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臨海学校! 夏合宿!

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其の七 18:35 白い月の輝く海で


 夏に入っているというのに、パラミタ大陸の空は薄暗くなってきた。白い月が空に輝いている。
 囮役の騎沙良 詩穂はあくびをかみ殺しながら、ベア・ヘルロットは鳴り響くおなかを押さえながら敵を待っていたが、一向に現れない。
 少し前、桐生 円とオリヴィア・レベンクロンが再び沈没船に向かって出かけたところだ。もう一度向かえば、魔物が姿を現すかと思ったのだ。
 だがその様子はなく、遠くからおいしそうなにおいと、楽しげな声が聞こえる。準備が着々と進んでいるのだろう。綺麗な旋律が聞こえる。誰かが楽器の練習を始めたらしい。キャンプファイヤーが楽しみだなぁ、誰もがそう思っていた。

「いい加減諦めるか。今晩さえしのげればいいんだし……」

 瀬島 壮太がそういいかけが時だった。巨大な海蛇が飛び出してきた。騎沙良 詩穂はパートナーに目で合図すると、すぐさまバーストダッシュで空へ飛び上がった。二人は天高く舞い上がると、武器に意識を集中した。

「「はあああああああっ!!」」

 夜空に舞う二人は、重力を利用して巨大海蛇に切りかかる。海蛇は彼女達のツインスラッシュで見事に6枚におろされた。海は一瞬だけ、その血しぶきで赤く染まる。まるで海上の演舞をしていたかのように、二人は回転しながら着水する。
 だが、ほっと息つく間もなく、その海蛇の残骸は何か半透明の触手につかまれて海中へと沈んでいった。穏やかだった海が急に盛り上がってきた……言葉の通りの表現しかしようがない。月の光に照らされて、海水をと共に浮かび上がったのは、巨大なくらげの姿だった。ふよふよとしたその容貌は、見ているだけなら娯楽として十分な魅力を持っていたが、この大きさと引きずり込んだ海蛇を胎内に取り込んでいく様を見てしまってはそうもいえない。
 幾重にも張り巡らせた魔物用のトラップを引きちぎりながら、いくつもの腕を振り回し、ベア・ヘルロットを払いのけ、騎沙良 詩穂を空中へと叩き上げた。

「きゃあああああああ!!」
「ぐはああっ!!」
「ベア!」
「詩穂っ!」

 海に落とされたベア・ヘルトットは水面から顔を出し、無事を伝えるために手を上げたが、その表情は苦痛にゆがんでいるのがマナ・ファクトリには見えた。セルフィーナ・クロスフィールドはすぐにその輝く翼をはためかせ、騎沙良 詩穂を空中でキャッチした。

「セルフィーナ様、もう一度ツインスラッシュで攻撃を……っく」
「無理しないで、今下ろすから……」

 そう声をかけあう二人をくらげの触手が二人を空中で掴んだ。ぬるっとした触手が、水着姿の二人の悲鳴を無視し拘束していく。ぬめりがその身体を拘束するのが難しいのだろうか、職種は二本、三本と増えて乙女の柔肌を締め付けてその粘液で汚していく。それを見てベア・ヘルロットは鼻血を出してその場に倒れていた。

「お、お、俺に任せろっ!!」

 罠とつながる巨大ロープの上を、剣を握り締めて駆け込んでいくのは鼻血を押さる犬神 疾風だ。瀬島 壮太もその後ろを追い、カレン・クレスティアは呪文を口ずさむと二人を捕らえる触手に向かい火の玉を放つ。
 攻撃により緩んだ触手から何とか逃げ出した騎沙良 詩穂とセルフィーナ・クロスフィールドは体制を整え直し、互いの武器を構えて再び技を発動させようと意識を集中させた。
 だが巨大くらげはそのふよふよした頭から水鉄砲を繰り出した。全員運よくよけたが、砂浜に大穴が開いてしまうほどの威力は、まさしくこの巨大くらげがバスを襲った張本人であることを物語っていた。
 幾人かの背筋は冷たく冷えていた。
 そこへ、桐生 円とオリヴィア・レベンクロンが、ようやく見つけたほら貝を持って上がってきた。

「マスター、コレを吹けば奴は倒れるんですね?」
「そうよ!さあ吹きなさい!!」(たぶんだけどね)

