波羅蜜多実業高等学校へ

葦原明倫館

校長室

空京大学へ

狙われた乙女~番外編~『休息プラン』

リアクション公開中!

狙われた乙女~番外編~『休息プラン』

リアクション

「新しい別荘さんが建つのだとしてもぉ、壊れた別荘さんのお墓がほしいですぅ。簡単なお墓は建ててきたんですけれどぉ、長持ちしないと思うんですぅ〜」
 イルミンスールのシャーロット・マウザー(しゃーろっと・まうざー)がミルミに訴えかける。
「お墓? お家壊した時に、お墓は別に立てないんじゃ……」
「別荘さんも、鏖殺寺院のテロの被害者ですのに……何もしてあげないんですかぁ……?」
 悲しげな目で、シャーロットはミルミを見るのだった。
「うーん、どうなんだろ。でも、あの壮絶な歴史的な戦いは記録として残しておいた方がいい気もするから、記念碑とか石碑立ててみる?」
「んー、別荘さんには、魂ないのでしょうかぁ? だとしたら、慰霊碑じゃなくて、記念碑でいいのでしょうかぁ〜」
 シャーロットは少し考えた後、首を縦に振った。
「それじゃ、石碑を建てるですぅ〜。別荘さんの絵も刻むですぅ。新しい別荘さんには、不良さん達にもお部屋を提供できればいいんですけれどぉ……? 不良さん達も被害者ですぅ。無理そうですかぁ?」
「でもタダで使ってもらうわけにはいかないかなぁ。タダだとまた溜まり場になりそうだしね。管理人も追い払われちゃいそう〜」
「その別荘に、不良達が社会復帰を目指せるような職業訓練施設を併設することはできませんか?」
 教導団の比島 真紀(ひしま・まき)が提案を始める。
「小人閑居して不善をなす。他人の目の無いところに居るから好き勝手に出来ただろうけれど、周りがしっかりと彼らのことを見ていれば、変にドロップアウトせずにいられるのではないでしょうか。人間であるからには、手に職をつけ、社会の一員として働くようになれば、自然と社会に溶け込んでいくようになるであります!」
「出来れば、雇用も考えてほしいな」
 パートナーのサイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)が真紀の提案を引き継ぐ。
「『恒産無ければ恒心無し』『衣食足りて礼節を知る』っていうし、彼らの生活が安定しなければ再び荒んじゃうと思うんだ。別荘の管理人や、その訓練施設の従業員として雇ってあげてほしいな」
「不良かあ……ホントはもう関わりたくないんだけどな」
 ミルミが眉を寄せる。
「別荘占拠のこともそうだけど、そうして色々とやっていたことへの罪滅ぼしの意味も含めて働かせるってことにするのが良いんじゃないかなぁ。体を思いっきり使い、食事と温かい寝床があれば、余分なことをしないだろうから」
「建設の際には土方や大工を学べるでしょうが、彼等の中には意外な才能を持つ人物も存在するかもしれません。その才能を拾い上げる施設があるなら、きっと彼等も社会に受け入れられ、役立てるでしょう」
 サイモンと真紀の言葉に、難しい顔ながらもミルミは頷く。
「でも訓練施設ってどんなの? ちょっと思い浮かばないよ〜」
「ボクは建て直すくらいなら、更地のまんまでもいいんじゃないだろうかと思うんだけど……」
 そう声を発したのはイルミンスールのズィーベン・ズューデン(ずぃーべん・ずゅーでん)だ。
「あの辺り一体、好きに出来るんだよね? いっそうのこと、ルリマーレン農園とかにして、百合園女学院やヴァイシャリーに産地直送の新鮮な野菜を納入するとかどう? ヴァイシャリーって農業盛んじゃないしルリマーレン家も助かるんじゃないかな」
「新しく建てた別荘を管理塔として、管理人を置いてテントが張れる合宿場を設けるのもよさそうですよね」
 パートナーのナナ・ノルデン(なな・のるでん)がズィーベンの言葉に続けた。
