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リアクション
空京では相変わらず血盟団員によるカップル狩りが酸鼻を極めていた。
ウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいう゛す)と、ニコ・オールドワンド(にこ・おーるどわんど)は、ミヒャエル・ゲルデラー博士(みひゃえる・げるでらー)の演説によって決起した覆面姿の非モテ老若男女を指揮し、たいまつを持って街中を練り歩いていた。
そして、カップルらしきふたりを見つけては、
「ウィルネスト同志! ケータイとスケジュール帳にラヴラヴプリクラ発見であります!」
「ニコ同志! これは許せませんな! そうだろ皆のもの?」
おおーっと歓声をあげる非モテ軍団。
「火あぶりだ! 火あぶりだ! 火あぶりだ!」
「よろしい。判決が出た」
「ケータイとスケジュール帳は焼却処分とする!」
おおーっと歓声。
「ついでふたりの処分だ。先に命乞いをしたものを助けようと思う、よいかそこのふたり? 早い者勝ちだぞ?」
非モテ軍団は動向を見守り、しんとする。
やがて男が進み出て、
「死ぬなら一緒に死にます」
と、言った。
「う、ウィルネスト同志ッ! これは我々への挑戦だッ!」
「非モテだとおもってなめやがってッ!」
「最初は僕だけで死のうと思った。でも彼女を残して死ねなかった。いいよね?」
男が女をみつめると女は、
「うん」
と、肯いた。
「目の前でイチャイチャとはっ……貴様らそれでもニッポンジンかッ!」
「どーせ俺らはシングルベルさ。上等だぜッ! ふたりまとめて火術で焼き殺して……」
「ヒャッハー!! 悪党どもっ! 怒りの炎が俺を呼ぶ。悪から救えと俺を呼ぶ。炎の魔人マイト・オーバーウェルム(まいと・おーばーうぇるむ)様がいるかぎり、そんな非道なマネはさせないぜッ!」
炎を纏い、空飛ぶ箒に載った少年が空から突っ込んできた。
「喰らいやがれッ! ファイアータイフーン!」
ファイアーストームの巨大版がウィルネストを直撃する。
「うわぁーっ! 何だこのエネルギーはっー?」
ウィルネストは跡形もなく焼却されてしまった。
「ウィルネスト……おまえ、なぜ敵対する? 彼女がいそうには見えないが
……」
「馬鹿野郎! 確かにいないぜ! それにうちの部員が俺を差し置いてカップルを作ってて非常に羨ましいっ!」
「では同志になれ! ひとりぼっちの気持ち、貴様になら解るはずだ」
「それとこれとは話が別だっ! うじうじした奴は大嫌いなんだよ。来い。空で一騎打ちだっ。ヒャッハーッ!」
マイトが箒で駆け上っていく。
「上からものを見やがってっ、逃がすかっ!」
ニコも後を追った。
血盟団が暴徒を扇動する一方、生き残った教導団の指揮官戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)によって民兵隊が組織されていた。
参加したのはメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)、セシリア・ライト(せしりあ・らいと)、フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)、ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)、 一ツ橋 森次(ひとつばし・もりつぐ)他大勢、スパイの侵入を防ぐため、結婚指輪やツーショットのラブラブ写真などを持参したモテ証明がされたものだけである。民兵隊は街の中心部のショッピングモールで血盟団率いる暴徒と交戦状態に入った。
メイベルが最初に襲いかかったのは南 鮪(みなみ・まぐろ)だった。
前述したとおり、鮪はわりと、気が小さい。
「て、てめえ、また『実は強い美少女ヒロイン』じゃねーだろうなぁ?」
鮪は何かよからぬものを感じていた。
