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あなたに届け、この想い!

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あなたに届け、この想い!

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くっついたら離れないで

 薔薇の香りと人々の幸せそうな囁き、小さな噴水や滝の水音、月の下を渡った風の感触――目は見えなくても感じられる、沢山の風景。
 それに、どんな色や形の薔薇があるのかや、あつらえられた灯りがどんな風にそれらを幻想的に照らし出されているかなど……景色は冬蔦 千百合(ふゆつた・ちゆり)が教えてくれる。
 如月 日奈々(きさらぎ・ひなな)は、そうやって二人でのんびり散歩していられるだけで、とても幸せだった。
 日奈々の手を引いてゆっくりと歩いていた千百合が足を止める。
「少し休もっか?」
「はい……」
 日奈々はこくりと頷き、千百合に導かれて近くのベンチに座った。
 隣に千百合が座った気配。
 繋いだままの手は、二人の間のベンチの上に置かれる。
「んー、夜も更けてきたね。あ、日奈々、寒くない?」
「少し……寒いかも……」
 日奈々は、千百合の声が発せられる方へ、ゆるりと顔を向けた。
「千百合ちゃん……くっついても、いい、ですかぁ……?」
「もっちろん。おいでおいで」
 千百合が少し弾んだ声で言って、繋いでいた手を彼女の膝の上へと引き寄せながら、身体を寄せて来てくれたのが分かる。日奈々は、ふくふくと幸せを口元に浮かべて、千百合の身体に半身を寄せた。
「あったかい……です」
「あたしも」
「千百合ちゃんは……おまじない、やりたかった、ですか……?」
「おまじないか〜」
 と、彼女は明るい調子で漏らし、
「あたしたちには、いらないんじゃないかな」
「いらない……?」
 問いかけた日奈々の頭に千百合の鼻先と頬が触れる。
「おまじないなんかしなくても、あたしと日奈々はずっと、ずーっと一緒だよ」
 日奈々はゆっくりと顔を上げた。
 少しだけ探るように口元を千百合の表情に滑らせてから、彼女の唇を探り当て。
 柔らかなくちづけを。
 月光の不思議な感覚が庭園に満ちていて、薔薇の持つ内なる気配も高まっているような気がしていた。それは、多分おまじないにとても適していて、多くのささやかな願い事を叶えてくれる力を持っているのかもしれなかった。
 だけど――二人の願い事は、このまま二人で叶えられるから。
 千百合の微笑んだ気配を口元で感じる。
 強く握らるる、繋いだ手。


 佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)水神 樹(みなかみ・いつき)は、テラスで二人掛けの椅子に並び座っていた。
 二人の前のテーブルには白ワインと葡萄ジュース、そして、弥十郎が用意した肴が置かれている。肴はクラッカーで、クリームチースを乗せたものや、アボガドと海老を乗せてレモンと塩コショウをかけたものだ。
 樹は普段の和服とは違って、パフ袖の半袖ワンピースに薄手の上着を羽織っていた。
 月と薔薇の景色をうっとり眺めながら、ほぅ、と息をつく。
「綺麗な風景ですね」
 と、口にした彼女の肩へ弥十郎の頭がしだれかかって、やがて、それは膝にゆっくりと落ちた。
「……え?」
 コキン、と固まってしまう。
「や、弥十郎さん……?」
 上半身だけでぱたぱたと慌ててから、樹は弥十郎が静かな寝息を立てていることに気づいた。そういえば、とテーブルに置かれた白ワインの方を見やる。あまりお酒が強くない彼にしては飲んでいるほうかもしれない。
 つまり、酔って眠っただけ。
 力が抜け、樹は、はぁーー、と安堵の溜息を漏らした。
「びっくり、しました」
 呟き、気を取り直して、膝を動かさないように、上半身を、ン、と伸ばして傍らのブランケットを取る。
 それを広げて、彼の身体にそっと掛けた。
 月灯りが優しく照らす、彼の横顔。瞼の上へ髪が掛かっていることに気づき、樹は、指先ですっと掬ってよけた。
「……嬉しいんですよ。この綺麗な風景を見れて」
 相手が眠っているから、照れ無く言える。
「弥十郎さんが隣にいて、一緒に見れたことが本当に嬉しい……私は幸せです」
 微笑み、樹は彼の頭を優しく撫でた。
「私は、あなたに出会えて、共にいることとなり、心から良かったと思っているんですよ」
「そういえば、あと少しで一年だね」
「…………え?」
 弥十郎の顔が悪戯げな表情を浮かべながら、樹を見上げて微笑む。
「覚えてる?」
 はめられた。
 彼が本当に寝ているものと思って、色々と言ってしまったものは全て聞かれていて、それにこんな頭とか撫でてしまって……ッカァーーーと己の顔が耳まで熱くなる。
 樹はカチンと固まったまま、しばらく動けずにいた。