「瓦礫の掃討作業、害虫駆除の為の消毒散布とまだやることは沢山ありますから、人手が必要ですよね。そして、その後も管理人、農園の作業員といった働き口もあると思います。農園の方は職業訓練になるでしょう。パラ実生の蛮族はそういったことに詳しい人もいると思います」
「そうそう、百合園やヴァイシャリーの人より、一部のキマク、パラ実生の方が農業には詳しいかもね」
 ズィーベンがうんうんと頷く。
「とりあえず、建て直しただけでは、また不良や鏖殺寺院に悪用される可能性があるので、対策の人の配置は必須ですよね」
 ナナがそう言うと、ミルミはティーカップを持ちながら、想像をめぐらせていく。
「農園かあ……。牧場とかもあって、馬とかいて、乗馬とかも出来たらいいなぁ……。でもパラ実の人たちは麻薬とか作っちゃう可能性があるから、ちゃんと監視してもらわないとね〜。そういうの許したら、ミルミん家も犯罪に加担したことになっちゃうし!」
「あとは、教会がほしいですわ。結婚式を扱えば収入にもなりますし。妖精の子供達の聖歌隊なんて素敵なのではないかしら」
 ドーナツの箱をしまいながら、さけが提案する。
「ですが、農園にしろ別荘にしろ、何が建つにしても飛び立っていった古王国の騎士や子供達が暮らせる施設が必要だと思いますの。古王国の騎士さん達が昔のように暮らせる日まで、待つにはあの場所が一番わかりやすいでしょうし」
「みんな優しいねー。不良とか妖精のこととか考えるなんて……っ」
 ミルミはティーカップを置いて、考え込む。
「……」
「……」
「……」
 しばらくして、アルコリアの膝からぴょんと下りて、ミルミは言った。
「ダメだ、ミルミにはやっぱりよくわかんない! ラザン全員の案を纏めて」
「はい、畏まりました」
 ラザンは密かに苦笑しながら、ペンと手帳を取り出してまとめていく。
「そうですね。敷地の大きさとルリマーレン家の利益も考えて可能な範囲と申しますと……」
 ラザンが提示し、決定された敷地の活用方法は以下だった。
 別荘はこれまでの場所より少し奥、人道に近い場所に建てる。管理室を儲け、常駐の管理人を雇う。
 併設して、会堂を儲け、礼拝、挙式を行なえるようにする。
 また、こちらは各種催しも行なえる造りにし、時折職人、芸術家を招き、展示会や講義、講習会を行なう。
 川から別荘までの間に、田畑を設ける。
 沼の方向には果樹園を。近くに厩舎を設け、家畜を飼う。
 土産としてオリジナルの手作り菓子を製造する。
 沼周辺の土地を整備し、申請をすればキャンプが出来るようにする。
「案外、ヴァイシャリーの方々にも、農業体験は楽しんでいただけるかもしれません。滅多に体験できないことですから。また地球人の方々にも悠々と乗馬や騎射などを楽しんでいただけるかもしれません」
「よし、そうしよう〜。でいいよね?」
 ミルミが皆を見回す。
「あとは、本の読める落ち着いたカフェを所望する」
 そう言ったのは、窓辺に座っているランゴバルトだった。
「シーマ殿は、『土産物屋、般若の面とかへちまを置いておく』と申していたのう」
「ば……っ、それは言わんでいい」
 シーマは赤くなって止めるが、既に手遅れであり、皆の顔に笑みが浮かんでいた。
「それじゃ、ロビーとお庭でお茶会が出来るようにしよ。般若はちょっとアレだけどっ。お土産も何か名物があるよね……なんか、ドーナツの材料が生産できそうな気がするけど……うん、どうするかは現地の人に任せるよ。あとは人材探しもしなきゃね〜」
「現地に向かった方々が、残っている不良やパラ実生に声をかけて下さっているはずですわ」
 さけがにっこり微笑む。
「……っと、敷地の活用方法が決ったところで、皆にお願いがあるんだけど」
