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リアクション
第三章 ゴブリンの群れ、再び
「フォーク様……お加減は?」
フォーク・グリーン(ふぉーく・ぐりーん)のパートナーのシェラ・ザード(しぇら・ざーど)はヒールを終え、フォークの方へと顔を上げた。
フォークは先の戦闘で受けた傷が癒えているのを確認するように、軽く身体を動かし、頷く。
「問題ない。有り難う、シェラ。そなたのおかげで、また戦えよう」
「もう一戦が、あると?」
「わからん……が、警戒しておくに越した事はあるまい」
言って。
フォークは、その精悍な銀の瞳を周囲に巡らせた。
ゴブリンの群れを駆逐し、エレーネを中心とした先頭集団は、ひとまず平穏だった。
「この辺りに学食があります」
この間を使って、エレーネがコースを進みながら教導団施設の説明をしていた。
「あの……」
奈宮 龍希(なみや・りゅき)が、傍で少し困ったような声を漏らす。
「この辺りには一年生の校舎があります」
その様子に気付かないようにエレーネは続けていた。
「ええと……」
白山 狐一(しろやま・こいち)はエレーネの指した方を見やりながら、やはり龍希と同じように少し困ったような声を漏らした。
「そして、あの辺りに女子寮が……」
「エレーネ様」
狐一が意を決したように言う。
「はい?」
エレーネが首を傾げる。
「見えません。壁が在って」
狐一が指差した先、教導団の敷地を高い壁が取り囲んでおり、確かに中の様子は一切分からなかった。
エレーネは表情無く言葉を止め、数秒後。
「なるほど」
頷いた。
狐一と龍希が軽い溜め息を零す。
「でも、大丈夫です」
やわりと微笑みながら言ったのは宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)。
「あの壁を女子寮だと思いますから」
「いや、それは少々無茶なフォローだと思うが」
龍希が片目を細めて小首を傾げる。
「あら、そう?」
「そうですよ、もう、お姉さまったら」
セリエ・パウエル(せりえ・ぱうえる)がころころと笑いながら祥子の腕に抱きつく。
「セリエまで。ああ、そんなことより、先輩に聞きたい事が……」
祥子は腕に絡んだセリエをそのままに両手を合わせ、エレーネの方へと向き直った。
「科の所属によって任務への参加で選抜があると有利不利がありますか?」
「そのような事があるとは聞いていません」
「教導団の設立に中国の公司が関わっているけど、ここは人民解放軍の出張所?」
「そのようには聞いていません」
「じゃあ、教官の人となりを簡潔に表すと?」
「努力の人です。そして、私にとってはこれ以上に無いパートナーであると言えます」
「なるほど。あと、教官のいう豪華ディナーって何ですか?」
「機密事項に抵触します」
「…………」
「…………」
微笑みながらエレーネを見る祥子と、無表情でそれを見返すエレーネ。
「……何か面白いですね。このお二人」
はたで見ていた狐一が、ほつりと言う。
「確かに、二人とも何処か変わっているな」
龍希が腰に手を当てながら小さく言って、
「お姉さまは『少しだけ』です」
傍らでセリエが軽く口を尖らせた。
と、フォークの声が飛ぶ。
「敵だ!」
前方。
彼の言う通りに再びゴブリンの群れが現れていた。
「セリエ!」
「はいっ、お姉さま!」
祥子とセリエはすぐに自分達へ女王の加護を使い、武器を構え駆け出して行く。
その後を剣を構えた龍希が追う。
「機会を逃したか」
舌を打ちながら、八神 夕(やがみ・ゆう)は戦闘が行われている方へと駆けていた。
エレーネに剣の扱いについて教えをこおうと思っていたのだが、第一波目の群れの残党を狩っている間に、次の戦闘が始まってしまっていたのだ。
視線の先にはゴブリンと交戦している教導団の生徒達が居る。
「残念だった?」
隣を行くシルビア・フォークナー(しるびあ・ふぉーくなー)が微笑む。
「まあな。しかし、今は実戦が何より有り難い」
そう言って夕は、龍希と交戦中のゴブリンへとリターニングダガーを放ってそれを仕留める。
倒れ行くゴブリンの向こうで、龍希が軽く目を瞬かせながらこちらを見て来た視線と目が合う。一瞬ばかり。
それから龍希からの礼が聞こえたが、夕はそれには応えず、次の獲物を求めて視線を走らせていた。
そして、夕はダガーが手元に返ると同時に、狙いを付けた敵の方へと駆けて行く。
シルビアは戦場を駆る彼の背中を見送って、うっすらと艶やかに微笑み、彼を援護すべく火術の動作へと入った。
シルビアの放った火。
それに焼かれたゴブリンをフォークの剣が裂いて、とどめを刺す。
フォークは事切れたゴブリンの屍骸を、迫るもう一体の方へと蹴り飛ばして、身を返しながら別のゴブリンへと剣を振るった。
フォークが蹴り飛ばした屍骸に動きを阻害されたゴブリンの側頭部を、八神のリターニングダガーが刺し貫いて、それが再び八神の手元へと返って行く。
そして、フォークと交戦中のゴブリンを焼き払うシルビアの炎。
炎に塗れるゴブリンをフォークの剣が切り捨てる。
龍希は彼らの戦い方を目の端に捉えて、短く息を零した。
「隙のある敵や弱った敵から、か……」
確実に敵の数を減らすように動いているわけだ。
そういう戦い方もある。
ふいに、龍希の横を祥子が駆け抜ける。
そして、言い残して行く。
「防衛システムが近いわ。射程に入らないように気をつけてね」
「お姉さま、待ってくださーい!」
祥子の背をセリエが槍を構えた格好で追っていく。
龍希が見遣った向こう、確かにコース端に防衛システムが佇んでいた。
「また、ありましたね」
狐一はエレーネと共に戦闘域から身を引きながら、端の方に佇む防衛システムへと目を細めた。
「現在は敷地周辺に10機近くが配備されています」
エレーネが言う。
「あれが10機も……」
シェラがホーリーメイスを構えた格好で呟く。
「例え、1機でも。レベルを抑えてあるとはいえ、現在のあなた達の力で相手をするのは推奨できません」
近づかなければ、あちらから仕掛けてくる事は無いのだと知っていても、背にスゥと冷や汗が伝う。
狐一は短く息を付き。
「穏便にすみますように……」
小さく祈った。
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