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リアクション
第3章 キノコの森の異変
「キノコ狩りとは、季節柄じゃのう」
もうすぐ問題の森。
色づく木々が視界に映り、到着間近だと気付いたトライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)は、興味深そうなベルナデット・アンティーククール(べるなでっと・あんてぃーくくーる)の声につい、とその視線を足元に向けた。
「む、何なのじゃ?」
「いや、べっつに〜」
ちびっこ然とした吸血鬼のわくわくした様は微笑ましい……なんて本人に言ったら機嫌を損ねそうだ。
「成程なるほど。トライブ、安心するのじゃ」
そんなトライブの表情をどう解釈したのか、ベルナデットは(本人としては)重々しく頷いた。
「トライブを危険な目に合わせたりせんから、安心するのじゃ。ん? な、なんじゃその顔は? 失礼なのじゃ、信用するのじゃ!」
「はいはい、信用してるし頼りにしてるよ」
頭をわしっと撫でられ、ベルナデットは口を引き結びながらもどこか嬉しそうだった。
「あれ、ここって……」
森にたどり着いたアリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)は、軽く目を瞬かせた。
初夏にウサギを追って訪れた頃とは様変わりしているが、同じ森の一角だった。
「まぁ確かに学園から近い森って言ったらここだものね」
「気を抜いてる暇はないみたいだ」
ウェイル・アクレイン(うぇいる・あくれいん)は注意を促すと、パートナーであるフェリシア・レイフェリネ(ふぇりしあ・れいふぇりね)を目線だけで下がらせる。
「早速来たみたいだね……あれがお化けキノコか」
ウェイルはどこか呆れたように、『それ』を見た。
「あ〜、うん、確かにアレはお化けキノコだな」
そう、それはキノコだった。確かに一般的なキノコの形をしていた。
ウェイルの腰ぐらいの大きさから、身長と同じくらいのものまで、多少差異はあるものの、一目で普通のものではないと分かるくらい、大きかった。
それがもそもそと近づいてくる様は、コミカルにもホラーにも見える。
「とりあえず、戦闘開始かな」
ウェイルはランスを構えると先ず、ディフェンスシフトでもって皆の防御力を上げたのだった。
「攻撃は最大の防御!」
防御力アップを受けながら、神楽 授受(かぐら・じゅじゅ)は何も考えず先陣を切った。
突っ込み、カルスノウトで斬って切って微塵切り!
ぱふぁ〜と舞い上がる胞子。
「授受さんだけに任せてたらダメよね……雷よ、力を貸して!」
圧倒されていたアリアは我に返ると、比較的得意な雷術を放った……のだが。
「あっあれ……? もしかして効いてない?……なら接近戦で! 雷よ、この剣に宿れ!」
雷をまとう剣で肉迫し、轟雷閃を放つ。セイバーで学んだ機敏な動きと、メイドで学んでいる無駄のない動きは伊達ではないのだよ!
但し!
「う、嘘でしょ!?……雷がダメなの?」
雷でキノコは成長する。
慌てて距離を取ろうとするが、焦るが故に動きは鈍り。
「……しまった、胞子が……」
もうもうと立ち込める胞子を吸い込んでしまったアリアの瞳から涙が零れ落ちた。
「けふっ、こんな攻撃なんかには負けないわ!……はっ、あれは…お父様!?」
こちらもせき込んでいた授受の前にはいつの間にか、家出の原因……厳格な父親が居た。
勿論、幻覚だよ☆
「何よ、学校にまでお説教しに来たの!? あたしはお父様の思う通りにはならないわよ!」
怒鳴りつつ、授受の顔が驚愕に歪む。
「なっ!? 攻撃までしてくるなんて……このクソオヤジ〜!!」
怒り爆発で応戦するが、当然の如く剣は空を切る。
だって幻覚だからね☆
「逃げるな! ちょっとくらい切られてあげようって親心はないの!」
「ううっどうして私ってこうおっちょこちょいなの〜」
ぶんぶんと剣を振り回す授受の足元では、アリアが胸いっぱいの悲しみに打ちのめされていた。
だって涙が出ちゃう☆キノコ。
「ぼんやりしてるとケガするぞ!」
あさっての方向へ剣を振るう授受と、わ〜んと鳴き声を上げるアリアと。
クライブ・アイザック(くらいぶ・あいざっく)は先陣切って突っ込んでいった……つまり敵の真っ只中に在る授受を助けるべく、後を追った。
「くー兄、お姉さん達キノコの毒にやられちゃってるみたい。胞子吸ったらダメだよ!」
ルナ・シルバーバーグ(るな・しるばーばーぐ)の警告に頷き、クライブは着用済みのマスクを一度確認し、お化けキノコに斬りかかる。
「出来るだけ胞子を撒き散らせないような角度で斬れば……どうだ?!」
やはり言う程、容易くはない。
それでもこの森の生き物や、森を生活の糧にしている人達の為。
「胞子やキノコなんかに負けてられないぜ!」
クライブは臆する事無く、剣を振るう。
「ふと秋も深まってきたので散歩に出てみれば……」
こんな状況に図らずとも巻き込まれてしまった浅葱 翡翠(あさぎ・ひすい)の口からは、深いため息がもれた。
「何故私はこんな事に巻き込まれているのでしょう?」
清々しい秋の空気と景色に誘われ、森に散歩に来ただけなのに……この混沌とした状況は一体何事だろうか?
