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臨海学校! 夏合宿!

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其の四 14:00 海の魔物と来ればお宝だろ!!?


「さてと、テント班や料理班を裏切ってよく来てくれた!!同士諸君!!お宝めざして楽しもうぜ!!」

 犬神 疾風(いぬがみ・はやて)は場を盛り上げようと、拾ったメガホンで集まった幾人かに向かって声をかけた。

「あはは、犬神君おもしろい〜!」
「面白いとかそういう問題ではないと思いますよ、光……」

 面白がって拍手する陽神 光(ひのかみ・ひかる)をたしなめるように声をかけるのはパートナーのレティナ・エンペリウス(れてぃな・えんぺりうす)だ。二人とも蒼空学園の校章入りスクール水着を着ていた。

「大体、裏切ってないしね……私達は海の脅威対策と、お料理班と協力してお魚を捕るっていう、崇高な役目があるのよ?」

 茅沼 皐月(かやぬま・さつき)ため息混じりに、拾った双眼鏡を使って、遥か水平線に視線を向けた。砂浜の向こうの水平線はもやがかかっていてよく見えない。海も波打ち際の様子から、水が澄み切っていることは分かるが、さすがに中に入ってみないことにはなんともいえないが、危険な生物がいるかもしれない関係上、うかつに入る事はできない。
 赤と白の競泳水着にパーカーを羽織った葛稲 蒼人(くずね・あおと)とそのパートナー神楽 冬桜(かぐら・かずさ)は同配色の競泳水着を着ていた。二人は運よく見つけた自分達の鞄から、ウェットスーツを取り出して着込み始める。

「とりあえずは、海に潜ってみないことには始まらないわね?食材の魚も探しに来てるんだし……」
「俺達はウェットスーツに着替えて、海に潜ってみるぜ。シュノーケルもあるから、そこそこ潜れるだろ。コレ、一応わたしておくな」
「コレはなあに?」
「タイマーつきの防水腕時計だ。もし洞窟とかがあったら、スイッチを入れると時間を計れる。5分経っても俺が戻ってこなかったら、みんなに知らせてくれ」
「ボクも行くよ。マスターがスキューバダイビングやりたいっていってたから、荷物の中にあったんだ。ただ酸素ボンベだけはなくなっちゃったみたいだから、シュノーケリングになっちゃうけど……」

 桐生 円(きりゅう・まどか)も彼らに習い、身支度を始める。桐生 円のパートナーでありマスターと呼ばれているオリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)は既に身支度を完了して海を眺めていた。

「よかったぁ、私心配してたのよ」

 黄色のボーダービキニの上に揃いのタンキニ・パンツを着た蒼空寺 路々奈(そうくうじ・ろろな)はほっとしたように葛稲 蒼人に声をかけた。不思議そうな顔をする彼に、蒼空寺 路々奈はとどめの一言を付け加える。

「目のやり場に困ってたんだよね。ダメだよ、君。ちゃんと女の子用の水着着なきゃ……」
「お、俺は男だああああ!!」

 神楽 冬桜はパートナーの其の様子をくすくすと笑って眺めていた。蒼空寺 路々奈のパートナー、ヒメナ・コルネット(ひめな・こるねっと)は花柄セパレートの上に揃いのキャミソールにランニングスカートというかわいらしい姿で波打ち際から海を凝視していた。彼女が事前に集めた情報は、先に清泉 北都が口にしたものとほぼ合致していたが、情報を確認すればするほど不安が生まれて小さくため息をついてばかりだった。オリヴィア・レベンクロンはヒメナ・コルネットの肩を叩いた。

「コルネット……あまり深刻に考えすぎちゃ、だめよ〜。赤信号は、みんなでわたれば怖くないって、地球の言葉にあるからね〜」
「は、はい。そう……ですね」
「それじゃ、罠をぱぱっと作っちゃお〜!お魚さんも取れるし、棚から牡丹餅ってやつだよね!」
「光ちゃん、それを言うなら一石二鳥ですよ〜……」

