったいねぇ」
「びっ……」
セリアの顔が赤くなって、デゼルは「あ?」と首を傾げる。
と――。
「なあ、あんたら。そろそろだ。じゃれ合ってる暇はないぜ?」
飛虎が言って悪戯っぽく片目を瞑った。
「じゃ、じゃれ合っていたわけでは――」
セリアが抗議の声を上げようとした刹那、
「敵だ」
ゴブリンが潜んでいるのを発見したロブの声がスッと渡る。
彼の視線の先、巨大な岩が並ぶ端にチラリと見えた影。
連中なりにタイミングを計っているようだ。
そして、しばらくの間の後。
一息に岩陰から飛び出してくるゴブリン達。
数匹が弓を構えている。
その弓がこちらに狙いを定める前に。
「――撃て!」
ロブの声と共に轟く銃声。
ロブとセリアが同時に放ったスプレーショットがゴブリン達を蹴散らす。
上がる連中の悲鳴と立ち込める火薬の匂い。
そして、寸分の隙も与えずにロブの鋭い声が連なる。
「前衛、出ろ!!」
ロブの号令と共にデゼル、アリシア、飛虎が駆け出していく。
泡を食ったゴブリン達の放った矢がでたらめな方へと飛んでいく中、
「ロブの進む道は私が切り開く!」
連中の懐へ踏み込んだアリシアの剣がゴブリンを薙ぐ。
「イイ気合だぜ!」
飛虎が己もゴブリンを薙ぎ飛ばしながら笑う。
次の矢をようやく構えて放とうとしたゴブリンを裂いて、アリシアが目を細める。
「ロブを守り抜いてこの戦闘訓練を無事成功させます。こんな所で終わってしまったら何の為に私が居るのか分からなくなるから…」
飛虎はドラゴンアーツを用いて距離の先に居たゴブリンを打ち倒し、すっきりと笑った。
「確かにこんな所で終わってられねぇ。なにせ、俺はまだ皆にきちんと挨拶もしていない!」
その奥、ゴブリンの屍骸を超えて、デゼルの槍が未だ状況に混乱しているゴブリンを貫く。
「……あぁ……しかし、メンドクセェ……」
その彼らの統一された動きの前に、数の差など意味を成さなかった。
ゴブリン達はまともな反撃を行う事すら出来ずに駆逐されていく。
「圧勝だな」
前衛三人の手を逃れるゴブリンを狙い撃ちながらセリアが呟く。
ロブは周囲に油断無く銀の瞳を走らせながら、頷く。
「当然だ。我が家名に掛けてもこんな所で躓く訳には行かないからな」
◇
砂煙を上げて走る小型飛空艇の周りを飛んでいたのは、羽の生えたトカゲのようなモンスター二匹だった。
「クソッ、しつこい連中だぜ!」
それらは弥の周囲にまとわりついて、代わる代わるに弥へと攻撃を加えてくる。
高度を稼ごうとしても邪魔をされるので、ギリギリの低空を飛んでいた。
時折り、ガツンガツンと隆起した地面に底を擦る。
弥はグラつく意識を堪えようと歯を食い縛って、ハンドルを握り直した。
そこへ。
射撃音。
次いで、光の鞭先が舞う。
弥の周りを飛んでいたトカゲ一体が弾丸に叩き飛ばされ、鞭に絡まれたもう一体は地面へと叩き付けた。
「武来ッ!」
垂の声が飛ぶ。
見れば、軍用バイクにまたがった垂、ライゼ、メイウ、右京が居た。
こちらに向かってきていた彼らは、弥の飛空艇の前方で土を削りながらUターンをし、弥と並走する形になる。
「間に合ったね」
メイウが小さく笑う。
弥は口に溜まった血を吐いて口端を上げた。
「……助かったぜ」
「安心するのはまだ早い。見た目よりしぶといようだ」
メイウの後ろで後方を見やっていた右京が、そう言いながら剣を抜く。
その視線の先では、さっき垂とメイウの攻撃を受けたトカゲが追って来ていた。
「治療はまず逃げ切ってからだな、振り切るぜ」
「うんっ!」
垂の言葉に、ライゼは嬉々と頷きながらアクセルを握り込む。
追ってきたトカゲへと垂が再び光条兵器を振るう。
が、トカゲは、それを掻い潜って垂を狙う。
「ライゼッ」
「――っ!」
ライゼが垂が身体を振った方へと、思い切り重心を投げて、車体を傾けさせる。
垂の身体を掠めたトカゲが勢い余って、側面を走る岩壁にぶつかった音。
一方。
右京の振るった剣がもう一匹のトカゲを牽制していた。
トカゲを掠って振り下ろされた切っ先が、地面に擦れて土つぶてを巻き上げて、石に当たれば火花を散らす。
メイウの操るバイクが岩壁の方へと寄って行く。
「右京――潜るよ」
メイウが短く言った言葉に、右京は素早く反応した。
身を屈める。
頭上を掠めて過ぎて行ったのは壁の出っ張り。
キシャ、とトカゲがその出っ張りにぶつかった音。
「うむ……巧くいったようだ」
右京は軽く視線を巡らせ言う。
メイウが微笑みを浮かべ頷く。
「じゃあ、このまま逃げてしまおう」
そして、二台のバイクと一台の飛空艇はモンスターを置き去りに駆けて行く。
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