 オリヴィア・レベンクロンの心の中の呟きはさておいて、浅瀬にたどり着いたところで桐生 円はほら貝に向かって息を目いっぱい吹き込んだ。

 ぼえええええええええええええええええええええええ

 耳が壊れてしまうような暴音に誰もが耳をふさぐのを最優先とした。縄の上を駆けていたのを思い出した犬神 疾風と瀬島 壮太はいきなり止まって海の中へとひっくり返ってしまった。そんな中、巨大くらげはまるで楽しげな音楽が聞こえてきたかのように、フルフルと身体を震わせて触手を揺らし始めた。
 そこへ、ユーニス・シェフィールドと、モニカ・ヘンダーソンが駆け込んできた。

「攻撃を止めて〜〜〜!!!!」
『私達からもお願いです』

 第三者の、歌うような声が響き渡って始めてその場にいたものたちは手を止め、足を止めた。声の主は、くらげの触手にいとおしそうに触れていた。その姿は白い月明かりに照らされて輝くエメラルドグリーンの鱗を持った、美しい人魚だった。

『この子は、この海の守り神なんです。今はまだ子供ですが、お腹を空かせて、気が立っていただけなのです……』
「そ、その人……さっき、岩場で知り合った人魚さん」
『そのほら貝は、もしもの時この近隣に住む一族の方に、この子を押さえていただくためのものなんです』
「ほら貝がね……それにしても、それがお宝?」

 清泉 北都に言われて初めて全員がお宝のほら貝に目をやったが、それはただのどす黒い色をしたほら貝だった。海の中で見た透き通る美しさは、どうやら海の中でしか現さないほら貝のもう一つの姿のようだ。
 誰もがそれを見て肩を落としたが、その代わりにと、人魚は仲間を呼び、くらげに与えるつもりだったらしい食事用の魚を持ってきてくれた。

『近々にここで合宿があると聞いて、このあたりの魚を取らないよう言い聞かせて、私達は離れた海に魚を取りに行っていたのです。それが、こんなことになってしまうだなんて……』
「冬桜も、ひどい怪我じゃなかったし、俺は構わないぜ?」
「お魚がもらえるなら、それで私達は構わないしね」
「セルフィーナ様、詩穂もぜんぜん大丈夫です。どう思いますか?」
「詩穂が言うのなら、言うことはありません」
「そうだ!仲直りのしるしに、くらげさんや人魚さんも一緒に晩御飯食べない?」

 陽神 光は満面の笑みを浮かべてくらげに話しかけた。レティナ・エンペリウスも桐生 円が持つほら貝に触れて、にっこり微笑んだ。

「このお宝、皆さんはどうしますか?」
「聞くまでもないわね。海の中で輝くなら、輝く場所にあるのが一番だわ」

 茅沼 皐月の言葉に、誰もが頷いていた。


其の八 19:00 キャンプファイヤーで一番星!!

 テント設置地域から離れた海辺の岩場……そこは人魚とくらげも食事に参加するのにはうってつけだった。
 魔法を使って、峰谷 恵(みねたに・けい)は人形を作り出して彼らにファイヤーダンスを躍らせながら組み上がった木材に点火した。それを眺めていた者たちは感動の声と拍手を送った。

「えへへ、成功したみたいで良かった〜、本郷、クレアさん、次お願いね〜」

 前座としての役目を果たし、満足げに峰谷 恵は言った。スクール水着にパレオを巻いた変わったスタイルでは合ったが、彼女が最も変わっていたのはその巨大なМカップを無理くり押さえ込んでいたからだ。本郷 涼介のパートナー、一見するとドレスのように優雅なパレオを身につけた水着姿のクレア・ワイズマン(くれあ・わいずまん)は、フルートの手入れをしながら心配そうに声をかける。

「恵殿……それ、苦しくないのですか?」 
「あ、ああ……ウェストにあわせたら、きつくなっちゃったみたい」
「ど、どんだけでかいんだそれ……」

 本郷 涼介は半ば呆れ気味に言うと、改めて自分達のくみ上げたキャンプファイヤーを見上げた。テント班から分けてもらった素材のおかげで、思っていた以上のできばえになった。しかも火をつけるときのパフォーマンスが良かったのか、誰もが大喜びしているようだった。
 続々と料理が配られ始めていく中、本郷 涼介はパートナーと共にBGМ代わりにオカリナとフルートで演奏を始めた。