 騎沙良 詩穂小さな声で突っ込みを入れつつ、手際よく準備を開始する陽神 光の指示の下、罠作りを開始した。料理班も無関係ではないということで、少ない道具を用いて網や縄を編み上げていく。小一時間もすると、先ほどまでみんなで乗っていたバスの大きさくらいの網が出来上がり、縄も太く立派なものから、細く丈夫なものまで仕上がっていた。
 所変わって、海の中に偵察に行った葛稲 蒼人と神楽 冬桜、桐生 円とオリヴィア・レベンクロンは、青い海の中にある幻想的な光景の中に、彼らの冒険心をくすぐるものを見つけた。沖に2〜3キロといったところだろうか、深さ自体はさほどない場所にそれはあった。

 沈没船だ。

 あたりを警戒しつつ、葛稲 蒼人と桐生 円が内部を確認しに行った。中はほとんどががらんどうで、時折生活観のあるものが浮遊しているだけだった。小さな魚の群れが逃げ出したり、海草がところどころから生えていたりと、とてつもなく古く、ただの沈没船であるだけで金銀財宝がある、というわけではなさそうだった。
 だが、それを見つけた。
 まるでスポットライトが当たっているかのように、割れた天井から日の光が丁度良く差し込んでいたそこは玉座のようで、それは鎮座していたのだ。
 虹色……そう表現することしかできない、大きなほら貝。クリスタル、いやダイアモンドで作られたかのような透明感のある煌きは、類を見ない美しさがあった。両手を広げたくらいの大きさがあるそのほら貝は、波が揺れるたびにその彩を変え、輝きを彼らに見せ付けた。
 
 葛稲 蒼人と桐生 円はひとまずそれぞれのパートナーと共に陸へ戻ろうと合図を出し合った。そのときだ。


 沈没船の外で警戒をしていた神楽 冬桜の腕で、アラームのメロディが鳴り始める。彼女の耳には届かなかったが、光始めたのに気がついて、アラームを止めようと腕時計に指先が触れようとしていたとき、彼女の足に、何かぬるっとしたものが絡み付いてきた。
 次の瞬間、足にあった不快な感覚は消えうせ、気がつくと体中の感覚が消えうせていたのだ。オリヴィア・レベンクロンが気がついたときには既に遅く、神楽 冬桜の身体は痙攣を起こしていた。その異変の主を神楽 冬桜の足元に見つけた彼女は、手にしていたワンドから魔法を生じて【半透明の何者かの腕】を攻撃したが、その腕はすぐに引っ込められて、その主の姿を見つける事はできなかった。
 けが人を連れて、すぐさま水上を目指している姿を、桐生 円は見つけてそれを追った。葛稲 蒼人はあまりの驚愕によって、少しばかり水を飲んでしまうも同じく陸に上がった。

「大丈夫です。少し水を飲んだだけで、麻痺もそんなに症状がひどいわけではありません」

 すっかりこの合宿での救護班が板に付いた四方天 唯乃は一番最初に立ててもらった日よけだけのテントの中に、ビニールシートを敷いてそこに神楽 冬桜を寝かせていた。手伝いをするエラノール・シュレイクは冷たい飲み物を偵察班のメンバーに振舞ってくれた。

「あまり、浮かれ気分でもやっていられなさそうだな」

 お見舞いに救護用テントを訪れた瀬島 壮太は深くため息をつきながらそういった。
 ベア・ヘルロットも、鼻を鳴らして自分が作ったおとり用の罠を手に、さらに入念なチェックをし始めた。カレン・クレスティアは自らのワンドを握り締め、精神を集中させるため、波打ち際に座り込んで目を閉じていた。そこへ、パートナーのジュレール・リーヴェンディが心配そうな面持ちで現れた。

「カレン……私は」
「大丈夫、ジュレ。お宝はちゃんとあるんだもの。それで、ボクがジュレを直してあげるからね?」
「じゅーちゃん、言ってあげなさいよ。カレっちが怪我するのが心配なだけで、どこも悪くないんだって」
 