 相談がひと段落し、茶や菓子に手を伸ばした皆に、イルミンスールの緋桜 ケイ(ひおう・けい)が切り出す。
「一緒に別荘にいった、ミクル。入院してるんだってな? ミルミの大の親友だって聞いてたし、俺もあまり喋る機会はなかったけど、記憶が飛んでいる時期に良くしてもらったみたいだし。なんかいたたまれなくなってな。色紙持って来たんだ。一言ずつ書かないか?」
 ケイが取り出した色紙には、ケイの字で『元気になれよ!』と、元気よく書かれていた。
 ミクル・フレイバディはヴァイシャリーへ帰還途中、馬車の中で倒れたのだ。
 どうもパートナーに何かがあったらしい。
「ミクルちゃん……ミクルちゃんねぇ……」
「どれ」
 考え込むミルミを前に、ケイのパートナー悠久ノ カナタ(とわの・かなた)が色紙をとった。
「さて、わらわは何と書いたものか……。ケイのように当たり障りの無い言葉では眠気を誘って、覚める目も覚めぬというもの」
 カナタの呟きにケイは「うっ」と言葉を漏らす。
「ここは軽く……」
 カナタはペンを走らせてイラストを描いていく。
 書き終えたイラストに吹き出しを設けて『起きろチューっの!』と言葉を入れる。
「ゆるスターですね。可愛いです」
 続いて、ソアが色紙を受け取り、少し考えた後、ペンを走らせる。
「凄くいい案だと思う。僕も書くよー!」
 続いてジンギス、それからベアも色紙に一言ずつ書いていく。
「わたくしも書かせていただきますわ」
「ドーナツの絵でも名前入りで書くと、気付け薬になるかもしれん」
 色紙を受け取ったさけに、カナタが言った。
「まあ、ミクルさんもドーナツお好きなんですのね」
 さけはさらさらとドーナツの絵を描いていく。
「いつも一緒にいた奴が、いないってのはやっぱり寂しいもんだぜ……。ミルミもそうだろ?」
「2人ともすげー仲良さそうだったよな。色紙と一緒に、ミルミのぬいぐるみをもう一度貸してやったらどうだ? 面会謝絶でも、ミクルの側にミルミの代わりのクマがいてやれるってワケだ」
 ケイとベアの問いかけに、ミルミはうーんと唸り声を上げている。
「ぬいぐるみを送るなら、僕とベアさんのゆるキャラぬいぐるみも一緒にどうかな!?」
 ジンギスが身を乗り出してミルミに提案する。
「ミルミは欲しい! 弄っても楽しそうだし〜。……だけど、ミクルちゃんはぬいぐるみ本当に好きなのかなぁ。うーーーーん」
「心配、ですよね……?」
 険しい顔つきのミルミにソアが声をかけると、ミルミは小さく溜息をついた。
「ミクルちゃんね、ミルミに嘘ついてたの。だからといって心配じゃないわけじゃないんだけどね、ミルミとしてはすっごく複雑な気持ちで……。何と言ったらいいのかわかんなくて。それを聞くためにも早く治ってほしいと思ってるんだけど……」
「嘘って?」
 ソアが訊ねると、真剣な眼でミルミは皆を見回す。
「ここだけの話だよ? 誰にも言ったらダメだよ」
「お、おう」
 ミルミの真剣な表情に、ケイが緊張しつつ、頷き、皆も頷いた。
「ミクルちゃんね……男の娘だったの! お見舞いに行って知ったんだけどね……。ミルミと一緒にお風呂とか入って覗こうとか考えてたのかなあとか思っちゃって」
「いえ、お風呂にはしょっちゅうミルミ様の方が誘っていましたが、ミクル様はいつもお断りになっていました」
 ラザンの説明を聞いてもなお、ミルミは複雑な表情をしていた。
 とっても大好きな友達が性別を偽っていたこと。
 それから、ミルミには良く理解できていないのだけれど。ミクルはもっと大きな隠し事があって、自分に近付いてきたようだ。
 多分、自分のことが好きで友達だったわけじゃないということ。
 多分、自分は本当のミクルの性格も知らない。
 それを知り、ミルミはミクルのことが全く解らなくなっていた。