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作れ!花火を!彩れ!夜空を!

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第一章 噴水広場に集まりて

 パラミタ大陸の玄関口、空京が誇る噴水広場には多くの生徒達で溢れていた。
 イルミンスール魔法学校、魔術科学専攻ベルバトス・ノーム教諭主催の『花火玉制作会』、その開催準備が進められている。
『花火玉構築機』のチェックとメンテナンスに没頭するノームに代わり、ノームのパートナーであるアリシア・ルードが資料を抱えたまま口を開いた。
「皆様、お疲れ様です。皆様には防衛チームとして、広場の警備及び不審者・不審物の取り締まりを行って頂きます。不審者の定義には火薬を奪おうとする賊も含まれますので、火薬と参加者の安全をも守って頂く事になると思います」
「正直、そっちが本命だろぅ?」
 比賀 一(ひが・はじめ)の呟きに、一同の視線が集まりて来た。おっと、コイツは失礼。一は額の前に小さく手を添えると、二、三歩と下がりて片耳にイヤホンを当てた。
「守って頂く火薬は、こちらになります」
「なっ、ラグビーボール?」
 アリシアが取り出したのはラグビーのボール形をしたカプセルだった。それに驚き声にしたのはシャンバラ教導団の軍服に身を包んだクレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)だった。
「今年の花火玉制作機は、このラグビー弾を装填することで火薬を補充します。機械の使用は一組に一度としましたので、ラグビー弾の支給も一組に一つになります。どうぞ、お手に取ってご覧下さい」
 ラグビー弾を手にするクレア。大きさはラグビーのボールと同じ、重さは五キロといったところか。鉄製であるため、重くて滑る、持ちづらい。しかし。
 クレアのパートナー、ハンス・ティーレマン(はんす・てぃーれまん)も手に取って、
「なるほど、これなら両手で抱えたとしても多くは持てないですね」
 と述べた。
 クレアとハンスの表情に反して、感心した声を上げたのは長睫毛の美形、菅野 葉月(すがの・はづき)であり、そのパートナーのミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)は目を輝かせて葉月の顔を覗きこんだ。
「ねぇねぇ葉月、これって転がしたら面白いやつだよね、やってみようよっ」
「ミーナ、それは…」
 葉月は感じた、アリシアの視線。言葉にする前に語っていた。
「控えてください。扱いは丁寧かつ慎重に」
「うぅ、葉月ぃ」
 ミーナは隠れた、葉月の背に。ミーナから視線を外したアリシアはラグビー弾を持って続けた。
「今回、火薬はこのラグビー弾以外には用意していません。花火玉制作機に装填する以外の用途が無いため全て、ラグビー弾に実装済みです。弾は保管庫にて保管、数は参加予定数よりも多く用意してあります」
 保管庫、という言葉に反応したのは蒼空学園のセイバー、ベア・ヘルロット(べあ・へるろっと)のパートナーであるマナ・ファクトリ(まな・ふぁくとり)である。
「保管庫の鍵は、誰が管理するの?」
「鍵は、ありません」
「無い? って。えっ! 付けないの?」
「えぇ、そのように」
「そんな! それじゃ、どうしたって賊が有利じゃない」
「心配は要らないよ」
 白衣姿のノーム教諭が妖しい笑みを浮かべて現れ寄った。
「それもこれもどれも含めても、広場から火薬を持ち出す事は不可能だからね、保管庫から幾つ持ち出されても問題は無いのさ」
「持ち出す事が不可能って、どんな仕掛けなんですか?」
「仕掛け、そう、正に仕掛けだ、それも完璧な。だから本当は火薬の警備は要らない位なんだよ」
 その自信は一体どこから? それほどのシステムを構築しているという事なの?
「それでも… 保管庫の警備は必要だと思います」
「そうかぃ? それなら君たちに任せよう。良いかな、ベア君?」
「もちろんだぜ! ラグビー弾の安全は俺たちに任せな!」
 ドンと胸を叩いたベアを受けて、童顔つり目のウィザード、ウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいう゛す)も一歩を踏み出した。
「それなら俺は不審者を片っ端から捕まえますよ。祭りを邪魔する奴は、全員俺の敵だ」
「っはっはっはっ、熱いねぇ、嫌いじゃねーぞ」
 ベアとマナ、そしてウィルネストに向けて笑い声を見せたのは胸が小さなチビッ子ソルジャー、姫宮 和希(ひめみや・かずき)だ。隣で和希を見上げている陽神 光(ひのかみ・ひかる)の瞳には冷静であろうとする決意が満ちていた。
「祭りやイベントにトラブルは付き物だぜ、派手にやってくれりゃあ余計に楽しいってもんだ」
「祭りが盛り上がるのは私も賛成。でもみんなの楽しみを奪おうとするのは絶対許せないわ」
 そう言って光がダガーを構えるのと同時に、光のパートナー、プリーストのレティナ・エンペリウス(れてぃな・えんぺりうす)も笑顔でホーリーメイスを丁寧に構えた。
 腕を組んで静観しているのはシャンバラ教導団のソルジャー、比島 真紀(ひしま・まき)とそのパートナー、ドラゴニュートのサイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)である。
「我々も広場を警備しようと思うが、異論は今なら受けよう」
「へっ、ねぇよ。んにしてもデケェ広場だな」
 サイモンが見渡す噴水広場。野球グラウンドが三つは取れるであろう程の広さがある。大噴水を中心に円形にベンチと鉢植えが並び、今日はその外側に花火玉制作機が並んでいる。保管庫は鋼鉄製コンテナであり、花火玉制作機の輪から如何ほどに離れて設置されている。その扉は、今は、閉じられている。サイモンに続き、広場を見渡した真紀の眉が歪み寄った。真紀の瞳が捉えたのは、丈の短い浴衣姿のリアトリス・ウィリアムズ(りあとりす・うぃりあむず)であった。リアトリスが赤い顔をしてパートナーのドラゴニュート、パルマローザ・ローレンス(ぱるまろーざ・ろーれんす)に泣きついていた。
「ねぇ、何もこんな格好で警備しなくても…」
「何を言うのです。とっても似合ってますよ」
「えぇ? でもぉ」
 両手で裾を押えているリアトリス。パルマローザは藍色の浴衣を着ている為、二人並べば夏祭りに着たカップルの如し。警備に参加しているとは、とても思われないであろう。
 ノーム教諭の目が妖しく捉える。
「ちょっと、そこの君たち」
「はい?」
「ワタシたちですか?」
 ノームが声をかけたのは黒髪が美しい時枝 みこと(ときえだ・みこと)とそのパートナーのプリースト、フレア・ミラア(ふれあ・みらあ)である。
 みことが刀、フレアは十手を。耳にはインカムを付けている。浴衣を着ている事もノーム教諭の興味を引いた要因の一つであろう。口元を上げて教諭は笑みかけた。
「君たちに頼みたい事があるんだ」