 茅沼 皐月は、ジュレール・リーヴェンディの肩口からひょっこり顔を出した。

「茅沼皐月……」
「え、どういうこと?ジュレ壊れてるんじゃ……」
「機晶姫だって、ストレスがたまるんだね。カレっちを心配しすぎてるだけなんだよ、ね?じゅーちゃん」
「……私は、カレンが怪我をするのを見るのは耐えられません。無論、神楽冬桜に怪我をさせた魔物も許せません」
「うん……うん!ジュレ、皐月!がんばろう!!」

 禁猟区だけでは心もとない可能性があると見て、囮役のベア・ヘルロットと騎沙良 詩穂は葛稲 蒼人たちからウェットスーツを借りて挑むこととなった。
 沖合いまで行かなければあの魔物には出くわさないということで、料理班は海岸沿いで地引網や釣り、仕掛け網で魚を捕ることとし、それらを回収し終わった後に大きな罠を仕掛けることになった。

 同じ頃、食事班の水調達班は、森に行かなくても水は砂浜で採取できるということで、早速砂浜を掘ることにした。宮本 月里、フィリップ・アンヴィール、如月 日奈々、ジェイコブ・ヴォルティ(じぇいこぶ・う゛ぉるてぃ)の四人だった。テント班のメンバーが、流木で大きなスコップを作ってくれた。フィリップ・アンヴィールがかまどの位置から程近い場所を決め、ジェイコブ・ヴォルティが深く掘り始める。子供用のビニールプール程度の広さ、深さは彼の胸の高さほどの穴の中に、次第に水が湧いてくる。ジェイコブ・ヴォルティが水に触れないうちに出てくると、すぐさまそのプールはいっぱいになった。如月 日奈々は指ですくい、舌先で舐めてみた。確かに、塩気は感じられない。

「ホントにしょっぱくないんですねぇ……念のため煮沸して、冷まして……小石や砂や炭が入った浄化装置を通せば大丈夫……なんですか?」
「俺は詳しくないからなんともいえないが、経験豊富な人間が言うのだから、間違いないだろう。ひとまず、調理用の水を運ぶのにコレを使おう」

 ジェイコブ・ヴォルティが持ってきた、ごみ用のビニール袋にある程度水をつめて、マティエ・エニュールが作り上げたかまどにかけた、大きな鍋に水をあけ、煮沸消毒を開始した。
 鍋はいくつもあり、順次消毒をして待機していれば、全ての鍋に飲料水が満たされるころには食材の準備も整うだろう。

「あとは、森組と海組が食材を持ってくるのを待つばかりだな」
「葉っぱのお皿とかも、持ってきてとしいですねぇ〜」



 沈没船から離れた方向の割と浅いところを、ランスを持って潜っているのは黄色地のビキニを着たユーニス・シェフィールド(ゆーにす・しぇふぃーるど)だった。モニカ・ヘンダーソン(もにか・へんだーそん)は水色のフリルが付いたワンピースに浮き輪を抱えてパートナーの様子を眺めていた。ユーニス・シェフィールドはある程度の魚がランスに刺さると、パートナーの持つ網に放っていく。
 神楽坂 有栖やミルフィ・ガレットもコレに加わって、海藻類を拾い集めていた。

「ユーニスさん、そろそろいいんじゃないですか?」
「ぜーんぜんったりないよ〜!もっといっぱい取らないと、お代わりできないじゃないか〜!」
「ユーニス、あんまり取りすぎたら、お魚さんがかわいそうだからね……」

 モニカ・ヘンダーソンが集めた魚を、神楽坂 有栖が海水で一度洗いなおし、ミルフィ・ガレットが料理班の待つかまど周辺へと魚を持っていった。
 その手伝いをする水着コンテストのメンバー達は、料理班の手伝いで素潜りをして中身のある貝殻を、そして珊瑚のかけらを集めていた。何に使うかを知るのは、皇甫 伽羅と、彼女の手帳の中だけである。