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リアクション
俺がタシガンだ
タシガンは白薔薇の大樹エルジェーベトが世界樹となり、早川 呼雪(はやかわ・こゆき)が国家神となって「タシガン市国」として独立していた。
しかし、静香帝国のようにシャンバラに反旗を翻すこともなかったし、シャンバラ王国も独立をあっさりと認めた。
……なぜならば。
(俺がタシガンだからだろうな)
呼雪がタシガンという島そのものになっていたからであった。
こうなったのには理由がある。
「いや、その件は申し訳なく思ってるぜ。すまない」
クリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)はどこからともなく聞こえてくる呼雪の声に謝罪した。
そもそもクリストファーはパートナー契約時にクリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)と人格が入れ替わった現象を研究し、それを治療するための方法を模索していたのだ。
タシガンには「身魂切断術」などの人格を入れ替える魔法などが存在し、研究の場としてうってつけだ。
「でも、まさかあんな事が起こるなんて……」
クリスティーがため息をつく。
研究も山場を迎え、自分たちの体を使って実験しようとした所、魔術が暴走。
偶然近くにいた呼雪の人格がタシガンに転移してしまったのだった。
もっとも、その失敗を教訓にしてその後人格交換の治療は可能となった。
クリストファーたちのような例で苦しんでいる契約者たちには福音となったのだ。
しかし、研究をしようと当人たちは特に“治療”をする気はないという。
「俺、もう女として過ごすの無理だと思うよ」
とクリストファーは語るがそれはクリスティーも同じことなのだ。
10年以上親しんだ体から離れるのに違和感を感じるのだ。
そして問題は別にあった。パートナー同士の人格交代は治療出来るのだが、タシガンと一体化した呼雪の治療はどうしたらいいのか、目処すらたっていないことだ。
(別に気にしてない。というよりむしろ気にいってる)
それは呼雪の本音である。呼雪は今やタシガンそのものであり、島の中の全てを把握する事が出来る。この力でタシガンの吸血鬼たちを守ることが出来るのだ。それは呼雪にとって本懐と言えた。
それに、呼雪の元の肉体ですら操る事ができるので人間としての活動にも支障はなかった。
「僕がいなければ体は腐ってしまうけどね〜」
呼雪の伴侶である、ヘル・ラージャ(へる・らーじゃ)がメンテナンスをしてくれるお陰ではあるのだが。
そして今日は元の肉体を使って、薔薇の学舎で音楽の講義の日であった。
教室に入ると生徒たちから羨望の眼差しを受ける。
国家神でありタシガンそのものでもある呼雪の講義である以上、当然だろう。そして生徒たちの中にいつもヘルの姿があった。
「……どうしてお前は、いつもいるんだ」
「だってー、心配なんだもん」
ヘルにしてみれば、
呼雪と生徒の間に何か間違いあったらと不安でしょうがないのだ。
「仕方がないな……ん?」
とその時、呼雪は上空を見上げた。
パートナーのファル・サラーム(ふぁる・さらーむ)が艦長を務める、飛空艦がタシガン上空に差し掛かったのだ。
「コユキ、久しぶりだよ!」
ファルはタシガンの大地に語りかける。
(相変わらず小さいままだな)
「ドラゴニュートだからね。でも、コユキは大きくなったよね!
本当はこっちに寄る用事はなかったんだけど、
ユノがタシガンに戻るというから連れてきたよ」
飛空艦から一人の男装の麗人が飛び降りてくる。
現在は呼雪に代わってロイヤルガードを務める、ユニコルノ・ディセッテ(ゆにこるの・でぃせって)であった。
「じゃあね、コユキ!
一緒にいられる時間は減ったけど、
空図でタシガン島見るだけで絆を感じられるから平気だよ」
ファルの飛空艦はそのまま飛び去り、ユニコルノは薔薇の学舎に入ってきた。
「ユノ、報告か?」
「はい。ロイヤル忙しくて戻れませんでしたから」
呼雪の言葉にユニコルノは頷く。
最近になってこれまででは考えられない異常な出来事が頻発しているというのだ。それらには全て●が関わっているという。
「アレナさんと一緒に調査しているんですが、
分からない事が多いです……ロイヤル」
(●、か……)
タシガンそのものとなった呼雪もそれは感じていた。
●とは一体、なんなのか。