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(5)皆を守るために

 時刻は少し戻り、採掘場前の広場でハイドラとの戦闘が繰り広げられていた頃。

 パラ実生の襲撃を警戒していた宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)たちはハイドラとは戦わずに、森の中で警戒を続けていた。
「このあたりで、パラ実生が目撃されたって聞いたけど…」
 祥子が地図を見ながらつぶやく。
「おそらく、ハイドラと戦って疲弊したところを狙うつもりなのでしょう」 
 一緒に警戒していた御凪 真人(みなぎ・まこと)が言う。
「だとすると、そろそろね…」
 セルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)が言った。

 地上だけではなく、空からも探索は続けられていた。
「見つからないな…どこかに隠れているわけではないのか?」
 小型飛空挺オイレで上空から探索していた氷室 カイ(ひむろ・かい)が探知機を見ながら言った。
「敵はどこから来るかわかりません、気を抜かずに挑みましょう」
 サー・ベディヴィア(さー・べでぃびあ)がそう言って武器を構える。
 レオナ・フォークナー(れおな・ふぉーくなー)も装備の手入れを怠らない。

 そうしているうちに、遠くの方からやかましい音が聞こえてきた。
 音はだんだんはっきりとしてきて、真人たちにはそれがバイクの音であることがわかった。
「来たようね…!」
 草陰に隠れていたリネン・エルフト(りねん・えるふと)が遠方を確認する。バイクはもうすぐそこまで迫ってきていた。
 バイクの数はざっと見ただけでも10数台であり、さらに二人以上乗っているバイクもあって、人数は結構多い。
 ほとんどのモノが血煙爪やボウガンで武装している。
「誰がリーダーかしら」
 リネンと一緒に様子を見ていたヘイリー・ウェイク(へいりー・うぇいく)がつぶやいた。
「たぶん、一番派手なバイクに乗っている男よ」
 リネンが答えた。確かに、派手なバイクの中に一際派手な者があり、いかつい男が乗っている。

「まちなさーい!!」
 いよいよ採掘場に迫ってきていたバイクの前に躍り出たのは、カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)だった。
「ちょ、ちょっとまって!」
 リリィ・クロウ(りりぃ・くろう)はその様子を見てあわてて後を追う。
「なんだあ、お前たち。俺たちの邪魔をするつもりか!?」
 リーダーらしき男がカレンを睨みつける。凄みのある男であるが、カレンは一歩も引かなかった。
「そうよ、ボクたちは…もごご」
 カレンの口を後ろからリリィがふさぐ。
「ご、ごめんなさい〜。わたくしたち、決してあなた方の敵になりたいわけじゃないのですわ。どうです、取引しませんか?」
「取引?」
 リーダーが胡散臭そうにリリィを見る。
「はい、ハイドラと戦闘して疲れているとはいえ、今採掘場にいる人たちと戦闘になったらあなた方も無傷ではすみませんわ。そこで私たちと協力して、月雫石をみんなで山分けしてはどうでしょう?」
「ふーむ…」
 リーダーが考え込む。
「そんなこと言って、月雫石が足りなくなっちゃったらどうするのよ」
「しーっ!!」
 カレンは指摘するが、リリィはあわてて止める。

「リリィさんの言うとおりにそう上手く行くかしら?」
 隠れて様子を見ていた祥子が言う。
「俺はちょっと、難しいんじゃないかなと思う」
 真人がつぶやいた。

「リーダー! 騙されちゃいけませんぜ。いまさら話し合いで解決なんて、罠に決まってます!」
 ネヴィル・ブレイロック(ねう゛ぃる・ぶれいろっく)がリーダーに呼びかけた。
「私も信じられませんね」
 ガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)がリリィを見て言った。
「そ、そうだな。危ない危ない、危うく騙されるところだった…」
 リーダーはそう言って、武器の血煙爪を掲げた。
「さあ、そろそろあの厄介なハイドラが片づけられる頃合いだ! 一斉に突撃するぜえーっ!!」
 バイクの集団が二手に分かれ、カレンたちを挟むように突進してきた。
「おおーっ!!」
 ヴェルチェ・クライウォルフ(う゛ぇるちぇ・くらいうぉるふ)たちパラ実生が雄叫びをあげ、バイクでカレンたちに突撃してくる。

