|
|
リアクション
(6)帰還
そのころ、ちょうど採掘場では、榊 朝斗(さかき・あさと)、ルシェン・グライシス(るしぇん・ぐらいしす)たちやシルフィスティ・ロスヴァイセたちによって、怪我人や水晶化した者たちの治療が行われているところであった。
「はい、もう大丈夫だよ」
朝斗は水晶化していたロビンに石化解除薬を使い、声をかけた。
ロビンが声に気がついて目を開ける。
「ロビン! 元に戻ったのですね! ああ、よかった〜っ!!」
「一時はどうなるかと心配しましたわ…本当によかったです」
ゾリアがうれしそうに駆け寄ってくる。
ザミエリア・グリンウォーター(ざみえりあ・ぐりんうぉーたー)もロビンが元に戻ってほっとしている様子だった。
「どうもありがとうございます」
ゾリアが朝斗に礼を言う。
「お役に立てて何よりだよ」
「どうします? これから」
ルシェンがゾリアたちにたずねる。
「わたくしたちは採掘場で月雫石を探しますわ」
ザミエリアが答える。
「そうか。僕たちも後で行こうね」
「はい!」
朝斗の言葉に、ルシェンはうれしそうに答えた。
「水晶化した人たちは全員元に戻ったようだな」
ヴァル・ゴライオン(う゛ぁる・ごらいおん)が周りを確認しながら言った。彼は戦闘中に水晶化した者たちをハイドラの攻撃が届かない所まで運ぶなどの後方支援をしていた。
「そうですね。石化解除薬が十分にあったお陰ですね」
キリカ・キリルク(きりか・きりるく)が言う。
「怪我人の方も四谷さんたちが手当しているので大丈夫でしょう」
キリカの視線の先に、手当に当たっている四谷 大助(しや・だいすけ)、グリムゲーテ・ブラックワンス(ぐりむげーて・ぶらっくわんす)、四谷 七乃(しや・ななの)の姿があった。
「はい、ちょっと痛いけど我慢してね」
「いたた…!」
大助の手伝いをしようとグリムリーテも怪我の消毒などをしている。
「マスター、こっちもおねがいします!」
七乃が大助に呼びかける。
「わかった、すぐ行くぜ」
大助はあちこち忙しく動き回っていた。
そのころ、エッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)や四方天 唯乃、相田 なぶらたちなどがハイドラの灰を集めて地面に埋め、墓を作っていた。
「やはり、怪物が倒されるのは運命なのでしょうかね…」
エッツェルがもの悲しそうに言う。
「いや、今回はハイドラが正気を失って暴れていたせいもあるからね。もしおとなしいときに出会っていたら、戦わずに済んだかも…」
なぶらが首を振りながら言った。
「そうね…」
灰を埋めた後、適当な石を置いて目印にする。
過ぎてしまったことをもし別の機会だったら、など考えても意味ないかもしれない。
しかし、ハイドラを倒す原因を作ったのが自分たちでなくても、人の都合でこうなってしまったことは確かだ。
「ハイドラ…」
エッツェルたちはハイドラの魂が安らかに眠れるよう、願うばかりだった。
休憩の間、体力の残っている者たちは採掘場の中を探索して、月雫石を集めていた。
「わあ、これが月雫石ですかぁ、綺麗ですねえ」
咲夜 由宇(さくや・ゆう)が落ちている月雫石を広い集めている。
まだ原石であるが、透き通った黄色の石は確かに美しい。そして加工すれば月のような輝きが出るというのだから、アクセサリー用として価値が高いのもわかる。
「やっぱり文献と実際にみるのでは違いますね〜、あ、こっちにもありますわ」
アクア・アクア(あくあ・あくあ)も興味深そうに月雫石探しを手伝っていた。
「これでネックレスを作ったらドレスに似合いそうねえ」
羽瀬川 まゆり(はせがわ・まゆり)も月雫石集めを手伝っていた。
そしてだいぶ月雫石が集まってきたころ。
まゆりたちは、何者かが近づいてくる足音に気がつかなかった。
「きらきら、ちょうだい」
突然の声に驚いて、由宇たちは顔を上げる。
いつの間にかロングTシャツ、素足の少女が立っていた。笹咲来 紗昏(さささくら・さくら)である。
「これは、みんなで分けるように採っているの。だからそのときにあげるわよ」
まゆりが言うが、紗昏は意に介さないようだった。
「ちょうだい」
そう言って彼女は、袋から石を取ろうとする。
「だ、だめだって!」
まゆりがあわてて袋を押さえると、紗昏は無表情のまま「ティナ…」と口にする。
その声に応じてアルバティナ・ユリナリア(あるばてぃな・ゆりなりあ)が出現した。
「なっ……!?」
「お待たせしましたっ!」
現れるなり彼女はいきなりトミーガンをまゆりたちに向けて撃つ。
「きゃあっ!!」
まゆりたちは驚いて採掘場の外へと逃げ出した。
「…どうした? 銃声がしたが…」