「……まぁいいです、どうせ巻き込まれるのなら徹底的に」
そうと決めれば後は早かった。
翡翠は銃を構えると、授受やアリア、クライブに近づこうとするキノコへと引き金を引いた。
「ベルナデット!」
「心得ておるのじゃ!」
更にベルナデットがキノコ達の注意を自分達に引き付けるべく遠距離攻撃を仕掛け、タイミングを合わせたトライブが刃を振るう。
「よし、いい手ごたえだ。質より数の勝負、他の誰よりもお化けキノコを退治してやるぜ!」
やる気満々、殺意も高くトライブはベルナデットと共にキノコ退治を開始した。
「キノコの毒にやられてるのか……あのままじゃ危険だな」
デカキノコ達はトライブ達が引き付けてくれたものの、授受とアリアはまだ混乱状態にあった。
レイ・ファネス(れい・ふぁねす)はパートナーのルカ・クロフォード(るか・くろふぉーど)に合図すると、風上から迅速に距離を詰めた。
「このクソオヤジ〜!!」
「……失礼致します」
振り回される剣の軌跡をスッとかわし、授受の背後に回ったルカは、授受の首筋に手刀を入れた。
「この……オヤ……」
朦朧としたいた事もあり、意外とすんなりと意識を失う授受。
ルカは暫しの逡巡の後、その身体をズリズリと引きずり。
「きゃっ!?」
「ちょっとだけ我慢してくれよな」
レイは泣き濡れるアリアをぐっと抱き上げ。
ウェイル達の元へと救助完了だ。
「とりあえず外傷はないようだ」
「なら後は毒か……フェリシア」
「分かってるわ。キュアポイゾンするから大丈夫よ」
フェリシアの解毒によって授受とアリアが正気に戻るには、もう少し時間がかかるのだった。
「とんだキノコ狩りになっちまったなー……」
護衛として同行したレイディス・アルフェイン(れいでぃす・あるふぇいん)は、装着済みのマスクの具合を確かめてから剣を構えた。
「ま、これ以上被害が増えても困るし、美味い鍋の為にいっちょ頑張るぜっ!」
軽口を叩きつつ、お化けキノコへと距離を詰める。
勇達を守るべく、注意を引き付けるべく。
すかさずお化けキノコが動く。その姿形に似合わぬ素早さでもって、体当たりを仕掛けてきたのだ。
レイディスは落ち着いた足取りでさっと横に回ると、かさと茎の接合部分を刃で捉えた。
ざくっ、重々しい手ごたえを感じつつ一気に切断する。
その背後に迫る、もう一体。
「おっと」
そこに十倉 朱華(とくら・はねず)の一撃……爆炎波が襲いかかる。
「うわっ、危なっ!?」
言葉とは裏腹に危なげなく避けつつ、レイディス。
「うん、危なかったね」
「いやどっちかというと今の爆炎がだな」
「思った通り、お化けキノコって言っても、キノコでしょ。火に弱いんじゃないかな、と思ったんだよね」
ぱふんと胞子を上げる暇もなくこんがり爆散したキノコを見、嬉しそうに言う朱華に、レイディスは脱力したように肩をちょびっと落とした。
「あ、もちろん、森に燃えうつっちゃったら大変だから、その辺は気をつけるから大丈夫だよ」
「あ〜、うん、がんばろうな」
「そうだね。まぁ、目の前で困ってる人がいて、助けられたら鍋もついてくるなんて、素敵だよねー」
「お二人とも、気を抜いたら危ないですぅ」
そんなレイディスと朱華に澄んだ声を掛けつつ、メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)もまた炎術を放つ。
「やっぱり胞子ごと焼き尽くさないとね☆」
「あまり前に出過ぎないで下さいませね」
メイベルのパートナーであるセシリア・ライト(せしりあ・らいと)とフィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)も一緒に、お化けキノコ退治に来たのである。
「おっしゃ! 一丁おじさん、キノコ退治頑張るかな!」
同じく、距離を取りつつ不敵に唇を釣り上げたのはラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)だ。
「さて、まずは倒さないとな」
言いつつ、銃を構え躊躇なく発砲する。
筋骨隆々、巨体から繰りだされる銃弾はブレる事無く、キノコの茎やかさを瞬く間に削り取っていく。
