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【2020授業風景】理科の授業は白い子ギツネ

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【2020授業風景】理科の授業は白い子ギツネ

リアクション

9.

 骨の翼を生やした牛皮消アルコリア(いけま・あるこりあ)は、悠々と空を飛んでいた。ヴァイシャリーを眼下に、風と戯れる。
 ふと見下ろした先にアルコリアは心を奪われた。
「見つけた!」
 そう、それは彼女が探していたもの――おいしそうなクレープ屋であった。

 地上では桐生円(きりゅう・まどか)が携帯電話を使って情報を得ていた。
「懐く時に風を起こすんだって。下から上にぶわぁ、と」
「風、ですか? それなら……私にも分かる、かも……」
 と、杖をつきながら如月日奈々(きさらぎ・ひなな)は言う。目が見えない自分でも、風なら感じることができる。
「それにしても、見当たりませんね」
 真口悠希(まぐち・ゆき)は言いながら路地裏を覗き込む。周囲に気を配りながら歩いているのだが、一向に子ギツネは現れてくれない。
「化けるって書いてあるから、もしかすると人間に化けてて見落としてるのかも」
 と、円。
「そうですよね。化かされなきゃ、いいんですけど」
 悠希は少し不安だった。本能で性別をかぎ分けるというパラミタアカギツネ。もし美しい女性に化けて誘惑なんてされようものなら……考えるだけで鼻血が出そうだった。

 一方、円たちとは反対の方向を行く七瀬歩(ななせ・あゆむ)は、後ろを歩く二人へ言った。
「アルビノって、やっぱり珍しいみたいだよ」
 と、携帯電話の画面を見せる。
「太陽が苦手、ってことは外で遊べないんでしょうか?」
「そんなこともないんじゃないかしら」
 稲場繭(いなば・まゆ)の疑問にエミリア・レンコート(えみりあ・れんこーと)が嘘を教える。パラミタアカギツネの習性もアルビノのことも知っていたが、それ故に彼女たちの子ギツネと遊びたい気持ちに後押しをする。
「アルビノといっても色素がないんじゃなくて、少ないだけかもしれないでしょう?」
「それなら平気なの?」
「一緒に遊べる、ですか?」
 何も知らない少女たちを前に、エミリアはにっこり頷く。
「ええ、きっとね」
 無邪気に喜ぶ繭と歩を見て、思わずにやけるエミリア。今日の繭はミニスカートだ。

 授業時間が残り半分になったところで、円たちと歩たちは合流した。
「キツネさん、いた?」
「ううん、全然」
 太陽がようやく西日になりかけてきたが、歩き通しだったせいか暑くてたまらない。足だってもう休みたいと言っている。
「子ギツネ……どこに、いるんでしょう?」
「人がいっぱいで、怖くてどこかに隠れているとか?」
「やっぱり人に化けてるんだよ。見つかりっこないよ」
「でも子ギツネだから、あたしたちみたいにまだ子どもだったりして」
 様々な推測を立て、笑い合う少女たち。と、そこへ――。
「みなさん、おやつの時間よ」
 にこにこしながらアルコリアがやってきた。その手には人数分のクレープがしっかり握られている。
「あ、おいしそー!」
 と、歩が真っ先に飛びついた。生クリームに包まれたいちごとその隣にあるチョコバナナで頭を悩ませる。
「ありがとー、牛ちゃん」
 円が受け取ったクレープにかじりつき、繭とエミリアもそれぞれにクレープをもらう。
「アルコリアさん……クレープ、ありがとうですぅ」
 と、日奈々もそれを受け取ってにこっと笑った。
 そうして少女たちが和やかに談笑しながら足を休めていると、小さな少女が近づいてきた。
「あら?」
 最初にその姿に気付いたアルコリアが声を上げ、一同の視線が一か所に集まる。
「……あまいもの」
 と、呟いた幼女は瞳をキラキラさせるが、その頭には耳が生え、尻にはしっぽが生えている。
「あー!」
 円が声を上げるのを、隣にいた歩がとっさに抑える。その正体が子ギツネであることは一目瞭然だった。
 アルコリアが立ちあがり、ちょっと小走りに歩く。その後を付いて行く子ギツネ。
 さらに速度を上げると、子ギツネは完全にキツネの姿へと戻り、追い始めた。クォーン! と鳴いては、楽しそうにアルコリアと追いかけっこをしている。
 すぐに円と歩、繭らもまざり始めた。
 それから間もなくして、ぶわぁっと巻き起こる風が見る者に衝撃を与える。
「ぶふっ」
 悠希は最後の一口をのどに詰まらせ、むせてしまう。もれなく皆、パンツを見せて駆けまわっている!
「これを待ってたのよ」
 と、にやにやするエミリア。
 少女たちは痴態を晒していることなど気付かずに、いや、受け入れているかのように、子ギツネと遊んでいる。
 ようやく顔を上げた悠希は、何故だか頭がくらくらしてきた……何か、温かいものが鼻から出ているような……鼻血である。悠希はどくどくと流れ出る鼻血を止めようとするが、友人たちのせいで止まらない。――宿命、とでも言おうか。
 目が見えない日奈々は何が起こっているのか分からなかったが、楽しそうな笑い声を聞いて自分も笑っていた。先ほどから風がやまないのは子ギツネが近くにいるからで、みんなが楽しそうにしているのは目的を達成しているからだろう。
「良かった、です。みんな、とっても楽しそう……」