異変に気がついた銀星 七緒たちが様子を見に来た。
するとまさに紗昏とアルバティナが月雫石をもって逃げようとするところだった。
「もしや、パラ実生!?」
ルクシィは驚いて、メイスの光条兵器を構える。
紗昏は彼女たちを敵と認識したらしく、アルバティナと共に襲いかかってきた。
紗昏が斬りかかってきたため、七緒はやむを得ず刀でそれを受け止める。
「よせ…こんなところで戦う意味があるか…!」
「カンケイナイ、コロス…!」
紗昏は先ほどとは別人になったように攻撃的な性格になってしまっている。
「パパ…!? よくも…パパを…いじめるなああっ!!」
いつの間にか、ピンチを感じ取ったのか、ルミナルナ・ハウリンガー(るみなるな・はうりんがー)が自分の意志とは無関係に獣化していた。
「てええいっ!!」
地面を蹴って跳躍したルミナルアは紗昏の頭部に蹴りを入れる。
「ク……!!」
そしてそのまま地面に転がった紗昏に馬乗りになり、拳で何度も殴った。
「許さない…!よくも…!」
「ルミナルア、もういいから!もう十分よ!」
やりすぎに見えたのでパーミリア・キュラドーラ(ぱーみりあ・きゅらどーら)があわててルミナルアを抑える。
しかしその隙に、紗昏がルミナルアに蹴りを入れて起きあがり、すぐさまルミナルアと距離を取った。
「コロス…!」
落ちていた刀を拾って構え直すが、そのとき、紗昏を追いかけてきたヨハン・サンアンジュ(よはん・さんあんじゅ)がようやく採掘場にたどり着いた。
「サクラ! ああやっぱり来てたのですね…」
「パパ…!」
紗昏は武器を下ろす。
「月雫石を手に入れようとしてくれたのはありがたいですが、あまり無茶しないでくださいね」
そういってヨハンは大人しくなった紗昏を抱えると、洞窟の外へと行ってしまった。
「ちょっと待って…!?」
ルミナルアが後を追うが、すでにヨハンたちはオイレに乗ってその場を去っていくところであった。
「な、なんだったんだ…」
七緒は疲れた顔をしていた。結局月雫石は無事である模様だった。
このような騒ぎもあったが、後は特にパラ実生の襲撃もなかったため、休憩を十分取ることができた。
集まった月雫石は希望者に分けられ、後でアクセサリー職人に加工してもらうことになっていた。
そのとき、森の中から柿崎 マコたちが姿を現した。
彼女たちはパラ実生の襲撃に備えて森の中で警戒していたわけだが、どうやら脅威は去ったらしい。
その知らせを聞いて、大助たちはほっとしていた。回復できたとはいえ、さらにまたパラ実生たちと戦うのは大変だ。
「それで、この人たちをどうするかですわね…」
祥子たちから話を聞いていたレティーシアが、拘束されたパラ実生たちを眺めた。
「ねえ、誰かこれに見覚えある人はいないかしら?」
波音がハイドラに刺さっていた血煙爪の刃を祥子たちに見せた。
するとリーダーがビクっと反応したが、あわてて目をそらす。
「何か知ってるのね?」
「し、知らねえよ!!」
セルファが問いつめるが、リーダーは首を振る。
「パラ実生たちの武器はこっちに集めてありますが…あ、これ同じじゃないですか?」
真人が武器を入れた袋から血煙爪を取り出した。それは先ほどまでリーダーが使っていた武器だった。
「やっぱりあなたがハイドラを傷つけたのね!」
リカインが詰め寄る。
「ゆ、許してくれ…月雫石がほしくてつい」
リーダーは頭を下げた。
「許す余地はありませんね。そう思いませんか?」
天夜見 ルナミネス(あまよみ・るなみねす)がリカインに言う。
「たしかに…」
「そこを何とか…!」
癖のあるパラ実生たちのリーダーになるような人物だけあって、なかなかしぶとい。
やはり自分の欲のために生き物の命を傷つけたリーダーは許しがたい。しかしどうしたものか、レティーシアたちは悩んだ。
「こうしてはどうでしょう? 罰として、ここの採掘場で働かせるんです」
レティーシアが提案した。
「しかし、月雫石を持って逃げたらどうするんです?」
ルナミネスが反論する。
「監視付きで働かせればいいと思いますが…できますか?」
レティーシアは採掘場の責任者にたずねた。
「そうですね、採掘場が大分荒らされてしまったので、働き手は大歓迎です。監視の方も任せてください」
というわけで、話はまとまった。
「くそ…覚えておけよ…!」
リーダーはレティーシアたちを恨むがもう遅い。
「なにしてるんだ、すぐに仕事にかかるぞ、納期が遅れまくってるんだ」
「いてて…わかったから縄を引っ張らないでくれ…いててて…!」
責任者にそう言われながらて引っ張られていく。
「ここでしっかり働いて、反省するのよー!」
リカインたちはそういい残して、ツァンダへと帰っていった。