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聖夜は戦いの果てに

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聖夜は戦いの果てに
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リアクション

 開幕


 12月24日 15:00 シャンバラ教導団実習施設
 普段は飾り気など微塵もない食堂が、緑・赤・白と実に華やかに彩られている。フロアの中心には可愛らしいオーナメントをこれでもかと取り付けたモミの木のクリスマスツリーが堂々と鎮座し、沢山の丸テーブルには様々なバイキング料理が配されている。足を踏み入れた人間の気分が一気に明るくなるように心遣いされた、まさに「これぞクリスマス」である。
「で、ただのパーティなら文句なしですな」
 41と書かれた小さな紙片をひらつかせながら、セオボルト・フィッツジェラルド(せおぼると・ふぃっつじぇらるど)が言う。完璧なバーテンダースタイルの胸には、22というゼッケンが。
「そこらじゅうに監視カメラがありますよ。ほら、ここにも、あそこにも」
「いいじゃねえか争奪戦! 教導団はこうじゃなくっちゃ面白くねえ!」
 セオポルドの横では、リス型ゆる族の館山 文治(たてやま・ぶんじ)がせっせとグラスを磨いている。足の下には丈のある木箱があったが、会場の人達に気付かれる心配はない。彼らはカウンターの中にいたからだ。
 教導団が合コンをやるということで、2人は食堂の一角で臨時出張BERを開いていた。元バーテンだった文治に誘われたセオポルドだが、メイドの能力を存分に発揮でき、新しい出会いに溢れるだろうこの日を結構楽しみにしていた。
 つっこむべきところはつっこむが。
「おっ、来たな!」
 16のゼッケンをつけた銀髪の少女と黒髪の少女がやってくる。橘 ニーチェ(たちばな・にーちぇ)橘 ヘーゲル(たちばな・へーげる)だ。文治は嬉しそうにカウンターから出る。少女とリスの挨拶は、まあ普通に握手だった。
「クリスマスは文治さんと握手ー!!」
 しかしそれは、1秒でハグに変わる。
「うーん、あいかわらずもふもふですねー、気持ちーですー」
 目を閉じて至福の表情で体毛を堪能していたニーチェは、次に文治の背後にまわった。抱きついて、尻尾にもっふりと頭を埋める。顔をすりつけられ、文治はわたたっと足踏みした。
「うわっ、くすぐってえ! やめろ! ニーチェ! くそーおかえしだー」
 尻尾をふっさりと揺らして振り向いた文治は、がしっとニーチェに密着する。小さな手で、少女の体中を触りはじめた。…………リスだから許される行為である。
 そう、リスだから。うん、リスだから。
「しっかしおまえさあ、一体どこにあるんだ? チャック」
「だから、僕はゆる族じゃないですー!」
「馬鹿言え、こんなやわらかい人間がいるもんか。意地悪しないで教えろよー!」
 なんだかんだでもふもふを続ける2人を、ヘーゲルが不思議そうに眺めている。
「ゆる族には見えないけど……」
「見た目よりも雰囲気でそう思っているんでしょうな」
「やわらかいとか言ってるよ……」
「うん、よくできた着ぐるみだ!」
 そこで文治が離れ、小さな箱を出してニーチェに渡した。
「懐中時計だ! まあとっとけよ」
「ありがとうございますー。僕も、文治さんにプレゼント持ってきたんですよー」
「おっ? そりゃうれしいなあ。何くれるんだ?」
「内緒ですー。ゲームが終わってのお楽しみですよー!」
 ぽやんとした瞳に少しだけ真剣な色を乗せて、ニーチェは言った。