 ワインと葡萄ジュースがふるまわれる建物。
 音井 博季(おとい・ひろき)ウルフィオナ・ガルム(うるふぃおな・がるむ)がワインを飲みながら語らっている。
 その様子を遠目に見やりながら、レイナ・ミルトリア(れいな・みるとりあ)は――
「……恋人同士というよりは……仲の良い友人同士、ですね……いえ、男友達?」
 無表情に零した。

 そんな感じがするなぁ、とは、博季も薄々感じていた。
 話題は『満月の夜での戦い方』とか、そんな色気の無い内容だったりしたが、ウルフィオナは楽しそうだし、博季自身も彼女と話すのはとても楽しかった。
 ただ、周囲に見受けられる恋人たちとは少しばかり雰囲気がずれている。何かが違う。
(……これではダメなのかなぁ……?)
 拳を振って生き生きと持論を語るウルフィオナの前で、博季は、うーん、と考え込んでしまった。
 考えたところで何が思いつくわけでもない。いちゃいちゃ、とか、そういうのを望んでいるわけでもないし……
 と。
「音井? どうした? 腹でも痛めたか?」
 彼の様子に気づいたウルフィオナが心配そうに顔を覗き込んでくる。
「あ――いえ、そうではないのですが……っと、そうだ。ウルフィさん。折角なので少し歩いてみませんか? 薔薇を眺めながら」
 月下の薔薇園を散策などしたら、なんとなく雰囲気をつかめるかもしれない。
「ん、そうだな。付き合うぜ! このワインは持ち出してってもいいんだろ?」
 そうして、二人は外へ出て、薔薇園の中をのんびりと歩いた。ほろ酔い加減の頬に夜風があたって心地が良い。
 月が中天に差し掛かっていた。
「綺麗な月だ」
「満開の薔薇に月、というのは趣きがありますね。こう綺麗だと、魔力があるという話に真実味を感じます」 
「月の魔力、か」
「そういえば――ワインを貰った時に、おまじないを教えてもらいました」
 ふと、思い出して、博季は言った。
 その言葉にウルフィオナが小首を傾げる。
「おまじない?」
「ええ、ちょうどワインを使ったものを」
「へえ、面白そうじゃねぇか。今、ここでやれるものか?」
「あ、はい。簡単なおまじないでしたので」
 博季はウルフィオナの目が興味ありそうに輝いた方を軽く見やりながら、ロゼワインの入ったグラスを月の方へと掲げた。
(やっぱり、女性はこういうものが好きなんだ)
 なんて、少し勉強になったりしつつ、
「こう、満月にロゼワインをかざして願い事をするんです」
「ふぅん?」
 ウルフィオナが博季の掲げたワイン越しに月を見ようとして、顔を寄せてくる。二人、同じグラスを通して月を見上げた格好で、博季は続けた。
「赤い月が願い事を叶える、という話に由来しているとか」
「それで、あんたの願い事は?」
 問われて、博季は少し考えてから、たはりと笑った。
「すみません、すぐには思いつきませんでした。ウルフィさんは何かありますか?」
「そうだなぁ……」
 ウルフィオナが、ふむ、と零してから、博季の方へと視線を滑らせ男前な笑みを浮かべた。
「さしあたっては――また二人でこうやってのんびり過ごせりゃいいな、ってところか」
 彼女の願い事を聞いて、博季は一つ瞬きをしてから、柔らかな笑みを返した。
「僕も同じ事を願って良いですか?」
 もちろん、という風に彼女が薄く頷く。
 そうして二人は満月に視線を返し、ワイン色のそれへと願いを込めた。


