葦原明倫館

リアクション

「よっしゃあ！！　完成だ！　そんじゃあ筋肉動かすかな」
　パラ実のラルク・クローディス（らるく・くろーでぃす）は、鉄アレイにバーベル、更にサンドバックなどのトレーニング器具を別荘跡地に持ち込んでいた。
　何もなくなったこの地だが、水には困らず、空気も美味しく、炊き出しをしてくれる人までいる。
　パラ実のラルクとしては不自由なく生活できる場所だった。
　ただ、筋トレが出来ないことが唯一の不満だったが、ようやく最低限の器具の用意と設置に成功した。
「ふ！　……ふ！　……いやー思いっきり動けるのって最高だ！」
　鉄アレイを振り回し、バーベルを思う存分持ち上げそのままうさぎ跳び。
　サンドバッグにも無我夢中、生き生きと拳を打ちこんでいく。
「あの……」
「ぬ？」
　声に振り向けば、ラルクと同じく巨漢で筋肉質の男が居るではないか。
「共に鍛えるか！　はっはっはっ」
「いえ、一応百合園のお嬢様のお屋敷が建てられるわけですから、そういう器具は不要なのではないかと。すみません、このあたりの基礎工事を始めますので、撤去お願いします」
　ラルクの用意した器具にそそられるものを感じながらも、蒼空学園の佐々木　真彦（ささき・まさひこ）は、ルリマーレン家から受け取った建設予定図をラルクに見せ、運んできた建築資材を指しながら説明をする。
「何だよ……いいじゃねぇか……トレーニングスペースぐらいあったって……」
　ぶつぶつと、しぶしぶと、本当に残念そうに、ラルクは器具を持ってその場から去っていく。
「まあ、借りれる部屋もあるみたいだし？　建てられてからトレーニングルームを設けるってのもいいかもなあー。うし！」
　そして、敷地外でトレーニングを再開する。

「火事よ火事よ火事よ！」
　沼の方向から、ドラゴニュートの関口　文乃（せきぐち・ふみの）が真彦の元に駆けてくる。
「火事って……」
　目を向ければ、ぱちぱちと炎が上がり、落ち葉が燃えている。
「火の気があるわけないでしょう。また火をつけたんですね！？」
「そんなことするわけないじゃない。ワタシは害虫駆除をしていただけよ。意外とＧの卵はそこらへんに散らばっているものだからね！！」
「で、Ｇ卵と判断し、何かを燃やしたわけですね」
「そうよ、害虫駆除は根本的に『０』を目指さないと！」
「大丈夫だ、任せておけ」
　文乃の行動を警戒し後をつけていたマーク・ヴァーリイ（まーく・う゛ぁーりい）が持って来た消火器のピンを抜き、炎に向かい消火剤を噴射する。
「さほど樹木が多くないからいいものの……」
　鎮火を見て、真彦はほっと息をつく。
「で、あいつは？」
　火を消し終えたマークが尋ねる。
　振り向けば文乃がいない。
「害虫撲滅運動中ー！　火術をくらいなさい。火術をー！」
　彼女の声がまた遠くから聞こえてくる。
「次はどこだー！」
　マークは慌てて声の方向に駆け出した。
「任せましたよー！」
　苦笑しながら声を掛けた後、真彦は別荘跡地に戻ることにする。
「出来るだけ、早く建てませんとね」
　残っている人々、帰る場所のない不良達にも目を向けて、基礎工事の手伝いに戻る。
「頑丈な建物にしましょう」

　花を植えている人々。
　最後の瓦礫を取り除く人々。
　汗を拭い、休憩をしている人々。
　基礎工事を始めた大工達。

「別荘か……何もかも懐かしい」
　ふと、別荘跡地を通りかかった七枷　陣（ななかせ・じん）は不思議そうにその光景を眺めていた。
「何であんなに電波ってたんだろうね？　オレ」
　今度はどんなヘンテコな建物が建つのだろうかと、陣は苦笑いをする。
　いや、建っていた別荘は不衛生ではあったが、ヘンテコではなかった。
　なんか人々をヘンテコにする空間があっただけで。
　その空間はもう、この場所にはないのだろうか。
　それとも、またここに集った人々は、なんだか変なことに、おかしくなるのだろうか。
「色々あったなぁ……」
　過ぎた時を思い浮かべる。
　思えば夢の世界の出来事のようであった。
「潰された時はホンマに死ぬかと思った……」
　感慨深げな言葉を残し、陣は笑みとともにその場を去っていく。

　１つの物語が終り。
　また新たな物語が始まる――。