「ひ、ひ、久しぶりだな!」
 65番のフリッツ・ヴァンジヤード(ふりっつ・ばんじやーど)は、食堂にやってきた藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)に思い切って声をかけた。
「ほら、前に一緒に任務に行っただろう!」
 優梨子は、自分の持つ紙片と彼を見比べて、優雅に笑った。
「フリッツさんですよね、覚えてますよ」
「我らは、対戦相手ではないようだな」
 フリッツの相手は36番、優梨子のゼッケンには21と書かれている。
「あら、お手合わせをご希望ですか? 相手以外の人を殺すなというルールはないですし、私としては大歓迎ですよ」
(殺っ……!)
 安心したのも束の間、フリッツは後退るのを堪えてどうにか答えた。
「ざ、残念だが、我らがやりあうと、お互いの相手に迷惑がかかってしまうからな。不義理は良くない。またの機会にしようじゃないか」
「それもそうですね。では、生き残った時に殺り合うということで」
(あ、フリッツだ!)
 そんな2人の姿を見つけ、ウォーレン・アルベルタ(うぉーれん・あるべるた)が早速近付こうと走り出す。今日は、彼のために心を込めた贈り物を持ってきたのだ。
「ウォーレンじゃないか。こっちに来いよ」
 だが、聞き慣れた声が耳に入ってウォーレンは足を止めた。見ると、ミニスカートを穿いたサンタが手招きをしている。首を傾げながら歩み寄ると、思った通りの人物、鈴倉 虚雲(すずくら・きょん)が気軽な調子で話しかけてきた。
「意外だな、おまえがこの会に参加するなんて」
「それはこっちの台詞だよ! てゆーか……なに、その格好」
 ジト目になって訊くと、虚雲は苦虫を噛み潰したような顔になり、言った。
「いや、知り合いに男の時より相手に隙が生まれるからって言われてな。『行くならこれを着ていきなさい! それ以外の服装は許さないから!』と半ば強制的にだな、着せられて……おまえ、俺が進んでこんな格好すると思うか?」
「思わないな。絶っっっ対、ありえない」
「だろ? しかも『いい? 何がなんでもディナーをゲットしてくるのよ。クリスマスは七夕の次に大事な行事なんだから、ハズすわけにはいかないわ!』とか言うんだぜ。こんなもんまで持たせられて……はあ、やれやれだぜ」
 虚雲はサンタ用の大きいプレゼント袋に目を落として、溜め息をついた。
「で? 何なの? その中身」
 同じテーブルにいたルカルカ・ルー(るかるか・るー)が、そこで話に割り込んでくる。このテーブルは随分と大人数で、彼女のパートナーであるダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)夏侯 淵(かこう・えん)、友人である明野 亜紀(あけの・あき)エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)にパートナーのクマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)。これまた友人のザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)とそのパートナー強盗 ヘル(ごうとう・へる)が揃っている。このメンバーは【ロード・オブ・ナイト】というチームを作って謎の主催者に挑もうと計画していた。
 全員、袋の中身に興味津々のようである。
 虚雲の口元が引きつった。
「いや、頼むから訊かないでくれ……」

 英霊、関羽・雲長(かんう・うんちょう)が臨時に設えられたステージでマイクの調整をしていた。隣には、なぜかうんちょう タン(うんちょう・たん)が立っている。
 それを見ながら、椿 薫(つばき・かおる)弥涼 総司(いすず・そうじ)は食堂入口にいる教導団員から紙片とゼッケンを受け取った。
「えーと、拙者の番号は3番……到着順ではないようでござるな。相手は61番っと。総司殿は?」
「オレは61番……ん? 相手は――――ん?」
 2人がお互いの番号を確認しているところで、関羽が開会の宣言を始める。普段は使わない司会然とした口調だ。
「えー、本日はこのような日にこのような趣向の会に参加していただき、ありがとうございます。ここまで来た以上、覚悟は出来ていると思いますが、今から3時間は教導団実習施設の敷地内から出ることは不可能です。対戦相手が誰であるかは全て記録してあり、施設にはそこかしこにカメラがあるので相手以外の者とのプレゼント交換という不正は、まあやってみるのも面白いかもしれんな。時間に関わらず、決着がついたと判断された時点で我らが褒美を与えに行く。では――」
 関羽はそこで間を取って、改めて言った。
「シャンバラ教導団主催、プレゼント交換合同懇親会略して合コンを開会する!」