 月代 由唯(つきしろ・ゆい)がワイングラスを片手に月を臨んでいる。
(……いいッ)
 ワインを取って帰って来ていた鵠翼 秦(こくよく・しん)は、彼女の姿を改めて見、ぐっ、と無駄にガッツポーズを取った。
(あぁ、もう……画になり過ぎだろ、これ。月とワイングラスと美人! いや、グラスの中身は葡萄ジュースだけど。つか、こんだけ月灯りが似合う女は、そうそういねーよ。くっそー、相変わらず綺麗だなー、由唯は)
 一人、見惚れてボーッと突っ立っていた奏の気配に、由唯が気づいて、
「そんなとこで何してんだ?」
「ぅ。いや、別になんでもねーよ」
 奏は少し慌てながら首を振って、彼女と同じテーブルについた。軽くワインを呷って、息をつく。
 奏を見る由唯の片目が細められる。
「しかし、なんでいきなり月見をしようなんて言い出したんだ?」
「あ……まあ、なんていうか、最近、由唯は色々と気ぃ張ることが多かったみてーだし――たまには、こういう事で息抜きすんのも悪かねーだろうな、ってさ」
「ふぅん?」
「由唯、月も好きだろ?」
「そうだけど……」
 由唯が月に顔を傾けて、少しだけ笑む。
「まぁ、確かに、たまにはいいかもな」
 その言葉を聞きながら、奏は密かに闘志を再熱させていた。
(ふっ――確かに由唯にくつろいでもらうというのも目的の一つ。しかし、そのついでに月の魔力とやらで由唯が俺に惚れてしまうといった結果が訪れる、なんて事があっても、やぶさかじゃねーっ!)
 むしろ、そちらの方が割と主目的としたくもある。
「しっかし……」
 奏はワインをちびりとやりながら、口端を揺らした。
 かすかに……時折り、風に運ばれてくる、恋人や恋人未満の連中がおまじないや月の力を話題にしている声。
「バレ、ないよな。これ」
 自分の企みが由唯にバレてしまうのではないかと戦々恐々としてしまう。
 しかし、由唯の方は気にした風でもなく、ゆったりと月を眺めているようだった。聞こえたとしても意識しなければ何のことだか分からないのかもしれない。
(意識、するわけねーか)
 多分、由唯はこっちがそんな風に想ってるだなんて、微塵も気付いていないだろう。頬杖をついて、己の長い髪先が背中を滑る。
 随分長い間、髪を切っていない。それは、由唯が気まぐれに言った一言のせいだ。
(相手がこっちの気持ちを知らねーってのは……改めて、きっついよなー)
 うっかり切なくなりかけて、奏はブルブルと頭を振った。
「――なんだか、落ち着きが無いな」
「は……?」
 声の方へ視線をやると、由唯が半眼で、じっと奏を見ていた。
「トイレぐらい一人で行ってこれないのか?」
「トイレに行きたいんじゃねーよ! てか、さっき一人でワイン取ってきてただろっ!」
「なら、少しは落ち着いて月を見ろよ」
 言って、由唯が嘆息をつき、その視線がまた月へ向かう。
「せっかくの名月だ。どうせなら一緒に見ておきたいじゃないか」
「一緒に……」
 という単語に――おそらく深い意味は全く含まれていないだろうということは、彼女の語調で分かった。悲しいほど。
(もっとがんばれよ、月の魔力……)
 心中で愚痴りつつも。
 由唯の傍らで眺めたこの月は、彼女が言う通り、とても綺麗な月だった。


