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第4章 元旦のおせちのラジオ・・・part1

「いらっしゃいませ!」
 店主のベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)がエリザベートたちを席へ案内する。
「メニューはお雑煮です」
「お雑煮だけですぅ?」
「といってもいっぱい種類があるんですよ」
 それだけしかないのかと首を傾げるエリザベートに、すまし汁仕立ての関東風と白味噌仕立ての関西風を勧める。
「どっちも美味しいですぅ♪」
「関西風はちょっと甘い感じがするね」
 静香も箸を手にしてお雑煮を食べる。
「香川風と奈良風もあるんですよ」
「えぇえーっ!餅は餅でも何か違う物が入っている気がするですぅ」
 ありえないっといわんばかりにエリザベートが器の中を凝視する。
「エリザベートさんっ、そんな顔すると地域の人が機嫌悪くなっちゃうよ」
 きゃーきゃーと騒ぐ彼女に、静香がやんわりと注意する。
「ラジオじゃお顔が見えないですよぉ」
「まぁそうなんだけどね」
「だって味噌汁にあんころ餅が入っていたり、お雑煮の餅にきな粉をつけて食べるなんて・・・。別々で食べたいですぅう〜っ」
「あ、静香さん。いつの間に香川風のお雑煮を・・・」
 テーブルの上にある空っぽになった器をベアトリーチェが見る。
「ごめんね、何だか進行的に面白くないかもしれないけど」
「もったいない食べ方ですけどね」
「―・・・美味しかったよ」
 水を飲みニッコリとベアトリーチェに微笑みかける静香だったが、コップを持つ手がぷるぷると震えている。
「エリザベートさんも食べてみてください」
「うぅっ、じゃあ・・・勇気を出して食べますぅっ。―・・・・・・んっ、うん・・・きゃぁああぁあ」
 香川風を食べたエリザベートがノックダウンしてしまう。
「はぅうっ、奈良風は何とか食べられましたけど香川風は・・・。地域の人に申し訳ないですけど、私には無理ですぅっ」
「そうなんですか?」
 しっかり食べきったお雑煮が入っていた器を見下ろして呟く。
「ベアトリーチェさん、関東風が食べたいですぅ」
「ごめんなさいっ、そろそろお店を閉める時間なんです」
「お店閉まるの早いですぅ〜っ。でもお時間なら仕方ないですねぇ」
「それではお2人が決めた金額でお願いしますね」
「じゃあ僕は0.9Gかな」
「静香さん、1Gないですぅ」
「え、それくらいだと思ったんだけど」
 素直に考えた静香の金額をつけ方は、かなりリアルな感じがした。
「私は0.6Gにしますぅ〜」
「エリザベートさんも1Gないじゃない?」
「だってあんころ餅が入っているなんてっ。それがマイナスですねぇ〜」
「まいどありがとうございました。またのご来店をお待ちしています♪」
 店主のベアトリーチェは、収録スタジオから店を出るエリザベートと静香に手を振る。



