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2・26反バレンタイン血盟団事件

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2・26反バレンタイン血盟団事件

リアクション

 そのころ、シャンバラ教導団本校では、空京での非常事態の連絡を受け、急遽制圧部隊の編成がなされていた。襲撃者たちがシャンバラ教導団の制服を着ているというからなおさら一大事である。
 そんなななか、ハインリヒ・ヴェーゼル(はいんりひ・う゛ぇーぜる)マーゼン・クロッシュナー(まーぜん・くろっしゅなー)が廊下を歩いていた。
「いよいよはじまったようですな、クロッシュナー殿」
「はじまりましたな」
「次はココだそうですが、本当に大丈夫ですか?」
「心配ご無用。彼らならやってくれますよ」
「それほど信頼なさるのですか? その『総統』とやらを」
「いや、総統に集まる烈士たちをです。彼らの眼差しはただ事じゃなぁない。時代を変えるのは常に青年たちなのですよ。ともかく早く安全な場所へ。彼らに撃たれてはシャレになりませんからな」
 ロートナハト・アイン部隊は緊急出動で混乱する教導団本校への潜入を果たしていた。出撃命令が出ているのでシャンバラ教導団の制服を着た一団が武装して行動していてもおかしくはない。部隊は二班に分かれ、校舎内に侵入していった。
 
 もぬけの殻となったシャンバラ教導団学生寮の一室から、アツい漢のあえぎ声が聞こえてくる。
「オオゥ! あ、兄貴ィ……もっと感じさせてくれ!」
 ベッドでお楽しみの真っ最中だったのは、ターゲットに指定されたケーニッヒ・ファウスト(けーにっひ・ふぁうすと)と、そのパートナーのドラゴニュートのアンゲロ・ザルーガ(あんげろ・ざるーが)どっちがセメでどっちがウケかはご想像にお任せ。
「そうだァ……Oh……いいぜぇ……たまんねぇ……」
 そこへどたどたと乱入してくる栂羽 りを(つがはね・りお)率いる血盟団の一分隊。部屋の照明をぱっとつける。
「う、うげぇ……」
 とてもいやなものみちゃったのである。それはともかく、りをはふたりに、
「我々は血盟団であるっ! 私欲をむさぼる奸佞に天誅を下しに参ったっ! ケーニッヒ・ファウストはどっちだっ! いさぎよく名乗り出よっ!」
 と命じた。
 すると、完全無修正裸体のアンゲロがばっと間に立ちふさがるや、両腕を大の字に開いて身を挺し、
「ケーたんを撃つならオレを撃てぃっ!」
 と叫んだ。
「け……けぇたん……ていうか服着てくれない?」
「ゲロぽん……よいのだ。我と貴様の絆であろう。死ぬときも一緒じゃ」
「ゲロぽんっすか……だから裸祭りは精神的にキツいんだってば」
 そういってケーニッヒはアンゲロのとなりに立ち、ふたりは小指と小指を繋いだ。
「さあ、撃て」
「……くくっ……総員っ、ケーニッヒを撃てッ。ただし急所は外すようにっ!」
 ばばばばんっ!
 ケーたんは全身に銃弾を受けて倒れた。
「ケーたん!」
「治療が早ければ助かる。急ぐのだなっ。総員撤収っ!」
 りをたちはケーニッヒの部屋を後にした。

 ヒラニプラに居を構えるクレーメック・ジーベック(くれーめっく・じーべっく)は、非モテ系クーデター勃発の知らせを受け、一刻も早く、愛人で秘書のクリストバル ヴァルナ(くりすとばる・う゛ぁるな)と脱出の準備をしていた。
「お急ぎください、敵はいつここへ来るやも知れません」
 ゴットリープ・フリンガー(ごっとりーぷ・ふりんがー)はカルスノウトを抜刀し、ジーベックにせかす。
「心配するな。クリストバルの服がカバンに入りきらん」
 そんなどうでもいいことを、とじりじりと焼け付くような焦燥感をゴットリープは覚えながら、玄関先で血盟団の襲撃に備えていた。
「こんなトランクでは全部は入りきれませんわ」
「いいから残りは棄てなさい。新しいのを買ってやる」
「でもどれもこれもお気に入りですもの……」
「義兄上っ! お早くっ!」
 だがゴッドリープの予見したとおり、血盟団はこの屋敷まで猛然と迫ってきていた。
「血盟団がやって参りましたっ。私が血路を開きます故、おふたりは裏口からお逃げくださいっ!」
 ゴッドリープは玄関から駆けだし、血盟団員をバサリバサリと斬り捨てた。
 その戦いは獅子のごとくだったが、フィル・アルジェント(ふぃる・あるじぇんと)のスナイパーライフルの一撃が致命傷になった。
 胸を押さえ、がくりと膝をつくゴッドリープ。
「こ、これで義兄上は……守られ……た」
 ばったりと倒れ込むゴットリープ。
 でも実はジーベックたちは脱出せず、押し入れの中に逃げ込んでいたのであった。
「このままジーベック邸に突入じゃ!」
 シェリス・クローネ(しぇりす・くろーね)の号令と共に、部隊は突入、家捜しを始めると、屋内に潜んでいたふたりは間もなく発見された。命乞いするジーベックとファルナに、シェリスは猛毒の『テロルチョコ』を喰わせ、惨殺したのだった。