「お〜、皆、派手だねぇ」
木の上からトミーガンで攻撃しているのは、瀬島 壮太(せじま・そうた)。
トラッパーで幹と幹の間にワイヤーを張り巡らせ、そこに誘導しているのだ。
「壮太ったら! ちゃんと食べられる場所が残るように狙ってね」
そこに飛ぶ、ミミ・マリー(みみ・まりー)の指示。
「なんかミミがうるせーこと言ってるけど……無視だ無視」
壮太は聞こえないふりを決め込んだ。
というかそもそも、である。
「大して美味そうにはみえねえけど……ミミはホントにこれを食う気なのか?」
「お化けキノコなんて滅多に食べられないもの!」
とミミは主張し、食べる気満々なのだが。
「どうみても毒、ありそうだよな」
色とりどりのお化けキノコを見下ろし、さすがに少し心配になる壮太であった。
「動きが鈍く、よく燃えるのはありがたいですけど、お化けキノコって色々いるのですねぇ」
「そうだよね。かさの色とか形だけでも色々あるし、毒キノコじゃないっぽいのもあるものね」
「というか、普通のキノコや毒キノコが巨大化したのではないですか? 動いているのは謎ですけれども」
のんびり観察しつつも、メイベルとセシリアとフィリッパは互いを補い合い隙を作らないように攻撃していた。
(「でも、皆で共同作業って、こんな時に不謹慎ですけどちょっと楽しいですぅ」)
肩を並べるセシリアや、いざという時は自分達の盾になろうと構えるフィリッパ、頼もしいラルクやレイディスや朱華達。
頼りになる仲間達と、その中に確かに居る自分とを、メイベルは少しだけくすぐったく思いつつ。
「まぁ考えるのは後で良いですぅ。とにかく殲滅☆ですぅ」
炎術を放った。森に被害が出る前に、やっつけねばならなかった。
「梓は下がれ!」
カッコよくランスを構えたキリエは、だが、思わぬ邪魔に遭ってしまう。
「もっと……もっと私にキノコをくださいませ」
キリエの足に追いすがったメイドは秋葉 つかさ(あきば・つかさ)。
大きな胸が強調させたメイド服に身を包むその瞳は既に、夢幻をさ迷っている。
「キノコ……キノコをくださいませ」
「妾にも一杯きのこを頂戴にゃー。」
切なく身をよじるつかさと共に、ズイと身を乗り出したのは、桐生 ひな(きりゅう・ひな)のパートナーであるナリュキ・オジョカン(なりゅき・おじょかん)。
やはり胸の大きなツインテール少女達に詰め寄られ、流石のキリエもワタワタする。
梓の視線を背中に感じる(気がする)し!
と、注意力が散漫になってしまったのが、悪かった。
「しまっ……!?」
思わず毒キノコと思しき胞子を吸い込んでしまったキリエの手から、ランスが落ち。
「キリエくん!」
ガクリと膝をつくキリエに、梓は慌てて駆け寄った。
「あぁ〜ん、キノコが襲ってきますぅ」
「もっと逞しいきのこを入れて欲しいのじゃ〜」
絡み合いながら悶えるつかさとナリュキ。
ひなは大きくため息を一つつくと、麻袋を手に仁王立ちした。
「全く……手間の掛かる子達ですっ」
言いつつぽいぽいっと放りこみ、荷造り完了。
ラルクや朱華達の邪魔にならない場所まで引きずっていき。
「分かってるとは思いますけど、お仕置きタイムですよ?」
その場に合った岩でもって、麻袋……の中の二人を仲良くぺちゃんこに潰した。
勿論、お仕置きはまだまだこれからだったりしたのだが☆
一方。
「くぅ〜ん」
巻き添えにされたキリエはワンコになっていた。
どうやらキリエの吸ってしまった毒は、幻覚系のものだったらしい。
「わんわん」
とか言いながら走りまわったり、顔をごしごしこすったり。
「大変!」
当初慌てた梓だったが、このわんこキリエに直ぐに思いなおした。
「大変だけど……でも、可愛い」
と。
「くぅ〜ん?」
顔を寄せて甘えてくるキリエ。
「よしよし」
普段ぶっきらぼうなキリエがこんな風に甘えてくる事はなく、妙に嬉しかった。
「そんなに大量には吸わなかったみたいだし、時間経てば体から胞子の毒が抜けるでしょう」
なので敢えて解毒を試みず、梓は抱きついて顔を舐めようとしてくるキリエの頭を優しく撫でた。