「『あの厄介な』…? まるでハイドラと戦ったような口ぶりね」
 物陰から見ていたリネンが言った。
「彼らがハイドラにかなうとは思えないけどなあ」
 ヘイリーが首をかしげる。
「実際ハイドラは生きてるしね。まあ私たちには関係ないことだわ。さあいくわよ」
 リネンとヘイリーは草をかぶせて隠しておいた小型飛空挺に乗り込む。

「ヒャッハー!!どけどけー!!どかないとぺしゃんこになるぜ!!」
 リーダーたちの一団がカレンに迫ってきていた。
「道を通すわけにはいかないのよ!」
 カレンは剣を構えた。リーダーと真正面からぶつかるつもりだ。

「私たちも行きましょう!」
 祥子、真人、セルファたちもバイクの前に飛び出す。
「先手必勝よ!」
 祥子がサンダーブラストを撃ち、つづいて真人がファイアーストームを放つ。雷と炎が一度に一団のバイクに命中した。
「ぎゃあ〜っ、あちち…!」
 バイクがすっかり使いものにならなくなった。何人かのパラ実生は地面に放り出される。
 他の者たちはあわててバイクから降りて、服やバイクに付いた火を消そうとする。

「今がチャンスです!」
 隠れていた浅葱 翡翠(あさぎ・ひすい)エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)たちが飛び出してきて、パラ実生に銃撃や拳を浴びせる。
「ひえーっ!! 勘弁してくれー!!」
 ある者は銃弾に驚いて逃げだし、ある者はエヴァルトの技で気絶していく。
 そんな中、リーダーは違っていた。

「お前たちを相手にしてる暇はないんじゃー!!」
 血煙爪を振り回しながら、翡翠とエヴァルトに突進してくる。
「行かせるかっ…!」
 エヴァルトがリーダーに組みかかり、投げ飛ばそうとするが、逆に振り払われてしまう。
「くっ…」
「ここはボクが!」
 そこでカレンがリーダーに切りつける。
 リーダーはカレンの剣を血煙爪で受け止める。
「ぐぬぬ…!!」
 リーダーがカレンの剣を振り払おうとするが、その隙に後ろに回られたエヴァルトに拘束される。
「隙あり!」
「ぐああっ!!」
 リーダーは地面に放り投げられた。

 そのころ二手に分かれたもう一つのバイク、ガートルード、ネヴィル、ヴェルチェたちはリーダーとは別に、採掘場に進もうとしていた。
 カレンの戦いぶりを心配そうに見守っていたジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)であったが、彼らの存在に気づき、レールガンを打ちこんだ。
「逃がすか」
 レールガンはヴェルチェたちのスパイクバイクに命中し、乗っていた者たちは地面に叩きつけられる。
「いたた…なにすんのよ!」
 ヴェルチェたちが怒ってジュレールに向かってくる。ところが…
 ズボリ。
「きゃあっ!?」
 なんと、ジュレールの目前で、彼女たちは落とし穴にはまってしまった。
「上手く行きましたですぅ〜!」
 草むらに潜んでいたレティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)がガッツポーズをする。
「今の内にとどめを刺してしまいましょう」
 ミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)が魔法の詠唱を始めるが、そのとき落とし穴から逆に炎が飛んでくる。
「!!?」
 ミスティとレティシアはジャンプしてよけるが、そのとき落とし穴から土煙が巻き起こり、何者かが飛び出してきた。
「やはり罠を仕掛けていたな! だがこの程度では俺には効かないぜ!」
 ネヴィルとガートルードだ。少し遅れてヴェルチェも這いだしてくる。
「ヴェルチェ、あとの人は?」
「頭を打ったりしてもうだめね。全く軟弱なんだから…」
 ガートルードの質問に彼女は首を振った。
「俺たちだけでも急ぐぞ」
「そうはいきませんよ!」
 茅野瀬 衿栖(ちのせ・えりす)が腕を組み、ヒプノシスをかける。
「なんだ…!?」
 ネヴィルたちは最初は異変に気づかない。
 ところが、次の瞬間、ガートルードがネヴィルに掴みかかってくる。
「こら! 何すんだ!?」
「いつの間に月雫石を手に入れたんです!? ちょっと分けなさい!」
「何言ってるんだ…!あっ、そっちこそ、月雫石をもってるじゃないか!?俺にもよこせ!」