「キレイにお皿へ盛りつけて・・・出来ましたぁ〜」
 神代 明日香(かみしろ・あすか)は完成した栗きんとんを皿に並べ終える。
「食べに来ませんか、エリザベートちゃん♪」
 甘い香りを漂わせる栗きんとんを、SEの席にいるエリザベートに見せる。
「2軒目ですかぁ〜?」
 すでに1軒目でお雑煮を食べた彼女が、用意された椅子へちょこんと座る。
「あら、おせちのはしごですね。お腹大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよぉ〜♪」
「はい、あ〜ん」
 箸でつまんで甘いものは別腹のエリザベートに食べさせた。
「どうですか、美味しいですか?」
「美味しいですぅ〜」
「もっと食べますか?」
「はい、ください明日香♪」
「それじゃあ、お口を開けてください〜」
 小さな口を開ける少女に、栗きんとんを食べさせる。
「いいなぁ、あんなふうに食べさせてくれることなんてないからなー」
 観客席から神野 永太(じんの・えいた)が羨ましそうに眺める。
「これってお土産でもらえたりするんですぅ?」
「えぇいいですよ、後で包んであげますね〜」
「あらまぁ〜」
 扉の隙間から覗く視線を感じた明日香は困り顔をしながらも、マイペースな態度でエリザベートに食べさせている。
「じぃ〜っ」
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が入ろうかどうしようか迷うふうに2人の様子を見ている。
「そんなところにいないで入ってきてください」
「じゃあ遠慮なくお邪魔しようかな」
 明日香に手招きされた美和はとすんと席に座る。
「ここのおせちは栗きんとんなのね。食べてみようっと、はむっ。甘い〜ね」
 皿に盛られているそれを箸でつんで口へ運ぶ。
「明日香、もっと食べさせてほしいですぅ」
「そうしたいんですけど、もう閉店の時間なんですよ」
 栗きんとんを欲しがるエリザベートの頭を明日香が優しく撫でる。
「ここも閉まっちゃうの早いですぅうっ」
「お気持ちだけの金額をテーブルに置いてください♪ただにしてあげたいんですけど、進行上それが出来ないみたいですからね」
「う〜ん、そうですね。とっても美味しかったですから、お土産代を含めて10Gあげちゃうですぅ」
「エリザベートちゃん、それ払いすぎですよ!」
 それなりに料理が揃ったおせちが変える値段を渡され、明日香は慌ててお金を返そうとする。
「たまにしか食べられませんから、これくらいお支払いしますよぉ〜」
「そうですか・・・?じゃあ受け取っておきますね」
「私は2G払うわね」
「それもちょっともらいすぎな感じがしますよ。この量なのに・・・。でも一応決まりですから、受け取っておきますね」
「いっぱい食べちゃったからそれくらいあげなきゃ」
「分かりました。それではまたのご来店、お待ちしてますね♪」
 美羽からエリザベートへ視線を移し、お土産を渡して見送る。



「いらっしゃいませーっ」
 長原 淳二(ながはら・じゅんじ)が扉の傍にいる美羽を呼ぶ。
「ちゃんとセットとして入り口があるのね」
「セットじゃなくってちゃんとしたお店ですから!」
「あ、ごめん。そうね」
 ちゃんとしたお店なんですよ、というふうなノリで店主に怒られたように言われ、彼に合わせて美羽が軽く謝る。
「何にしますか?」
「ねぇ、マイクに向かって話さないで、私に向かって話してよ」
「あぁっ、そうですね。これは失礼を・・・」
 淳二は慌てて服に小さなマイクをつける。
「うーん・・・甘い食べ物が続いたから、甘くないやつがいいわね」
「それじゃあ伊達巻なんかどうでしょうか」
「伊達巻ってちょっと甘くなかったけ?」
「甘くないのもありますよ」
「じゃあ、それにしようかしら」
「かしこまりました、少々お待ちください」
 そう言うとネタの入ったケースからはんぺんを取り出し、袋に入ったまま手で潰してすり鉢に入れて卵を少しだけ加え、すりこぎで滑らかになるまですり合わせる。
「おや、今日は1人なんですか」
 残りの卵と調味料を加えて、泡だて器で混ぜながら話す。
「そうね、ベアはちょっと他のおせちの店へ働きに行っちゃったから」
「あぁ〜そうなんですね」
 彼女の話に頷き、材料を全部フードプロセッサーに入れてよく混ぜ合わせる。
「それにしても誰も来ないわね」
「皆、家で食べるのかもしれませんね」
 角型の耐熱容器に油を薄く塗り、生地を流し込んで160度に温めたオーブンの中に入れる。
「はい。お待ちどうさま、伊達巻です」
「ちょっと早くない!?さっきオーブンに入れたばかりじゃない」
「お客様が来る前にちゃんと作っておいたんですよ」
 目の粗い巻きすを取って伊達巻を包丁で切り別け、皿に盛りつけて美羽に差し出す。
「なるほどね。一瞬、そこだけ時間が圧縮したかと思ったわ」
「あははっ、そんなの魔法でも難しいですよ」
「いただくわね、はむ・・・そんなに甘くなくって食べやすいみたい」
 貸しきり状態の店で美羽が伊達巻を食べる。
「客が私1人だから、ちょっとリッチな気分かも?」
「もうお客様専用となっていますね」
「少し寂しい感じがするけど、こいうのも悪くないかもしれないわ。ごちそうさま」
「それではそろそろ閉店なんで、おあいその方をお願いできますか」
「んー・・・1.8Gでいいかしら?」
「な、なんと。小数点が含まれてますねっ」
「え?端数いらないの」
「いえ、ありがたくいただきます!まいどありがとうございましたっ」
 店を出て行く美羽を見送り、淳二の店はこれにて閉店した。