 遠野 歌菜(とおの・かな)月崎 羽純(つきざき・はすみ)と薔薇園を散歩していた。
 月はとても綺麗だった。
 心が静かになっていく。薔薇の香りが深まって、記憶に繋がる。
「……不思議な、感じ」
(前は違う人と来たのに……今は、羽純くんと一緒に居る)
 過去を、後悔しているわけじゃない。
 あの別れを悔やんでいるわけでもなくて。
 ただ――
(ただ、なんだか……儚い、な……)
 気づかない内に、涙が溢れていて、目尻をすぅと流れた。
「……歌菜?」
 羽純の声に、はっとする。
 そして、歌菜は、今、自分が泣いているのだと自覚した。
 慌てて顔に片手を当てながら、もう一方の手を振る。
「あ、ご、ごめん。なんでも――あれ? あ……駄目だ。ごめん……」
 涙を必死で止めようとしても、駄目だった。どうしても止められなかった。どんどん怖くなっていくことを、止めることが出来なかった。
(人と、人との繋がりは……とても儚い。……私は、羽純くんと、いつまで、一緒に居られるの、かな……)

 先ほどまで楽しそうにしていた歌菜が急に黙り始めた辺りから、なんとなく彼女がどんな事を考えていたのかは想像が付いていた。
 羽純は、必死に涙をこらえようと顔を俯かせている歌菜を見やりながら、ゆっくりと息を吐いた。
 その頭を片手で、ぐっと胸へ抱き寄せる。
「俺には永遠があるのかどうか分からない。現に――俺には過去の記憶がない」
 もう一方の手で涙で濡れた歌菜の手を無理やり握り締め、羽純は、「だが……」と語気をわずかに強くした。
「今、ここでお前と一緒に居るのは俺だし、俺は……」
 握った手を引き上げ、同時に上げられた彼女の泣き濡れた顔を見詰め、言う。
「この手を離す気はない。決して、離さない」
 歌菜の青い瞳がぱちりと瞬く。羽純はその瞳を静かに見据えた。
「それで、十分だろう? だからもう、そんな顔をするな」
 親指で涙を拭ってやる。
 しかし、拭ったそばから、涙は溢れた。
 羽純は一粒、息を零した。
 歌菜は晴れやかな笑みを浮かべた泣き顔で小首を傾げていた。
「そんなこと言われたら……嬉しくて、涙が止まらないよ」


 中央の建物の上階――
 そこにある宿泊用の客間は、特別に希望者の女性にも開放されている。
 庭園でのデートを楽しんだ鷹村 真一郎(たかむら・しんいちろう)ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は、その一室でゆったりとした時間を過ごしていた。
「……ゆっくりと、ね」
「ああ」
 部屋から続くバルコニーのテーブルの上。
 紅茶と蜂蜜を入れた器には薔薇の花弁が浮かべられていた。そして、真一郎はルカルカに言われる通り、二人で一角獣の角を用いて、それを混ぜた。
 月を映し出した紅茶を薔薇の花びらがゆるりと巡って、沈んでいく。
「次に私が呪文を唱えるから――」
「叶えたいことを願うんだな」
 ルカルカが頷く。願い事は、お互いの幸せ。
 蔓バラの絡むバルコニーの柵を背景に、月の光に淡く照らされたルカルカが静かに静かに古いラテン語を連ねていく。その響きも相まって、彼女の存在がとても神秘的なもののように感じられた。
『生命の女神に生命の果実を捧げます。御力を血に宿し願いを叶えてください』
 先ほど彼女から聞いた話では、角で生命の魔力を与えられた花弁が『果実』、紅茶に混ぜた蜂蜜が『血』ということらしい。
 混ぜ終え、二人はそれを交互に飲んだ。器の底に濡れた花弁がひとひら残る。
「あとは、この花弁ごと器を一晩、月光に当てておけば、おまじないは完成〜」
 ルカルカが先ほどの神秘的な様子とは全く違う、明るい調子で言いながら立ち上がる。
 真一郎も立ち上がり、
「では、そろそろ眠ろうか」
「うん」
 二人揃って、部屋の中へ戻っていく。
 薄いレースの天幕が掛かった豪奢なベッドの中に入って、おやすみのキスを交わした。
「いつか、真一郎さんを私の原風景に案内したいな」
 ルカルカが真一郎の腕を枕にして寄り添いながら言う。
「ルカルカが生まれたところか。それは是非行ってみたいな」
「でも、行くのはちょっと――というか、結構、大変かも」
「それでも、だ」
 真一郎は、ルカルカの方へと顔を傾けて笑んだ。
 ルカルカが幸せそうに、ふふ、と笑み漏らす。彼女はしばらく擽ったげに、はにかんでから、
「あ、そういえばね、この前、友達と百貨店に行ったの」
「楽しかった?」
「うん、とっても。だってね――」
 話は尽きず、やがて二人が眠りに落ちるまで続いた。