「お化けキノコが突然現れた理由を突き止めたいのです。ついでに生物部の知名度アップに貢献出来たらいいなぁ、なんて」
イルミンスール魔法学校の鷹野 栗(たかの・まろん)はパートナーの羽入 綾香(はにゅう・あやか)や譲葉 大和(ゆずりは・やまと)、ラキシス・ファナティック(らきしす・ふぁなてぃっく)、九ノ尾 忍(ここのび・しのぶ)と共にキノコの森を訪れた。
「生物部としてはこの不可解なキノコ発生の原因を究明し、今後の発展に役立てたいですからね」
そう、栗は生物部部長であり、大和もまた部員なのだ。
イマイチ影が薄いというか盛り上がりにかけるのは生物部の宿命。
なので少しでも部を盛りたてるべく、日夜奮闘中なのであ〜る。
「うわー! キノコお化けだ〜! あれ……お化けキノコだっけ?」
「なんじゃ? あまり美味しそうなキノコではないのぉ……」
調査が目的なので、授受達より少し遅れて森に入ったのだが、予想通りすごい事になっていた。
「秋と言えばキノコ! キノコと言えば網焼き! 串焼き! 焼くと言ったら、俺様の出番じゃーん!?」
「アキノミカクですか、ナベですか、おもしろそーですねぇ!」
そして、大和の姿を見留め、ニタリと笑むウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいう゛す)とシルヴィット・ソレスター(しるう゛ぃっと・それすたー)がいた。
「ライバルは蹴落とすに限る……先手必勝ォ!」
炎の暴走魔、降臨です☆
「あ、すまーん手が滑ったw」
「危ないっ!?」
「きゃっ?!」
悪びれない声と共に、イルミンスール魔法学校・生物部御一行様のごく近くで爆発が起こった。
咄嗟に栗を庇う大和。
ボンっ
ウィルネストの狙い通り、炎に煽られ目当てのお化けキノコが胞子を撒き散らす。
ケホケホと頭上でするせき込む音。
「ありがとうございました……大丈夫ですか?」
目が合う。眼鏡越しのとろんと潤む瞳が細められた。
「あぁ、マロンちゃんですか……」
どこか陶然としたそれに、栗の脳裏に危険信号が灯る。
「大和さん? どうかなさいましたか?」
「いぇ、貴方がとても可愛らしいものですから見とれていました……あの、もっと近くで貴方の可愛い顔を見せていただいてよろしいですか?」
にじり寄られ反射的に逃れようと身をよじる栗と、
「可愛いは正義ですね……って、逃げないで下さい……傷付きます……」
言いつつ全く傷ついた様子もなく、逃さないと詰め寄ろうとする大和と。
「ちょっ、羽入……黙って見てないで……」
「ふむ。あのように困る栗は滅多に見られぬからのぅ」
何やら関心した風の綾香と。
「栗殿も大変じゃのぉ。しかし、この胞子は面白そうじゃ……あとで大量にキノコから搾り取らねばのぉ……」
錯乱する大和を寧ろ楽しそうに見る忍。というか忍の関心はその原因……キノコにあった。
サイズは元より、どうみても通常のキノコではないし、毒にしても効果も強すぎる。
実に、興味深かった。
そんな余裕のある忍と対照的だったのはラキシスだ。
「ところでラキ、何をしておるのじゃ?」
「ふぇ? 何で素振りしているのかって? 大和ちゃんの毒牙から皆を護るためだよ?」
にっこりと天使の微笑みを浮かべつつ、
「や〜ま〜と〜ちゃん? 栗ちゃん嫌がってるじゃない! 覚悟はいいよね?」
ラキシスは大和をメイスでドツいた。
ええ、そりゃもう躊躇も手加減もなく。
「大和ちゃんはドMだからこういうのが好きなんですよね?」
ぶっ倒れた大和を見下ろし、シルヴィットが無邪気な笑顔を浮かべた。
グリグリグリ、と大和の頭を踏みつけながら。
「よぉしノってきた! この調子でお化けキノコも爆殺☆、するぜ!」
「ウィールー! シルヴィットもやるですよぉ〜♪」
そして、炎の暴走魔とその相棒は、お化けキノコ……だけでなく周囲に向かっても、遠慮なしの炎術をぶっ放した。
うん、二人とも興奮系の胞子を吸っちゃったみたいだね☆
更に。
「うわっ楽しそうすぎる!」
「ちょっマリアンヌ……!」
「お化けキノコ滅びるべし……なんて☆」
マリアンヌの強すぎる魔力が文字通り、火に油を注いだのであ〜る。