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リアクション
「うんうん。よく似合ってる」
ジーナは自分の作ったメイド服を着た林田 樹(はやしだ・いつき)と新谷 衛(しんたに・まもる)を満足げに見ていた。
「特にバカッパ。ピンクでロリな衣装がすごく似合ってますわよ……ぷぷっ」
「褒めといて、さり気に笑うなぁ」
ジーナに笑われ、衛は顔を真っ赤にしていた。
「あ、いたですぅ。ジーナさ〜ん」
そこへ神代 明日香(かみしろ・あすか)が手を振りながらやってくる。
「どうも、明日香様。ワタシに何か御用ですか?」
「ほら、頼まれて服、皆で作り終わったから届けに来たんですよぅ」
「え、ワタシが頼んだ? 何をですか?」
まったく記憶にない様子のジーナに、明日香は持ってきた服を渡した。
ジーナはそれを見て顔を赤くした。
「な、なな何ですか!? この恥ずかしいメイド服は……!?」
それは確かにメイド服ではあったかもしれない。しかし、上下が分かれ、ヘソ丸出しは必須。下部分はフリルのついたミニのスカートに、短めの上部部につけられたエプロンは赤ちゃんが食事の時につける涎掛けにも見えた。
これはかなり恥ずかしい。
戸惑うジーナを見て、明日香が不思議そうに尋ねる。
「あれれぇ? ジーナが頼んだんじゃないのぉ?」
「違います。ワタシはこんな……」
「オレが頼んだ!」
ジーナが振り返ると衛がニタリと笑って見ていた。
「これはじなぽんのメイド服だぜ」
「はぁ、ワタシの? なんでですか!?」
「ほら、じなぽんだけに作らせたら悪いと思って、オレ達からもプレゼントだよ」
「わぁ、そうだったんですかぁ。衛さんは優しいですねぇ」
衛の明らかな嘘に明日香が感動していた。
「さぁ、遠慮せず着てくれ!」
「いや、ワタシはべつに――」
断ろうとして周囲を見ると、ジーナに多くの視線が向けられていた。
普通に喜んでもらいたいという素直な人もいれば、明らかに好奇と期待の目を向けている人がいる。むしろ後者が大半だった。
このままで無理やりひん剥かされてでも着替えさせられそうだ。
「わ、わかった。自分で着替えるから!」
身の危険を感じたジーナは諦めて更衣室に向かう。
してやったりとにやつく衛をジーナが一度振り返った。
すると衛の背筋を凍りつく感覚が走った。
ジーナが更衣室に入っていく。衛は呟いた。
「あれ……オレ死んだかも」
最後に見たジーナの目はそれだけで人を殺せそうなほど恐ろしかった。
「いいですよ! 凄く可愛い! よし、次のポーズ行ってみましょうか!」
「えっと、こ、こうだっけ?」
「そう、そう。うんうん。最高です!」
ファニ・カレンベルク(ふぁに・かれんべるく)の指示通り口元に人差し指を当て、物欲しそうな表情をつくるロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)。
そこへファニが黄色い叫びをあげながら、猛烈にカメラにシャッターを押しまくった。
ファニは今、ロートラウトに自分と同じメイド服と猫耳・尻尾を付けさせ、記念撮影の真っ最中だった。
その様子をエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)とイグナイター ドラーヴェ(いぐないたー・どらーべ)は楽しそうに見守っていた。
「今度は一緒に取りましょうよ。お願いしま〜す」
「うむ。……行ってくる」
イグナイターはカメラマンをするべく、ファニ達の元へ向かった。
「へへへ、何だか照れるね」
「似合ってるからいいじゃない」
「そうだ。ボクが終わったらイグナイターくんもどう?」
「……まぁ、構うまい」
イグナイターにも猫耳と尻尾つけ、すでに何枚目になるかわからない撮影が行われていた。
さすがに飽きてきたエヴァルトが反対側の窓から外を眺めていると、ふいに後ろから頭に何か乗せられた。
エヴァルトが振り返るとファニがニコニコ笑っている。そしてエヴァルトが自身の頭の上に触れると、そこには柔らかい耳があった。
「何これ……?」
「猫耳」
「えっと、なんで……?」
「きっとこれも似合うよ」
そう言ってファニは笑ったまま、フリルが大量につけられたメイド服を取り出した。
「いや、さすがにそれは――」
「お願いします」
エヴァルトがひきつった笑いを浮かべながらどうにか断ろうとすると、ファニの呼ぶ声に合わせて彼女の後ろから朝斗と鴉が現れた。
朝斗と鴉はエヴァルトの手を掴むと、無理やりに更衣室まで連れ込もうとした。
「エヴァルトさん、諦めてください!」
「や、やめろおまえら!」
「抵抗するな! 一緒に三人で宇宙のアイドルを目指そうぜ!」
「なに!? それは絶対にい・や・だ!」
だが、抵抗は空しく、両手を塞がれたエヴァルトはあえなく更衣室まで連れて行かれ、ファニによって写真を撮られてしまった。
「お、お待たせ」
西表 アリカ(いりおもて・ありか)は出来立てのホットケーキを無限 大吾(むげん・だいご)の待つテーブルに運んだ。
アリカは昨日の蜘蛛の巣に絡まれた事件以来、大吾と話すだけで緊張し、触れれば顔が沸騰してしまいそうだった。
そんなアリカの関係を元に戻すべく大吾は冷静に会話を進める。
「その服、昨日のと違うんだな」
「あぁ、うん。昨日の服は家庭科の実習に使ったやつで、今日のは作ってもらったやつだから」
他愛もない話をすると少しだけ大吾は二人の間の緊張が和らいだ気がした。
少しずつどうにかしようと決め、大吾はホットケーキを食べようとする。
「あれ、これ蜂蜜とかは?」
「蜂蜜ではなくこちらを使って欲しいですわ」
何もかかってないプレーンのホットケーキに大吾が困っていると、アンネリーゼ・イェーガー(あんねりーぜ・いぇーがー)が瓶に入ったジャムをテーブルに置いた。
「これ、わたくしが作りましたの。どうぞお使いくださいませ」
「ありがとう。使わせてもらうよ」
大吾はアンネリーゼが作ったジャムをホットケーキにつけて食べた。
すると、大吾が悲鳴を上げて倒れた。
「きゃ!」
「だ、大吾!? どうしたの?」
大吾は気を失いかけながら、ジャムの瓶を指さした。
アリカが瓶の匂いを嗅ぐ。
「うわっ、何これ!? すごく辛そうな匂いがするんだけど」
「どれどれ……」
アリカに言われて笹野 朔夜(ささの・さくや)が味見する。その顔が段々と曇っていくの目に見えて分かった。
「これはマスタードですかね?」
「マスタード!? 大吾は辛いのが全然ダメなんだよ〜」
アンネリーゼは朔夜に「どろっ」としたやつか「黄色いの」やつと言われ、「どろっとして黄色い」としたマスタードを入れたのだった。
泡を吹き始める大吾をアリカは介抱した。
気づけばアリカは大吾の身体に普通に触れていた。