「え…どうなってるの?」
 滝宮 沙織(たきのみや・さおり)は突然取っ組み合いをはじめたガートルードとネヴィルを見て呆然としている。本人たちは月雫石がどうのといってるが、そんなものは見えなかった。
「少し催眠術で幻覚を見せてあげました。互いの持ち物が月雫石に見えるようにね」
 衿栖が答える。

 幻覚にかからなかったヴェルチェはこっそりその場を後にしようとするが、落とし穴に落ちたとき打ったのか、足に痛みが走り、体勢を崩してしまう。
「きゃー!スケベ!」
 転んだ視線の先には沙織のスカートがあった。
「そ、そんなつもりじゃ…きゃっ!」
 ヴェルチェは弁解しようとするが、沙織のキックが次々に飛んでくるのでよけるのに精一杯だ。
「もう…こういう力技はあまりしたくないけど、しょうがないわ!」
 ヴェルチェはやむを得ず、光条兵器の鎖を出現させる。 そして長い鎖をしならせながら、沙織に叩きつけた。
「きゃあっ!」
 沙織は鎖をもろに受けて地面に膝をついてしまう。
「あたしを甘く見たようね。じゃあお先に〜♪」
「まちなさいー!!」
 ヴェルチェは空からの声に上を見上げると、カイとリネンの二つの小型飛空挺が飛んでくるところだった。
 ヘイリーが逃げようとしているヴェルチェと確認すると、次々に弓を撃ってくる。
「まったく、こう敵が多くては厄介ね。リーダーも捕まったようだし、ここは…!」
 次の瞬間、ヴェルチェは採掘場と反対の方に駆けだしていた。そしてあっと言う間に姿を消してしまった。
「待ちなさい!」
 沙織が叫ぶが、当然返事はない。
「追いますか?」
 レオナがカイにたずねる。
「いや、採掘場には行くようではないし、追う必要はないだろう」

 衿栖はそろそろいいだろう、とヒプノシスを解く。
「あ、あれ…??」
「一体どうしたんだ…?」
 ネヴィルとガートルードがお互いの身を放してきょとんとする。
「それより、周りを見て!」
 ガートルードが叫ぶ。

「これで全部やな」
 二人が幻覚を見ている間に、リーダーは捕まって拘束され、柿崎 マコ(かきざき・まこ)や祥子、真人たちによってすっかりバイクも破壊されてしまっていた。
 ほかのパラ実生たちも皆、捕まってしまったか逃げたかのどちらかの様子である。
「まずい、もう味方はいないようだ」
 ネヴィルが目をキョロキョロ動かしながら、あたりを確認する。
「逃げますか」
「ああ、逃げるが勝ちだ」
 二人はうなずき合うと、すぐさま後ろを向いて駆けだした。
 特に追うものはいない。
「もう来るんやないぞー!!」
 マコが大声で叫ぶ。
 二人はすでに姿を消していたので、声が届いたかはわからなかった。

「これで全部のパラ実生を捕まえるか、追い払えたようですね」
 怪我人の回復をしていたミュリエル・クロンティリス(みゅりえる・くろんてぃりす)が言った。
「そうね」
 祥子がリーダーの方を見た。今は縄で縛られている。
「……ふん!」
「この人たちはどうなるんですか?」
 ミリュエルがたずねた。もちろんリーダーを含めた捕まったパラ実生のことだ。
「レティーシア様たちが帰るまでここに放置しておけばいいんじゃないでしょうか」
 と言うのは翡翠。
「それはさすがに可哀想では」
 一方、エヴァルトは同情的だった。
「そろそろ向こうの戦いも決着がついたでしょう。採掘場までこのまま連れていって、みんなで話し合うのはどうですか?」
 ミスティの提案に、マコたちは賛成した。
「そうやな〜それがいいんちゃう?」
 そう言うことで、真人たちはパラ実生たちを縄でつないで、採掘場へと向かうことにした。