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真夏の夜のから騒ぎ

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真夏の夜のから騒ぎ

リアクション

  5・パックとキャンプファイヤー

 時刻は既に、完全に夜の帳が降りた状態になっていた。
 しかしキャンプ場では、キャンプファイヤーが明かりとして燃え盛っていた。
 そして同時にそこにいる全員のテンションもさらに燃え上がり始めていた。
「第一回、蒼空カラオケ大会・イン・キャンプファイヤ〜!」
 小鳥遊美羽(たかなし・みわ)は、簡易のステージを作り、電池式ラジカセとマイクを準備して、きわどい短さのスカートをヒラヒラさせながら、ステージ上で叫んでいた。
「それじゃあまずはこの私、蒼空学園のアイドル(自称)小鳥遊美羽から歌います!」
「あ〜っ、待って。一番は私が歌いたいですぅ」
 そう言ってハイハイと手を上げて主張するのは、メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)
「うん! どうせなら僕も一番に歌いたいな!」
 彼女のパートナーのセシリア・ライト(せしりあ・らいと)も参戦する。
「ちょっと待ったぁ! スタートは俺からだぜ!」
 そして結城翔(ゆうき・しょう)も、その輪に混じってマイクを奪おうとする。
「ダメだってばぁ、このステージ組んだの私だよっ!」
「俺はキャンプファイヤーの薪運んだりしたぞ!」
「それカンケーないよぅ。セシリア! ラジカセのテープこっちに変えてっ!」
「おっけー!」
「ああっ、ちょっと! 負けないわ! 蒼空学園アイドルの名にかけて!」
 そして美羽はマイクを死守し、もうひとつ用意していたラジカセで自分の曲を歌い始める。メイベルとセシリアも、負けじとデュエットソングを合唱していく。そしてテープを持ってきてない翔までもが、アカペラ状態で熱唱を始めた。
 そんな混同した歌を聞きつつ、フィル・アルジェント(ふぃる・あるじぇんと)はパックが出てくるのを待っていた。
 先程から何人か目撃している生徒はいるようなのだが、彼女はまだ会えていなかった。そこでどうすれば出て来てくれるかを考えた結果として、
「そうだ! 他の男子生徒に声をかけて、恋人の演技をしておびき出すのもいいかも」
 そんな考えで、フィルは近くにいた翔に声をかける。やはりアカペラで対抗するのは、無理があったらしい。やむなく順番待ちに回っていた。
「あの、ちょっといいですか?」
「ん? 俺?」
「はい! 実はパックさんをおびき出す為に、協力して頂きたいんですけど」
「おっ、わかった! 俺もパック誘い出すつもりだったからな」
 利害が一致したふたりは、丁度曲が終わったのでステージにあがり今度はふたりでデュエットをし始めるのだった。
 ただ、それは恋人の演技……というより、結局ただ楽しく遊んでいるだけに見えるが、それはそれとして。