「おいおい、そんなにがっつくなよ!コラ!列を乱すな!!!並べない奴はカレー抜きだぞ!!」
「パンもありますよ〜、ちゃんと全員分ありますからね〜」

 赤月 速人やアスタ・クロフォードが配膳係を買って出ながら、魚介類が豊富にそろったバーベキューも大好評であった。そして、フィル・アルジェントが作った鍋の前にも人だかりができていた。ただ色が紫色……中身は濁っていて何が入っているのかは口にするまで分からない闇鍋状態であった。なのに不思議とかいだこともないおいしそうな匂いが漂っていた。

「私の班に、あなたのような料理上手な方がいたなんて、とても幸福ですよ」

 明智 珠輝(あけち・たまき)は黒のTバック姿でうそ臭い笑みをフィル・アルジェントに振りまいていた。男女も年齢すら問わすその手をとり、あわよくばその柔肌に触れようとする。最初のうちは誰もが思わず頬を赤らめてしまうような歯の浮く台詞も、そのすぐ横で新たに紡ぎ始められては呆れの表情に切り替わった。
 その後ろで順番を待っていたクライス・クリンプト(くらいす・くりんぷと)はため息をついた。

「一つ聞いてもいいか、クライス……薔薇の学舎には」
「こんな人ばっかりじゃない!!!誠さん、いいですか。薔薇の学舎は決して毎日色恋沙汰のことばっかり考えてるわけじゃないんだ。己を磨き、精神を高めることにこそ意味があるわけであって……」

 なんだか聞いてはいけないことを聞いてしまったらしい剣崎 誠(けんざき・まこと)は、班仲間のクライス・クリンプトの話を黙ったままで聞き、時折頷きながらようやく受け取れた鍋をすする。そしてあまりのおいしさに声が洩らす。
 キージャ族の二人はカレーの味に感動して、その作り方に熱心な様子で耳を傾けた。人魚はくらげに食事を運びながら、焼いた魚を味わっていた。

「私達が取ってきたお魚、おいしいかな?」
「すっごくおいしいです〜」
「それじゃユーニスたちお料理班へのお礼に、私ギター弾こっかな?」

 蒼空寺 路々奈はギターを構えて演奏を始めた。その音色は今日一日を彷彿とさせるようなメロディーラインだった。
 楽器とくれば黙ってはいられない、と本郷 涼介とクレア・ワイズマンも加わって、とてもアドリブとは言えない壮大で軽やかなメロディーがキャンプファイヤーを囲むもの達を包んでいた。

 音楽が終焉を迎えた頃、突然、ドラムリールが演奏に対する拍手を打ち消した。

「皆の衆!食事を楽しんでいるでござるか〜〜!!」
「ここで、【六校共催 ミズ&ミスター臨海学校 水着コンテスト】の結果発表をおこないますぅ〜」

 皇甫 伽羅がうんちょう タンと共にメガホンを持って中央にあいたスペースで声をかけあう。
 水着コンテストの企画班のメンバーや、有志のメンバーもそこにいた。手には、料理班の手伝いで集めた貝殻で作った勲章がある。
 島村 幸は、余興としてステージのオープニングとして男らしい歌声を拾うし、女性達の黄色い悲鳴を独り占めするが、その白衣を突如脱ぎ捨てた。その下から現れたのは白いビキニ姿。ええー、という声が聞こえても、彼女は歌をとめる事はなかった。むしろ黄色い歓声が増えたのは気のせいではないだろう。

「それで、まずお詫びをさせていただきますねぇ〜今回のコンテストは、私達の独断と偏見で審査しました〜ただ、ミズ、準ミズ、ミスター、準ミスターではなく、この合宿で輝いていた人を表彰するのです〜」