 防衛チームの参加希望者は十八名、それにノーム教諭とアリシアが加わった人数が一堂に会しているわけで、それはもう目立たないわけも無く…。
 ツカツカツカと疾く歩いているのは水神 樹(みなかみ・いつき)、彼女を追うのはパートナーのプリースト、カノン・コート(かのん・こーと)である。
「なぁ樹、本当に警備に回るのかよ」
「もちろんよ、防衛チームが出来てるなんて知らなかったもの。それだけ事態は深刻って事でしょ?」
「それはそうかもだけど… でもせっかく一緒に花火を作れると思ってたのに」
「時間が無いのよ、ほら、急ぐ!」
「ちょっ、樹、待てって」
 黒髪ポニーテールをなびかせて歩む樹を、カノンは顔を歪めて追いた。樹が悪人を許せないのは分かってる、だから、でも、そう、今日は一緒に花火を作ろうって… 。何度考えてみても、浮いてくるのは湧き涙と、どうしてこんな事に… という想いだった。


 どうしてこんな事に… 、宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)もそんな想いを抱かされていた。シャンバラ教導団の制服を着ていたが為に、広場の警備チームに駆り出されてしまったのだ。
「ごめん、レイ。私、行くね」
 拳を握り締めて祥子は振り返った。彼女の背を見つめるはレイディス・アルフェイン(れいでぃす・あるふぇいん)、童顔ながらも凛々しい目をしたセイバーである。
 見つめる祥子の背中が大きくなりゆく、歩み寄るからに。
「俺も行く。置いて行くなよ」
「えっ、でも…」
「俺も警備がしたいんだ、いいだろ?」
「レイ」
 並び行く二人。レイディスの腕に寄ろうとしたが、それはまだ、そう、警備の後で。祥子の頬はいつの間にか、代わって期待が膨れさせていた。


 防衛チームの参加希望者は十八名、それにノーム教諭とアリシアが…。それはもう目立たないわけも無く…、な訳でありまして。
「仕掛け、ねぇ♪」
 ノーム教諭の言葉を笑み聞いて、葉月 ショウ(はづき・しょう)は思考を巡らせた。
 火薬を広場からの持ち出す事は不可能、それだけの仕掛け、あの自信。にも関わらず防衛チームは構成しているという事は。
「面白い、必ず攻略してやるぜ」
 ノーム教諭との頭脳戦。カルスノウトを持つ手にも自然と力が入っていた。