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夏風邪は魔女がひく

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夏風邪は魔女がひく

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第1章


 どんどん感染者が増えていく図書館。違和感を感じる人も少しずつ出てきてしまっている。


 首を捻りながら図書館にやって来たのは如月 陽平(きさらぎ・ようへい)
「どうしてうまくいかないのかなぁ? 肥料もちゃんと家から送ってもらったヤツだし、やっぱり特殊な土地なのかなぁ? とりあえず、この土地の農作物栽培の本とかあれば良いな」
 イルミンスール魔法学校の敷地、その片隅に誰にも見咎められる事なく小さな畑を作っている陽平。大きな問題である肥料関係の本を探しに来たのだ。
 図書館に一歩足を踏み入れると、そこではデカ過ぎる蚊が飛び回り、パニックに。
「な、なんとかしなくちゃ! う〜ん……そうだ!」
 何を思ったのか今来た道を急いで戻っていき、もう姿は見えない。


「ふ、ふわぁ〜。なんか五月蠅い?」
 図書館の奥。誰にも邪魔されずに、平和に眠れる場所だと思って昼寝をしていた五月葉 終夏(さつきば・おりが)は変な声に起こされた。
「い〜っくしょんウッキー!」
 目の前を変なクシャミをしながら本を棚に戻す人が通る。少し離れた所では棚と棚の間を気味の悪い巨大な蚊が通った気がした。
「……」
 呆然とした後、急いでポケットからハンカチを取り出し、口と鼻を覆う。
「面倒な事になってるみたいだし、もう少し様子をみようかな」
 そう言うと終夏は更に図書館の奥へと身を隠した。


「どうしよう、どうしよう、どうしよう……いっぷしょんウッキー」
 どんどん騒ぎが大きくなっていく事態に地面に座り込んだまま、おろおろする魔女のホイップ。
「おい、あんた大丈夫か? だいぶ顔色悪いが。とにかくこの中は変な蚊が動き回ってるし、安全なところに避難しようぜ」
 そう声をかけてきたのは目つきは鋭いが可愛い緋桜 ケイ(ひおう・けい)
「でも私のせいで……へっきしょんウッキー。だからなんとかしなくちゃ。有難うございます、ウィッチのケイさん」
「……俺はウィッチじゃねぇ! ウィザードだ! 男なんだぁ!」
「へっ?」
 あまりにビックリして一瞬言葉を失う。
「おぬしの外見では仕方ないのだよ。それより、そのクシャミ……『くっしゃみサルーン』であるな。ふむ……薬の材料はあるのか?」
 目を光らせケイの後ろから現れたのはケイのパートナーである悠久ノ カナタ(とわの・かなた)
「あ、それ私も知りたいですぅ……っくしゅんウッキー」
 いつから居たのか会話に口を挟んできたのは図書館で勉強中だったソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)。その隣ではまだ眠そうな大きな白熊ヌイグルミ雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)がパートナーと同じくクシャミをしている。
「ご主人と同じく、俺様も知りたいクマっしょいウッキー!」
「なんでクマとサルが混合したはるんや!」
 誰もが目を反らし、肩を震わせていた言葉にツッコミを入れてきたのは、どこから出てきたか解らない烏丸 剣蒔狼(からすま・けんじろう)
「ごほん、話を戻して……薬の材料ならここにぃっくしょんウッキー」
 ホイップは自分の脇に置いてある皮袋を広げて見せる。その中には何に使うか解らない材料が沢山入っている。コウモリの鼻、マンドラゴラの粉末、シーラカンスの干物、青いキャンディー、その他諸々。それらを目を輝かせて見ているのが一人。
「……ああ、なんだか……わらわも熱があるようなぁ。ういっくしょいウ、ウッキー」
 なんとも嘘臭いクシャミをしながらカナタがケイを見つめる。
「何!? 急いで調合しなければ! どうやってやれば良いんだ?」
 ケイがホイップへと詰め寄る。
「それが……調合はこの本に書いてあるし、必要な器具も余分に持ってるから誰でも作れるんだけど……あの体液も必要なの。ひっくしょいウッキー」
 “あの”と指差した先にあるのは元気よく行ったり来たり棚の間を飛び回っている巨大蚊(ジャイアント・モスキート)。
「それなら私が――」
 言うが早いか片手に光条兵器の剣、もう片手に普通サイズの虫取り網を持って追いかけて行ったのは水神 樹(みなかみ・いつき)。どうやら会話を横で聞いていたらしい。
「って、その虫取り網のサイズじゃ無理さかいに!」
「へっ? ……それもそうですね」
 剣蒔狼に突っ込まれた樹は自分の持っている虫取り網を見て納得し、すごすごと帰って来た。
「あっちで私達の話を聞いていた人達が蚊を捕る準備をしてるみたいですから任せてはどうでしょう? ……っくしゅんウッキー」
 ソアが言った通りホイップ達から離れた場所ではなにやら準備をしている人達がいる。
「とりあえず今ある材料だけ先に調合しようよ。蚊の体液が来たらすぐ薬が完成する様にね」
 目をキラキラさせて皮袋を覗いていたカレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)がそう提案する。
「ほな、俺が本持っとくわ。ホイホイが持ってると無くすやろし」
 日下部 社(くさかべ・やしろ)が、ホイップに対しておかしなあだ名を呼びながら本を取り上げる。
「俺様も手伝うぜぇ……っくしょいウッキー!」
「ほらほら、そんなに動き回ると悪化しますよ」
 おこさまデズモンド・バロウズ(でずもんど・ばろうず)が両手を上げながら飛び出してくると、それを優しく諌めるようにして出てきたのは穏やかな微笑を湛えたアルフレッド・スペンサー(あるふれっど・すぺんさー)
「なら、わたくしが調合の指揮をしまひょ」
 今までツッコミしかしていなかった剣蒔狼が名乗りを上げると、それを機に安全なところへ移動して調合が始まった。


「ふえっくしょんウッキー。私もどうやら感染してしまったようですね」
 本に夢中になっていたら、いつの間にか周りと同じようにクシャミをするようになっていたのは春牧 すぐり(はるまき・すぐり)
 おもむろに携帯を取り出すと慣れた手つきで友人の番号を呼び出す。
『はい、もしも〜し。なぁに? すぐるん』
 良い声で電話に出たのは屋上で歌っている最中の響希 琴音(ひびき・ことね)
「実は……」
 一通り話終わると携帯をポケットに戻す。、
「他の人にうつすわけにはいかないしな。手伝えそうな事もないし、大人しく薬を待とう」
 そして自分は図書館の中で誰も居なさそうな場所を探して移動する。