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リアクション
第六章 勝利のお祝いと、
まるで小さなお祭りのようだ。
ゴブリンとコボルドの混成部隊と、シャンバラ教導団が用意した囮店舗での大規模な戦闘からしばらくして、囮店舗【断頭台】での祝勝会が開かれていた。
祝勝会はバイキング形式で、中央の長いテーブルに置かれた料理から好きなものを取り、適当な席に座って食べるというものだ。
冬野 雪風(ふゆの・ゆきかぜ)や灰猫 大空(はいねこ・おおぞら)、葵 俊介(あおい・しゅんすけ)の姿などもあった。他に、一般の人の姿も少しだがあった。
並べられる料理は、【にゃんこカフェ】の面々や【スターニャックス】、【猫華】などが簡単な調理場を用意し、さながら祭りの出店のような形で、どんどん作ってはテーブルに出していく。
そんな出店の中に、一際目立つものがあった。
そう、ゴブリンが調理をしているのである。
「随分と、手ぬるい結果に終わったようだな」
そんな様子を眺めて、金 鋭峰(じん・るいふぉん)は梅琳少尉に声をかけた。
「はっ。しかし、これは、その皆の意見で決まったことで……」
鋭峰の鋭い視線に、梅琳は言葉に詰まる。
「皆の意見、か。それで、その意見とやらにはどれほどの価値があるというのだ」
「それは……」
「何にせよ、これではただの茶番であろう。店を襲うゴブリンは改心しました、めでたしめでたし。それで納得できるというのであれば、人は戦争もしないだろうし、こうしてこの地までやってくることもないだろうな」
「それは、仰る通りかもしれませんが」
「が、まぁいい。これはこれで面白い結果になったとも言える。まだこいつらの店は開店してはいないのだろう?」
「はい、何人かで接客や調理を教えておりまして、本日のゴブリンの働きを見て店を開店できるかどうかを測る次第であります」
「少し様子を見てやろうではないか。こいつらとの戦闘の報告も見させてもらった。ある程度でも戦術的な働きも期待できるのなら、今後我々の駒にできるかもしれんからな」
「ゴブリンの部隊、ですか?」
「ゴブリンという生き物が単に低脳なのか、それとも学がないだけなのか。もし後者であるならば、教育してやればいい。駒はあればあるほど、使い捨てやすくなるものだ。では、もうしばらく頼むぞ李少尉」
「はっ」
鋭峰はもう一度周囲を見渡してから、その場をあとにしていった。
結局、ゴブリンが作った料理には手を触れようともしなかった。もっとも、最初から期待などはしていないが。
「さて、調理場の様子を見てくるか。あいつら、未だに砂糖と塩を間違えるからおちおち任せていられなしね」
「………階段………これ、革命………はい。あがり」
「やった。これで鈴の六連勝だね」
サンク・アルジェント(さんく・あるじぇんと)が御子神 鈴音(みこがみ・すずね)の頭の上で嬉しそうに小躍りを披露してみせた。
「アル………痛い………」
「あ、ごめんごめん」
「どう………まだ………やる?」
鈴音に問いかけられ、同じテーブルについていた三体のゴブリンは互いに顔を見合わせた。
「………でも、その前に………罰ゲーム」
さっと席を立った鈴音が、ジョッキを持って戻ってくる。ジョッキには、生卵が五個ほどぷよぷよしていた。
「大貧民……の……一気飲み」
「うわぁ、今度のは地味に辛そう」
一番最後まで手札がなくならなかったゴブリンがそのジョッキを受け取り、一度生唾を飲み込んでから、気合を入れてそれを一気に飲み干した。
「………おぉ」
「すごーいすごーい」
「それで………まだ………やる?」
ちなみに、何でトランプの大貧民をやっているのかというと、時間つぶしである。
鈴音は個人的に単純な疑問から、魔法を使うゴブリンとやらに興味を持っていた。その為、あの戦闘があった日もお弁当を持ってゴブリンが出るという場所近くでピクニックをして、彼らと交渉できなかと試みていた。
が、あまりにも大群が現れたためサンクの言葉に従って撤退。
そうして、今日ここでゴブリン料理を作る集会があるというので、飛び入り参加したのである。そこで一つの疑問、魔法が使えるゴブリンは人間の言葉を喋れるという事実を知ったのだが、調理場を離れられないから少し待ってて、と今に至っている。
今ここで一緒にトランプで遊んでいるゴブリンは、人の言葉を話すことはできないが、意味は理解できているようで、こうしてルールを教えてみんなでゲームをして時間を潰しているのだ。
「……次は別のゲームがいい? なら………七並べをやる」
こうしてゴブリンの知能をゲームで探るのも興味深い。なんて思いながら、鈴音は口数少なく、次のゲームのルールを説明するのだった。
「随分と素直に働いているのね」
ライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)は、出店の小脇で腰を下ろして休んでいるゴブリンシャーマンに声をかけた。
このゴブリンシャーマンは、小次郎に足を撃たれたあのゴブリンシャーマンである。そのため、まだ足には包帯が巻かれていた。
「ええ、そりゃあ、命を助けていただきましたから」
「ゴブリンがそんな殊勝な心がけをするのが、少し意外なんだけど」
「そうですかね。まぁ、確かに最初は裏切ることも考えましたけど………だんだん、そんな事を考えるのがバカらしくなりまして」
「素直に言うんだね、裏切ろうと思ったなんて」
「嘘を言っても、しょうがないでしょう?」
ゴブリンの表情を読み取るのは難しいが、とぼけているつもりではないようだ。
「じゃあ、なんで心変わりしたのよ」
「そりゃあ、あんな本気で料理の作り方やマナーを教えられたら、心変わりもしますって。つい先日、命のやり取りをした相手にあんなに真剣に教えようとするなんて、人間ってもんは変わった生き物だと、そう思うじゃないですか。そんな相手を裏切るなんて、意味がありませんよ」
「ふーん」
とライゼは目をそらした。
人間がバカなのか、ゴブリンが素直なのか、いまいち判断がつかない。
そうしてそらした視線の先で、ライゼは嫌なものを見た気がした。いや、気がしたなんてものではなく、確かにその二つの目でそれを見た。
「なっ!!」
驚きの声が口から漏れる。
朝霧 垂(あさぎり・しづり)がゴブリン達に混じって料理をしているのだ。
別にゴブリンと仲良くしている事が問題なのではない。料理をしているのが問題なのだ。
作っているのはおにぎりのようだ。ごくごく普通に考えれば、失敗を想像できない単純で簡単な、料理と呼ぶべきかさえ怪しい一品。だが、それを垂が作っているとなると、話が変わってしまう。
なぜなら、彼女の舌は特別性なのだ。普通の人が困ってしまうような味でも平気だし、もちろんおいしいと思うものも食べられる。味音痴という事にしているが、人間の舌とは少し違う独創的な何かで食べ物の味を感知しているのかもしれない。
そんな彼女の作る料理は、もちろん彼女の舌に左右される。
「よしっ、できた」
垂は満足そうに、大きなお皿に山盛りのおにぎりを乗せると、皆が料理を取るテーブルにそれを置いた。
「俺のお手製のおにぎりだ。みんなどんどん食べてくれ」
「それだけは食べちゃだめぇぇぇぇぇぇっ!」
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