 皇甫 伽羅の言葉で、キャンプファイヤーに参加する全員が歓声を上げた。

「とりあえずは、ジャタの森から来た仲間もせっかくだからここでアピールしてもらいましょう!」
「ナラ・ヅーケと……え、なにこれ。参加表明書?……アル・アルさん?」

 アル・アルこと、あーる華野 筐子(あーるはなの・こばこ)はいつも身につけているダンボールをはずし、事前に準備していた焦げ茶の布を裂いて、局部だけを隠すだけの水着をまとってアピールを開始した。裏からこっそりアイリス・ウォーカー(あいりす・うぉーかー)アカペラであーる華野 筐子のサポートを開始。歌声に合わせ、蛮族に扮したあーる華野 筐子は妖艶なダンスを披露し、彼女の魅力で会場内を満たした。ナラ・ヅーケはナイフを6本取り出し、それをジャグリングさせながらの剣の舞を披露する。
 二人にはそれぞれ勲章が贈られた。アル・アル(あーる華野 筐子)とナラ・ヅーケは特別席に座って、表彰が終わるのを待つことになった。

 名前を読み上げて、いく人か前に呼び出された。

「まずは、ペアで素敵な水着で賞!……神楽坂 有栖、ミルフィ・ガレット〜!そして、高潮 津波、ナトレア・アトレア〜!葛稲 蒼人、神楽 冬桜〜!!」
「先のお二人は同色の水着という点から、次のお二人はデザインこそ違えど、色違いのエプロンを身につけているのが評価されました。最後のお二人は競泳水着ではありますが、その凛としたお姿に票が集まりました!」

 レーゼマン・グリーンフィールはたんこぶをさすりながらコメントする。表彰された6人は勲章を受け取った。それはとても粗末なものではあったが、ものにこめられた思いを汲み取って誰もが笑顔を浮かべた。

「ではでは、続けて行くぞ〜」
「男らしくってセクシーで賞!……フィルラント・アッシュワークス、明智 珠輝〜〜」
「男らしい褌姿、惜しみなく美を振り舞くTバック姿は涎ものですね」

 コメンテーターのダークネイビー氏(藍澤 黎)はニヤニヤと笑いながらコメントする。

「女らしくって素敵で賞には、シャーロット・マウザー、ヴァーナー・ヴォネガット、ロザリィヌ・フォン・メルローゼ!!」
「とってもかわいらしいフリルがいっぱいのお二人ですぅ〜そして、ロザリィヌさんにいたっては、素敵な手作り水着にどっきどきです〜」
「最後に、ナイス褌で賞!!ナガン ウェルロッド〜」
「は、なんだって?」

 いきなり名前を呼ばれて、ナガン ウェルロッドは立ち上がった。グレン・ラングレンが出迎えるかのように歩み寄り、ナガン ウェルロッドの肩に手を置いた。

「確か、ナガンが用意したんだよな?あの褌。俺が絞め方を教えてやったんだが、是非お礼がしたいって言われてよ〜くれてやってよかったんだよな?」
「……今朝うちの集落に、大量の褌が飛ンで来た……とテも、履キ心地が良い……感謝の気持ちを、こめる」

 よく見れば、彼が腰巻の下に身につけているのは件の褌だ。無口なタク・アンがコメントすると、ナガン ウェルロッドは不思議そうに首を傾げるが、とりあえず勲章を受け取る。

「謎の美女、アル・アルさんもコレをどうぞ!あなたの素敵なアピールにみんなめろめろだったんですよ〜」
「ではコレにて、水着コンテストはお開きです!皆さん、ありがとうございました〜〜〜〜!!!」

 拍手と歓声の真っ只中で、島村 幸は閉会宣言を行った。
 彼女の予定していたものとは大幅に違ってしまったが、会場は最上級に盛り上がっていた。

「それじゃ、打ち合わせどおりお願いね!人魚さん、くらげさん!」

 コンテストが終了したのを見計らい、峰谷 恵はワンドを捧げて呪文を唱え始める。人の頭ほどもある大きな火の玉を作り出したかと思うと、夜空に放り投げた。沖にいた巨大くらげは、人魚達の合図を受けてその火の玉を強力な水鉄砲で射抜く。
 すると、爆発音と共に、夜空に大輪の花が咲き乱れた。それに気がついた生徒達から歓声が上がると、峰谷 恵はすぐに第二弾、第三弾と火の玉を放り投げていく。
 次々と花開いていく花火の花束は、キャンプファイヤーの締めくくりとしては、最高のものに仕上がっていた。
 誰もが、夜空の花が散る様に見とれていた。