 そんな風に、色んな形でキャンプファイヤーを楽しむ参加者達を眺めながら、溜め息をつく人がひとりいた。
 モーリス氏だった。ちなみにカツラとサングラスに加えて、メイクもきちんと施されてバッチリ変装されている。
 バーベキューで焼いた魚を頬張りながら、その場にあるものを見つめる。そこには、涼が作ってくれたパック用の椅子やテーブルに、パック用の食事も揃っていた。後は、当のパックが来てくれるだけだったが。
「モーリスさん。顔色が優れないようですけど、大丈夫ですか?」
 そう話しかけるのは、十倉朱華(とくら・はねず)
「ああ、大丈夫だよ。すまないな。皆にここまでしてもらって」
「別に気にしないでいいと思いますよ。皆だって好きでやったことでしょうし。そもそも、人間が後から来たんだからこっちから妖精に歩み寄るべきなのは当然なんだよね。そう思わない?」
 朱華は、パートナーのウィスタリア・メドウ(うぃすたりあ・めどう)に同意を求める。が、当の彼女はなにか真剣な表情をしていた。
「ん? どうかしたの?」
「気配がします」
 彼女は自身が持つスキル・禁猟区で、パックの存在を感知したらしい。
 それを知り、朱華も辺りを見渡す。
「あ、あそこです!」
 ウィスタリアの指差す先に、妖精パックがいた。
 キャンプファイヤーの騒ぎを遠巻きに眺めている。どうやら、混ぜてもらうきっかけを探しているようだった。
 そんな中でいきなり見つかって、慌てて逃げようとしたパックだが、
「ま、待って!」
 反射的に声をかける朱華。
「あの、パックさん。きちんと話をすれば、ほらこうして仲良く出来ますよ」
 ウィスタリアはそう言って、と朱華と手を繋いで見せてあげる。
「それに、キミと話がしたい人が……って、あれ?」
 朱華が目線を向けた先にいた筈の、モーリス氏がどこかへ行ってしまっていた。これではどうしていいかわからず、説得が得手でない彼は、途方にくれてしまった。
 その時、こちらに歩み寄ってくるふたりがいた。どうやらパックの存在に気がついたらしい。
「こんにちは、妖精のパック君。僕は高月芳樹(たかつき・よしき)っていうんだ」
「私は、パートナーのアメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)よ」
 にこやかに、パックに歩み寄るふたり。
「ちょっと話がしたいんだけど、いいかな?」
 正面から頼みこんできた芳樹に対し、
「ああ……ま、話だけなら、いいけど」
 パックはそう呟くと、ちょうどそこにあった自分に合う椅子に腰掛けた。
「それでさ。今までどうしてこんなイタズラをしてきたの? モーリスさんや泊まってた人も困ってたんだから」
「それは、その」
 話し始める芳樹とパック。
「あの、モーリスさんはどこ行ったの?」
 一方この隙にひそひそと、朱華達と囁きあうアメリア。
「わからないんだ。急に姿が見えなくなったから」
 それでは根本的な解決ができないんじゃないかと危惧するアメリア。
 そしてその危惧が的をいたのか、芳樹と話すパックが次第に退屈そうにし始めるのがわかった。
 このままじゃいけない、と思った矢先、現れた人物がいた。
「こんにちはでござる」
 奇天烈な挨拶でパックを驚かせたのは、ゴザルザ ゲッコー(ござるざ・げっこー)
「拙者ゲッコーでござる。貴行が妖精パックでござるか?」
「あ、うん。そうだけど」
「違うでござる。そうでござる、と言うべきでござるな」
「そ、そうで……ござる?」
「オッケーでござる! よくできたでござるな」
 突拍子もないやり方ではあったが、パックの気を惹くことはできたようだった。
 そして、
「ケンリュウガー、参上!」
 続いてアクの強い人物がその場に飛び込んできた。
 それは、自作ヒーローのコスプレをした武神牙竜(たけがみ・がりゅう)と、
「仮面乙女マジカルリリィ、見参!」
 同じくコスプレをしているパートナーのリリィ・シャーロック(りりぃ・しゃーろっく)だった。突然のことにまたまた呆気にとられつつも注目するパック。
「パック! 人を困らせるようなことはするもんじゃないぜ! やるんならそう、喜ばれるようなことをしなくっちゃな!」
 そんな、やや恥ずかしいセリフを叫ぶ牙竜。
「それで、もしよかったら、あたしたちに話をきかせてくれない? あ、乱暴なことはしないから安心して?」
 そして、説得を行うリリィ。ふたりも、パックと本気で友達になりたいらしく、傍らにはお菓子やジュースなど長話対策もしているのだった。