「霧島玖朔ッ! 霧島玖朔はどこかッ!」
 血盟団員の少女朝霧 垂(あさぎり・しづり)は試作型星槍を手に叫んで回っていた。彼女が血盟団に参加したのもその男を殺さんが為だったのである。
「大声で人の名前を叫びやがって。ご近所に聞かれたら恥ずかしいだろ?」
 影から余裕たっぷりに出てきたブラックコートにショットガンの男、霧島 玖朔(きりしま・くざく)は、そう言って嗤った。
「誰かと思ったらメイド長の垂じゃないか」
「玖朔ッ!」
「メイド長、俺を誰だと思ってやがる?」
「なにっ?」
「図書館、公園そして温泉、ありとあらゆるシチュエーションでハーレムデートをコンプリートしたこの俺を嫉妬するか?」
「バカッ! セイカが重傷だってのにバレンタインも何もあるかッ!」
「ふふん。まあかかって来いよ。手加減できねえけどな」
 そう言うかいなか、垂は飛ぶように距離を詰め、星槍で胴を狙う。
 それをふわりとかわした玖朔は頭上からショットガンのポンプを引く。
「もらったッ」
 ずぱむ!
 だか硝煙の消えた先には垂はいない。
「わたしはここだぁーッ!」
 振り返ると垂が鉄拳を振り絞っていた。
 ガッ。
 強烈な一打を浴びる玖朔。後退しながら散弾銃で牽制する。
「なんだこいつ……本気の本気なのか」
 玖朔は散弾銃に装填しながら意図を計りかねていた。
 垂は槍を回転させると、ブーメランのように飛ばした。だがそれは玖朔の顔をひっかいただけで逸れて行ってしまう。
「お前の負けだな。武器を手放した者が勝てるはずがない」
 だが垂は単身突撃をかけてくる。玖朔はショットガンで迎撃するがものともせず。
 そして体がぶつかる。
「なんだ? 胸揉んで欲しいのか?」
「ばーか」
そのまま後ろに倒れかかる玖朔に、あらかじめ投げておいた星槍の先端が貫いた。
「ぐはっ……」
「いい気味だな。おまえは甘すぎたのだ」
「じゃあ……こういうのは……どう……かな?」
 玖朔が突然、垂をだきしめる。そしてそのまま垂も星槍の餌食にした。
「う。……こんな。油断したのは……お互い様か……だが、セイカを置いて私は死ねない」
 垂は槍から体を引き抜くと、血まみれの体で這うように、どこへともなく歩んでいった。
「セイカ……いま、俺が行く……待っていろ……俺はまだ……まだ……」