だいいち服装がアヤシイ。野球バットにメイド服、そしておでこには『罵霊云泰院(ばれいんたいん)』の文字が。と、そこで部下のチンピラのひとりが、
「あ、兄貴ィ、ありゃもしかしてぇ……」
「オゥ、知っているのかチンピラA」
「オラも詳しくはしらねーけど、はるか昔、中国の武術の達人、明治(ミン・チー)が極めた究極奥義。世界で初めてカカオを応用した武術とか……『眠眠書房刊 これが世界のスイーツ武術より』」
「くくぅ、俺としたことが甘く見るところだったぜぇ」
「いいえ。わたしはただのお嬢様。あなたは何でこんなことをするの?」
「よく聞いてくれたなぁ。俺はよぅ。生まれてからいっちどもチョコをもらったことがねーんだよ。母ちゃん以外からはな!」
「それは努力が足りないと思いますぅ」
「ぐはーーー!」
「あと、女の子と喋り慣れてないでしょう?」
「ごふぅーーー!」
「髪型とか服装にも気を使ったら?」
「ぬひぃーーー!」
「あれ、もしもしだいじょうぶですかぁー? じゃこうげきしちゃいますよぅ? えいえいえい」
ばき。ぼこ。ぐしゃ。
鮪はあっけなく死んだ。
「そうそう、これはプレゼントです」
メイベルはひっくりかえった鮪の口いっぱいにチロルチョコを詰めてあげました。
クロス・クロノス(くろす・くろのす)もまた、メイベルと同じようなことをしていた。メイベルとの差はクォリティー。チロルチョコと手作りでは比べるのもおこがましい。
クロスはその辺を暴れ回る血盟団や暴徒を見つけると、手招きして、
「ショコラティエのチョコはいかがですか? 手作りですよ?」
と、巧みに物陰におびき寄せ、
「リア充死ねとか言ってるからモテないんでしょ? 少しは頭を使いなさいよ頭を」
と、ワルプルギスの書でボコボコにしていたのだった。
だがその作戦も長続きはしなかった。
暴徒30人に囲まれたとき、配りきれるだけのチョコはなかったのであった。
チョコに飢えた暴徒にもみくちゃのぺったんこにされたクロスはスルメのようになって死亡する。
暴徒が去った後、クロスの瞳には大きな月が見えていた。
「きれいね……あいつもみてるかな……」
ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)は血盟団員や暴徒どもを片っ端から投げ飛ばし、ぶん殴り、叩きのめしていた。彼の武器は素手だ。圧倒的な格闘術そのものが兵器だった。
と、彼の目に止まるものがいた。ラルクと同じように素手で市民軍を蹴散らしてやってくる男だ。弐識 太郎(にしき・たろう)。彼も同じく強いものを求めて戦いに身を投じたものだった。
「おい、そこの男」
ラルクが声をかける。
太郎が振り向く。
それ以上の言葉は要らなかった。
お互い、己の肉体を武器とするものであり、そうしたもの同士が鉢合わせればどちらかひとりの勝者がでるまで戦うのが必然であることを知っていたからだ。
一ツ橋 森次(ひとつばし・もりつぐ)とスレヴィ・ユシライネン(すれう゛ぃ・ゆしらいねん)の戦闘は激戦を極めた。一撃ごとに両者の火花が散る。
「チョコレートがほしいんだろう? だったら自分で買えばいいじゃないの」
「そう言う問題ではないっ!」
「何が不満なわけさ。そう言うくらい性格だから嫌われるんだと思うよ」
「チョコもらった組はこれだからな!」
「チョコひとつでこれだけの事して、おかしいんじゃない?」
「問題は本質にある。チョコレートは氷山の一角だ!」
ほんのわずかな隙をついて、スレヴィのワルプルギスの書が森次の側頭部を強打した。森次はそのままはじき飛ばされて倒れた。
「ぐ……けふ……わからないよ……何でこんなことのために殺し合う?」
「人間は本能を押さえつけることに成功してきた。今度は生存本能を抑える番だ」
「ふっ、まあ、これで無意味な争いから撤退できるよ。言っておくよ。この争いは努力すればするほど無意味だよ」
「じゃ努力するよ」
そう言ってスレヴィはとどめを刺した。
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