 深い薔薇の生垣に囲まれたテラス。
 テーブルは一つで、コトノハ・リナファ(ことのは・りなふぁ)ルオシン・アルカナロード(るおしん・あるかなろーど)は二人きりの時間を過ごしていた。
「月夜の晩の〜」
 コトノハが歌を歌いながら、テーブルの上でヤモリと薔薇とローソクを焼いて潰して粉にしている。
 ルオシンは愛しい妻が地球で知ったというおまじないとやらを眺めながら、ふむ、と一つ落とした。
「月が人を狂わせる、か」
 月の持つ魔力――そういった地球の文化を初めて聞かされた。だから、彼は純粋な興味を持ってコトノハの所作を眺めていた。
 そして、妻がホロなんたらと一言、楽しそうに唱え、先ほど粉にしていたものをスプーン一杯、グラスの中のワインへと入れた。
「出来ました」
 すっと、グラスがルオシンの方へと差し出される。コトノハが何やら期待を込めた瞳で見てくる中、ルオシンはグラスを傾けた。

「何だこれは!?」
 と、夫は声を上げたきり、黙ってしまっていた。
 ワインを空けた彼の頭には、長く白いウサギの耳が問答無用に生えていた。
「ハートを引き付けるおまじないだと伺っていましたけれど。なぜウサギ?」
 コトノハは、夫のウサギ耳を、もふもふと触りながら小首を傾げた。
 と――彼の腕がコトノハの腰を捉え、強引な力で彼女を抱き寄せた。一瞬、彼女の身体が浮いてしまったほど強く。
「きゃ!?」
 ばふ、とルオシンの膝の上に座らされて、彼と向い合った格好になる。
「ルオシンさん……」
 どうしたんですか? と問いかけようとしたコトノハの首元にルオシンの口先が触れる。
「や、ルオシンさん、擽ったいです。って、あ、そんな、ひゃっ」
 腰に回された彼の片腕が、ぐっと彼女を抱いたままなので逃れられない。そうこうしている内に、彼のもう片方の手が彼女の頭をやや乱暴に捉えた。ルオシンの顔が迫って、唇が合わせられる。
「ん、む……ぅ」
 彼の舌先が彼女を求めるように口腔を舐って、小さな水音が幾度と交わる……ツ、とルオシンが銀糸を引きながら顔を離して、熱っぽい瞳でコトノハを見つめた。
「すまない。なにか、いつもより余裕がなくて……コトノハが愛し過ぎて、己を抑えられん」
「え……え、えと……」
 コトノハは乱れされた息を整えようとしながら、精悍な彼の少し困ったような表情とウサギ耳と、熱を持った瞳とを見て……
(どうしましょう……ものすごく、かわいい)
 少し見当違いなことを考えていた。
 そして、また彼に口を塞がれる。舌を絡める快感と息苦しさで、頭がぼぅっとしていく中、コトノハは、”三月ウサギ”を思い出していた。
 そうして、愛しい愛しい三月ウサギの求めるままに。