 アクィラ・グラッツィアーニ(あくぃら・ぐらっつぃあーに)はパートナーのクリスティーナ・カンパニーレ(くりすてぃーな・かんぱにーれ)アカリ・ゴッテスキュステ(あかり・ごってすきゅすて)パオラ・ロッタ(ぱおら・ろった)と麻雀卓を囲んでいるところを血盟団に急襲された。
「なんだオマエら?」
「ほぅ。このご時世に麻雀とはいい身分だな。グラッツィアーニ殿」
 血盟団のなかの将校らしきものが答える。
「静かにしてくれないか。いいところなんだ」
「本官らもそこまで無粋ではない。各員、奴らを包囲しろ。フリこんだやつから処刑だ」
「なにっ!?」
 アクィラが振り返ると指揮官はサディスティックな笑みを浮かべていた。
「殺すのは俺だけでいいだろうっ?」
「じゃ、早くフリこんでやるんだな」
「……ッ!」
「た、隊長殿」
「何か?」
 金住 健勝(かなずみ・けんしょう)が恐る恐る発言する。
「自分も、天誅を下すのはアクィラだけでよいと思います」
 そう、言うか言わないかのうちに隊長の鉄拳が健勝の左ほおを吹っ飛ばした。
「生意気を言うなッ! 貴様はスパイかッ!」
「違うでありますッ!」
「なら黙ってみていろ」
 最初の犠牲者はアカリだった。アカリの棄てた牌に、一瞬クリスティーナがぴくっとする。後ろからのぞいていた血盟団の隊員が、
「お! そいつはロンだ。でかしたな」
 と、クリスティーナの肩をたたいた。
 クリスティーナは震えながら涙ぐみ、
「アカリ……違うの……ごめんなさい……」
「ううん。わかってるよ……さようなら」
 アカリがそう言った瞬間、隊長がアカリのこめかみを拳銃で吹き飛ばした。
 アカリは椅子から崩れるように倒れた。
 血のついたアカリの席には血盟団員が座り、ゲームは続いた。アカリに続いてクリスティーナもパオラも隊長に射殺されていった。隊長の狂気は仲間であるはずの血盟団員に対しても遺憾なく発揮され、フリこんだものはルール通り容赦なく射殺した。
 アキュラは殺されたパートナーたちの復讐に、このルールを最大限利用して、隊員の数を削り取っていった。
 かくして部屋にはアキュラと隊長と健勝だけが残された。
「オイッ、新米ッ、麻雀は知ってるかッ?」
「よくわからないでありますッ」
「じゃあ席に着け。いじりながら覚えろッ」
「イヤであります」
「なんだとぅ?」
「隊長はマトモではありませんッ。でありますから隊長の命令は間違っているでありますッ」
「いい度胸だ。記録には戦死扱いとしてやる」
 隊長が拳銃を向けると健勝もショットガンを隊長に向けた。
 両者が銃を向けてにらみ合った。
「……ザコが。撃てまい」
 隊長が引き金を引く。
 かちり。
 もう一度引く。
 かちり。
 弾切れだ。
 隊長は薄笑いを浮かべ脂汗をたらしながら、
「小僧……貴様には撃てん。そう言う顔をしている。負け犬の顔だ」
 と、近くの血盟団員の死体のホルスターの拳銃に手を伸ばす。
 そして手にするが早いか、
「死ねぃ裏切り者っ!」
 ずばん。
 銃弾を受けて倒れたのは隊長だった。
 その後ろには硝煙を上げるショットガンを構えた鬼崎 洋兵(きざき・ようへい)がいた。
「無事だったか?」
「自分でありますか?」
「ばーか。他に誰がいる」
「平気でありますッ!」
「先に撤退していろ。この地区での作戦はほぼ完了した」
「ハイッ」
 健勝が走り去ると、後にはアキュラと洋兵だけが残された。
「おめーさんも逃げろよ」
「俺は人生の必要パーツを三つも喪った。これじゃどんな戦車だってうごきゃしねぇさ」
「……わかった」
 ひとけのない校舎でくぐもった銃声が鳴った。

 一方、教導団の蜂起を幸いに、政敵を次々と葬っていた輩がいた。}マリー・ランカスター(まりー・らんかすたー)とそのパートナーカナリー・スポルコフ(かなりー・すぽるこふ)。人は彼をこう呼ぶ。
 夜の憲兵隊長、と。
 血盟団の要人殺害が容易に成功したのもマリーの工作によるものである。彼は警備体制に穴を空け、そして自らも政敵を殺害して回った。
「しゅしゅしゅーーーーーっと」
 こんなもんでいいですか? と、カナリーがスプレー塗料を手にマリーにうかがう。壁には『血命団★Fack you』と大書してあった。
「うむ。おみごとでありますな」
「そこのお二方、何をしておられるのです?」
 マリーが背筋が氷河期なくらいビビって振り返ると、大岡 永谷(おおおか・とと)がドア越しに見ていた。
「ななななななんですってえ? お、お前、いつからそこにいた?」
「今来たところであります(ばーか。そんなわけねえだろ)」
「ふふり。ならよろしい。実はここも血盟団に襲われたらしくてな……おおっ!?
カナちんあれをみろっ」
「おおこれはまさしく血盟団の残した落書き!」
「あのー字が間違ってるんですが(つーかこの猿芝居イタすぎる)」
「ではカナちん、血盟団を追ってれっつごうごごうーーー」
「了解であります夜の憲兵隊長殿ーーー」
 永谷は呆れてものも言えないといった表情でふたりを見送った。
 どうせ裁判が始まれば逮捕される身だ。ほったらかしでもいいだろう。と。