 そうして、ようやくどうにかパックへの説得が始まったのだが。
「そうでござる。パック殿も、ござる口調に慣れてきたようでござるな」
「お、パックもヒーローの良さがわかるのか? そりゃ嬉しいな」
「そう、ヒロインにはマスコットキャラが必要なのよ!」
 話は盛り上がっていたが、脱線していた。
 尤も今までのようにパックがもう逃げる素振りを見せていないのも確かだった。
 やがて、はじめに切り出したのはミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)だった。
「あ、あの。パックさん!」
 お菓子をパクついているパックに、話しかけるミルディア。
 パックはそれに対し「ん?」という表情で顔を向ける。
「その、悪いことをするのは、いけないことだと思うの!」
 そして、説得の言葉を続け……ようとしたが、元来説得が苦手な彼女は、
「ごめん、あとおねがい」
 パートナーである和泉真奈(いずみ・まな)にタッチした。
「あのね。あなたがやったことを、あなたがやられたらどう思う?」
「それは…………ヤだけど」
 そう言って、食べていたお菓子をごくん、と飲み込むパック。
「でしょう? あなたがされてイヤな事は、他の人もされるとイヤだと思うの。だから、あなたがイヤと思うなら、そういうことはやらないで欲しいのだけど」
 やんわりと、子供を諭すような真奈の言葉にパックは反論せず、黙ってしまった。
「待って。パックだって、何か理由があってイタズラをしたのかもしれないわ」
 話に加わってきたのは、レナ・クロフォード(れな・くろふぉーど)
「あのね。もしそうなら、ちゃんと教えて欲しいの」
「いや、理由とか、そういうのがあるわけじゃなくて」
 なにか煮え切らない様子のパックに、説得に加わっていた姫宮真央(ひめみや・まお)も言葉を続ける。
「じゃあ、どうしてこんなことしたの?」
「それは、だから、その」
「ねぇ。もしかして、一緒に遊びたいだけなの?」
 真奈のその言葉に、パックは少しだけだが首を前後させた。
「ふぅん……そういうことだったの」
 やっと胸のうちを話してくれたパックに、安心するレナ。
「仲間に入りたいなら、大歓迎です。私たちもパックさんと仲良くやって行きたいと思ってるんですから」
 真央は笑顔でそう告げる。
「だからさ。イタズラをやめるのは、その、まあ、特別にやめてやってもオレはいいんだよ。たださ……」
 パックはなにかを言いよどんでいるようだった。
 その場の皆はそれを計りかねていたが。説得に加わっていた犬神疾風(いぬがみ・はやて)は、もしかしたらという思いである一言を口にした。
「イタズラさえやめてくれれば、モーリスさんも助かるよね」
 それに対し、パックの表情に変化があった。
 そして疾風をはじめ、その場にいたほぼ全員が理解した。おそらくパックは、モーリス氏とのことを気にかけているのだと。
「それにしてもモーリスさん、ホントどこいったんだろ」
 疾風のその言葉に応じるかのように、
「はやく! なにを躊躇してるでありますか!」
「そうだよ! しっかりしろってっ!」
 比島真紀(ひしま・まき)と、サイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)に両腕を捕まれて連行されてきたのは、モーリス氏だった。
「だから、ワシはその、パックとは話さないほうが……」
「貴殿はまだそんなこと言ってるでありますか!」
「往生際が悪いっての……って、あっ!」
 モーリス氏は腕を振り払い、再び逃げようとしたが、
「そうはいかないもん。るーくん!」
「ああ、まかせろ!」
 ちょうどその先にいた倉田由香(くらた・ゆか)と、ルーク・クライド(るーく・くらいど)は、ぐいっと手にしていたロープを引っ張った。すると、びょん、と地面から巨大なバネが飛び出してきた。
「おわっ!」
 それに思いっきりぶつかったモーリス氏は勢いよく、びょん、と跳ね返され結果としてそのままパックのいるところにまで跳ばされる運びとなった。
「パック用に仕掛けてた罠がこんな形で役立つとは思わなかったね」
「はは、確かにな」
 そして。
 跳ねた拍子に、変装用のカツラとサングラスがはずれてしまい、せっかくのメイクも走り回ったせいですっかり落ちてしまっていた。
「あ、おじさんは……」
 パックはそこでようやく相手が、以前自分が会ったキャンプ場の管理者と気がついた。
「そ、その。パック、ワシは」
 慌てふためくモーリス氏だったが、それよりも先に、
「ごめんなさい」
 パックがただ一言、そう告げていた。
 それに対して、モーリス氏はぽかんと口を開かせた後、微笑みを返すのだった。